第八章:《編入生と黄金の魔斧2》
「はあ、はあ、はあ」
私は、信也の攻撃をかわしつつ、信也に攻撃が通じないことについての打開策を考えていた。
「避けてばかりだと、制限時間が減っていくぜ」
一試合の制限時間は、三十分と限られている。だからといって、打開策の無いまま突っ込めば、体力的にこっちが負ける。
この間にも、信也は簡易デバイスの斧を振り回し、こっちを威圧してくる。
しかし、どうして攻撃が通らないのか。優お姉さんとの試合でも、こんなに攻撃が通らなかったことは無かった。
「次の攻撃で見極める」
私は小さく呟き、再び簡易デバイスの刀を構える。
「お、覚悟が決まったのか?」
信也が斧を構え、体勢を整える。
「そうですね。次の攻撃で試合は決まります」
私は、笑顔で信也に返事をする。
「お、この状況を切り抜ける方法を思いつくとはね。たとえ、この試合で負けたとしても、俺は、希ちゃんのSクラス編入の許可を許してあげよう」
「いいえ、その必要はありません」
私は剣を構え直す。
「行きますよ!」
私は一気に距離を詰め、信也に近づく。
「いいね。でも、これで終わりだ!」
信也が斧を大きく引き、最大限の力で斧を横一文字に振り抜こうとする。
「思った通り。」
私はそう呟き、自分のデバイスを信也の手元を目掛けて投げる。
「え?」
信也は予想外な出来事が起こったかのような声を出し、なすすべなく顔面に私のデバイスが当たり、私のデバイスは信也の上空に跳ねた。
「言ったでしょ。これで終わりです」
私は、そのまま地面を蹴り、跳ねたデバイスを掴み、そのまま簡易デバイスを起動。そのまま信也目掛けて攻撃を当てる。
「そこまで!」
瑞希のその声と共に、デバイスの武器化が強制的に解除され、信也の顔の寸前で、武器化が強制的に解除され、デバイスが元のサイズに戻る。
「BATTLE END!」
試合終了の合図の機械音が鳴り、体育館が岩場のステージから元の体育館に戻る。
「ワァァァァー」
「よくやったー」
あまりの急展開に、度肝を抜かれた観客は、一瞬の間を置いて、一気に湧き上がる。
「ただいまの試合、神裂 希の勝利!」
瑞希が試合の勝敗を宣言し、会場は、より一層湧き上がる。
「ありがとうございました。」
信也と握手をする。
「いやいや、こちらこそ。今度やる時は、瞬間練成を見せて欲しいな」
「そうですね。考えておきます」
私は笑顔でそう言って、握手した手を離した。
「では、これから三十分間の休憩を挟みます。なお、この試合は一応録画されていますので、もう一度見たい人は、封筒に名前とクラスを書き、五千円を封筒に入れて、ここにある『購入BOX』に入れてください。後日クラスにお送りしまーす。」
瑞希がちゃっかり資金を稼ぐための宣伝をしていると、静香が瑞希に近づく。
「瑞希、少し話があります」
そう言って、静香は瑞希を体育館の外に呼び出す。
「で、私に何か用?」
外に連れ出された瑞希は、静香に聞く。
「聞きましたよ。優斗の件。まずいんじゃないですか?」
静香は希を心配そうに見つめる。
「何が?」
瑞希は聞き返す。
「素直じゃないですね。」
静香は、ため息を一つつく。
「まあ、時間はあります。でも、長く幼馴染の位置にいると、いざという時に告白相談とかされて、勝手に失恋することになりますよ。」
そう言って、静香は体育館に戻って行った。
「余計なお世話よ。」
瑞希はそう呟くと空の彼方を見つめた。
「いやー。負けちゃったよー。」
信也がわざとらしく言って控え室に入ってきた。
「おつかれー。」
俺は、信也に言葉を返す。
「どうせ、手を抜いたんだろ?」
俺は信也に聞く。
「いや、最後の動きにはついていけなかった」
「へえ、珍しいな」
俺は、信也のいつもの癖が出たのだろうと考え、棒読みで言った。
「いや? ついていけなかったって言うより、心が読めなかったって言うか。何というか」
「こんなの初めてだよ」
信也のその言葉に、俺は少し疑問を感じた。
「それ、本気で言っているのか?」
俺は信也に聞いた。
「動きについて行けなかったことか?」
信也が聞き返す。
「そっちじゃなくて、心を読み取れなかった方だよ」
