第15話:討伐隊
長らくお待たせしてすみませんでした<(_ _)>
まだ忙しい期間なのでこれからもしばらくは不定期更新になりますが、今後ともよろしくお願いします!
辺りには山々が連なっており、降りしきる雪と極寒の大地は、植物の生息を許すことなく殺風景な、あるいは神秘的な白に覆われていた。
ここは王都より北東に位置し、この世界では危険モンスターが多く生息することで知られている“北の山脈”である。
そんな北の山脈のほんの一部分でしかない雪山の麓で約20人程で構成された様々な装備をしている冒険者集団は、先頭から振り返っているリーダーの男を注目していた。
「皆、よく聞け!! ここから先は、いつ奴らが出てくるかわからんぞ! 今まで遭遇してきたザコとは訳がちがう! 気を抜いたら死ぬ、そう思え!」
リーダー男の怒号とも思える言葉で、集まり編隊をしていた冒険者達は渇を入れられ、緊張感からか額にうっすらと汗をかき、生唾を飲み込んだ。そしてそのような反応は狙い通りとでも言うかのように、リーダーの男は続けた。
「どの国より近い東国から急ぎ緊急クエストを受注した俺達がいち早くここに駆けつけたことは明らかだ! 故に敵は必ず倒されずにそこにいる!! 索敵は常に意識を研ぎ澄まし、集中を切らすな!! 前衛職は前へ! 後衛職は索敵担当を囲うようにし後ろへ下がれ! そして、ここからはそのままの陣形で移動しろ! 敵を見つけたら確実に始末する!! ここからが今回の緊急クエストの本番だ! 討伐隊、気合いを入れろぉっ!!!」
「「「「オオォーーーッ!!!」」」
その直後、リーダーの男は前を向きそのまま前に進んでいった。どうやら自身がその前衛の先頭をつとめるようである。そして、その後ろには先ほどの言葉通りに編隊した男達が、リーダーの男を追いかけるようにぴったりとついて歩いく。
彼らは慣れない雪道を一生懸命歩き続ける。途中から気候は一変し、ひどい吹雪へと変わり、その無慈悲な凍える強風の中でさえも、彼らはその緊張感を常に絶やすことなく、雪山を進んでいった。
そのまま歩き続けていた時であった、リーダーの男がなにやら違和感に気が付く。
(……おかしい、何故、山脈にモンスターがいない……もしや!)
その時、リーダーの男はここまで進んでも目的のモンスター1体もが現れないことを不審に思っていた。しかも、すぐそこの村でモンスターが巣を作っているという情報があるから尚更であった。
そして、リーダーの男はとある結論に至った。
「おいっ! 索敵!! 貴様らの行動に他の仲間の命が関わっているのだぞ!? 神経を尖らせろ!! 索敵を怠るなど万死に値するぞ!! わかっているのかっ!!」
その言葉を聞いた索敵担当の者はビクっと震えると「ひぃぃっ!」と怯えた声をあげたが、すぐに反論した。
「そ、そんなぁ……索敵を怠るなんてことはしていませんよ、俺達はずっと神経尖らせてますから、今にも倒れそうなんですよ……」
その男の疲れきった表情から、リーダーの男の敵と遭遇しない理由から、索敵を怠っていたなどという答えは消え去った。だが、この状況は絶対におかしいと彼は思っていた。
リーダーの男は、Aランクのベテラン冒険者であり、戦闘経験、戦闘能力ともに申し分なく、なおかつ雪山に関しては特に経験豊富な者であった。そんな彼はよく知っていた。
ーーースノーウルフの巣周辺は、彼らがいつも徘徊している、ということを。
そこでリーダーの男は、何故そこにいるはずのモンスターの姿が見えないのかを考えるが、何も答えは浮かんでこない。
ちなみに、徘徊という警備システムを使うことで、すぐに近くの仲間や巣からの増援を呼び寄せるスノーウルフは、厄介極まりない存在として知られている。それに加え、極稀ではあるがブリザードウルフというB+ランクモンスターが巣に居た場合、巣の周辺の徘徊を行うスノーウルフの数が、通常なら1体だが、そのときは4~5匹に増えるということもリーダーの彼は一応知っていた。
そんな疑念を抱いたままであるが、討伐隊一行はゆっくりと慎重に歩を進めていく。そして、そのまま歩き続け、雪山の中腹付近にたどり着くと、塀に囲まれた集落の様な村を目視する事が出来た。がそこで、冒険者達は異変に気がつく。
「ーーー村の外壁が黒い煙をあげています!!」
冒険者の1人が声をあげるとなにがあったのかと他の冒険者達も動揺を隠せないでいた。だがそんなことを気にせず、リーダーの男が声を発する。
「皆っ! よく聞け! これからこのままの陣形で村まで向かうぞ! 索敵は継続しろ!」
異常な事態であるが故に、そんなリーダーに撤退を進言する者もいたが、リーダーの決定に冒険者達は仕方なくついていった。勿論中には、この得体の知れない状況に対して恐怖する者もすく少なからず居た。
それもそのはずである。本来あたりを単体で徘徊しているはずのBランクモンスターのスノーウルフが存在しないことはともかく、村の外壁が燃えているのだ。スノーウルフの代わりにもっと凶悪なモンスターが村に居る可能性もゼロではないのである。
だが、リーダの男は進み続けた。彼は討伐隊の中で一番現状に違和感を抱いていおり、スノーウルフの巣付近にスノーウルフが居ないことは尋常ではないとこだと考えていた。しかし彼はAランク相応の実力者である。それに今回の緊急クエストも国からの依頼でリーダーを務めている立場であるのだ。故に彼はクエストを必ず成功させるという強い責任と意志があったのである。
そして、しばらく進むと彼はさらに別の違和感を覚えた。
