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第十三話 レベル差

 リリス宅の居間にて、リリスとベルフが剣を持って向かい合っている。邪魔になるテーブルの類いは壁の方へと寄せて試合の準備は万端だ。


 他には床に、気絶しているミナが寝転がっているが、これはさしたる問題ではない。事実、先ほどふかふかのソファーにベルフ達が座っていた時も彼女は硬い床に寝転がされていた。抗議の声も上げられない状態の奴には、不遇な対応が強いられるのが冒険者の世界なのだ。


『いけーベルフ様ー。そんな女、輪切りにしてくださいー』

 サプライズが物騒な声援を送ってくる。彼女の中ではベルフ>>>その他の人類なので、リリスがどうなろうと別に構わないのだ。


 ベルフは、皮の防具を着込んで両手にロングソードを持っていた。この装備なら、ベルフ側は打ちどころさえ悪くなければ死にはしないだろう。


 対するリリスの方は防具も着ずに、先程の私服姿でベルフと同じロングソードを手に持っていた。ベルフ程度が相手なら防具なんていらねえ、と言う舐めプの証である。


 ベルフは、そんなリリスの態度を特に気にした様子も無く。

「よし良いぞ、リリス。準備はできた、掛かって来い」


 ベルフは準備万端といった様子で試合開始の合図を告げる。試合自体を申し込んできたのはリリスだったが、話の主導権をいつまでも相手に渡しておくほど、ベルフは大人ではない。


 ベルフからの試合の合図にリリスが返答する。

「じゃあ行くわよベルフ。覚悟しなさい」


 さて、ベルフは一応、貴族の出である。基本的に稽古事などへのサボり癖がついていたが、それでも多少は剣の心得はあった。ここ数年は真面目に剣を握っていなかったが、普通の町人に負ける程ではない。


 ベルフは剣を正面中段に構える。オラオラどうすんだよああん? と言う眼つきでリリスを睨みつける。対するリリスは右手だけで剣を持ってぶら下げているだけだ。


 なんだこいつ、やる気あんのかと言うリリスの態度だがベルフは油断しない。むしろ、そうやって油断しているリリスを見て舌なめずりをする。やった!! この女油断しているぜ、この隙に勝負を付けてやる!! ベルフの心いっぱいに喜びが広がっていた。


 どりゃあーと言う掛け声と共に突撃するベルフ。斬りつけるのは可哀想だから、剣を寝かせて平べったい部分でちょいと肩でも打ち付けてやる。ベルフが刀身を寝かせてリリスへと剣を振り下ろす。


 しかし、勝利を確信したベルフの気持ちを裏切るように、一つの風切音と鉄の撃ち合う音がすると、ベルフの手から剣が弾き飛ばされた。


 ベルフの手から弾き飛ばされた剣は、そのままクルクルと空中を回転しながら床へと突き刺さった。剣が突き刺さった床の近くにはミナが寝ていたが、直撃しなかったので特に問題ない。


