第十五章:《新戦力》
「え……、えぇぇぇぇ!?」
その場にいた皆が声を揃えて言った。
「え? 希が、後方支援?」
俺は希に言った。
「うん。そうだよ? 提出した書類にもそう書いたよ?」
希が平然と言う。
「本当だ。履歴書に書いてある。」
書類を見て、瑞希が言う。
「そ、それは、本当ですか?」
静香が希の肩を掴み、目を輝かせて言った。
「う、うん。本当だよ。あと、痛いから、手を離してほしい」
我に返った静香は恥ずかしそうにソファーに座った。
「ああ、訳なら聞かないでね。誰にでも秘密にしたいことはあるでしょ?」
希の目つきが変わって、その場の空気が凍りついた。希の目は氷の様に冷たく、その場に居た全員を黙らせた。そして、希は「パンッ」と手を叩き笑って続けて話し出した。
「じゃあ、今度は私の自己紹介ですね? 改めまして、名前は神裂 希。武器はさっきの試合で見せた刀。だけど……」
そう言った希は両手を前に出し、桜色の魔方陣を展開、俺を含めた皆に一気にバリアを張った。
「私は、主に皆を守る後方支援担当ってこと。」
希が自慢気に言う。
「あ、ありがとう!」
そう言って静香が希に抱きつく。どうやら、本気で嬉しかったようだ。
「ということで、今日は私のフルコースを皆に振舞ってあげる! 料理得意なんだ!」
そう言って、希は鼻歌を歌いながらキッチンに向かっていく。
「へえ。可愛いし、料理ができるなんて優斗には勿体無いな。優斗なんかやめて、俺の所に来いよ。」
信也が冗談を言う。
「それは私が許しません。」
そう言って静香は魔方陣を展開し、簡易形態で展開したデバイスの銃口を信也の後頭部に付ける。
「おお、静香が瑞希以外のために銃口を向けるとわ」
俺は、静香の行動に驚いた。
「冗談です、霧咲さん。」
信也が両手を挙げて降参のポーズをとる。
「なら、いいのですが。今後彼女に許可なく触れればその場で打ち抜きます。」
静香の冷たい目が信也を見下す。
「は、はい……。」
信也がソファーで小さくなって座る。
「で、でも、静香は私の……」
瑞希が言おうとすると、それに静香が被せる。
「大丈夫です。瑞希お嬢様のお世話も、これまで通り行います。」
「あ、そうですか……。」
瑞希も信也と同じようにソファーに座る。そして、瑞希が俺の方を睨む。
「あ、ああ。俺は、お前の行動に異議はしないから」
俺を含め、このチームのメンバーは、気に入ったもは絶対守るという静香の性格を知っているので、静香の決めたことには深く立ち入らないようにしている。立ち入れば、蜂の巣だ。
「ちょっと誰か手伝ってー?」
キッチンで希が言った。
「はい! 私が行きます!」
希の声を聞いて、静香が一目散にキッチンへ向かう。
「静香が興味を示すなんて、いつ以来かしら?」
瑞希が俺に話しかける。
「あれだろ? 小学校の時の巨大芋虫以来だろ?」
俺は、小学生時代の記憶を呼び起こす。
「ああ、あれね。じゃあ、希は芋虫と同等?」
「フハハッ、ハハハハ!」
俺と信也と瑞希は、キッチンに立つ静香と希を見ながら笑った。
「遅刻、遅刻だー!」
俺は、通学路を全速力で走っている。いつもなら、目覚まし時計が鳴るのだが、何故だか目覚まし時計が鳴らず、盛大に遅刻するという事態に陥っている。
「ちょっと、朝から走れないよー」
俺の後ろから希がヨタヨタと追いかけてくる。
「今日の遅刻はお前のせいだからな!」
俺は、希に言う。
「だって、ユウの寝顔があまりにも気持ちよさそうで。ウヘヘヘー」
そう、希は俺の目覚まし時計を勝手に止めた上に、俺のベッド上で二度寝をしたのだ。
「ウヘヘヘー。じゃねーよ! 今日の生徒指導は新道だぞ!」
そう言った瞬間、希の顔が青ざめた。
「そ、それは不味いね!」
そう言うと、希は足に魔方陣を展開し、一気に加速して、低空飛行の魔法で俺を抜き去った。
「あ、あいつ。まてー!」
俺も魔方陣を展開し、低空飛行の魔法で希の後を追う。
「あ、見えた!」
希が、学校の門が閉められる直前の正門を視界に捉える。
「加速!」
魔方陣を発動させ、希がさらに速度を上げる。
「置いて行くなよ!」
俺は、希に肩を並べる。
「キーンコーンカーンコーン……」
このチャイムに遅れれば遅刻だ。新道が担当の時は、遅刻をしたものには、腹筋・腕立て・背筋を一万回、三セットという地獄のメニューが待っている。だから、新道の担当である曜日は誰一人遅刻者がいない。
「間に合えー!」
「間に合えー!」
チャイムが鳴り終わるのと同時に、俺と希は正門を通過した。
「よし、今日も遅刻者は無しだな。」
そう言って、新道は正門を閉める。
「お前ら、後で職員室な。話がある。」
新道が疲れて倒れこんでいる俺と希に言う。
「え、ち、遅刻はしてないよ?」
息を切らしながら、希が言う。
「ああ、依頼の件だ。とにかく、放課後に来いよ?」
そう言って、新道は職員室の方へ歩いていった。
「何だろうね?」
希が微笑みながら言う。
「さあな。ところで、何で、新道の生徒指導がキツイッてことを知ってたんだ?」
俺は、希に聞く。
「ああ、私がアメリカにいた時に、直属の上司だったからね。アメリカでも、生徒から怖がられていたしね」
希が笑って言う。
「上司か。どこにいても新道はそんな感じか」
俺は、アメリカに居た頃の新道を想像して笑った。
「おい、おまえら。いつまでそこに居るつもりだ。そろそろ教室に行け!」
職員室の窓から新道が叫んでいる。俺は、地面から立ち上がり、希に手を差し出す。
「ありがとう」
そう言って、希は手を取った。