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キマイラの飼い方3 突飛な行動に悩まされることもありますが、こりずにコミュニケーションをはかりましょう。

 無事にモンスターたちとの再会を果たした。

 ……気分としては小学生の遠足の引率だ。場所は動物園。

 というのも女の子モードとモンスターモードの子がだいたい半々ぐらいの数でおり、彼女らの声は意味のある言葉というよりは1つの甲高い音波として俺の耳にとどいた。

 こちとら聖徳太子じゃないので一気に色々言われてもわけがわからんのである。しかし元気いっぱいのモンスターたちは手加減をしてくれない。圧倒されたまま時間はすぎた。


 広場にはグッタリした俺と、イヌが残される。

 というのも日によって〝おそば係〟が決められているらしいのだ。

 ……誰か知らんがその制度を考え出したやつには勲章をやりたい気分である。全員に節操なく来られたら俺の身がもたない。マジでグッジョブである。


 反面、俺が寝ているあいだに〝おそば係〟に任じられた子らはつまらながっているらしい。

 そのへんのケアもしていくべきだろうが、同時複数調教、しかも3桁が相手とかどうすればいいか想像すらつかないのが現状だった。


 マジで国家じみた規模だ。

 ……いやまあ、それは印象の話で、実数はせいぜい村落ぐらいの人数なんだろうけど。都会の行政はよくも馬鹿みたいな数の人口をさばけるもんだと感心する。


 人数が増えれば制度が必要になる。

 そのあたりは頭のいいやつらと話をしていく必要があるだろう。というかできたら勝手に決めて勝手に運営してほしい。俺はあくまでゲームを楽しんでいたただの人なのだ。勇者の素養も行政の素養もありはしない。


 あたりには静寂があり、そばにはイヌがいた。

 彼女は人型のままだ。さすがに服は着せた。パジャマのようにゆったりした、肩からくるぶしまで多う……ワンピース? ローブ?

 柔らかそうな素材のスカートを折りたたむように座って、俺の脛に頬をこすりつけていた。


「イヌもシロもラスボスも、人型の時にも動物的な行動をするよな」

「……姿が違うだけ。なにもかわらない」

「それもそうか」


 彼女らの基本は動物なのだ。

 ということは彼女らの機嫌は、たとえ表情が読めなかったとしても行動から判断することができるのだろう。

 猫が頬をこすりつけてくるというのは――はて、なんだっただろうか?

 リアルでは犬と金魚ぐらいしか飼ったことがないので、猫の生態はさほど詳しくない。


「……ここは寒い」

「そうか? 俺にはちょうどいいけど……」

「私には寒い。もっとあったかいところが好き。でも、暑いのはイヤ」

「……お前の寝床はどのあたりなんだ? みんな寝るのに解散したんだろ?」

「今日は私がモンスター小屋。だけど……」

「だけど?」

「あなたが寒いなら、一緒に寝てもいい」


 ……これはどう答えるべきなんだろう。

 表情が読めない。一緒に寝たいけど自分からは言い出せない的なアレなんだろうか。それとも願望とかは特になくて単純に提案してるだけなんだろうか。

 わかりやすいシロや子犬、ある意味わかりやすいラスボスと違って、イヌとのコミュニケーションは一挙手一投足から真意を読み取るべく頭を働かせなければならない。

 彼女がいたらこんな感じかなあ、と妄想する。

 慌てて振り払った。シロとの会話の時に誓ったではないか。俺は彼女たちをなるべく人間としては見ないと。調教師の立場に甘んじて〝ハーレムだヤッホウ!〟とかやるのは人としてどうかと思う。いや、単に俺が臆病なだけかもしれないけどね。

 うん。

 保留。


「そういえば――俺がいないあいだ、イヌはどんな暮らしをしてたんだ?」

「……逃げたり、戦ったり、探したり」

「まあそうだな……みんなそんな感じか」

「……早い段階でこっちのほうに逃れていた子もいる。私は……強いから」

「そうか」

「……そう」

「……」

「……」


 油断すると会話が切れる。

 うん、色々と話すべきことはあるはずなんだけど、まとまらない。

 ……そうだな、ちょっとねぎらうか。

 彼女らはなんだかんだと俺のためにがんばってくれていたはずである。感謝の言葉、ねぎらいの態度など示す必要があるだろう。

 そう考えて口を開こうとした。


 不意にイヌが立ち上がり、こちらに背を向ける。

 出鼻をくじかれた俺は質問した。


「急にどうした?」

「退屈」

「……いや、まあ、えっと……あ、遊ぶか?」

「なにするの?」


 モンスターと遊ぶ……

 ゲームでは〝遊ぶ〟というアイコンが出てきてそれをクリックするだけだったので、詳しい遊びの内容までは知らない。

 ストレスが減少し機嫌がよくなるという効果があったが、ゲームの中の俺はいったいどのような手段を用いて彼女たちと遊んでいたのだろうか?

