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双炎の魔剣騎士  作者: メープルシロップ
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第三章:《編入生と俺の姉》

 「ただいまー。」


 家の玄関を開けると、足元には姉の靴以外に、もう一組の見知らぬ革靴がきれいに並べて置いてあった。


 「姉ちゃんの友達か? あいつらが俺の家に来てるわけないしな。」


 あいつらというのは、さっき模擬戦をしていたメンバーのことで、昔はよく遊びに来ていたのだが、今は久しく家に来ていない。


 俺は、自分の靴と姉の靴を下駄箱にしまい、リビングのドアに手をかけた。


 「姉ちゃん、誰か来てるの?」


 そう言って、リビングのドアを開けると、そこにはダイニングテーブルに、こちら側を向く位置に座っている俺の姉の神裂優と、姉に向き合う位置に座っている“誰か”がいた。


 残念ながら、この位置からは顔がわからない。


 「あ、優君。お帰りー。」


 姉は、いつものようにこちらに手をふり、俺に挨拶をした。そして、“誰か”もこちらを振り向く。


 「あ、さっきはありがとうございました。」


 その声には聞き覚えがあった。そう。今日、模擬戦の前に道案内をした編入生であった。


 「あ、どうも……。」


 俺は今の状況がなかなか理解できなかった。まず、どうして編入生が家にいるのか。そして、編入生と姉がどういう訳で知り合いになったのか。


 聞きたいことが色々とありすぎて、言葉が出てこない。


 「優君、色々と話すことがあるから、取り敢えず荷物置いてきて。」


 姉が左手で二階にある俺の部屋の方を指しながら言った。


 「お、おう。」


 俺はリビングのドアを閉め二階の俺の部屋に荷物を置きに行った。


 自分の部屋に荷物を置き、リビングに戻ると、何故か編入生が姉の隣の位置に移動していた。


 「そこに座って。」


 姉が満面の笑顔で、さっきまで編入生が座っていた椅子へ俺を誘導する。


何かあると思いながら、俺は言われた通りその椅子に座る。


 さっきまで編入生が座っていたおかげで、椅子の温度が体温と同じぐらいになっている。この温かさはすごく気持ちが悪い。


 「で、話ってのは?」


 俺は、一応、姉に聞いた。


 というのは、姉はこれまでにこのような状況で、犬や猫の類を見つけては家に連れ込み、勝手に飼いはじめることがよくあったからだ。


 この前は、動物園から逃げ出した、“大型の猫”をどこからか見つけてきて、ここで飼うとか言い出した。


 そのときは、さすがに警察へ連絡して引き取ってもらったが、今度は人を連れてくるとは、さすがに思ってもいなかった。


 今回も警察に連絡、いや、通報しなければ……。


 「優君。今、盛大に勘違いしているわよ。」


 「え?」


 俺は、少し驚いて、姉の方を見る。


 「だって、私が誘拐してきたと思っているでしょう?」


 「そう思ってたんだけど。違うの?」


 俺は即答した。


 「えー。酷いよー。それだと、お姉ちゃんがただの危ない人と思われてるみたいじゃん。」


 姉が、テンションを上げて大げさに言ってきた。


 「え……。ちがったの?」


 俺がそう言ったとき、姉が床に崩れ落ちた。しかし、本当にそう思っていたのだから仕方がない。


 「そんな……。お姉ちゃん大ダメージ……。」


 そう言って、部屋の隅で暗くなっている姉。


 「で、でも、お姉さんにも、良い所はあるわけですし。ねえ、優斗君。」


 編入生が慌てて俺に振ってくる。


 「ん? まあ、そうだねー。」


 俺は棒読みで答える。


 「え? お姉ちゃんのいい所は?」


 テンションが一気に上がった姉が勢いよく俺に近寄ってきた。しかし、今、ここで言うことなのか。


 姉の顔を見ると、「期待してるよ!」と、書いてある。俺は、しょうがなく姉に言う。


 「えっと、優しい……所……とか?」


 実際改めて言ってみるとメッチャ恥ずかしい。しかも、何で編入生の前で公開処刑に会わなければならないんだ! 俺は、あまりの恥ずかしさに死にそうになった。


 「…………。」


 「…………。」


 「…………。」


 この場にいる全員がその場で黙ってしまった。そこには、恥ずかしさと、気まずさと、嬉しさの三者三様の気持ちが流れていた。


 「あ、あの……。」


 しばらくの沈黙の後、編入生が沈黙を破った。


 「と、取り敢えず、じ、自己紹介しますね。」


 申し訳なさそうに編入生が右手を小さく挙げている。


 「あ、そ、そうよ!」


 思い出したかのように、姉が両手を叩き、編入生の紹介をはじめた。


 「こちらは、明日から学園に来ることになった希ちゃん。仲良くしてあげてね。」


 「よろしくお願いします。」


 姉は、テンション高めに希の肩を何度も叩いている。一方で希は、何度も叩かれている肩が痛くなってきたのか、少し迷惑がっている。


 「ほら、優君も自己紹介しなさいよ。」


 姉が、希の肩を叩くのを止めて、俺に自己紹介をしろと言ってきた。


 「あ、ああ。」


 「俺は、神裂優斗。二年のSクラスにいる。困ったことがあれば、Sクラスにきてくれ。」


 「これから、よろしく。」


 俺は、自己紹介を済ませ、席を立とうとした。その時、姉が俺に聞いてきた。


 「え、優君、それだけ? 他に何か無いの?」


 「明日、依頼が入ってて、その準備とかしないといけないからさ。」


