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第5話:ステータスボード

「マリア、うまく先生達に説明してほしいのだけど ?」


そんなことを唐突に言うカズオを、マリアはとても戸惑い、どうしたものかと困惑した顔で見つめた。


マリアは、先生を闘技場に呼ぶ前「生徒が襲われました!詳しいことは着いてから話しますから、とりあえず闘技場に来てください!」と言って先生を呼んでしまっていたのである。


それを聞いた3人の先生達は、前々から天才的に成績の良いマリアの事をよく知っていたということもあり、そんな普段から穏やかな彼女のただならぬ雰囲気を感じ取ると、大急ぎで闘技場へとやってきたのだった。故に現状を詳しく知らないのである。


そんな事は関係なくとも、この今の光景は先生達にとって驚愕なものであった。9人の屈強な男達は、どういうわけか意識を失って倒れており、その体からは煙りを上げていた。さらに光の残像の具合から、光属性の付加効果“痛覚覚醒”を受けたことが魔法のエキスパートであるが故に、先生達にはわかったのである。それを見た先生達は、誰かがこの屈強な冒険者達に拷問でもしたのだろうかと推測したのは必然である。よって彼等冒険者が話の出来る状態でないことは、先生達にとって明確であった。


そして、他には2人しか意識のある者はおらず、制服を着ている生徒はどうやら精神に異常をきたしているようであり、もう1人の運動着を着ている黒髪黒目の男は、苦笑いをしながら「やってしまった」というような顔をしていたのである。この様子をなにも事情を知らない人間が見れば、カズオがこの惨状の発端であると思うに違いないだろう。


「こ、これはどういうことだ!!」


マリアがカズオの言葉に答える間もなく、3人の先生のうちの1人である体格の良い若い男の先生は、カズオに怒鳴り声をあげた。


「落ち着きなされジェイド。お前はすぐに頭に血が登る、状況を冷静に判断するのじゃよ」


そう言うと、もう1人の年老いた先生は、自前の白い顎髭を摘むようにして撫でながら、カズオの方をじっと見つめる。


その間にも茶髪ボブヘア若い女の先生は「あわわわわっ」とおどおどしており、カズオは、彼女がこの前の“間接戦闘”の授業の担当の先生だと気が付く。


だが、そんな彼の気づきなど、関係ないかのように若いジェイドという先生は声をあげる。


「だがしかし、マクスウェルさん! この状況ではこの少年に聞くしかないじゃないですか! アリスさんもいい加減落ち着いてください!」


どうやら体格の良い若い男の先生がジェイド、年老いた白い髭の先生がマクスウェル、若い茶髪ボブヘアのおしゃれな女の先生がアリスと言うようだ。


「ジェイド、アリスよ。よく見るがいい、この倒れておる男達はちまたで悪い意味でよう知られとる冒険者じゃ。ということは、その少年は暴漢を退治したか自身の身を守っただけに過ぎんということじゃよ」


「た、確かに、そう見るべきですね」


ジェイドの言葉にマスクウェルが返し、それをようやく落ち着いたアリスという女教師が相槌を打った。だが、ジェイドは納得いかないといった表情である。


「いや、そんなのただの憶測でしょう! そこに倒れている者が巷で噂の冒険者のことなんて、私は聞いたことありません。マスクウェルさんの事を信用しないわけじゃありませんが、私は一教師としてあらゆる可能性を考えているだけです!」


そんなジェイドの言葉にマスクウェルは溜め息をつくと、困った表情でまた自前の髭を撫でていた。


「あの~先生、手っ取り早いのですこし手を出してもらえませんか~?」


マリアはおもむろに自身の手を先生達に向けてのばすと、次の瞬間マリアの手から微かな魔力の光が現れた。


「ん? どうしたのじゃ? マリア殿……まさか『リンク』が使えるのというのかの?」


「はい~、そういうことですよ~」


リンクが使えるという言葉を聞いた残り2人の先生達は、驚いた様子ではあったが、みなマリアの出していた手の平に重ねるようにして、手を乗せていく。すると、マリアは近くにいたカズオの手も握った。


