表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

第3話:精霊王の加護

カズオの王立魔法学校での朝は早い。


皆が寝静まっているだろうというほど早くに目覚めると、すぐに制服とは別の運動服に着替えて闘技場へ向かう。勿論、魔法の練習(試し打ち)のためである。ザイン・ヴォルザークとかいう嫌な奴に会いに行く為ではない。


そして、音をたてないように、なお且つ迅速に寮を出る。まだ入学してから数日しかたっていないが、毎日続けていることなのでもう慣れたものである。


そして、授業で使っていない時には誰もいない闘技場で魔法の練習をする。これが彼の1日の最初の流れである。


今はその流れの途中である。

カズオが闘技場に着くと、そこはこのただでさえ広い学校の敷地の3分の1は占めている巨大なもので、大まかに言えば円柱の型をしている。入り口から入るとすぐに広い校庭の様なスペースに出ることができ、そのスペースの端にはそこそこの高さの壁がある。その上には観客席がたくさんついており、よくあるスタジアムの様なつくりである。


カズオは闘技場の近くにある倉庫から、魔法学校の所有物である魔法威力測定人形を取り出す。


彼はこれを見たとき、入学試験にやった魔法威力測定試験を思い出していた。目立たないようにわざわざ初級魔法を使ったことや、結果として最下位になってしまったことなど。そしてあの時、カズオに試験について誤った情報をよこした奴は今でも許すことが出来ないということ。まぁ彼にとって、今はそんなことはどうでもいいのだろう。これからの魔法の練習(試し打ち)に励もうというのだから。


するとカズオは、この人形をスタジアムの真ん中に設置した。


この人形には特殊な魔法で自己修復効果が付与してあり、立てるだけで倒れることは無く、そしてどんな衝撃にも耐えることが出来る。耐えるというより、壊れても不思議とすぐに元の位置に修復されるといった方が正しいだろうが。


(じゃ、手始めにーー)


カズオが魔力を手に集中させると、彼の手が赤く光りはじめた。この光は火属性の魔法を発動する証のようなものである。


「『ブレイズ』」


ブレイズという火属性中級魔法の詠唱と同時に手を前にかざすと、手の平から直径50センチくらいの魔法陣が現れ、その中心から火炎放射の様に炎が勢い良く放たれた。魔法威力測定人形とは距離にして約10メートルであるが、その放射状に広がる巨大な炎により人形の姿は隠れて見えなくなった。そして、数秒間の炎による蹂躙は終わり、炎はその姿を消した。


カズオから人形までの放射状に広がる炎により、人形の周囲4~5メートルの土は黒く焦げていたが、その人形は無傷であった。


そして、カズオはすぐに無属性魔法サーチを唱えた。


(やっぱ2000ってとこかな…)


彼のサーチにより人形のHPを見てみると18,000という数字が見えた。つまりこの人形のHPは20,000(2万)であるということから、2000程のダメージを与えたということがわかる。そして、そのままサーチを永続的にかけて待っていると、すぐに人形のHPがもとの2万に戻るのを確認できた。これが魔法威力測定人形の自己修復効果である。


ちなみに、地面も特殊な効果により、数時間すると元に修復される。まぁ、そうでなければ闘技場でこんな事をしていたことがバレたら、結構大きな問題となるだろう。修復に少し時間がかかり何度か不自然に思われたことはあるのだが、その経験から使用後は地面を掘り返して、元々こうであったかの様にカモフラージュするすべを覚え、そこからは注意を受けることは無くなった。


 閑話休題


「次は気合いを入れてっと……ーーー『エクスプロージョン』」


詠唱前に先ほどより強い光を手から放っていたことから、この魔法が火属性上級魔法「エクスプロージョン」であるとわかるだろう。かざした手には先ほどの倍の1メートルの魔法陣が現れており、その中から大きな炎の竜が現れ、人形に向かって飛んでいった。そのまま炎の竜は口を開けた状態で人形に衝突し、その瞬間に辺り10メートルを吹き飛ばす爆発と、まるで竜巻の様な高い火柱が上がった。


「いてて……」


近くにいたカズオは、盛大に吹っ飛んでしまった。そして、人形のHPを見ると5,000と表示されていた。どうやら15,000のダメージを与えたようだ。


「ーーーー《アルカディア》」


そうつぶやくと、彼の体の周りをうっすらとオーラのようなものが現れるが、数秒後にはそれらは透明になり見えなくなった。見えなくなったとはいえそこには確かに彼を覆うオーラは存在するのであるが。


