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第19話:勇者パーティー

見渡す限りの白銀の世界。絶え間なく大粒の雪が降っており、背景にはうっすらと巨大な山々が映っていた。そして、その付近にある標高3000メートル程の山には、約一ヶ月前にモンスターに襲われ、壊滅状態となった集落があった。


その集落の門の前。重装備の身長2メートルはあろうかという大男。見た目は幼女の女。エルフの女。という不思議な3人のパーティーは目的地に到着したかのように歩みを止めた。


目の前の門の不自然に黒く焼けた部分が見えているが、東国から事前に状況の説明をすでに受けている彼らには、そんなことなど想定の範囲内のことであった。


「おー寒い……強いモンスターと戦えるというのはいいけど、こりゃ勘弁だ」


重装備の大男が愚痴のような言葉を前にいる2人に投げかけると、その言葉にあきれたような表情でエルフの女が返す。


「はいはい、もう着きましたから寒さは何とか大丈夫になりますよ。あと、ここに魔族がいるってことは、あくまで憶測に過ぎませんからね。戦えるかどうかはわからないんですからね?」


「なんだと…… つまり、戦えると決まった訳じゃないのか? ……ということは東国の王め、俺を騙したのか!」


「なんでそうなるんですか! ロイドさんはちゃんと東国の王様の話を聞いてましたか? 魔族がいるかモンスターがいるか、はたまたなにもいないのかわからないとおっしゃってましたよ? それを調査するのも兼ねての私たちですから」


そのエルフの女の言葉に、重装備の大男ロイドは悲しそうな表情を浮かべる。


「そ、そうなのか……悪かったな、エリス。……だがあいにく俺は戦うことにしか脳がないからな」


「…………2人とも……仕事」


重装備の男ロイドとエルフの女のエリスのやりとりを側で見ていた幼女がそう言うと、彼らをにらみつける。するとさっきまで話していた2人も幼女の方を見た。


「あっ、ごめんなさい、ヴィオラさん。すぐに取りかかりますから」


「いやいや、すまないな……あいにく俺は戦うことにしかーーーー」


「ーーー……うるさい」


「…………」


ヴィオラそう言うとロイドは静かになった。だが彼女は、そんなことなどどこ吹く風といった様子で目を瞑り、手を前にかざした。


「……すぐに終わらせて帰ろ」


そう言うとヴィオラは自身の魔力感知のスキルを使い、集中してこの集落内部の索敵を始めた。その様子をみていたエリスも彼女と同様に索敵し始める。


「どうだ? 敵の気配はあるか? 協力してやりたいのもやまやまだが、あいにく俺は戦うこーーーー」


「ーーー……見当たらない」


物理戦闘バカは黙っとけといわんばかりにヴィオラが言葉を遮った。


「私も反応はありません」


エリスの言葉を聞くとロイドは膝と両手を地面についてうなだれた。


「……中に何もいない? ……つまり戦いが出来ない? ……なら何の為に俺はここに? ……なら、帰っていいですか!?」


「またそれですか? 戦えないとわかったらすぐ帰ろうとしちゃだめですよ。そんなこと言ってると、あの“くそ勇者”に殺されますよ?」


「うぐ……」


一瞬口を紡いだロイドであったが、彼はそこで開き直ったかのようにしてまた口を開いた。


「ってか、なんであいつは来ないんだ? 王都に用事があるって言って勇者がサボって良いのか? ってかそもそも魔族がいないんなら勇者パーティーじゃなくても調査くらい出来るんじゃないのか? …………なら帰っていいですか?」


「はぁー……ロイドさん。もしものことを考えての私たちなんですから、文句言わずに頑張りましょうよ。モンスターもいないみたいですし、ヴィオラさんも一緒なんですから調査だけならすぐ終わりますよ」


溜息混じりにエリスがそう答えると、彼女は門をくぐろうとした。


「……まってエリス。……一応いつでも戦える格好でね」


「あっ、そうですね。油断は禁物ですからね」


彼らはそこで雪山用の暖かそうなコートを脱ぎ、中に着ていた自身の装備を露わにした。


大男のロイドの防具は、伝説といわれる鉱石やAランク以上のモンスターの素材を使った鎧。それと武器は常人であれば扱うことが不可能であると思われるほど巨大な両手持ちの槍であった。その凶悪なフォルムを目にすれば、屈強なAランクモンスターであれ真っ先に逃げ出してしまうであろう。


エルフのエリスと幼女のヴィオラの2人の防具は、ロイドのようなレアな鉱石を使った頑丈な鎧などではなく、布のようななめらかな素材で出来たきれいな服であった。彼女達の防具はそれぞれ色などの見た目は違っていても、どちらも魔法防御力の優れたものであった。武器はエリスが豪華な装飾が施された弓矢。ヴィオラは特にこれといった装備はしていなかったが、特殊な効果がある様なアクセサリーを装備していた。ちなみにこの3人のパーティの武器、防具、アクセサリーなどの装備は、全てAランク以上の装備である。