 頭をひねる。


「……な、なでるとか?」

「なでるの?」

「そう望むなら」

「……もっと動きたい」

「動く……あ、そうだ。こう、てきとうな縄をお互いで持って、引っ張り合うとか――」

「やっぱりなでるのでいい」


 ……気まぐれか!

 いや、うん、イヌはイヌなりに色々思うことがあって行動を変える場合もある。だけれど基本的に気まぐれな性質があるのもたしかなようだった。

 彼女に対しては柔軟な対応を心がけないと、肩すかしを食らいやすい。

 こっちがやる気を出した絶妙なタイミングで勢いを逸らしてくる感じなど、あんまり熱くなってると大怪我しかねない。


「じゃあなでるか」

「うん」


 イヌが真正面に立つ。

 俺はその長すぎる金髪を梳くようになでた。

 会話はない。

 ……なんだか遊び方というか、接し方にぎこちなさを感じてしまう。

 まだまだイヌとの付き合い方を開拓できていないようだった。


 しばらくなでていると、イヌが動く。


「寝る」

「あ、ああ、そうか。なんかすまなかった」

「……別に」

「不機嫌だったら言うんだぞ?」

「……別に」


 なんか年頃の娘を持った父親のような気分だ……

 妙にそわそわしてしまう。


「じゃあ、おやすみな」

「……あなたはどうするの?」

「俺? 俺は……眠くないな。さっきまで寝てたし。だからこのあたりを散策してみようかと思ってるよ。記憶との食い違いとかも確認しておきたいし」

「……じゃあ、一緒に行く」

「寝るんじゃなかったのか?」

「広いから。お話できる」


 話すこと自体は、嫌いじゃないようだった。

 とはいえ話題もない。人間相手に話すようなネタはもちろんのこと、猫相手に話すようなネタすらもストックがなかった。

 だいたい、動物相手にいちいちネタを確保してしゃべったことはない。金魚の餌やりだって『今日も元気だなあ』とか『餌はいっぱいあるから争うなよ』ぐらいの、一方的な声かけだけだ。

 ……むしろそういうのでいいのか?

 俺は道ばたで猫と巡り会うシチュエーションでかけるべき声を模索する。


「……こっちおいで」

「ん」


 命令――というつもりもなかったが、イヌは素直に従った。

 たまに電信柱の陰とかに猫を発見することがある。そういった時にはとりあえず呼びかけてみるのだが、そのあとは相手が嫌がらなければ頭をなでたりするだけで、これ以上の会話はなかった。

 ……他にかけるべき声……

 イヌという生まれた時から(ゲームでは)世話をしている相手にするには妙な質問だが、まあ、他に話題も探せないしてきとうに投げてみるか。


「どこから来たんだ?」

「……えっと、〝高地〟から」

「そうか。野生で生きていくのは大変だったろうなあ」

「……別に」

「よしなでてやる」


 顎のあたりをなでる。

 イヌが目を細めて嬉しそうにした。

〝道ばたで偶然出会った猫にするように声をかける作戦〟は功を奏しているっぽい。


 ……しかし、顎をなでたり頭をなでたりしているうちに、早くもこの作戦の欠陥に気付いた。

 道ばたで出会う野生の猫は、なんだかんだと野生だ。こっちがいつまでもなでていると、そのうち飽きてどこかへ去ってしまう。

 だが、イヌは飼い猫だ。どこかへ行ったりしない。

 いい加減間が持たなくなってきたので、たずねる。


「なあ、なでられるの、飽きたりしないか?」

「……別に」

「眠くないか?」

「……ちょっと」

「じゃあ、寝るか?」

「うん」


 ぽす、と腹のあたりにもたれかかられる。

 一瞬唖然とした。


「え、あの」

「……寝ないの?」

「ここで?」

「……どこでもいい」


 そういえば野生の動物だった。

 俺がいないあいだは外で寝ることも多かったのだろう。

 しかしどうしたものか。

 俺から寝ようと提案した手前放置するわけにもいかない。いや、こちらの想定ではここで解散してお互いの寝床に行く感じでお別れする予定だったのだけれど。

 イヌの行動はいちいち予想を裏切る感じでおどろかされてばかりだ。


「もしもし、イヌさん?」

「……」


 寝息が聞こえる。

 ……ああ、もう、仕方ないか。

 モンスター小屋に運ぶのも、調教師室に連れて行くのも、それなりに距離がある。

 まだまだ病み上がりで、そういえば撃たれた箇所も痛い。


 ……意を決してその場に寝転ぶ。

 イヌは俺にぴったりくっついて離れない。

 仕方ないなとため息をついて空に視線をやった。

 魔界の夜空は人工的な輝きに満ちている。

 どこかツクリモノめいた天の川を見ながら、眠気が来るまでこらえることにした。

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