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第十六話 手下一と二

 レッドオーク討伐の先行組が出発したギルド内では、本隊である残りの冒険者達が意見の交換をしていた。


 彼等はベテランの冒険者達である。それぞれ面識があるのだろう。時には談笑を。時には真面目な話を。時には喧嘩になりそうなほど興奮をしながら、明日のレッドオーク討伐のための意見を交わしていた。


 そんな中で所在なさ気に、いや周りの冒険者達からハブられている一つのパーティーがあった。そう、この作品の主人公であるベルフ・ロングランのパーティーである。


 ベルフ達はギルドの隅にあるテーブルを囲うと、遠巻きに他の冒険者達を見ていた。

「見事に俺達は無視されてるなあ」

『そうですねえ』 

 ベルフが相棒のナノマシン、サプライズに話しかけると、彼女もベルフのリストバンドを介して同意の声を発した。


『それでお聞きしたいのですがベルフ様。なぜ、オークの間引き組ではなくてレッドオーク討伐を任されている本隊に参加したのですか?』

 サプライズはベルフに疑問の声を投げかける。彼女自身もベルフの行動は予想外だったのだ。

「あー、それはな」


 ベルフがサプライズの質問に答えようとすると、横からガシっとベルフの肩が掴まれた。

「そうよ、なんでよ。どう考えたって私達がレッドオークと戦えるわけ無いでしょ。あんた何考えてんの。あんた一人ならまだしも、私達まで巻き込むなんてどういう了見よ!!」


 リリスがベルフに掴みかかって文句を言ってくる。彼女の立場を考えると、ここで剣を引き抜いてベルフに斬りかかってこないだけ、だいぶ理性的であると言える。


「まずは依頼をキャンセル。それからナノマシンを引き取れる商店を探す。問題はサプライズちゃんをベルフからどう引き離すか」

 ミナがサプライズを売り飛ばす算段をぶつぶつと言い出した。いざとなったら現実を直視して手段を選ばず実行する。そんな彼女の個性が発揮され始めているのだ。


 ギルドの隅っこのほうで三人が騒いでいると、一人の女性がベルフ達に近づいてきた。小柄なその女性は、ギルドマスターのララがここに来る時にロビーで声を出していた女性職員だ。


「あなた達が新人冒険者の癖に、レッドオーク討伐に志願してきた人達ですね」

 その女性は、年の頃は二十前後。髪型は栗色の髪をしたショートカットだった。スーツ姿で、膝丈まで伸びたスカートを穿いた、いかにも真面目そうな女性だ。


 そのギルド職員は、ちょっと困ったような顔で。

「よければ、今すぐ貴方達をオークの間引き組へ変更しましょうか? ギルドマスターも、そのほうが良いと言ってますし」

 ちらりと、そのギルド職員がギルドマスターのララの方を見る。ララはにこやかに微笑むと、こくりと頷く。


 そんなギルド職員を、リリスとミナは救い主のような目で見ていた。ぜひともお願いしますと二人が言おうとすると――

「なんだこの女」

 ベルフの空気の読めていない発言が遮った。

「余計なお世話だ。あっち行ってろ。しっしっ」

 ベルフが椅子に座りながら、手だけで追い払う仕草をする。


 しかし、そんなベルフの横柄な態度にも、そのギルド職員は全く動じなかった。

「こう言ってはなんですが、貴方達では実力的にも相応しく無いというか。これは私達ギルド側だけではなくて冒険者の皆様も思っていることです」


 そのギルド職員が今度は、他の冒険者達をちらりと見る。彼等は仲間内での意見交換も止めて、ベルフ達を厳しい目で睨みつけていた。その目には、身の程知らずのベルフ達に対する、侮蔑や嘲笑のたぐいも含まれている。

 そんなギルド内で、ベルフの両隣に座っていたリリスとミナは居心地の悪さから顔を下に向ける。ベルフは、相も変わらず椅子に踏ん反り返っているが。


 自身の方が、この場において支持されていると理解しているのだろう。ギルド職員は勝ち誇った顔でリリスとミナに語りかける。

「そちらの男性はともかく、あなた方二人はどうですか?」

 女性職員は、的確にミナとリリスを誘惑してきた。ベルフ達が一枚岩では無いと知っているのだろう。ベルフとの間を裂こうとしてくる。そして、その離間工作は確かに効果があった。


 元々、リリスとミナから見ればベルフは外部の人間である。数週間前に出会ってから、かなり強引な手段。西門のスライム襲撃事件について、脅迫とも言える方法でベルフはリリスとミナの二人と接近していた。


 ベルフに対して、リリスとミナに不信や不満が溜まっていないわけがない。更には、勝手に間引き組から、レッドオーク討伐の本隊に参加したのだ。積もりに積もった何かが、この場において、決定的なものになっていた。


 ミナとリリスは一度だけ申し訳無さそうにベルフを見ると、無言で席から立ち上がる。そのまま二人はギルド職員に連れられて、受付カウンターへと向かう。二人が記入用紙に間引き組への参入を書き終えて提出すると、ベルフを残して足早にギルドから出て行ってしまった。

 後には、勝ち誇ったララとギルド職員。それと、仲間に逃げられたベルフに対する周りの冒険者からの嘲笑の視線だけが残った。


 そのまましばらく静寂が続くと、ギルド内は元の喧騒へと戻っていく。ララとギルド職員の女性は受付カウンターの奥の方へと消え去ってその場にはいない。冒険者達はベルフを無視するように話を始めていた。


 そんな周りの声を全く気にしていない様子のベルフ。彼は席から立つと、受付カウンターまで歩いて、先程リリスとミナが書いていた記入用紙を手にとる。その紙には、必要な情報を記入する箇所以外にも、間引き組と本隊組に関する様々な条件が書かれていた。  


「わかるかサプライズ。この用紙に書かれている条件だと間引き組が報酬を受け取るのは不可能だということが」

 相棒のサプライズへ向けてベルフが話しかける。

『ふむ、なるほど。よく見てみれば、これは間引き組がババ引きましたね。問題点はオークの総数と討伐証明のための時間制限ですか。どうしますベルフ様? 雌豚共を見捨てますか?』


 ベルフは、持ち前の気の抜けた顔のまま悩み始めた。

「あの二人を型にハメる分には最高の状況ではある。しかし、無駄なオーク討伐を続けたあの二人に何かがあると、住む家がなくなるのも事実だ」


 ベルフとしても悩んでいた。冒険者業は自己責任の世界だ。どんな形であっても二人が決めたことであるのなら、無理に助けるのもルールに反しているような気がしていた。


『見捨てても良いのではないでしょうか。明日のレッドオーク討伐を考えると、ここで無駄な体力を使えば万が一ということも有ります』

 そして、サプライズにとってリリスとミナはあくまでも、その他の人間である。彼女達の為に、大事なベルフが危機に晒されるなど彼女にとって、あってはならないのだ。


 ベルフはギルド内に残っている精鋭の冒険者達を見る。彼等は明日、レッドオークを討伐するために出発する冒険者達だ。どれもこれも一癖ありそうな顔をしていた。ベルフは彼等に視線を向けると。

「あの冒険者達は、俺の助けにならんな。やはり俺個人の手下は必要だ」


 ベルフがギルド内にいる冒険者達にダメ出しをした。その声が聞こえていたのだろうか。彼等の内の数人がベルフを見て、ヒソヒソと小声で話し始める。

「行くか、サプライズ。明日のために、あの二人にも少し働いてもらう」

『わかりましたベルフ様』


 手下一と二を助けるため、ベルフはリリスとミナの後を追う形で沈黙の洞窟まで向かうことを決めた。


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