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レッドドラゴンの飼い方3 繊細な生き物ですので、多頭飼いの際は特にストレスに気を配りましょう。

 モンスター小屋――

 夜になり周囲が肌寒くなってきたので、屋内に入った。

 広い部屋なので、ラスボスに加えシロと子犬、さらに俺の合計7人が内部にいても(人型ならば)問題はない。

 ……はずなのだが、子犬どもは部屋の隅に追い詰められるように、ひとかたまりになっている。

 ラスボスが怖いらしい。


 今のラスボスは、女の子の姿をしている。

 炎のように輝く赤い髪に、爬虫類のように縦線のある黄色い瞳の少女だ。

 年齢は子犬どもよりやや大きく、シロよりやや幼い。人間に直すと11~13ぐらいになるんだろうか?

 服もちゃんと着ていて、これは裾の短い振り袖という感じの独特のものだ。

 ゲームグラフィック通りなのだが……


「なあラスボス、その服はどこで手に入れたんだ?」

「東の調教場で(あるじ)からもらったのじゃが、覚えておらんか」


 覚えてないです。

 というか、彼女らをここまで育て上げた〝3ヶ月前までこの世界にいた俺〟の記憶が、今の俺にはない。

 そもそも3ヶ月前は現代日本でゲームをしてた気がするので、この世界にいるはずがない。

〝3ヶ月前までこの世界にいた俺〟は何者なのか……


「なあ、その、ラスボスは別れる前に俺からなにか言われたこととかはあるか? 変な質問をするようで悪いんだけどさ……」

「ぬ? たしかに妙な質問じゃな」

「ちょっと色々あって記憶が混乱してるんだ」

「……大丈夫なのであろうな? まさか〝調教師狩り〟のせいか?」

「いや、それは関係ない。で、なにか言われ……言ったっけ?」

「というよりも、(わし)が周辺のモンスターどもを束ね人間と戦っていたのは、主の言いつけなんじゃがな」


 どういうことだ?

 ラスボスの話が本当なら、彼女らと離れる前の俺はモンスターと人間が戦争状態になることをすでに知っていたということになる。

 ……まさか戦争の原因が俺なのか?

 いやいや、さすがにそれはねーよなあ。


 悩んでいると、シロがムッとする。

「シロはご主人様からなにも仰せつかってないです」

 ラスボスが牙をのぞかせて笑った。

「ま、無理もない……犬ッコロは用事を申しつけても三日で忘れそうじゃからのう」

「ご主人様からのお言葉を忘れるなんてありえません! 都合よく改変はしますけど!」


 シロはもう本性を隠す気がねーよな。

 このケダモノめ。


 だが、ここでシロをいじけさせるのもまずい。

 いらないところで彼女たちの信頼度を減じさせるのは、彼女たちに頼るしかない俺にとっていいことではないのだ。


 俺はシロをフォローする。

「まあまあ……たしかにラスボスに与えた役目は特別っぽいけど、シロになんにも言わなかったのは、昔の俺が〝シロなら指示しなくっても意図を汲んでくれるだろう〟って思ったからなんだよ」

「本当ですか!?」

「ああ、本当だ……おそらくきっとたぶん予想するに」

「わぁい! シロはご主人様に信頼されていたんですね! ラスボスさんと違って!」

「……おい」


 どうしていたずらに争いを巻き起こすようなことを言うのですかバカ犬さん。

 ラスボスの様子を横目でうかがう。

 顔は笑っているが、全身はプルプル震えていた。


「犬ッコロ、貴様はどうやら儂の機嫌を損ねたいらしいのう」

「なんですか! 先に嫌みなこと言ったのそっちじゃないですか! ささやかな反抗ですよ!」

「前々から思っていたんじゃが、貴様と儂とは決定的に性格が合わんのう」

「ふーんだ! シロだって前々からあなたのにおいが気に入らないんです! しかもご主人様に特別に命令されていたとか……それはつまりシロの知らない会話を二人きりでしたということじゃないですか! 許せません! そんなに二人きりで会話した自慢がしたいんですか!?」


