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第7話:黒髪黒目の謎の魔道士

 もうお分かりかと思いますが、会話場面にて、わかりにくければその時に参考にしていただければとおもいます。

 それぞれ、自分の呼び方、カズオの呼び方、語尾です。



 ルナ→私→カズオ→だね


マリア→私→カズオくん→です~


エル→あたし→カズっち→だねー

午前の王立魔法学校には、爽やかな風と程良い日差しがいつものように降り注いでいた。それはどの施設も例外ないことで、ここ闘技場もあてはまっていた。だが現在、闘技場は他の施設にはない騒ぎ声が響いていた。いや、これは笑い声である。


「静かにしなさい!、笑うんじゃありません!!」


アリスは集まっている生徒を自身のもつ精一杯の声量で怒鳴りつけた。だが、先生の声はこの闘技場の騒音ともいえる声の前には無意味と言わんばかりにかき消されてしまった。


「…っそんなこといったって先生、これを笑わないでどうしろっていうんですか?ーープハハハ」


アリスの声がかろうじで通じた最前列の男子生徒はそう答えた。


笑われているのは、魔法威力測定人形の10メートル程前に立つカズオであるということは誰からの目にも明らかであった。


 そして、アリスはその時考えていた。彼は何故そんなことをしたのかと。


アリスがカズオに魔法威力測定人形に魔法を放つようにと言ったあと、彼は周囲から野次を受けつつも、魔法威力測定人形の10メートル程前に立ち止まった。


アリスはその時、彼が杖を持っていないことに気が付き「杖をお貸ししましょうか?」と言ったが「いや、必要ないです」と断られたので、そのままやらせることにしたのだ。


直後、カズオは左手を前にかざすと、雷属性魔法発動時に見られる特有の光を発し、直径10センチほどの魔法陣が、彼の左手の手の平から出現した。


一連の流れる動作には無駄な動きは一切無く、これまでアリスが見てきたどの生徒よりも美しく、完成されたものであると彼女は思った。


そして、彼女はこの後その魔法陣から現れるであろうこれまた強く美しい雷撃を予想した。

 

だが、次の瞬間異変が起こった。


魔法を放つ寸前、並みの魔法使いであれば、まず気が付かないであろう一瞬に光が弱まったのである。いや、魔法学校の先生であり、魔法に関するエキスパートであるアリスにも何となく一瞬、光が弱まったような気がしただけであった。生徒達は勿論そんな些細なことに気付くことはなかった。


端から見れば、魔法の扱いに慣れていない者がよくやる、込めた魔力の割に魔法が弱くなってしまうという現象に見えたであろう。そう、その瞬間にカズオはわざと魔力を少なくしたのである。


そして次の瞬間には、彼の魔法陣から糸の様な細い雷撃が放たれた。皆がそんな細い雷撃を目視できたのは、雷撃自体が光を放っていたからである。直後、その糸のような雷撃は、前方の魔法威力測定人形の眉間のど真ん中に命中した。


その時、闘技場内はわらいに包まれたのだった。顔は真剣そのもの、杖もいらないとかっこつけていた目の前の“魔法学校の恥”はその名の期待通り、魔法になるかならないかという瀬戸際の最弱の攻撃を放ったことが、端から見ていた生徒達には傑作であったのである。


アリスは何故カズオはそんなことをするのかと考えていたとき、彼女はカズオの魔法の測定をしなければならないということを、生徒達が嗤い始めた数秒後に思い出し、彼女は急いで測定機を確認した。


「ーーーな、なんてことなの!」


そこには、HPが19,999と表示されていた。つまり、1だけダメージをあたえたのである。


アリスは純粋に驚いたのだ。これは普通狙ってできる事ではないと。

魔力を魔法にする際、ある一定以上の魔力を込めなければ、安定した魔法になることはない。故に普通なら必要以上の魔力を込めて魔法を発動するものなのだ。例えるなら、縄跳びをする時、縄を確実に飛べるように高く跳ぼうとするか、それとも、縄が掠るくらいスレスレで跳ぶかとういような違いである。もちろん後者が失敗のリスクが高いのは自明であろう。


魔力を込め過ぎた魔法はそれなりのダメージを与えてしまうので、このように1だけダメージを与えるのは極めて困難なのだ。それに、魔法でそんな発動出来るかどうかというスレスレを狙って撃つのは相当難しいし、もし発動する事が出来たとしても、その攻撃が安定することはさらに困難なのである。とはいえ、そういった知識は、ある程度魔法を知るものでなければわからないが。


さらに、驚くべき事はもう一つある。

魔法の発動をギリギリまでに抑えた場合、安定しないはずの攻撃をしかも狙いをつけにくい属性である雷属性で、見事人形の眉間の中心に狙い当てたということである。


普通であれば、偶然であると切り捨てれるべき事であるが、アリスは彼なら偶然ではないと確信していた。


カズオが電撃を放ってからしばらくすると、嗤いはおさまり、彼は先生の元に戻った。生徒達は十分嗤ったからであろうか、不思議と彼に野次が飛ばすことは無かった。

 

