第16話:黒の不審者
夕陽がもうほとんど沈んでしまい、辺りは薄暗く、遠くの空はうっすらと朱く光っており、王立魔法学校には夜の静けさが顔を覗かせていた。
「……暇だ」
以前カズオが集会所で冒険者カードの発行を美人受付嬢さんに頼んだあと、彼女は驚きながらも“F”と記された冒険者カードを無事発行してくれたのである。勿論初心者は一般人レベルのGからスタートなのだが、今回はAランク緊急クエストに参加だけでもした、という事実により特別1つ昇格する事が出来たのであった。
ちなみに自分達以外のパーティーからクリアに貢献したという証言が多くあれば、今回の難度ならいきなりBランクくらいには上がれることもあるが、とりあえず今回は他のパーティーと協力しているわけではないので、これが精一杯なのである。
そしてその後は、エルレンシアとはそのまま集会所から出たときに別れ、「夜に女子寮ね、カズっちなら気配探って頑張って来れるよねー」と言われ、カズオは本当に行かないといけない流れになったのである。
忘れているかもしれないが、カズオが女子寮に忍び込むのは、加護のことや闘技大会のことなどを彼女達と早急に相談しておきたいからであり、決してやましい理由などではない。
今は時間的に彼女達を含む生徒達は、午後の授業が終わり、食堂で食事をしているかあるいは浴場にて入浴中である。故に今から女子寮に忍び込むにはまだ早く、彼女達が女子寮に帰るまではカズオはやることがないのである。
カズオは、何故エルレンシアとそのまま別れてしまったのであろうかと今になって少し後悔している。彼女のMPの回復を待ってルナ達とリンクが出来て、あわよくば、どこかに待ち合わせでも出来たかもしれないと考えているのである。
とはいえ、過ぎたことをとやかく言っても仕方がないので、カズオは今から時間をつぶしてから、その後に女子寮に行こうと思っていた。
そんなことを考えているときであった。ふとカズオは今日の集会所での事を思い出し、その情景を思い浮かべてみた。
カズオが入り口から入った瞬間から集まる冒険者達のいやな視線。ただクリア報酬を受け取りに来ただけなのに、なぜあんなににらまれたのか。なんか悪いことをしたのだろうか。エルレンシアという美少女を連れていたから、嫉妬の意味を込めていたのだろうか。とカズオは考えを巡らせていた。
そして、カズオは暇つぶしがてら、しばらくそのまま考えていると気がつくのであった。
(あの時……最弱装備のままだった…)
あの時の冒険者達の「ナメてんのか?」的なあの目から察するに、それで確定であうとカズオは思った。あんな初めてクエストをする者ですら装備しないような、普段着同然の最弱装備で集会所に行ったからには、ナメた奴だと思われるのも仕方がない。
とはいえ、彼はそんなこと別に気にもしない。
だがそこでカズオ気が付いた。数日後の校内の闘技大会に参加するのであるから、それなりの装備を整える必要があるであろうと。カズオ自身は必要無くとも、ルナ達に恥をかかせるわけにもいかない。
(よし、……買いにいこうか…)
カズオは、辺りが暗くなりつつある王立魔法学校の敷地内にて、女子寮へ彼女達が戻る時間になるまでの暇つぶしの方法を装備を買い揃えることに確定し、目的地に向け歩を進めるのであった。
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「へい、いらっしゃい! こんな遅い時間に“また”お客さんかい、珍しいな」
王立魔法学校と集会所の中間に位置するその武具店は、王都では有名な品揃えの豊富な店である。伊達にそんな良い立地に店を構えているわけではないのだ。カズオが入口から入ると閉店間際だというのにその中年の男は明るい挨拶をしてきた。
「はい、後衛職用の防具と前衛職用の武器をこの予算内で、出来るだけ良いものを買いたいと思いまして」
カズオが一気に用件を伝えると、その男は少し首を傾げた。
「後衛職用の防具に、前衛? ……変わってるんだね、お兄さん」
そんな男の言葉はスルーして、カズオは緊急クエストの報酬の入っている袋を取り出し、中を見せた。
「うおっ! 結構持ってるんだなー。よし! ちょっと待っててなー、うちのとっておきを持ってきてくるから」
店の男は、そう言うと店の奥へと消える。
カズオはその男が戻ってくる間、ただ待っているのもあれなので、入り口から並べてある武器を歩きながら順に眺めることにした。
だが、彼はそこで、ふと先程の店の男の言葉に疑問を感じる。
(そういえばさっき、他に客がいるみたいなこと言ってたな )
こんな閉店ギリギリの店に来るようなもう1人の客は、店のどこにいるのだろうか、と思いカズオは辺りの気配を探った。だがしばらく探っても全く気配が感じられなかった。どうやら誰もいないようであると彼は思った。
そんな気配を探っているときである。カズオは違和感を感じた。
(……ん?)