「ああ、そうだけど。最後は、こっちの力が見抜かれたみたいだったし、無心にでもなって攻撃したんじゃない?」
「そうか」
「何だよ。心配してくれているのか?」
信也が俺に聞いてくる。
「いや。違う」
「即答かよ!」
「確かに、心が読めないっていうのは、少し疑問に思ったけど。まあ、希ちゃんは普通に強いし、それに、神裂家に嫁ぐことが許される時点で、他とは違う才能があるんじゃないの?」
信也は、大きく背伸びをして言った。
「あれ、信也。どうして俺と希の関係を知っているんだ?」
俺は、信也に聞く。
「何言ってんだよ。俺の能力は、思考の読み取りだろ? そんなことお前の思考を読み取れば、一発で……」
「おい。昨日も言っただろ? 勝手に俺の思考を読み取るなって。」
俺は、信也の頭を鷲掴みする。
「あらら、怒っちゃった?」
信也はヘラヘラと笑っている。
「当然だ!」
俺は、信也に鉄拳制裁を入れることにした。
「痛ってー。」
信也は殴られた患部を両手で押さえている。
これ以上こいつといても、腹が立つだけなので、俺は椅子から立ち上がり、控え室の扉に手をかけた。
確かに、信也の言うとおり、神裂家に嫁ぐことができるのは、何か特別な能力を持った人間だけだ。これは、古くからのしきたりみたいなもので、実際、俺の父さんと母さんは、家の都合で結婚させられている。
だとすれば、希が特別な能力の持ち主なのか。それとも、なんでも適当な父さんの気まぐれなのか。今度父さんに聞いてみることにしよう。俺は、心の中でそう思った。
「そうだな。それが一番だ」
後ろで、信也が俺の心を読んでいた。
「信也。覚悟はいいか?」
俺は、信也の顔面を机に埋めてやった。これで、しばらくは夢の中だろう。試合の後で疲れてるだろうし、一石二鳥だな。
「そういえば、今日の任務の件で新道に呼ばれてたな。一体何の話だろ?」
俺は、控え室を出て、新道を探すことにした。
「ふう。」
新道が煙草を吸いながら、空を見つめている。
「いるんだろ。出てこいよ。」
新道がそう言うと、透明化の魔法を解いて、一人の生徒が出てきた。
黒髪のロングヘアーに、豊満な胸、しっかりと着こなした制服。そして、制服の左腕につけている黄色い腕章。生徒会長の風宮 梓であった。
「気配も消していたんですが、ばれてしまいましたか。」
風宮が悪びれもなく言った。
「当然だ。あまり俺を甘く見るな。」
新道が、煙草を吸ったまま言った。
「何度も言うようですが、学園内は禁煙ですよ?」
風宮が新道に言う。
「そんなことを言いに来たのか?」
新道は煙草を口から離した。
「もちろん違います。私が聞きたいのは、希さんの経歴についてです。」
風宮は、新道に言う。
「ああ、そろそろ聞きに来るころだとは思っていたよ。」
新道は煙草を携帯灰皿に入れる。
「俺から言えることは、ここに来る前の一年間だけだ。」
新道は風宮に言う。
「それと、あなたがここにくる前の話、つまり、アメリカにいた時の話もできますよね?」
風宮が新道に言った。
「そうか。もう、調べ済みってことか。」
新道はため息を一つする。
「で? 何が聞きたいんだ?」
新道が風宮に聞く。
「まあ、色々と知りたいことはありますけど、まずは、あなたと神裂 希がいつ知り合ったのか。神裂 希が、どんな訓練を受けてきたのか。を聞きたいですね」
「風宮。お前は、それを聞いてどうする?」
新道は、風宮を真剣な目で見る。
「私は、彼女が学園生活を送る上で危険が及ばないように配慮がしたいだけです」
風宮が平然と言う。そして、こう続けた。
「それに、あなたも知っているかもしれませんが、私に希さんをどうこうする権限はもうありません。」
風宮がそう言うと、新道は煙草を一本取り出し、ライターで火を点けた。
「配慮ねぇ。」
新道が言う。
「話しても良いが、俺が話すことができるのは、俺がアメリカに居た時の話と希がここに来る前の一年間だけだ。そして、この話は俺が知っている事実だけだ。」
「かまいません。」
新道の答えに、風宮は承諾する。
「その前に、立ち話もなんですし、生徒会室で紅茶を飲みながら話しましょう。」
新道が話そうとすると、風宮がそう提案した。
「……わかった。」
風宮と新道は、生徒会室へ向かった。