 そう、明日の依頼は下準備をしなければこっちが殺されかねない。だから、今日、家に帰ってきたら、念には念をという考えで、情報の再確認をしようと思っていた。


 だが、家に帰ってみればこんな状況だ。明日の準備の前に思わぬ時間を食ってしまった。


 「じゃあ、その依頼、希ちゃんも連れて行ってあげて。」


 姉が笑顔で唐突に言った。


 「いやいやいや、おかしいでしょ!」


 俺は姉の言葉に耳を疑った。


 「大丈夫よ。こう見えて、希ちゃん。優君と同じかそれ以上のレベルよ?」


 更に、耳を疑った。俺達、Sクラスは学年の上位ランカー。同学年で、それ以上となると、そんな奴がいるのかって笑われるほどだ。


 「でも、明日の依頼は特に危ない任務だから!」


 「そんなに言うなら、希ちゃんと模擬戦してみたら?」


 「え……。」


 その言葉に俺は驚いた。俺の姉は、めったなことが無い限り、模擬戦をしようと提案してくることは無いからだ。


 それはつまり、希という人物が姉にそこまで言わせる何かを持っているということだ。


 「そこまで言うなら……。」


 俺は渋々了解し、離れの道場へ向かった。




  道場で待っていると、姉と、姉のお下がりの服を着た希が入ってきた。


 「おまたせー。」


 姉が手を振って道場こちらに向かってくる。


 「失礼します。」


 その後ろから少し遠慮がちに後を追って希が来る。


 「審判は私、神裂優。ルールは学園の模擬戦と同じよ。お互いに全力で勝負すること。」


 姉が、ルール説明をしている。どうやら、希は学園の模擬戦のルールを知っているらしい。いったい何者なのか。


 「あと、もう一つ。」


 姉が人差し指を立て、ルールを付け加えた。


 「優君。これは忠告だからよく聴くのよ。」


 姉が、真面目なトーンで言ってきた。


 「な、何だよ。」


 俺は、姉ちゃんの真面目なトーンの言葉に少し不安を感じた。それは、姉ちゃんが真面目なトーンで言うときは、相手が強いか、動物を拾ってきて飼いたいと頼んでくるときだけだからだ。


 今回は前者の方だろう。しかし、姉ちゃんにそこまで言わせる奴が、まだ学園以外に居たとは。


 さすがに、もう居ないと思っていただけに、この試合に緊張感が出てきた。


 「優君。最初から本気でいきなさい。」


 耳元で囁かれたその言葉は、俺の考えを余裕で超えていた。なぜなら、俺の本気はこの学年のトップであることを意味するからである。


 それを知らない姉ではない。つまり、希はそれほど強いレベルということだ。


 「わかった。」


 俺は小さく頷き、希をまっすぐ見つめる。一方、希は不安そうにこちらを見ている。


 すると、今度は姉が希の方によっていき、希に何かを言った。しかし、その声は俺には聞こえなかった。


 「じゃあ、準備はいい?」


 「いいぜ!」


 「わかりました。」


 沈黙が道場を包む。


 「はじめ!」


 合図とともに、俺はデバイスを形成。簡易デバイスなら即座に武器の具現化が可能。


 だから、相手のデバイスがわからない内は、簡易デバイスで戦うのが基本。ここで時間のかかる練成を使うのは、素人がやることだ。

 

 「速攻なら、俺の右に出る奴はいな……。」


 俺が前に出かけた瞬間、俺の目に移った光景に、俺は言葉が出なかった。眼前に映ったのは、完全状態で練成されたデバイスだった。


 「そこまで!」


 姉の合図で眼前のデバイスが静止。同時にデバイスが消えていく。


 そして、慌てて希が駆け寄ってくる。俺は、前身の力が抜け、その場に座り込んでしまった。


 「大丈夫ですか? 手加減してくれとお願いされたので、力は抑えたのですが。」


 俺は、その言葉に愕然とした。


 「俺が、負けた……のか……?」


 俺は自分の状況が理解できなかった。今まで、こんなにも力の差をつけられたことが無かったからだ。しかし、どうして、これほどの力を持った奴が、今までこの学園に入学しなかった。


 これほどの実力があれば、とっくに……。


 「不思議そうな顔ね。」


 審判の位置にいた姉が、俺の方に歩いてきた。


 「何だよ。笑いたいなら笑えよ。完敗だよ。」


 俺は、両手を上に挙げ、お手上げのポーズをとる。


 「いいえ、確認したのよ。私の実力が落ちていないかを、ね。」


 姉が言った。


 「どういうことだよ。」


 俺は姉を見上げる。


 「だから、そのままの意味よ。私も希ちゃんに負けたのよ。」


 姉は平然と言った。それは、この日本にいるすべての人間に勝てるということを意味する言葉だった。現段階で、姉以上の戦闘レベルを持つ人間がいないからだ。


 「冗談だろ!」


 俺は、思わず大きな声を出してしまった。


 「冗談でこんなこと言わないわ。後、もう一つ言っておくと、朝から手合わせして、一回も勝てなかったわ。」


 姉が、自慢気に言う。


 「いや、自慢するところじゃないだろ。」


 俺は静かに突っ込みを入れる。


 「それは、そうと。その力、どうやって手に入れたんだ?」


 俺は、当然の疑問を希にぶつける。


 「…………。」


 希は、何かを言うのをためらっているように、黙ったまま何も答えない。


 「ああ、言いたくなければ言わなくていいんだ。」


 非常にやりづらい。さっき学校で会った時から、希の地雷を踏みっぱなしのような気がした。俺はこの先、希とやっていけるのか。心の中で少し不安になった。



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