「おい」
ーーーー!!!
首のすぐ後ろから男の声が聞こえ、危険を感じたカズオは、距離をとり臨戦態勢をとり。そして、すぐさま後ろを見た。
すると、そこにはさっきまで全く気配が無かった男が立っており、その男は真っ黒なマントにフードを深く被り覆っており、カズオからは顔が見えない。
「何者だよあんた」
カズオが質問を投げかける。
気配をまったく感じさせないその男は、カズオが見た瞬間、ただ者ではないと感じ取る事が出来る。ただの勘であるが、その時確信した。
ーーーこいつはかなり強い
「……ハハハっ、そんなに警戒すんなよ」
「悪いが、いきなり背後に現れたら誰でも警戒すると思うぞ?」
何故か笑っているような男にカズオはそう答えると、相手のステータスを把握するために、目の前のフードの男にバレないよう無詠唱でサーチを唱えた。
だが次の瞬間、彼は異変に気がつく。
(ーーーサーチが効かない!)
「……なるほどな、これまた興味深い。……まぁそうだな。俺の接し方が悪かったのか。というか、お前もやったし、俺もやったからそれで相子ってことにしてくれよ……?」
それだけを言うと、その怪しげな男はマントを振り、後ろを向きそのまま歩いて立ち去ろうとした。その男が後ろを向く時、マントの隙間から隠れていたその男の左手に装備された盾が見え、カズオには、どこかで見た覚えがあるような気がした。
「待てよ、あんた」
カズオがそう言うと、立ち去ろうとしていた男は歩みを止めた。
「おや、何か気に障ったことでもあったのか? ……ったく王都は久しぶりで、勝手がよくわからんな」
「いや、そうじゃない。ただ、気配を隠して店にいるような怪しい奴は一体どんな奴なのか気になっただけだ」
「ふーん、奇遇だな。俺もお前の気配察知能力に興味があるな……ところでお前は王立魔法学校の生徒か?」
「……だったらどしたんだ」
顔は見えなくとも、カズオには目の前の男がクックックと不気味に笑っていることがわかり、背中に冷たいものが流れたのを感じた。
「いーや、それならまたいつか会えると思っただけだ」
そう一言だけ残すと、マントの男は音もなく、その姿と気配を闇の中に消し去っていく。
男が立ち去ると、カズオは様々な考えを巡らせる。あの気配の無さ、サーチが効かないことからして奴もそんな能力を有した加護持ちであろうか。あるいは未知の装備や魔法を使う者だろうか。それにしても一体何者だったんだろうかと。
カズオがそんな事を考えていると、店の奥から店の男が何かを持って戻ってくる気配を感じた。
「へいお待たせ、お兄さんの予算ギリギリのとっておきだよ……お兄さん、どうかしたのかい?」
「いえ……大丈夫です。というよりさっきのマントの男は?」
「さっきって……あぁ、あの人は今日初めて見かけたからな、詳しくは知らないなー…ってか、君が来る前にはもう帰ってたんじゃないのかい?」
「いえ、俺がさっきここに来る時にその男がこの店から出てくるときに、ちょうどすれ違ったもので」
「へぇー…そうかい。まぁそんなことより、お兄さんどうよっ。このデザインと機能性を掛け備えたCランク装備、“ビッグホークのマント”と、同じくCランク武器でその中でも最も耐久度の高いと言われる、“バルダーソード”だよ。どうだい? 気に入ったかい?」
「はい、十分です。ありがとうございます」
ビッグホークのマントは黒い羽根を全体にあしらったかのようなデザインで、闇を連想させる黒色であった。バルダーソードの方はというと、頑丈さを感じさせる普通の両刃のソードであった。どちらもCランクにしては良いものであるのは確かだ。
そして、カズオは持っていた代金を全て渡す。
「毎度ありー! それにしても、お兄さん剣士? それとも魔道士なのかい? 気に障ったらすまないが、どちらかに決めないといろいろと不便だと思うぞ?」
