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第十話 ベルフ君、宿泊先を決める

 ライラの街、冒険者ギルド。

 街の広場に偉そうに建てられている、この三階建ての建物は他に類を見ない内部構造をしていた。


 一階部分は冒険者の登録、もしくは魔物退治などの依頼の受注に使われていて、ここでは真面目なギルド職員達や依頼を受けに来た冒険者達が日々忙しなく働いている。次に二階部分は各種の会議施設等の、ギルドの重要施設が詰め込まれていた。


 ここまでは普通の冒険者ギルドであるが、ここからがライラ独自の発展を遂げていた。その問題部分である三階には、ギルドマスターやギルドの役員達専用の保養施設があるのだ。


 この独自性は他ギルドでは絶対に見られるものではなく、特に、役員の一人が考案したマジックアイテムで作られた保養施設は凄かった。とある無人島と空間でつながっており、いつでもどこでも二十四時間、リゾート地で遊べるという優れものだ。


 その維持費と設備への投資額は半端ではなかったが、それに見合うだけの価値がここにはある。まともな組織では決してできない、いつでもどこでも南の島で遊べると言う夢の設備にギルドマスター以下役員達は大満足だ。

 

 ただ、それに反してギルド職員たちの不満は溜まっており、保養施設から無人島へ役員達が遊びに行っている隙に、施設ぶっ壊してあいつら戻ってこれなくしてやる。そう言った計画が、水面下で進行しているのも事実だった。


 さて、そんな冒険者ギルドの一階にある掲示板に、でかでかと賞金首の張り紙が貼られている。



「ほう、これが先日スライムの集団を街におびき寄せた人物か」

『これがですか』


 ベルフとサプライズは依頼掲示板に貼られている、その貼り紙を見る。

 そこには、身の丈二メートル以上。横幅もヒグマかなにかと思えるほどの、巨大な大男が描かれていた。手には杖なんか持っちゃって、雷を操っている描写までしてある。

 

 賞金首の説明欄を見ると数日前、この大男がスライム達を引き連れて街の東門に攻めて来たらしい。しかも、兵士達が必死にスライムを退治している中で、この賞金首は街の中へと入りこんでしまった。現在、この大男を捕まえるべく、血眼になって兵士達が捜索中なのである。


 だが言わなくてもわかるように、こいつが犯人ではない。東門襲撃事件の真犯人はベルフ達だ。暗闇で視界不良の中、リリスとミナを担いでいたベルフの体型が、異様に膨らんで見えてしまったために、こんな事になったのである。


「どう思う? リリス、ミナ?」

 ベルフの言葉にミナとリリスはさっと目を逸らした。


 リリスはサイドテールでまとめた女剣士だ。腕前も新人ながら素晴らしく、ゴブリンの集団と戦っても引けを取らないほどである。そんな普段は勝ち気な彼女も、なぜかバツが悪そうに顔色が悪い。


 ミナの方は白いローブと、深く被っているフードがチャームポイントの魔術師だ。一度戦闘になれば、若輩者とは思えないほど強力な魔術を操る。そんな普段は花が咲くような可愛い彼女も、やっぱりバツが悪そうに顔色が悪かった。


