第2話:王立魔法学校
「魔法というものは火、水、雷、土、風、光、闇、の7種類あり、それぞれ初級、中級、上級の3つに分類されるということは、この前の授業で話しましたよね?」
教壇に立って、机に座っている生徒達に魔法学を教えている教師。そして、生徒達は皆一生懸命に授業を聞いていた。
そう、今は王立魔法学校の授業の真っ最中である。
「では、黒板を見てください」
教師がそういうと、突如、黒板に白い文字が浮かび上がった。
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初級 中級
火 フレイム → ブレイズ
水 アクア → スプラッシュ
雷 ボルト → ライトニング
土 ロック → ジアス
風 ウィンド → ストーム
光 → ホーリー
闇 → ダークネス
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「これらを見てわかるように、それぞれの属性には階級があります。ここには載せてませんが、上級魔法というのもありますよ。それと初級魔法が存在しない、特殊な属性である上位属性といわれる光と闇の2つの属性は、まだ発見されてませんが、最上級の魔法が存在するという説があります」
ゴーン、ゴーン、ゴーン………
突如として、先生の授業の終わりを告げる鐘が鳴ると、生徒達はおもむろにノートと筆記用具を片付け始めた。
「それでは、明日はこれらの魔法に適性があるか調べたいと思います。明日の授業は闘技場でやるので、各自装備とステータスボードを忘れないでくださいね。それでは終わります」
生徒達は席を立ち、先生に挨拶をしてから教室を出て行った。
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「……むにゃむにゃ、…あぁーやっと終わったか……」
黒い髪に黒い目の少年は、そう独り言を言うと、教室の最も後ろの席からうーんっと声を上げ伸びをするが、何故かまた睡魔に襲われて眠りについてしまった。
今日の授業はすべて終わり、いつもなら彼はこっそり闘技場に行ったりしているのだが、今回は眠いので行かない。どうやら2日徹夜でやった魔法の練習のつけが今やってきたようである。
よって後は寮の食堂で食事を済まして風呂に入り寝るだけである。ちなみに風呂は放課後ならいつでも大浴場が開いているので時間帯を気にする必要もない。
そんな王都セントラルの中心にある城の様な学校。実際、昔は城だっただなんて話もある学校の教室には白を基調とした内装に、窓がいくつかついており風通しもよく心地よい。廊下はとても長く立派な装飾をされており、赤い長い絨毯が敷かれ、等間隔につけられた窓から夕日がさしてこの廊下を照らしていた。この風景を見慣れぬ者は神秘的なものと感じるであろう。
それと同時に驚くべき事は、この学校の広さであろうか。敷地は正方形でその中に図書館、研究所、食堂、闘技場といった施設があり、広大な敷地は巨大な塀が囲っている。
ここ王立魔法学校は、貴族や権力のあるものや能力の極めて高いもの、そういった一部の優秀なものだけが入学を許されるのだ。とはいえ、コネを使って入る者も居るらしいが、今はそこまで関係のないことだ。
ともかく、今は授業が終わったところである。
「ちょっとー、カズオ! またずっと授業寝てたでしょ? そんなことしてるとまた他の奴に魔法学校の恥とか言われるよ?」
終わりのベルが鳴るとすぐにカズオの元にやってきたこの美少女は、同じクラスのルナ・シャンデリアである。桃髪桃瞳に白い肌が綺麗な絶世の美少女だ。成績優秀で容姿も文句の付け所がないルナは、このクラスのお世話係的な存在なのである。
「あー、ルナかー、そんなの言わせといていいから。んじゃ、もう一眠りする…わ……」
相手にされなかったこの桃髪少女はぷくーっと頬を膨らませて、お決まりのしかめっ面をする。
「もう、カズオ! ここで寝るなぁー!」
時既に遅し。カズオはそういう能力でもあるのかと言わんばかりに、もう既に深い眠りについていた。
「…………」
「もう、なんなのよ~……」
放課後の既に誰もいない教室に眠る黒髪の少年と立ちすくむ桃髪の少女、その静かな空間には、その少年の寝息が響くのであった。
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午後の授業が終わり夕方。この王立魔法学校の食堂には、黒髪に黒目の容姿からして目立ってしまっている少年がいた。
あの後、ルナはカズオをどうにか教室から運びだし、近くを通った男子生徒に見つかっていろいろ大変な思いをしたらしいが、カズオを食堂まで届けたのである。
カズオは気が付けばこんな所にいたことを不思議に思い、そのことを親切な食堂のお姉さんに訊くと、お姉さんはルナがカズオを運んだ事を本人に教えた。
すると、カズオは何だか申し訳ない気持ちになるのであった。
カズオが今の状況を理解したその時、彼は入り口から数人の男子生徒グループが入っくる気配を感じた。たぶん同じクラスの生徒も居るのだろう。