戦闘において、近距離が前衛、遠距離が後衛となるのは必然であり、中途半端な戦闘距離を行うものはソロで戦うなら関係ないが、パーティーで戦う場合は重宝されない。しかも基本的にパーティーで戦わなければ生存確率が極端に減るということから、パーティー戦闘があたりまえである。つまり後衛職用の防具に前衛職用の防具などという実用性のないカズオの要望に対して、店の男は気にかけたようだ。
「いえ、俺の場合は大丈夫ですから」
カズオのその言葉に首を傾げる店の男。カズオはそれをスルーすると、そのままその黒色のビッグホークのマントは羽織り、バルダーソードはこっそりギミックワールドにしまい、店を後にした。
今回の装備についてはCランクということだから、魔法学校の学生の装備としては中の上くらいである。よってこれで闘技大会に参加しても罵られることはないということだ。
そんなことはともかく、カズオ気づいた頃には、もうすでに辺りは真っ暗である。生徒達は寮に帰っている時間帯であるから、もう彼女達に会いに行くには少し遅いくらいの時間帯であろう。
よって、数男はさっきの出来事を不審に思いながらも女子寮の方向へ急ぎ進むことにした。
カズオは家々の壁を跳び越え、屋根を渡り、直線的に最短距離で急ぎ移動する。夜の冷たい風を受け、風を切る音をあげながら彼はそのまま移動し続ける。そして、彼は、実際そこまで遠くに位置していない王立魔法学校の外壁にすぐに到着する。
だが、そこの門は時間的にもう既に閉まっていたのである。
「ーーー『ウィンド』 」
足下に魔法陣が現れると、カズオは跳躍と同時に風属性初級魔法のウィンドを使い、その学校を囲う高い塀を跳び越える。ちなみにエグゼドライブによる身体強化でも使えば、脚力だけでもこの高い壁を越えられるが、地面が壊れるのもあれだとおもったので、彼は魔法に頼ったのである。
だが、この学校を囲う塀の場合は誰にも気付かれずに飛び越える事は通常は不可能であるのだ。
なぜなら壁の上の空間には、魔力に反応する結界が張ってあり、魔力のある者は結界を破壊しない限り通過することはできないのである。つまり、結界を破壊すれば存在がバレてしまい警備兵が来ることになり、こっそりと入ることは通常は不可能であるということだ。
しかし、そこでカズオは塀の上を通過する瞬間。自身のLv5の魔力操作を最大限に活用し、魔力値を0にする事によって、この防犯システムを難無く越える事が出来るのである。
そして、カズオは難無く学校の敷地内に入ると、そのまま速度を落とすことなく目的地へ向け移動を続け、女子寮の入り口に到着する。
そこでカズオは、ルナ達の気配を感知すると、彼女たちがいる部屋は寮の最上階の3階であることがわかった。とはいえ彼は入口からそのまま入っていくわけにはいかない。見つかってしまえば退学ものであるのだ。
だが、入口から入る他に方法が無いわけではない。つまり普通に壁を登ればいいだけである。この時間帯なら外部から気付かれることはまず無いのだ。
そして、カズオはなんら問題なく忍者のように素早くかつ静かに壁を登り、移動した。壁に生じた段差、くぼみ、ベランダ、それら全てを利用し、もしも魔力感知の優れた者が居たとしても、音に敏感な者が居たとしても、存在がバレないように、魔力値を限界まで下げて、気配を消し、自身の筋力と技術にものを言わせて移動した。
するとすぐに、彼女達が居るであろう部屋のベランダに到着する事が出来た。
窓からは中は真っ暗で見えないが確かにその中にはカズオの知っているエルやマリアの気配をはっきりと感じられる。
ちなみに今はあまり関係ないが、カズオの魔力感知は障害物により精度が落ちることがある。今回の場合であれば、ルナ達が建物の中にいたのでカズオの魔力感知でも遠くから魔力を察知することは出来なかったのである。
そして、カズオが窓に手をかけようとしたときであった。
「あ、カズオっ」