 そんな二人に聞こえるような声で、サプライズが言った。

『そういえばギルドの中に、やたらと兵士がいますねえ』


 サプライズの言うように、兵士達が目を鋭くして冒険者たちを見ていた。彼等は東門にスライムを引き連れてきた犯人を探しているのだ。


 ライラの街で雷の魔法を使えるとなると、それこそ魔術学園に在籍している魔術師か冒険者しかいない。しかも囁きの森にいたとなると、冒険者だった可能性が高い。

 犯人は必ずこの中にいるんだと言う気迫をみなぎらせた兵士達が、冒険者達を穴が空くほど凝視していたのだ。


 そんな中で、ベルフがその賞金首の手配書を片手に持つと、ひどく真面目な顔でボソリと言った。

「俺、こいつを知ってるぞ……」


 ベルフの言葉に三人の人間が反応した。リリスとミナと冒険者達に熱い視線を向けていた近くの兵士である。

「君、いまなんて言った?」


 兵士がベルフに声をかけてくる。リリスとミナの顔が青くなった。

「確か、これは俺が街に来た当日の事――」

 ベルフの言葉に兵士がさらに詳しく聞こうと近寄ってくる。


「ベルフったら何言ってんの、その日は私達が町を案内してたでしょ。そんな奴と出会ってないわよ」

「そうだよ、リリスの言うとおりだよ。ベルフは何を言い始めてるの」


 ベルフの言葉を遮るように、リリスとミナが横槍を入れてくる。しかし、べルフは話を続けた。


「いや、間違いない。こいつは俺が街を歩いていた時に、後ろから俺を見ていた怪しい男だ」

 ベルフの言葉に兵士の目が、ぎらりと鋭くなった。

「君、その話を詳しく聞かせてもらおう。ちょっと詰め所まで来てもらいたいがいいかね? そちらのお嬢さん達も、彼と知り合いみたいだから一緒に来てもらいたい」


 リリスとミナは、この世の終わりのような顔をしている。彼女たちの絶望一色に染まった頭の中では、スライム達を街まで引き連れてきた罪に問われて、牢屋の中に入っている自分達の姿がイメージされていた。


「あー、そりゃあ俺のことだ。あの時のあんちゃんか」

 と、そこで横から話が振られる。白い鎧を着た、身の丈二メートル近い巨漢がベルフ達に横槍を入れてきた。


「隊長殿の知り合いですか?」

「そうだ。こいつが街中をパンツ一丁で歩いていたから注意しようと思ったんだが、あまりにも堂々と歩くから、呆れちまってな。つい見逃しちまった」


 その巨漢がガハハと笑う。それを聞いたベルフも釣られて笑顔になると、一言謝る。

「なんだ、じゃあ俺の気のせいか。騒がせてしまって悪かった」


 ベルフの言葉に、その場がどっと笑いに包まれる。隊長と呼ばれた巨漢の兵士も、その部下も、ベルフの勘違いに笑っていた。ちなみにリリスとミナだけは青い顔をしながら、あははと笑っている。


「まあ気にするな。だがもし、手がかりになりそうな物を見つけたらすぐに言ってきてくれ。俺の名前はラカン、東門にある兵士の詰め所にいつもいるぜ。まあ、東門も壊れちまって、今は修理の真っ最中だがな」

「俺の名前はベルフ。もしも手がかりを見つけたらすぐに知らせると約束しよう」


 ベルフはラカン達に手を振ってそのまま別れる。その姿を見ていたリリスがベルフに話しかけてきた。

「何が目的なのよ言いなさい」


 リリスとミナは疲れた顔をしていた。ここ数分の出来事で、寿命を三ヶ月くらい縮めたような顔だ。


「実は、金がなくなって宿から追いだされたのだ。心のやさしい女剣士か魔術師様が俺を家に住まわせてくれないだろうかな、と期待しているんだがどう思う?」

『光栄に思いなさい雌豚共。ベルフ様がお前たちの家に泊まりこんで差し上げると言っているんですよ』


 リリスとミナは顔を見合わせる。その視線には、どっちの家に住まわせるのか? と言う無言の会話が込められていた。


 二人はひとしきり視線で会話を終わらせると、口火を切る。まずはリリスからだ。

「確かミナは、魔術学園の女子寮に住んでいたわよね。なら男の一人くらい連れ込んでも問題無いでしょ」


 それに対してミナも反論する。

「やだな、リリスなんて一人で家に住んでるじゃないの。私の所は寮監が厳しいから無理だよ。寮に男の子を連れ込んだら停学なんかじゃすまないよ」


 二人共、お前の所で頼むとばかりに押し付けあうが、決めるのはベルフ君だ。

「なるほど、リリスの方は気兼ねなく住める。ミナの方は魔術学園の女子寮に入りこめる。甲乙つけ難いな。俺の身体が二つあったらこんなに悩まなくて済むのに」


『それなら、いっそのこと交互に泊まりに行きますか? 毎日は大変ですから一週間ごとに泊まる家を変えましょう。こういうのも乙なものですよ』


 サプライズの提案にベルフは悩む。ちなみに、その提案を聞いたリリスとミナの悩みは、ベルフの比ではない。


「よし、リリスの家にするか。寮に住んでいるミナに無理を言ってはいけないからな」


 被害者がリリスに決まった瞬間である。リリスはガックシと膝を着き、ミナの方は逆に大喜びではしゃいでいる。


「これからよろしく頼むなリリス」

『これからベルフ様に全身全霊でお仕えするのですよ雌豚』


 リリスは、これから訪れる、この一人とナノマシン一体との共同生活にストレスで胃に穴が開く予感がした。いや、すでにキリキリと胃に痛みが発生していた。


 この日が、彼女の慎ましくも楽しかった日々の終焉である。


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