『おらー!! そこのゴリラ女なにやってんだこらあ!! ベルフ様、私に魔法の使用許可を。この不忠義者を地獄の業火で焼きつくして焼豚にしてやりますよ!!』


 サプライズが勝負の結果に不満を爆発させた。ベルフが左腕に装備しているリストバンドから、あらん限りの罵声をサプライズは発し続ける。


「うっさいわね。とにかくわかったかしらベルフ。冒険者に成り立ての貴方だとレベルが純粋に足りないのよ。こんな簡単に負けてしまうほどにね」


 レベル。人、もしくは魔物の生命力を数値化した物。戦闘経験を積み重ねる事で、基礎的な生命力の強化、つまりレベルを強化出来る。


 そして、レベルは数字が一つ違うだけでも能力に大きな差ができる。それは単純な身体能力だけではなく、反射神経や判断能力等の技術的な部分の能力にまで及ぶ。


 普通は、冒険者ギルド等でレベル鑑定専用の魔具を使ってレベルの鑑定をしてもらう。


「レベルか。そういえばサプライズ、俺のレベルはどれくらいなんだ? お前の持っている機能で調べられるか?」

 リリスに罵声を浴びせ続けていたサプライズは、ピタリと罵声を止めるとベルフの質問に答える。


『現在のベルフ様のレベルは四ですね。冒険者としては、確かに新人だとしてもレベルが足りないです。ちなみに、そこの女はレベル六です』


 今のベルフは、一般の大人と同じくらいの力である。少なくともオーク討伐を行えるレベルではない。


「オークは最低でもレベル五。下手したらレベル六や七の個体もいるわ。レッドオークだったら……まあ最低でも十はあると思っていいわね」 

 リリスが追加で説明をしてくる。


「なるほど、つまりリリスはオークと同じくらいの力なのか。よし、これからお前をオークだと思ってレベル上げに励むとしよう」

 ベルフくんの当面の目標が出来た。

「ふざけんな。オークと同じなのはレベルだけよ、レ・ベ・ルだけ。私がオークみたいな言い方するな」


 リリスからの抗議を聞きながら、更にベルフは言葉を続ける。

「しかし、その話が本当なら、なおさら俺一人でレッドオーク討伐に行ったほうが良いな。リリス達を助ける余裕もなさそうだ」

『確かにそうですね。こいつらが足手まといになるってことだけはわかりました』


 今の試合でリリスにボロ負けしたとは思えない意見をベルフが言ってきた。

「ちょっとあんた達、なにを言ってるの。私に負ける程度のあんたたちがレッドオークの討伐隊に加わっても、何か出来るわけないでしょ。オークと戦いになったら死ぬわよ!!」


 そこでベルフが何言ってんだこいつと言う目でリリスを見る。

「リリス、なにを言ってるんだ。俺一人ならオークと戦う必要もないだろう」

『ベルフ様の仰る通りです。あなたこそ何を言っているんですか』


 リリスがえ? と言う顔をするとベルフが説明を始めた。

「そもそも、依頼用紙に書いてあっただろう? 参加するだけで一万ゴールドだと。別に真面目に戦ってレッドオークを倒さなくても、報酬自体は貰えるんだ。危険になったら逃げれば良い」


 サプライズもベルフの言葉を補足してきた。

『そうですよ。そもそも、ベルフ様だけなら私の身体強化も加わって、いざとなれば一人で身軽に逃げられるんです。逆に貴女達までいたら、逃げる時にお荷物になる人間が増えるだけなんですよ。だから邪魔なんです』


 そうなのだ。別に馬鹿正直にオーク達と戦う必要もない。他の人間は知らないが、ベルフはそこまで金に困っているわけでもないのだから、討伐成功の報酬なんていらないのだ。


「でも、それでも危険なことには変わりないわよ」

 リリスが尚も食い下がってくるが。

「知らん」

 面倒だとばかりにベルフがばっさり切り捨てる。


『往生際の悪い女ですね。少なくとも貴女達がいないほうが安全なのは確実なんですよ。とにかく、貴女達は街で待ってなさい。雌豚共は、ベルフ様が一万ゴールド手に入れる様を横から羨ましそうに眺めているだけでいいんですよ』


 サプライズのあんまりにもな言葉が、更なる怒りの燃料になる。

「ちょっとあんたたちね!!」

 リリスがベルフ達に食って掛かろうとするが。

「それより、俺が今日泊まる為の部屋は何処にあるんだ? 早く教えないと最初に突入した部屋を占領するぞ」

『あ、ベルフ様、ここにしましょうか。ここが一番広そうな部屋ですよ』

 

 サプライズが目ざとく部屋を見つける。ドアプレートにはリリスと書かれていたが特に問題ない。


「ちょっと待て、そこはあたしの部屋だから。ちょっと、乙女の部屋に無断で入るな!!」


 リリスがベルフにドロップキックをかます音と、それを見たサプライズの悲鳴が鳴り響く。


 ベルフがレッドオーク討伐に行くことはこうして有耶無耶になってしまったが、彼は無事に賞金首の討伐から生きて帰って来られるのだろうか。今の時点では誰にもわからなかった。



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