彼が久しぶりに聞いたようなその可愛らしい声のする方を見上げると、直後、目に映るのは、何故か屋根の上にいる桃髪桃目の少女、ルナであった。とはいえ彼は、もともと彼女の気配も察知してはいたが。
「おう、久しぶりだなルナ……ってかなんでそんなところいるんだ?」
ちょっとスカートの中が際どく見えそうなことにカズオは気が付き、焦ったが、ルナに悟られることはなかった。
「せっかく私が待っててあげたのに、なによその反応っ」
なにか不満げにそう言うと、ルナはぷくっと頬を膨らませた。カズオには暗くてよく見えないが、彼女がそうしているということは彼にもわかったのである。
「まぁ、いいわ……というか、はやく私達の部屋に来てよね。マリアもエルも待ってるんだから」
そういうと、ルナは垂直落下のようにして屋上から飛び、『ウィンド』と唱えると、カズオの目の前の位置で風により速度を落とし着地した。天才的な魔力操作である。そして、彼女がベランダに降り立つのを確認すると、カズオは女子寮の窓を開ける。
直後、カズオは予想外の眩しさに目を細めながら彼女達の部屋の中を見ると見知った顔の2人がいた。
「カズオくん~待ってましたよ~」
「カズっち、遅かったねー」
部屋に入る瞬間にベッドの横に座ったまま、カズオを見る金髪でちょっと垂れた薄い緑の目のマリアと、白い髪にウサミミと、水色の目と、少し焼けた肌のエルレンシアがいた。カズオは、入った瞬間にとてもいい匂いがし、内心かなり動揺していたが、彼女たちに悟られまいと必死にポーカーフェイスを決める。
だがその時、カズオは気が付いた、周りから見たらもう就寝したであろうと思わせる程真っ暗だった部屋であるが、中はちゃんと明かりがついていたのである。つまり、外に光がもれないように闇魔法を使って光りを遮っていたのであるのだろうと。
「あぁ、悪い少し遅くなったよ」
魔法について感心していたカズオはそう言うと、椅子に座るように促され女子寮にて彼女達と加護と闘技大会諸々について、話合いを始めることになった。
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話し合いの内容は以下の通りである。
まずは加護について。エルレンシア以外の2人は、カズオが2つ持ちだということはまだ知っておらず、カズオの口からそれを聞いたときは目を見開きかなり驚いていた。その時、彼女達はカズオについての今までの事を思い返してみたか定かではないが、納得すると共に歓迎たのである。そして、勿論カズオのことは誰にも言わないと誓った。彼女達のことはエルレンシアの加護の力で繋がっているので、万が一でも他人に言われる心配は無いと彼は確信していた。
とはいえ、カズオはまだ本当のことが言えなかった。
たとえ3つの加護を持っていたことを彼女達が知ったとしても、加護の言い伝えを信じない彼女達の反応は、変わらないのだと確信していた。だが、カズオの心に残る一片の想いが、それを打ち明けることを許さなかったのだ。
そして、しばらくして彼女達と加護についての話が終わると、次はパーティーに入れる事についての話になった。
彼女達はカズオとパーティーを組むことについては何ら障害となる要素は無いといった様子であった。それにカズオも今となっては、入れて欲しいと思うほどであった。だが彼には気にかかることが一つあった。
「なぁ、ルナ達の冒険者ランクっていくつなんだ?」
「私たち3人はみんなAランクだけど、何かまずいことでもあるの?」
ルナはしらっとした表情で、マリアは眠たそうな表情で、エルは誇らしげな表情でカズオを見つめた。
「いやいや! 問題あるだろう! 俺のランクはFだぞ? パーティーランクがだだ下がりだぞ」
ここでカズオが問題視しているパーティーランクとは、パーティーメンバーの冒険者ランクの平均のことで、これが高いと他からの依頼や受注できるクエストに影響するのである。