「お前がカズオだな?」
灰色の髪のグループのリーダーらしき人物がカズオに声を掛けた。イライラしているような声であるが、彼は声を掛けられたものを無視するのも後々面倒なことになりそうなので、答えることにした。
「そうだけど、何か用か?」
その灰色の髪男は、それを聞くと更に強くカズオを睨みつける。
「やはり、噂通りだな。入学してそこまで経ってないにもかかわらず授業は寝るわ、魔法学校もギリギリの合格、挙げ句の果てにはヴォルザーク家の者に対してその口の聞き方。まぁ、こんな能無しであれば、数日後から始まる実技の授業について行けまい」
その言葉を聞くとカズオは思った。どうやらこの男は、ヴォルザーク家というどこかのお偉い貴族の子息であるのだと。彼の態度から察するに、自身のなにかが気に入らないのだろうとも思った。
「あんた、そんなことを言いにわざわざ俺に会いに来たのか?」
そんなカズオの言葉にヴォルザーク家御子息は顔に青筋を立てながら反論する。
「フッ、ヴォルザーク家の長男であるこの俺がこんな平民の子にわざわざ会う為に来るわけないだろ」
カズオの言葉を鼻で笑い、そのような言葉を返すと、男は言葉を続ける。
「貴様がこの学校に入学したことはあってはならないことだ。賄賂やコネを使ったといったところか。ついにこの学校も堕ちたものだな。俺がわざわざ貴様に会いに来たのは理由があるわけではない。最後に姿を見ておこうかと思っただけだ」
そのままフハハハハと高笑いをする灰色の髪の男。すると後ろの子分らしき別の男がカズオに手紙を渡した。
「明日の朝その場所に来い。この学校に相応しい力があるのか試させてもらおうか。力無き者がヴォルザーク家と深い関わりをもつこの学校にいるのが耐えられないんだよ。それでは最後に名乗っておこうか、俺の名はザイン・ヴォルザーク、それではお別れだな」
そのまま、ヴォルザーク軍団は後ろを向き満足げな表情を浮かべ食堂を後にした。受け取った紙を見てみると「明日、朝食後闘技場へ」とそれだけ書いてあった。カズオはどうせ朝食前にも闘技場へ行くつもりだったから別にいいかと思い、その後、何も気にすることなく出てきた食事にありついた。
そしてその後は、街に出て装備を適当に買い集め、カズオが気が付いた頃には夜になっていたので、寮に戻るとすぐに風呂に入った。ちなみに大浴場とは別の寮の部屋に個別にある浴室である。
寮の部屋は寂しいのか面倒でなくて良いのかわからないが、カズオの場合1人部屋である。別に空き部屋が多いということから希望すれば1人部屋にだってなれるので、カズオは面倒だったのでそうしただけのことである。
(まぁ、今日は疲れたな)
そう頭の中で言葉を発すると、カズオはすぐに眠りにつくのだった。
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ー女子寮ー
「ーーでね、カズオがね、ずっと寝ててほんっとに大変だったんだよ?」
女子寮のふかふかベットの上に桃髪桃瞳の少女と、その友達の金髪に薄い緑色の目のおっとり系少女と、白い髪にウサミミに水色の目をした獣人系少女の3人の仲良しグループは、いつものように普段の事について話をしていた。
「ルナちゃんって~いつもカズオくんって人の話ばっかりですね~」
「そうだよねー、あたしはそのカズオっていう人見たこと無いけど、ルナっちはそんなに気になるの?」
「ちょっとっ、そんなことないわよっ。別にカズオなんかただの……ただの…………」
金髪おっとり系美少女と白い髪のウサミミ系美少女の思いがけない返しにすこし赤面しもじもじしつつ反論するルナ。ちなみに、金髪おっとりがマリア。白い髪のウサミミの明るい少女はエルレンシアという。
「ただのーなに?」
「………も…ち」
「なんですかぁ? ルナちゃん聞こえませんよ~」
「と、も、だ、ち! ただのともだちよ!」
そう赤面しながら、ルナは一生懸命に反論した。
「てっきりいつものルナっちなら、何でもない赤の他人とか言うと思ったんだけど……そうでないとなると、やっぱ何かあるのかな~?!」
これは何かあるな、と不適な笑みを浮かべながら確信するウサミミ少女エルレンシア。マリアもそれを聞き、少し垂れ目で優しげな目を少し見開き、ルナの方を見つめ親指を立てながら大きく頷いた。
「そんなんじゃないよ~~……」
直後、ルナは赤面しベットの中にうずくまって毛布をかぶった。この状態になると、なかなか外には出てこないという事は彼女たちの中では読く知られていることである。
「ごめんなさいね~、すこしからかいすぎました。もう就寝時間も近いですし、寝ましょうか。おやすみなさ~いルナちゃん、エルちゃん」
「あたしも少しふざけすぎたみたいだねー、ごめんね、ルナちん。じゃあ、おやすみ、おふたりさん」
2人のおやすみという言葉を布団をかぶったまま、おやすみ~と返すルナ、同室の2人も左右に並べてあるベットにそれぞれ入り灯りを消し眠りについた。
その後、ルナは「ほんとうにカズオはただ面倒を起こすからほっとけないだけだよ! 何でもないよ!」と2人に念を押し眠りにつくのであった。