装備を戦闘用に変更した彼らは、脱いだ服をアイテムボックスに入れてこれからの任務を開始しする。


「じゃあロイドさん、先頭よろしくお願いしますね」


「おう!」


普段通りといわんばかりに、エリスとヴィオラは、ロイドを先頭にして門をくぐりぬけようとする。だがそんな彼らをヴィオラが止めた。


「……ちょっといい? エリス」


「はい、どうかしましたか?」


「気のせいかもしれないけど……ここらへん何か違和感を感じない?」


ヴィオラはそう言うと、門の焼けた跡を指さした。


「えっと、この門ですか? ……うーん、報告から時間が経っている割には、魔力の残留が異常に多いとは思いますけど」


「……いや、そうじゃない……魔力の濃くなってるところを意識して」


幼女の見た目のヴィオラにそう言われると、エリスは自身の魔力感知に集中する。


「…………あっ! これは燃焼部位じゃなく、地面に接しているところの魔力が濃くなっています!」


「……気づくの遅い」


そこで話についていけてないロイドは難しい顔をする。


「おいおい待て待て。さっきから何言ってるんだ? 俺にも分かるように説明してくれよ」


「はぁ……やっぱロイド」


「お、俺はお前らみたいに魔力を感知出来ないんだよ! 仕方ないだろ!?」


ロイドの言うとおり彼は魔力を感知することができない。それどころか魔法の適正すら一つもない。だが彼は異常に高い能力値と多彩で高レベルな戦闘スキルを持っており、人類最強の槍使いと言われている存在である。よって彼は、自身とは逆の立場である人類最強の魔法使い(年齢不詳)のヴィオラに対抗心を燃やしているのだ。ちなみに対抗心を燃やす理由は、他にもロイドとヴィオラの他のメンバーから受ける扱いの違いというものもあるが。


そんな彼の性格を知っているエリスは、最近はそんなロイドをなだめる係となりかけていた。


「はいはい、説明しますから。ロイドさん静かにしてくださいね」


「お、おう」


「まず、根本から話しますね。魔法をMPを消費して使う際、発動に必要な魔力より、無駄に多く作り出してしまった魔力を魔力の残留といいます。魔力の残留は魔法を使った後にその空間に漂い続けて、時間が経つにつれて薄くなってくんです。そして、その残留の量は、その魔法の威力や使い手の魔法の上手さで決まります」


「あぁ、そのくらいなら知ってるぞ。魔法の上手い人は、魔力を無駄にしないから魔力の残留が少ないんだろ?」


「まぁ、簡単に言ったらそうですね」


「……ロイドにしちゃ上出来」


「馬鹿にしてんだろ……」


そこでエリスはわざとらしく咳払いをした。


「話を戻しますよ? ……それで、私たちは魔力感知のスキルが高いので、魔力残留を普通の人よりかなり感じやすいんですよね」


「ほうほう、そこまではわかった。でもそれで、この門が違和感があるとか言ってたよな? それはどう説明つくんだ?」


「まぁ、順追って話しますから……それで、魔力の残留の話でしたよね?」


「……お、おう」


「それで魔力の残留は、魔方陣を精製した場所が一番多くて、次に魔法が当たった場所に多く存在するんです。そこで、今この門に残っている残留についてなんですが、この門に残っていた魔力の残留は、直撃を受けたはずの門そのものではなく、地面に一番多く残ってたんです!」


急に熱を帯びたエリスの話に、ロイドは若干引き気味ではあったが、彼は途中から話について行けていないことを悟られないように反応することにした。


「ほ、ほう。なるほど~……」


「はぁ……やっぱロイド」


「う、うるせぇ!」


理解出来ていないことを勘づかれたロイド。そんな若干顔の赤くなっているロイドはどこ吹く風といった様子で、ヴィオラがあきれた表情で説明を始めた。


「……さっきのエリスの話から術者が行った行動は2つ考えられる。……1つ、門ではなく、地面だけを的にして強力な魔法を当てた場合。……2つ、地面に魔力を集中させてわざわざ地面に魔方陣を展開して魔法を発動した場合。……どれも意味不明」


ひとり淡々と考察をしていくヴィオラを他の二人は、真剣な表情で彼女の発言を待つ。

そして、しばらく考えるとヴィオラはまた話を続ける。


「……だけど私の考察が正しければもう一つある……」


「もう一つってなんですか?」


「……それを話す前に、ロイドに頼みたいことがある。ーーー……門の下の雪をどけて」


「は? なんでそんなことをするんだよ」


「……ロイドが最適」


このとき、ヴィオラの本音は面倒だからという理由であったが、ロイドが自分から動いてくれるように彼女が仕向けたのである。


そんな彼女の狙い通りに彼は「じゃあ仕方ねーな」と言い、自身の巨大な槍を振りかざした。一振りすれば尋常ではない風圧が生じ、表面の雪は吹き飛び、凍った下の雪もロイドの槍先にきれいに削られた。そして、高速な槍裁きにより、数十秒後には門の周囲20メートル程の地面から雪が除かれ、その姿が露わとなる。


「ふぅ、ざっとこんなもんだろ」


ロイドが仕事を終えると、皆がその地面に目を移した。


ーーーー!!!!