「では、いきますよ~ーーー『リンク』」


端から見れば、何も変化が無いように思われるだろう。しかし、リンクの発動直後、3人の教師は何かに気が付いたかのように動きがとまった。


「……なるほど、よくわかった」


「フォッフォッフォ、やはりのぉ~そんなことであったか」


「え? 本当にこんなことが……」


上からジェイド、マスクウェル、アリスのそれぞれ先生達は、驚きと同時に納得といった表情をうかべた。


マリアの無属性魔法『リンク』によってカズオと先生達の記憶を繋げて、先生に現状を理解させたようだ。

  

無属性魔法の一つであるリンクとは、術者と接触している者同士で思考や記憶を共有する事が出来る魔法である。


ちなみに知られたくない情報は、術者の意志やその人本人の意志によって共有しないことも可能である。そして、共有したくないという意志の方が尊重される。つまり、今の状況ならカズオが隠したいと思えば、リンクを拒否することが可能であるということだ。つまり、今回の場合、彼は暴漢を尋問したシーンや、その他悪目立ちしそうなものは、記憶を共有せずに隠ておいたのである。


「先生方、どうやら状況を理解したようですね~。となれば話は早いです。この人達とその首謀者には然るべき処置を!」


マリアがキリッとした表情で先生達に言い寄るが、ジェイドは呆れたというような表情でマリアを見たまま溜め息をする。


「はぁ…マリア殿、とりあえずこの暴漢達は憲兵に突き出そう。だが、今回の首謀者は、捕らえることは疎か、何らお咎めを受ける事もないでしょうな」


ジェイドはそう言うと、カズオを苦虫をかみ殺したような目で睨み、すぐに闘技場にあった縄で暴漢達を嫌そうな顔をしながら縛り上げた。


「ど、どういうことですか!? 現に私達は襲われたんですよ? しかもさっきリンクでカズオくんの記憶を見せたはずじゃないですか!」


マリアは納得できない様子でジェイドを睨みつけた。他の先生もジェイドの態度の悪さをすこし憤りを感じている様子であったが、そんなことどこ吹く風で、続けてジェイドは答える


「マリア殿、リンクは100%信用出来る魔法ではない、ということは知っているな? 記憶を共有する場合は、その人の勘違いなどで異なった真実を見せてしまうことも珍しく無い。つまり、今回の首謀者がザイン・ヴォルザーク殿とは言い切れない」


「存じてます…でも、記憶の勘違いなんて、とても稀な現象だと聞いたことがあります」


マリアは弱々しくもジェイドの屁理屈に反論した。とはいえ、ジェイドもそのようなことを言ってはいるが、記憶の勘違いなど、可能性として殆ど無いと思っていた。他の先生達も同様である。リンクは100%でなくとも、かなり信憑性はあると考えていた。しかし、先生達はあえてそう考えざるを得ない理由があったのだ。


「マリアさん、少し良いですか?」


若い女教師アリスは、マリアに言いにくいような顔をしながら続ける。


「ここだけの話、私達はザイン・ヴォルザークという少年が今回の首謀者であったとしても、それが100%そうであると証明できなければ、彼を罰することは出来ないのです」


「どういうことですか?」


「そうですね……簡単にいったら、彼がヴォルザーク家、つまり公爵家の人間であるからです」


「まぁ、つまりあれだ。権力の力で不都合な事は何とかしてしまうってことだ。まぁ、さすがに現行犯とかなら捕まるがな、罪がが軽かったり罰金だけで釈放なんてよくあることだ」


アリスの言葉をジェイドがつけ加えた。


「今回の事は、我々が全力尽くすつもりじゃ。だが君たちはすぐにいつも通りの生活に戻ってくれないかの。今回の事件について下手に深い関わりを見せれば、不都合な事が起こらんとも限らないからの~」


