第十五話 パーティー結成
ギルドマスター、エルフのララの登場に、若い男性冒険者を中心にため息が漏れる。その極上の見た目の美しさで男達の視線を集めている彼女は、さながら女神のように場を支配する。
『見た目だけはエルフだけあって美しいですね。ベルフ様どうでしょうか?』
「七十五点だな」
しかし、ベルフの採点は厳しかった。
「性格が悪いな。あれなら、まだリリスやミナの方が点数は高い」
『なるほど。確かにあの女、男を手玉に取ってそうな気配がしてますね』
好き勝手に女性に点数をつけるベルフとサプライズ。しかし、周りを良く見ればベテランの冒険者達も、一様にララの姿を苦虫でも噛んだような表情で見ている。しかも、どちらかと言えば女性冒険者よりも、男性冒険者達のほうがララに対しての眼つきは厳しかった。
ギルドマスターのララは、慣れたように話しを続ける。
「では、レッドオーク討伐についての説明を始めます。まず、討伐隊を二組に。オークキングである、レッドオーク討伐の本隊と、レッドオーク配下のオークを間引きする組に分けます」
ベルフがピクリと眉を動かす。ララの声色に不穏な気配を感じたのだ。
「報酬は、レッドオーク討伐失敗なら一万ゴールド。討伐成功ならどちらの組でも全員に追加で三万ゴールド。ただし、レッドオークに止めを刺した人間には、更に追加で十万ゴールドを支払います」
ギルド内にざわめきが広がる。レッドオーク討伐者に与えられる十万ゴールド。先の報酬の四万ゴールド分を含めれば十四万ゴールドの大金が手に入る事になる。この金額は、普通の町人が一年で稼ぐ年収の約半分程度の金額だ。
周りの冒険者達の眼の色が変わる中で、ベルフは一人、渋い顔をしていた。
『ベルフ様、どうしたんですか?』
「いや、なんでもない」
サプライズからの質問をベルフがはぐらかすと、ララの言葉にまた耳を傾ける。
「ですが、レッドオーク討伐には大きな危険が伴います。腕に自信の無い方は無理をせず、オーク達の間引きに参加して下さい。間引きも大事な任務です、オークの残数が多いと、レッドオークとの決戦時に手下のオークが大勢いることになりますから」
ララが冒険者達を気遣う言葉を交えて説明を続ける。その優しい言葉に若い冒険者達の顔が少し紅潮していた。
「オークの間引き組は、手下のオーク達を倒した証明として、倒したオークの右耳を持ち帰ってください。一人辺り、オーク三匹の討伐がノルマです。期限は、本隊が出発する明日まで。残念ながら、三匹討伐できなかった方達は、討伐参加の一万ゴールド含めて報酬はもらえません」
一人あたりオーク三匹の討伐。軽いのか、難しいのかは各個人によって違うが、若い冒険者達は、ララの言葉に険しい表情をしていた。彼等にとっては、オーク三匹の討伐は危険が大きいと言う事だろう。
そして、ここにも二人ほど、ララの言葉に不安を覚えている冒険者達がいた。
「ミナどうしよう。一人辺りオーク三匹って行けると思う?」
「私とリリスだけだとちょっと厳しいかな。でも、ベルフとサプライズちゃんがいれば行けるはず」
ちらりと二人がベルフを見る。その二人の視線を受けたベルフは、コクリと頷く。俺に任せておけという頼もしい合図だ。そのベルフの態度にリリスとミナは、ほっと胸を撫で下ろした。
『あの女、さらりと追加の条件を入れてきましたね。この依頼用紙には、参加するだけで一万ゴールドだったはずなんですがねえ』
サプライズの言葉にベルフも頷いた。
「場の雰囲気だけでゴリ押したな。後でおかしいと気づいても参加した後ってわけだ」
周りがざわつく中で、ララは最後とばかりに声を張り上げる。
「では、冒険者の皆様はカウンターにあるこの用紙に、間引き組か、レッドオーク討伐組かを書いて下さい。パーティーを組んでいる方は、こちらの左手に持っているパーティー用の紙に記入をお願いします」
ララがひらひらと二枚の紙を左右の手に一枚ずつ持って冒険者達に見せてくる。あの紙に必要な物を記入すれば討伐開始というわけだ。
冒険者達が、それを見て動き出す。なにはともあれ、ここまで来たのだからもう引く訳にはいかないのだ。
「じゃあ、パーティー用の記入用紙に俺達の名前を書いてくる。二人共、待っててくれ」
ベルフがリリスとミナにそう言うと、ギルドのカウンターまで歩き出す。少しばかり混み行っているギルドカウンターで列に並ぶと、自分とリリスとミナの、三人の名前を用紙に記入する。必要な部分を書き終えると、ベルフはカウンターにいるギルド職員へそのまま提出した。
当たり前であるが、別にリリスとミナがベルフをリーダーにする必要はない。場の雰囲気に飲まれているリリスとミナが冷静さを無くしているうちに、必要なことをやっておこうという算段だ。
用紙の提出が終わったベルフは、一仕事終えた顔でリリスとミナの元に戻ってきた。
「よし、ベルフ団の名前で提出してきたぞ。リーダーは俺、お前達は手下一号と二号だ」
その言葉に、やっとリリス達は冷静さを取り戻した。
「あれ、なんであたし達がベルフがリーダーのパーティーメンバーになってるの?」
理解できないといった顔をしているリリスとミナを尻目に、ギルドマスターのララが無情な宣告をしてきた。
「では、まずは先行の間引き組が今日一日掛けてオークの間引き。明日早朝、レッドオーク討伐の本隊が出発します。オークの間引き組は、このまますぐに洞窟へと向かって下さい」
ララの言葉に、オークの間引きを志願した人間達が席を立ち始める。戦いはもう、始まっているのだ。明日の朝までにオークを三匹討伐できなければ、報酬がもらえない。ここでの行動の遅れは致命的なことになる。
ミナとリリスも慌てながら席を立つ。そのまま急いで洞窟へ向かおうとすると、ベルフが二人の肩を掴んで止めた。ちょっと待ての合図だ。
リリス達からの疑問の視線を受けながら、ベルフは、ある方向を指で指し示す。
「俺達はあっちだ」
ベルフの指し示した方向。そこにはレッドオーク討伐、本隊組の冒険者達がいた。いずれも強者の雰囲気を纏っているベテラン達だ。状況の理解できないリリス達を尻目にベルフが止めの一言を言った。
「俺達は間引きじゃなくて、レッドオーク討伐組だ」
ベルフから用紙を受け取った職員が、ポンと先程の用紙にハンコを押す。そこにはベルフたちの名前と共に、レッドオーク討伐本隊へ参加希望と書かれていた。