「こ、これは……」


「ど、どうなってるんですか?」


「……エリス、気づいた?」


ーーーそこには熱によりマグマが固まった後のように変質した土が門の下を中心に円形に広がっていた。


通常ならありえない土を溶かすほどの高熱。きれいに円形に広がる魔法の着弾地点。これらを目にしたエリスは考えていた。これほどきれいな円形を土を溶かすほどの魔法で作り出すのは不可能なことだと。そして次の瞬間に、この光景を見ていた彼女は思い出した。これら全ての条件と一致する唯一の手段が身近に存在しているということを。


「ーーー……合成魔法」


エリスが小さな声でつぶやいた声にヴィオラが頷いた。


「……しかも最強の燃焼魔法“インフェルノ”……これが私が予想してたこと」


合成魔法とは、魔法を極めた者同士が数年の鍛錬の果てに身につけることのできる境地。他人の魔力と自身の魔力を一カ所に集めるという通常では魔法が発動しなくなる条件をあえて行うのである。寸分の狂いなく、魔力を合わせる魔力操作。幾度となく試行を重ねることで(つちか)われる経験が必須である。勇者パーティやちまたで良く名を知られているようなSランクパーティのごく一部の者同士。世界でも両手で数えるほど使える者はいないと言われている。


「……信じられませんね」


「……でもこれしか考えられない」


「そうですよね。となれば、やはり問題なのは誰によるものか、ですね」


この北の村の調査は、東国の王から直々に勇者パーティに依頼されたクエストである。東国の王は、緊急クエストの失敗と討伐隊の報告を受けて異常を察知し、そして、まだ魔族が攻めてくる可能性が完全に無くなったわけではないことから、今回は魔族による可能性もあると考え、勇者パーティに依頼したのである。最終的な達成条件はその時の状況により3つに場合に分けられており、1つ、強力なモンスターが集落に居座っていた場合は速やかな排除。2つ、魔族がいた場合は戦闘不能にしできれば生け捕り。3つ、何もいなかった場合は何者がいたか調査し、結果を報告することである。


よって今の状況から、今回は3つ目の調査することに重点をおくことになる。


通常の者なら気にもとめない程薄くなっている魔力の残留で、ここまで考察をたて、結論を導き出す彼らは、さすが世界最強のパーティといえるだろう。魔力で個人を特定することはかなり困難であっても、どういった魔法が使われたのか暴いたのである。とはいえまだ肝心な証拠となる物も何一つ手に入れていないので、やはり中に入り調査することとなるが。


「まだ門の中に入ってないのに帰りたくなってきましたよ……」


「じゃあ、帰るか」


「……だまれ」


エリスの弱音にロイドが同調し、ヴィオラが喝をいれた。


そこで改めてロイドを先頭にした隊形をとる。


「この隊形じゃないとだめなのか?」


「油断は禁物ですよ? もしかしたらあのくそ勇者みたいなのがいるかもしれませんよ」


「……名前で呼んでやれよ」


「……エリスとは喧嘩中」


「そ、そっか……」


そして、彼らはそのまま門をくぐる。

だがその時、彼らは予測していなかった光景を目の当たりにした。


「うぉっ! ……なんじゃこりゃ」


「でかい………こんなこと報告書にありましたっけ?」


「……なかった」


彼らの目の前に映ったのは高さ20メートル以上はある巨大な土の塊。かつてカズオがスノーウルフを殲滅する際、中級魔法ジアスで造り出した土の牢獄が堂々とそびえ立っていたのである。幸い中にいたスノーウルフの亡骸は、カズオが素材を回収するときにギミックワールドの影の中に入れていたため無かったが、この土壁だけを見た彼女達はここでモンスターと何者かとの戦闘があったことを確信した。


「…………魔力の残留が感じられない」


「魔法でそんなことってありえるんですか!?」


これはカズオの土属性中級魔法ジアスにより生成された土壁である。彼の世界最高レベルの魔力操作により、無駄な魔力を一切使わず行使された魔法は、無駄が無いが故に魔力の残留が生じないのだ。とはいえ、合成魔法と上級魔法は少なからず魔力の残留を生じてしまうのだとか。


「……今日は徹夜」


「そ、そうですね、早く終わって欲しかったんですけどね」


そのとき、調査がすぐに終わることを願っていたロイドの目から光が消えたのであった。



 いつも読んでいただきありがとうございます。感想・誤字指摘も感謝しています。

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