その後、闘技場の冒険者達と精神不安定な少年を先生達に任せて、カズオとマリアは、やり切れない思いであったが、おとなしくこの場を後にすることにした。


そして、少し遅れ気味だがカズオとマリアは食堂へと向かった。


■□■□■□


「カズオくん、あそこに行きましょう」


マリアはそう言うと、わざわざ部屋の隅のテーブルへとカズオを誘導する。


着席するとすぐに使用人のような服装をした女性が料理を運んできた。


「さぁ、カズオくん、私の質問に答えてくださいね~。約束でしたからね~」


そう言うと金髪薄緑瞳おっとり系女子マリアはカズオをガン見した。人に見られる事に慣れていない彼は、少し動揺するが、その様子が面白いのであろうか、彼女は見つめ続けた。


「いっぱい聞きたいことあるんですけど~とりあえず、私も無属性魔法の適性ありますし、サーチが使えるので使いますよ? カズオくんのステータスがまず知りたいことの1つですから~」


そう言うとマリアは『サーチ』とカズオに向けて唱えた。だが、次の瞬間、彼女のその可愛らしい表情が驚きの表情へと変わる。


「サーチが……効かない……? そんな、有り得ないです!」


マリアは考えを巡らせていたのだろうか。しばらく悩ましい表情を浮かべていた。だが数秒後急に、マリアの目がきらきらと輝きだす。


「まさか……カズオくん加護持ちなんですか~!?」


マリアはサーチが効かない様な有り得ない現象にそう結論づけた。


これまで無属性魔法に適性がある者がほとんどおらず、もしサーチを使える者がいたとしても、普通なら詠唱が必要なので、使用したことがバレてしまうということから、こっそりとサーチを使うなんてことは出来ない。もし普段の生活の中で使用したことがバレたらその人間は、とんだマナー違反者だという噂が学校中に流れることになるだろう。

 

そういった理由で、今までカズオの加護の事を気づいたものはいない。この学校の入学試験の時も、サーチの使用できる試験官不足から、試験で好成績をおさめた人のみがサーチにより詳しくステータスを調べられていたため、カズオはバレることはなかった。とは言っても、別にステータスや加護の一つがバレるくらいなら、まだ何とかなると彼は考えていた。


「あ、あぁそうだよ……だけど他の人には内緒な?」


カズオがそういうと、マリアは嬉しそうにカズオの手を取り、精いっぱいの嬉しさの感情表現をする。


「カズオくんが、私と同じ加護持ちだなんて! 嬉しいです~!」


(え?私とおなじ?)


「もしかして、マリアもなのか?」


カズオは、マリアが加護持ちということが単純に驚きであった。

それとは関係なくカズオは、もうバレてしまったのだから、加護を保有していることを隠さずいくことにした。隠す方が逆に怪しいという理由からである。


すると、マリアはカズオの質問に「はい~」と機嫌良く答えると、おもむろに一枚の板を見せてきた。


「マリア、これって?」


「はい~、私のステータスボードです~」


ステータスボードとは、文字通りステータスを表示する板である。入学時、皆に配られたものであり、カズオも一応もっている。


ちなみに、ステータスボードとはアーティファクト(古代人工物)のたぐいでカズオの“竜王の加護”の《プライド》のサーチ無効効果でもステータスの表示を止めさせることはできない。つまりステータスボードには、綺麗に全部ステータスが映ってしまうのだ。無属性魔法『サーチ』とはまったく別の原理でステータスを調べるのであるから、そうなるのは当たり前であるが。


とはいえ、そこにはマリアのステータスが映し出されていた。


ーーーーーーーーーーー

[ステータス]


name:マリア・バレンティーナ ♀〈17〉

種族:ヒト

level:52


HP:8500

MP:650

攻撃E:46

守備A:235

魔力A+:287

魔防A:235

速さE:43

運 B+:160


魔力操作Lv4

魅了Lv4

魔力感知Lv2

料理Lv2


“聖王の加護”:《ラファエル》


ーーーーーーーーーーー


まず、17歳でレベル52というのは相当な努力家である。しかもその52というレベルでは考えられないような能力値の高さ。まさしく天賦の才のある者というのに相応しいであろう。それに魔力値の高さから、かなりの魔法戦闘向きである。加護持ちということも忘れてはいけない。とはいえ、カズオは魅了Lv4があるのも妥当な事だと思っていた。


