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第十一話 ベルフ依頼を決める

 意気消沈しているリリスをギルド一階に備え付けられている椅子に放り込むと、ベルフは何か適当な依頼がないかと掲示板の中から探し始めた。


「ところで、俺はギルドで受けられる依頼について、あまり知らないんだが。この中で稼げそうな依頼はあるのか?」


 ベルフの言葉にしかし、リリスは心あらずと言う態度で反応しない。仕方なくリリスの隣りにいたミナがベルフの質問に答える。


「この中なら、囁きの森にある薬草の採取が稼ぎやすいよ。逆に絶対に受けちゃ駄目なのが霧の湖関連の依頼。報酬は凄いけどベルフや私達程度が霧の湖に行ったら間違いなく死ぬね」

ミナが指し示したのは上級のダンジョンである霧の湖に関わる依頼関連だった。


「霧の湖だと報酬は良いのか。ちまちま稼ぐのは性に合わんから、近いうちに依頼を受けられるようになりたいな。ミナ、最低限どの程度強ければ霧の湖関連の依頼を受けても良いんだ?」


 ベルフとしては、低難易度ダンジョンの囁きの森や沈黙の洞窟で少しずつ稼いだり、レベルを上げるのは時間がかかって嫌だった。基本的に地道にコツコツというのが嫌いなのだ。


「数日前、スライムの大集団に私達は追いかけられたでしょ。ベテラン冒険者が五人もいれば、鼻歌交じりであのスライム達を全滅させられるよ。それくらいの強さがあるなら霧の湖関連の依頼を受けても良いかな」


 ベルフの脳内で、スライム達に襲われた記憶が蘇る。あの迫り来る津波のようなスライムの集団をたった五人で鼻歌交じりで倒せる強さか。


「まだ無理だな」

『ですね』

 サプライズもベルフの言葉に同意する。ベルフ自身も考えを修正することに決めた。


『そこの小娘の言葉に同意しますが、今は上級のダンジョンは止めて、低難易度のダンジョンで鍛えましょう。目安としては二週間もすれば私の力抜きでもベルフ様だけで安定して魔物を倒せるようになります』


 と、そこでサプライズの言葉にミナが質問を投げかける。

「二週間って短くない? サプライズちゃんの力は知ってるけど、ベルフだけで魔物達を倒すのなら半年くらいは鍛える時間が必要だよ」


 実際、ミナの言うように、新人の冒険者がソロで魔物を狩れるようになるには時間がかかる。と言うのも一対一ならまだしも、魔物と言うのは複数で出てくる事もあるからだ。つまりソロで魔物を安定して狩れるというのは、一対複数で魔物と戦えるだけの力を持っていると言う事と同じ意味なのだ。


『私のサポート能力さえあればそれくらい簡単ですよ。このサプライズの能力の中にはベルフ様の肉体を短期間で強くさせる機能も有ります。まあ、本来なら今すぐに強くする事も出来るのですが、多少は時間を掛けたほうが体に無理を掛けないので安全ですからね』


 ミナとサプライズが雑談していると、ベルフが依頼掲示板の中から一つの紙を手にとった。どうやら、自身が受ける依頼を決めたらしい。


 ミナはベルフに近寄ると、その依頼用紙を覗きこむ。そこに書いてあったのは。

「沈黙の洞窟にて発生した賞金首レッドオークの討伐隊募集。報酬は一人、一万ゴールドから……えっ」


 レッドオーク。依頼用紙に書かれている通り、賞金首にまで到達したオークである。


 通常のオークは豚の顔に人の身体をした体長ニメートルほどの肌色をした魔物だ。武器として石槍や盾を装備しており、魔物でありながら、武具を作るだけの生産能力を持っている。それは、オークが集落などを作り、ある種の文化的な生活が出来るということでもある。つまり、オークは魔物と言うより姿形の違う、人間と同じ知的生命体と言った方が正しい。


 そしてオークには、たまに他のオークとは異なる異常個体が発生する。例えば肌の色が違う。例えば体の大きさが違う。例えば人間と会話できるほどに知能が発達している。


 沈黙の洞窟に現れた個体は、その異常個体の中の一つレッドオーク、色の違う個体だ。そして、色の違う個体はオークの異常個体の中でもひときわ危険だと言われている。なぜならば……


「いやいやいや、ちょっと無理だよ、だってレッドオークだよ。つまりオークキングだよ」


 そう、色の違う個体は成長するとオークキングと呼ばれる個体に進化する。オークキングは多数の手下を従えたオーク達の王だ。更にオークキングとは、名ばかりの単なる飾りではなく、その強さも成長するに従って他のオーク達と一線を画するレベルになる。


『ほう、豚退治ですか。報酬もなかなかいいですし、倒せれば経験値も美味しそうですね。討伐隊の出発はいつですか?』

 サプライズは乗り気だった。

「この紙に書いてある限りだと三週間後だな。確か二週間で俺を鍛えられると言ったな。なら時期的に見ても強敵と戦うにはちょうどいい」


 和気藹々とレッドオーク討伐に参加する話を進めているサプライズとベルフ。ミナはそんな二人に若干引きながらも注意をする。

「二人とも待って。まずは囁きの森で薬草採取をするのが一番安全だよ。最初はそう言う所から順にやったほうが良いって。私とリリスだってまず薬草採取から始めたんだし。それにレッドオーク討伐なんて私達だって参加できないレベルだよ」


 しかし、ミナの言葉を聞いたベルフは。

「何を言っている。お前とリリスも俺のチームとして参加するんだ」


 さも当然というようにベルフは言った。ベルフの中では自分が隊長でリリスとミナは手下一と二である。無論、隊長のために手下二人は死ぬ気で頑張る義務がある。ただし手下に権利はない。


『当然ですね。まさかですが、ベルフ様一人を危険な場所に行かせて自分たちは安全な場所にいるとでも? いざというときは貴方達が盾になってでもベルフ様を守るのです』

 ちなみにサプライズは副隊長のポジションだ。


 二人の言葉を聞いてミナは悟った。弱みを握られた自分とリリスは決してベルフ達からは逃れられないのだと。そして、自分だけではこいつらを止めることは不可能であることを。そして、進退窮まったミナは未だに夢の中にいるリリスを起こそうとする。


「リリス、起きて。早く起きて。早く起きないとこの悪魔二人が大変なことをしでかすよ。早く、ねえ早く起きてってば」

 

 ミナが放心しているリリスをガクガクと揺らす。ちょっと半歩ばかり天国まで意識を旅させていたリリスが目覚めると、身体をミナに揺らされながら状況を把握しようとする。しかし、ミナの体を揺らす力が強すぎてそれどころではなかった。


「ちょっとミナ、やめて、ちょっやめてったら。わかったからやめろってば!!」


 ぷっつん切れたリリスが、ミナを豪快に一本背負いで投げた。勝敗としては床に投げられて意識がなくなったミナの負けである。


 その見事な投げっぷりにギルドの空気が静まり返る。その場に居た人間全員が、職員も、他の冒険者も、兵士達もリリス達を見ていた。ちなみに、ベルフも若干引いてリリスから距離をとっている。


 周りからの視線で悪目立ちした事に気づいたリリスは、恥ずかしさで顔を耳まで真っ赤にした。

「えーっと……ベルフ、話は後で聞くからとにかくここを出るわよ」


 リリスは意識の無くなったミナを背負うとベルフと一緒にギルドを後にする。一路、自分の家まで向かって。

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