「お、お疲れ様でした、カズオさん。それでは元の場所に戻って下さい 」


アリスがそう言うとカズオはルナの元へと戻った。周り生徒たちが「なんでお前なんかがルナさんのところにいくんだよ」と言いたげな視線が突き刺さるが、彼が別にそんなことも気にしない。


「カズオ、お疲れ様。さっきのすごかったね。……それにしてもどうやったの?」


そんな生徒たちとは裏腹に、ルナはカズオに労いの言葉をかけるのであった。


□■□■□■□■□■


ーー女子寮ーー


「ねーねー、今日は本当にねカズオが凄かったんだよっ 」


「また、カズオくんの話ですか~? 」


「ここまできたら、もうヤンデレ予備軍だね、ルナっちー 」


桃髪桃目に白い肌の美少女ルナ・シャンデリアが話すや否や右斜め前にお(おしと)やかに座る金髪、薄緑目に雪のような白い肌のおっとりとした美少女マリア・バレンティーナは、穏やかな母親の様な表情で目を向けていた。そして、左斜め前に両膝を立てて座るこれまた白髪にウサミミに少し茶色に焼けた肌に水色の目の美少女エルレンシアは、マリアの表情に反してルナの言葉をからかうような表情をしていた。


女子寮の一室、部屋には3つのフカフカのベットが並べられており、就寝前にはいつも3人はルナのベットである真ん中のベットに集まり、その日のことを話す。3人はそれぞれ順番で話をするという決まりがあり、今日はルナが最初の番である。


「ちょっとエル、ヤンデレ予備軍ってなによ。それに私、そんなにカズオの事ばかり話してる訳じゃないじゃない!」


ルナは、2人の表情、特にエルレンシアの表情に悪意を感じ、そして、彼女たちの言葉に対してぷくっと頬を膨らませ、反論した


「え? ルナっちはいっつもカズっちの話しをしてるよー。授業の話とかしてても、すぐカズっちに話を戻すよねー」


エルレンシアの発言に微笑みを浮かべながらマリアは頷いている、それを見たルナは「もうなによー…」と言い赤面しベットに潜りそうになるが、一回入ったらなかなかでないその行動は、なんとかマリアの「ごめんなさいねルナちゃん」という言葉と、エルレンシアの背中に回り込んでからの抱きつきホールドによって止られたのだった。


ちなみに、エルレンシアは、まだカズオとは会っていない。それに以前はカズオのことを“カズオっていう人”と呼んでいたが、ルナが毎日話すので、親近感を抱き、最近“カズっち”という呼び名に昇格したのである。


「はいはい、じゃあルナっち、聞いてるからカズっちの話してよー」


「わ、わかったわよっ、話すから……ってかちょっとー離れてよぉエルー…… 」


ルナがそういうと、エルレンシアは渋々まわしていた腕を振りほどいた。

 

「えっとね、今日の授業の事なんだけどね 」


それから、ルナは今日の“間接戦闘”の授業でわかった事を2人話した。カズオが全属性の適性があったということ。魔法の威力を恐らく最小限のまで落とし放つことが出来たということ。そして、その時、杖の補正無しで、しかも雷属性の魔法を人形の眉間の中心に当てられる程安定させていたということを。


その話を聞いたとき、エルレンシアは「ホントっ!? 適性全部って凄いねっ! 他は私は魔法あんまり使わないからわかんないけどー」と言い、たぶん驚き、マリアは「カズオくんならあり得ます~でも、さずがです~」とか言ってこれまた驚いていた。


以前、闘技場での暴漢達による襲撃事件の事を、マリアはこの就寝前の集いの場で話していた。カズオが光属性中級魔法『ホーリー』を敵の足に命中させた事。それと、マリアが援護射撃として放とうとした風属性中級魔法『ストーム』が通常考えられない“アンピュテーション”という魔力による魔法陣との繋がり遮断するという現象により止められたということである。


とはいっても、マリアは決して口が軽いということではない。カズオに口止めされている加護やステータスの内容などは決して言ってはいないし、集いの場では基本、隠し事は無しという決まりがあることから、彼女はカズオのステータス以外の話題について触れたというだけである。


ともかく、これらのことからこの3人の中ではもう既にカズオの事は、“魔法学校の恥”ではなく“黒髪黒目の謎の魔道士”というようなところに位置付けられていた。


「何者なんだろうねー! カズっちってー」


エルレンシアはさっきまでモフモフ動いていたウサミミの動きを止め、目をまるで興味があるかのように光らせ、そう言った。彼女にとってカズオは、別に敵という認識である訳ではない、というよりむしろ味方に近い認識であった。しかし、ここまでカズオに謎が多いと、彼女は気になってしまうのだ。


「今度、あたしも会いに行こうかな!」


そう言うと、ウサミミをピクピクうれしそうに動かし、獣人特有の感情表現と期待に満ち溢れた表情が現れた。それを見ていたルナは不安そうな表情であったが、「エルレンシアなら……たぶん大丈夫っ」と言って、自身の胸とエルレンシアの胸を交互に見ていた。

 

その様子をマリアは「ウフフフフ」と優しく微笑みながらで眺めていたのであった。

次回は土曜日22:00の更新です。

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