「すごいなー…マリア、本当に加護持ちだったんだな」


カズオがそう言うと、えっへんという言葉が似合うようなポーズをとり、誇らしげに自身の胸を更に強調させる。


「では、私のステータスボードを見せたので、カズオくんのも見せてくださいね~?」


「えっまじ? ……そ、それは、ちょっとな」


すると、マリアはルナ請け売りなのだろうか、ぷくっと頬を膨らませ、少しだけムッとした顔をした。


「私のも見せたじゃないですか~。そんなズルはだめですよ~」


そう言ってマリアはカズオにジト目を向ける。


そこでカズオは思い出した。一般のステータスボードは、リンクを応用したら魔力操作能力の高い者であれば、ある程度ステータスに細工が出来るということを。また、ステータスの細工は加護と能力値しか変えることが出来ないということや、年齢とレベルとスキルはそのまま表示されてしまうということを。


だが、怪しまれずにするには、今はそれしか方法がなかった。


「絶対に他の人にステータスのことを言ったらダメだからな?」

 

カズオはそう釘を刺すと「見せてくれたら秘密にします~」とか言ってるマリアに、そっとステータスボードを差し出した。


ーーーー表示される能力値や加護の細工が怪しまれないかドキドキしながら。


ーーーーーーーーーーーー

[ステータス]


name:カズオ ♂〈17〉

種族:ヒト

level:86


HP8000

MP250

攻撃C:82

守備F:25

魔力C:89

魔防F:25

速さE:32

運 D:63



魔力操作Lv5

気配感知Lv5

魔力感知Lv5

体術Lv4

武器使用Lv4

状態異常耐性Lv4

属性耐性Lv3

生存術Lv3

食事Lv2


“竜王の加護”《エグゼドライブ》

      《プライド》


ーーーーーーーーーーーー


「えっ!! なんですか!? これ?」


マリアの叫びのような声は、食堂に響き、あまり人気ひとけの無い食事中の生徒達の視線が一斉にこちらを向いた。マリア見開いた目がステータスボードに向いているなか、カズオは他の視線を向けてくる生徒達に、なんでもないと手を細かく振ってアピールした。


 「レベル86!? 同い年なのにこんなことって…しかもスキルがなんて凄いの! こんなの勇者パーティー並みじゃないですかぁ! いや、それ以上ですよぉ…………でもこのレベルなのに……能力値が…………うぅ……」


なんと、カズオの悲惨なまでの能力値上昇の少なさに、同乗したマリアは泣きそうにしているのである。

その後数秒間の間が空きマリアが口をあける。


「カズオくん、あなたって一体何者なんですか……?」


冷静になったマリアは、カズオにそう問いかけた。同時に、なにか可哀想な人を見る目で見つめた。「つらかったでしょう」と聞こえてきそうな表情である。


それもそのはずである。スキルとは、それ相応の訓練を積まなければ得られないものであるのだ。つまり、こんなスキルの持ち主であれば、これまでどんな人生を歩んできたのかは、想像することすら出来ないほど過酷なものであったのだと思うのであろう。マリア自身、血のにじむような努力があってここまでスキルアップ出来たのだから。とはいえ彼女の魅了Lv4はもともとあったらしいが。


カズオは、マリアが自分のことを、人間を捨てるような努力をしたのに成就しない成長率(レベルアップ毎の能力値の上昇幅)のとてつもなく低い可哀想な人だと思っているのだと思った。ステータスボードに細工をした故の誤解であるが、どうしようもない。


カズオは、どうにかこの勘違いを正したいと思ったが、このまま勘違いしてくれた方がうまく事が進むかもしれないとも、同時に思うのであった。

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