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第十二話 賞金首討伐とは

 ベルフ達は現在、リリスの自宅にお邪魔していた。


 リリスの住まいは普通の住宅街の中にある二階建ての一軒家だ。特に個性も何もない白い屋根。庭もなく、塀を作る必要もないほどの狭い土地。二階含めて部屋数はそれほど多くなく、トイレや風呂場などを除くと部屋数は四つ程しかない。

 この家は、リリスの叔父に当たる人間が住んでた家で、リリスがライラで冒険者になると聞いて無償でリリスに貸してくれたらしい。

 

 さて、そんな家の中で、ベルフとリリスは話し合いを始めようとしていた。客間にあるソファーに二人とも座って、テーブルを挟んで対面している。


「はああ? レッドオーク討伐?」

 リリスがベルフから事情を聞くと、開口一番で疑問の声を上げる。


 現在、リリスは冒険者の格好を解いて、私服に着替えていた。鎧を着ていた時のような派手さは全く無く、白い布の服とスカートを着た普通の町娘がそこに居る。髪型もサイドテールで纏めていた髪を解いて、背中まで伸ばした普通のロングヘアーにしていた。


『下品な声を上げる女ですね。さすが、出会って一週間も経っていないベルフ様を家に連れ込むアバズレだけは有ります』


 サプライズが小姑のようにネチネチとリリスを責める。朝食に出された目玉焼きの焼き加減一つで、嫁いできた息子の嫁を人格批判にまで繋げられる嫌味なババアの弁舌力を思わせた。


「うっさいわね、てか、あんた達に脅迫されていなかったら、ベルフなんて家に近寄らせもしないわ」

『どうだか。最近の子は進んでいると言いますしね。おー怖い』


 サプライズとリリスの二人がいがみ合う。ちなみに、サプライズはベルフの左腕にあるリストバンドから声を発しているので、第三者視点で見ると口を閉ざしているベルフにリリスが一方的に文句を浴びせ続けていると言う格好になっている。


「まあ良いわ。ベルフは冒険者になって間もないと聞いたから仕方ないと言えば仕方ないものね。あなた達よく聞きなさい」


 リリスが立ち上がるとベルフをビシっと指差す。そしてベルフは、自分を指差しているリリスの人指し指の先を舌でベロリと舐めた。


「うむ。塩味だな」


 ベルフに指を舐められたリリスが高速で後ろに後退る。指を指されて、ちょっと失礼だなと思ったベルフからの反撃がクリティカルに利いたようだ。


「こ、この家にいる間はセクハラ禁止!! 今みたいな事は今後絶対しないように。分かったわね!!」


 そのリリスの態度をベルフとサプライズが二人でおほほと笑い合う。一人と一体のナノマシンの笑い声がその場を包んだ。


「うるさい笑うな。とにかく話の続きよ、二人とも聞きなさい。賞金首の討伐って言うのはね、依頼を受けた冒険者は死ぬと言う前提で出されているのよ」


 リリスが仕切りなおしたように言った。話の内容が内容だけにベルフとサプライズも笑うのをピタリと止める。


「やっぱり知らなかったようね。レッドオークの討伐。確か参加するだけで一万ゴールド。討伐成功の暁には参加者全員に成功報酬として追加で三万ゴールドが支払われる。私もその依頼は知ってるわよ。最初にその依頼を見つけた時、ちょっとだけ心が揺れ動いたし」


 何ということはない。リリスもベルフと同じ冒険者なのだ。そりゃあ報酬が美味しい依頼に飛び込みたくなるのは当たり前だ。


「でも、賞金首の討伐は危険過ぎるのよ。と言うか報酬が美味しい依頼は基本的に、お金が無くて首が回らなくなった冒険者達が仕方なく受ける為にある物ばかりなの」


 美味い話には裏がある。当たり前だが、冒険者ギルドは慈善事業ではない。ギルドと冒険者の間には仕事を発注する側と受ける側の厳しいルールが有る。その両者の関係の中で、危険も何もなく、ただ高い報酬だけがもらえるなんて物は許されない。


 そこで、今まで黙っていたベルフが質問する。

「しかし、そんなに金が無くて困っている冒険者が多いのか? 金に困ってる人間が少なかったら依頼自体が成り立たないだろうに」


 ベルフの疑問にリリスが答える

「結構いるわ。あんた達だって私の家に来なかったら、お金がなくて今日泊まる所にさえ困っていたでしょ?」


 そういやそうだったとベルフも納得した。まあベルフの場合、豪勢な宿に泊まって数日で金を溶かした自業自得の面も大きいが。


「でも賞金首討伐の成功率そのものは高いらしいけどね。腕試しで参加するベテラン冒険者も多少いるし、人数だけは集まるから。だけど死亡率は半端ないわよ? 参加者の二割近くは死ぬのが普通って聞いたわ」


 リリスの言葉にベルフが考えこむ。リリスから聞かされた情報を整理しているのだ。


「まあ、あんた達もそれがわかったら、初めの内はコツコツまじめに依頼を受けること。賞金首の討伐なんていくらなんでも早過ぎるわ」


 その言葉で、ベルフの脳内会議での結論が決まった。結果は満場一致で――

「よし、レッドオーク討伐に行くか」

『わかりましたベルフ様』

 参加である。 


「ちょっと待ちなさいよ!!」

 リリスがそこに待ったをかけた。

『なんですか、ベルフ様に文句でもあるんですか?』

 サプライズがリリスに向かって鬱陶しそうに声を出す。


 リリスとしては、自分が主張していた全てがスルーされた結果だ。納得行くわけがない。

「ちゃんと話を聞いてたの? 参加したら死ぬのよ、死・ぬ・の。わかってんの?」


 テーブルから身を乗り出すようにリリスはベルフに抗議をするが、当のベルフからの返答はと言うと。

「ああ聞いてたぞ。危険だからお前とミナは参加しなくていい。俺とサプライズだけで行く」


 お前ら足手まといだからついてくんなよ発言をリリスにかますと、レッドオーク討伐への思いにベルフは胸を焦がす。


『確かに。話を聞いた限りだとこいつらが役に立つとは思えませんね。ベルフ様一人のほうが危険が少なくていいでしょう。おい雌豚共、お前たちは邪魔だから大人しく街で待ってなさい』


 追加のサプライズの挑発も加わって、リリスは一度だけため息を吐くと話し合いを諦めた。リリスは傍に置いてあった自身の剣を手に取ると、鞘から剣を抜き放ってベルフに突きつける。


「よく分かったわベルフ。貴方に一度現実ってやつを教えてあげる。ベルフ、私と立ち会いなさい」

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