 基本的に、1度に1つの調教場で育てるモンスターは1人だけだ。

 なので、ゲームの仕様上シロの知らない会話を他の子とするのは当たり前なのだが……

 なぜかラスボスはひるんだ。


「い、いや、別に……儂は主と2人きりで会話したからといって、なんにも思わぬからな。自慢するつもりもない……ない……ないんじゃ」

「だったらご主人様にはこれからもシロが付いて行きます!」

「え」

「……なにか不思議ですか?」


 シロがきょとんとする。

 ラスボスは目に見えておろおろし出した。


 ……仕様上の話……でもないかもしれないが、モンスターは基本的に調教師に懐くものだ。

 特に人型を見せてくれるほど信頼度を高めていれば、それだけ絆は深い。

 シロなんかは顕著で、久々に会った俺にベッタリとくっついて離れないし、本人が白状したぐらいに俺がいないあいだは寂しがっていた。

 ちょっと前まで、ドラゴンは〝信頼度があがってもまったく懐かないモンスター〟だと思っていたが……

 彼女たちは不器用なだけでちゃんと懐いていることが、今ならばわかる。

 なのでラスボスも、内心では俺といたいと思ってくれているんだろう、たぶん。

 シロは色々と表現がストレートなので、繊細なラスボスの内面を読み取ることができていないのだろう。ラスボスの言葉を本気で信じている様子が見られた。

 ……ここは、俺がなにか言わないとラスボスが静かに深くヘコみそうだな。


「ええとシロ、お前が付いてくるのはまったく問題ないんだが……」

「はい! 一生、どこへでも! 片時も離れず!」

「片時ぐらいは離れろ。お前は本当に風呂もトイレもついてきそうだ」

「もちろんです!」

「断言するな! あー……そうじゃなくって、俺はこれから、他のモンスターたちとどんどん合流したいと思ってる。さしあたってはラスボスが指揮官なわけだし、彼女についていけば他の子との合流が早まるかなと思ってるんだが……」

「それはつまり、この調教場を離れるということですか?」


 んー……どうすっかなあ。

 この拠点は、最初に俺が召喚された街からさほど離れていない様子だ。

 見つかるのも時間の問題だろう。

 落ち着くなら、もっと人間の勢力圏から遠いところがいいなとは思う。

 とはいえ、ゲームではどのへんに人間の街があるかなどはザックリとしかわからなかった。

 調教場があればだいたい近くに人間の街があるはずだが……

 あ。

 そういえば、1カ所だけ人間の勢力圏から遠く離れた調教場があったな。


「俺は〝魔界〟を目指す」


 調教場の一種で、大陸の西端に位置する場所だ。

 主に悪魔系モンスターの育成効率が上昇するのだが、逆にその他のモンスターの育成効率は減少するというピーキーな場所だった。

〝モンスター同士を戦わせる興行〟というゲームのメイン目的上、たいていの調教場は人間の街に近いのだが、魔界だけは設定にハッキリと〝人里離れた〟という文章があったはずだ。

 先にも言った通りモンスターの育成効率だけが問題だが、シロたちは今さら育成するまでもなく強い。

 子犬どもをどうするか、だけが問題だが……

 人間の襲撃を受けやすい場所でビクビクしながら育てるよりは、育成だけに力を注げるぶん、よほど効率がいいだろう。


 シロが首をかしげた。

「魔界ですか……? そういえばシロは行ったことがないです」

「お前を育てるのには効率が悪い場所だからな……でも、あそこなら人間の街からも遠い。落ち着ける拠点にはもってこいだ」

「えっと、つまり、ご主人様はみんなと合流しつつどんどん西側を目指していくおつもり、ということなんでしょうか?」

「そうなるな」

「あの、疑問があるんですが……」

「なんだ?」

「その旅を続けると仲間が増えますよね? どのタイミングでシロと2人きりでモフモフしていただけるのでしょうか」


 ……そんなこと気にしてる場合なのかなあ?

 いや、まあ、モンスターにとっては重要なのかもしれない。なにせ彼女らは基本的に動物なわけだし〝かわいがる〟という時間も信頼関係維持のために必要な可能性はある。

 ゲーム上ではトレーニングや睡眠、食事などで信頼度があがっていったのだが、能力的に完成しているシロやラスボスが相手ならば〝かわいがる〟という工程もこなす必要があるだろう。

 ゲーム内だと能力が伸びきったモンスターをまた育てるということはなかったからな……

 ともあれ、だ。


「そういうわけで、ラスボスとも離れずに、これからどんどんこのへんのモンスターと合流して西側を目指そうと思う」

 ラスボスがうなずいた。

「ふむふむ……戦略的にも正しいのう。散兵は各個撃破されるじゃろうが、1カ所に固まっていれば敵もそうそう手出しできんじゃろう。であるからして、儂は主の意見を推すぞ」

「そうだな。ラスボスは望んでないかもしれないが、これからも一緒にいてくれ」

「なんじゃなんじゃ! そう言われたなら仕方ないのう! 望んでいるわけではないが、主がそう命じるのであれば儂がこれからも一緒にいてやろう!」


 すごく嬉しそうだ。

 ……ちょっと言葉に気遣いが必要ではあるが、これはこれで素直ないい子に思える。


 なんにせよ、目的は決定的に定まった。

〝魔界〟の調教場を目指す。

 モンスターたちと合流する。


 それから――

 ……シロとラスボスみたいに相性のよくないモンスター同士でも、同時に世話できるよう気を払うこと、だろうか。

 できるかなあ……

 不安だ。

ほんのり脱字修正

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