《アルカディア》とは、カズオの加護の1つ“精霊王の加護”の能力の1つである。その能力は1人では不可能とされる合成魔法を可能にするというものだ。ちなみに熟練のパーティーでも合成魔法は殆ど出来ない。伝説と呼ばれるような者達でなければ合成魔法の発動は難しいのである。とはいえ、発動後の魔法をぶつけての合成は、誰でも行うことがでも可能であるが。


そして、カズオは距離を十分にとり、集中し、両方の手に魔力を集中させた。右手には赤い鮮やかな光が、対象的に左手からは暗いオーラが溢れてきている。


次の瞬間右手の赤い光が消えたかと思うと、今度は左手の暗いオーラが赤黒い光に変わる。魔力を混ぜ合わせたのである。


そして、彼はその左手を前にかざし、火と闇の合成魔法を唱える。


「ーーー『インフェルノ』」


詠唱する前から人形の真下に直径10メートルの巨大な魔法陣が出現しており、詠唱直後、魔法陣が赤黒い光放ちながら魔法陣の端からいくつものこれまた高さ10メートルもあろうかという高い赤黒い火柱が上がる。


すると、それらの火柱は魔法陣の中心にいる人形へと渦を巻くように回転しながら近づいていき、重なり合った。


ドゴォー!という音を立てて巨大な炎柱が吹き上がる。太さは魔法陣とぴったりの約10メートルくらいで、その太い炎の中心にある人形はひとたまりもないことを確信できる威力である。そこから伝わる熱は距離をとっていても十分感じることができた。


数秒後、炎が収まると変質した地面が露わになった。黒いものの中に赤い光がいくつもある光景は、炎は出ていなくともさっきまでそこが燃えていた事がわかるだろう。


(ブレイズが2000、エクスプロージョンが15,000、インフェルノは測定不能って所か )


サーチという魔法でHPを計算することで大体のダメージがわかると、カズオはそれらを頭に入れるように何度か頭の中で呟いた。


本来サーチという無属性魔法は人やモンスターのステータスを把握するときなどに使う。戦闘においてはかなり便利なものである。熟練の冒険者はサーチの使える者とわざわざ組んでクエストに行ったりすることもあるのだ。


そんな便利なサーチだが、無属性魔法の適性のある人が意外に少ないということから、あまり使っている人を見ることはないらしい。ちなみに条件さえ揃えば、サーチで加護の有無も知ることができるらしい。

 

(じゃあどんどん行こうか……ん?)


カズオは試し打ちを続けようとして、さっきと同様に魔法の発動を試みたところで異変を感じ取り、発動を途中で止めた。異変とは正確には遠くから誰か近づいてくる気配を察知したのであるが。


「闘技場の外……1人か……。まぁ、用心に越したことはないからな」


カズオは急いで水の初級魔法の『アクア』を唱え、水の弾を人形付近に満遍なく発射した。すると、赤く燃える地面から水の蒸発する音が聞こえ、辺りが湯気で曇り、濃い霧がたちこめたようになった。


そして、彼は続けて風の初級魔法『ウィンド』と土の初級魔法『ロック』を唱えた。『ウィンド』の風で湯気をとばし、『ロック』で変質した地面に周りの土をうまく覆ってゆき、地面を自然な形にした。


これで証拠隠滅完了である。


「おーい、そこにいる人~、何で隠れてるの?」


カズオは、外にいた人が入り口付近で止まってなにもしてこなかった事に気が付き、声を掛けた。


「ふぇっ!? な、なんで気づいたんですか~!?」


入り口からなんだか間抜けな声が聞こえてきた。どうやら女の子であるようだ。そして、その女の子がカズオの方に歩いてきている。すると距離が縮まるにつれて姿が鮮明に見えてきた。


長い金髪が風に揺れ、薄い緑の瞳は少し垂れ目といった感じで、優しそうなおっとりとした表情をかもしだしていた。どこかのお嬢様のような雰囲気の女の子といった感じだ。勿論、服装はこの学校の制服であった。


「本当に目とか髪とか黒いんですね~。………あっ失礼しました! そんなことより、あの距離からわかるなんて凄いですっ! やっぱルナちゃんが気にかけるだけの事はあります~。あっ、私、マリアと申します。カズオくんの事はルナちゃんから良く聞いてますよ~?」