現在のパーティーランクがAの、ルナ達のパーティーにカズオが入った場合、パーティーランクはB+にまで下がってしまうのだ。
「そんなの気にしてないし大丈夫だよ」
「そうだよ、そんなのガズっちがランク上げたらいいだけだよー」
「……そ、そうなのか……」
冒険者ランクを上げる実戦テストは、いくつかのクエストをクリアしないと受けることが出来ない。つまり、初心者は数をこなしてから、ランクを決める実戦テストをやるという流れである。ちなみに彼女達のランクは現在学校トップである。
そして、最後に闘技大会について話合いをした。カズオは全く知らなかったので1から教えてもらうこととなる。
まず、参加条件は王立魔法学校内の生徒で構成された4~8人のパーティーであること。そして、負けたらそこで終わりのトーナメント形式で優勝を目指すということ。
もし、ここでの闘技大会で優勝することが出来れば次の“東国”で開催される“東”、“西“、“南”、“中”の4ヶ国の代表で行われる魔法学校国際闘技大会に出場できるとか。ちなみに“中”はセントラルの事で“北”の国は大昔に北の魔族の侵攻により滅びたということで、今は存在しないのである。そして、その国際闘技大会には勇者がやってくることもカズオは聞いた。
ちなみに勇者とは、魔族との戦いの最前線にいる存在であり、国の武力の象徴である。つまり今の人類で最も強い者のことだ。勇者パーティーは各国から1人ずつ集められた4人の最強パーティーの呼び名である。この世界の子供達が将来の夢に持つ憧れの存在でもあるのだ。
そして、肝心の優勝賞品であるが、“東国”での闘技大会は、勇者に謁見できることくらいでその他詳しいことはその時でないとわからないのである。
カズオはこれらの説明を聞くとなるほどな、っというくらいの認識であるが、他の生徒からすれば勇者に謁見出来るということや、その他特典もかなりのものであるから、彼女達も含めて絶対に優勝したいと思うのである。
しかも優勝すれば世界最強の学生パーティーと証明されることになり、かなり名誉なものである。それに今の勇者が学生の頃にこの国際大会で優勝したということも、優勝に対する価値を底上げしている要因でもある。
とはいえ、カズオは彼女達なら全世界の学生パーティーの中で、頂点に君臨できるのではないのだろうかと思っているが。
「どうですか~カズオくん。わかりましたか?」
「あぁ、よくわかったよマリア。3人とも説明ありがとう」
「いいって、いいってー。カズっちにはいろいろ迷惑かけたしねー、このくらいしなきゃだよ」
「そうか? あの時は迷惑なんかじゃなかったぞ? 俺も久しぶりの戦闘で楽しかったし、報酬でそこそこな装備も買えたしな」
「エヘヘへー」
エルレンシアは頭を人差し指で掻きながら、口角をあがってしまうのをごまかしていた。
「カズオっ、そんなことより、他に何か私達に訊きたいこととか無いの!?」
「あ、そうだな」
ルナは顔を少し赤くして反応した。ルナがすこし怒っているのかとカズオは思ったのだが。
「そういえば、もう一つ。ついさっきの話なんだけど、ちょっといいか」
「ついさっきって……カズオがここに来る前のこと?」
「あぁ、その通りだ。というかまぁ、手っ取り早いから、リンク使うけどいいか?」
カズオはそういうとおもむろに手を前に出した。すると彼女達も彼の手に重ねるようにしてその上に手をのせてきた。
「いくぞ。ーーー『リンク』」
カズオは、リンクを通じて先ほどの武具店での黒マントにフードの男との様子を映像としてすべて彼女達に見せた。少し気になるところは強調して見せたが。
「…………これって」
すると直後、彼女達の表情が変わるのであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。