ゆっくりと穏やかにそう言うと、金髪で穏やかな表情の可愛らしい少女はカズオにニコッと笑みを浮かべ、彼のすぐ側にまで歩いた。


「あっ、マリア、さんというんですね。カズオです。初めまして……っていうか、何でルナ?」


カズオのその発言に対して、金髪薄緑目の美少女は穏やかな表情のまま、興味津々と言わんばかりに彼を見つめ続けていた。


「マリアでいいですよ~、同い年ですからね。あと敬語にしないくていいですよ~。話しずらそうですからね~ウフフフ。それに、そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですよ。私はただ、ルナちゃんが毎晩話すカズオくんと言う人物に、興味を持って来ただけなんですから~」


(え?そうなの?、ルナって俺の事を毎晩他の人に愚痴を言ってるのか……。確かに俺はトラブルメーカーだしな、苦労しているんだろうな)


カズオがそんな事を頭の中で考えていると、変な顔になってしまっていたのだろうか、マリアにジッと見られていた。


「そ、そうか……。っていうか何で俺がこんな朝早くにここにいるってわかったんだ? というかどういう流れでここに? 」


「ルナちゃんが毎日朝と夕方は闘技場に来ていると言っていたので、私は朝に待ち伏せていようかな~って思ってたんですよね。そしたら私が来る前にもう既に練習なされてて~そして近づこうとしたら気づかれちゃったっていう流れになります~」


「はぁ、なるほどよくわかったよ」


「はい~ウフフ」


マリアはクスクス笑いながら楽しそうに返答した。それを見ると、カズオはなにかおかしなことでも言ったのだろうかと首を傾げる。


「それじゃあ、ルナとはお友達ってことだな?」


「はい、ルールメイトであり親友ですぅ、あとカズオくんも、これからは私のお友達になってくださいね~」


彼は何だそりゃとツッコミたくなったが我慢した。結構話し方と違い強引な人なんだなと思ったのである。彼は別にそういったことが嫌ってわけじゃないが、少し驚いたのである。


「え!? う、うんいいけど…。えっと、こちらこそよろしく。マリア」


それからクラスの話やルナの話や魔法の話をしていた。カズオは久々に人と話したので、彼にとっては新鮮な感じがして結構楽しいものであった。


そうこうしていると闘技場の外から数人の歩いている気配がした。カズオは、そろそろ朝食の時間であるから生徒達が移動しているのだろうと思い、同時にマリアがいることに焦りを感じた。


「あ、そういえばマリアそろそろ朝食だよな? そろそろ帰った方がいいんじゃないか? 俺はここを片付けてから行くけど……遅れたらまずいだろ?」


まだ時間はある、だがザイン・ヴォルザークというマリアと相性の悪そうな奴らがやってくるのにマリアをここに居させる訳にはいかなかった。


「むむ? カズオくん、何か隠してますね~? そんな感じがしますよぉ~。たしかにそろそろ朝食ですが、そこまで急ぐ程でもありません。私も片づけ手伝いますよ~」


カズオの心でも読んでいるのだろうかと思うほど的確な答えであった。どうにかしてここから逃がしてあげたいが、何とも危ない流れになってしまった。


「いや、確かに時間はあるけどさ、隠してるっていうか……。そうっ! この後人と会う約束してるんだ、だからその時マリアがいたら都合悪いって言うか……」


ここは、正直に言ってとりあえずマリアには帰って貰うことにした。


「そうですかぁー……。それは残念です。あっ、でもまた会ったときは声掛けてくださいね、カズオくんとはもうお友達ですからね~」


そう言うとマリアは優しそうな薄緑な垂れ目をカズオに向けた。


「あぁ、そうするよ……というか急いだ方がいいかも」


頭に(?)を浮かべているマリア。とはいえ彼女は気にせず、そのまま入り口から戻ろうとして後ろを振り向いた。


だが、そんなマリア向かうの闘技場出口を塞ぐかのように10人の男達が立っていたのだった。


(あー、朝食まだなんだけどなぁ……)


カズオがそんなことを考えていると、1人の男は彼を苦虫を噛んだような表情で睨みつけ、のこりの9人はもうすでに殺気立った顔で睨んでいた。


その時、カズオはマリアの耳元で囁いた。


「なぁ……マリア、ちょっといいか?」


すると、マリアはカズオの頼みを承諾し、無言で小さくうなづくのであった。

いつも読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