(なんだここの雪は……やけに硬いな……)
一度溶け、再度凍った雪は硬く、なぜそのような現象が起きているのかと疑問を浮かべる。
リーダーの男がそんなことを思っていた時、すぐ後ろにいた前衛職の冒険者の1人が顔を真っ青をしてリーダーを呼び止めた。その呼び止めた男は獣人であった。
「隊長! こ、ここの辺り一帯から……血の匂いがします!! ……お、おそらくスノーウルフのものかと思われますっ!!」
その声は、密集した陣形の冒険者達全員に聞こえた。その言葉を耳にしたものは皆一様に、恐怖の表情をうかべる。辺りにまばらに散らばるスノーウルフの血の匂いから、そこで彼らがやられたのは明らかであるのだ。それに緊急クエストは発行されてからまだ2日目であり、この雪山の位置からして東国からのクエストうけた者以外で誰かが討伐にくることは時間的にあり得ない。よって他国の討伐隊という可能性は無くなるのである。
もしも、緊急クエストの発行を知らない、通りすがりの強い冒険者が単独でやったとしても、その場合は、討伐したことをすぐに近くの集会所へ知らさせることになっているし、運悪く入れ違いになったとしても、1本道であるこの雪道ならその者と遭遇するはずであるのだ。よって、この村、スノーウルフの巣を壊滅させたのは人間ではないと考えるのが妥当なのである。
だが、このクエストを失敗に終わらせる訳にはいかない。もし危険なモンスターが村に掬っているなら、そのモンスターを倒せば良いだけのことだ。そう考えたリーダーの男は冒険者達の撤退の進言など無視して歩みを進める。冒険者達も気が気でない様子であったが、隊形を崩すことが最も危険な事であるから仕方なくリーダーの男についていった。
そして、煙が出ている門の目の前までやってきた時であった。
ーーーーー!!!!
(ーー何だこの魔力は!!)
リーダーの男は魔力探知Lv1のスキルを取得していた。そんな彼が今までの人生で感じた事のないような魔力を感じたのである。発生源は目の前の門であると、本能が察知する。
(ここは、危険だ!)
そう判断し、20人以上の人間の命を預かっているリーダーの男はそこで決断する。
「皆、よく聞け! あの目の前の村には危険なモンスターがいる可能性が高い。俺達には手に負えるものではないだろう。故に、我等討伐隊は現時刻をもってクエストを放棄し、ただちに此処から撤退する!! 緊急クエストの報酬は惜しいが、命あっての賜物だ! 今すぐ遭遇戦用の陣形を崩し、移動速度を重視する。モンスターに気づかれていないとも限らない、だから一刻も早く下山しろ!!」
リーダーの男のその判断は、もし村に本当に凶悪なモンスターが居れば適当なものであったのだろう。しかし、実際にはあそこには凶悪なモンスターなど存在感しない。この緊張感あふれる状況でその言葉を聞いた冒険者達は皆、動揺と恐怖の色を隠せないでいた。
よって次の瞬間には、20人近い冒険者達は我先にと雪山を駆け下りていった。ただ、その村に居るはずのない、得体の知れない何かを恐れて。
下山の最中、リーダーの男は思う。
(東国にこの事を知らせねば……)
王都セントラルから東に位置する、軍事国家、“東国イースト”。そこの冒険者であり、小隊長である今回の緊急クエストのリーダーの男は、そう決意したのであった。
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大門から続く街道の周りには、草木がちょうど膝の高さまで生えており、新鮮な雰囲気を醸し出していた。その道の先には、相変わらず多くの人や馬車が入国の手続きでごった返していた。そんなここ王都セントラルの大門の行列の中に、黒髪黒目の少年カズオと、ウサミミに白い髪で空色の目のエルレンシアは行く。
今からおよそ半日前。あの北の山脈の雪山での戦いのあと、カズオ達は全てのウルフ達の亡骸をギミックワールドによる異空間に入れ、必要な素材と討伐の証拠となる部位を獲得し、無事王都に帰還したのである。
その時カズオは、帰還に時間をかけるもの面倒だったので、行きと同じようにエルレンシアを抱きかかえ、《エグゼドライブ》の高速移動で王都に戻ったのである。
そして、王都に到着したカズオ達は早速、今から集会所へ行き、緊急クエストのクリア報酬を受け取りに行こうとしていのである。
「あのねー、思ったんだけど、カズっちってランクどのくらいなの?」
入国手続きをするため並んでいる最中、エルレンシアは唐突にカズオに質問をした。
「ランクって、冒険者ランクのことだよな。俺は産まれてこの方、集会所には行ったこと無いから、そういうのもらったことはないぞ?」
カズオの予想外な返答に、エルレンシアは驚きの表情を浮かべる。
「えっ!? うそー。カズっちそんなに強いのに、クエスト受注したこともないの? それに、冒険者カードの発行をしてないなんて、……ちょっと損だよ?」
カズオは「どういうことだ?」と聞き返すが、その答えはすぐ知ることになる。
(冒険者ってあんまり列ばなくていいんだな……)
カズオは正規の手続きをいろいろとしなければならなかったが、エルレンシアはその冒険者ランクの記された通称“冒険者カード”とステータスボードを見せるだけですぐに入国できていたのである。冒険者カードとステータスボードは個人情報を知るには一番手っ取り早い方法だからであろう。
「カズっちー、遅いよー」
「……悪い悪い、じゃあ行こうか」
よって、エルレンシアを待たせることになってしまった。
「なぁ、エル。これからマリアとルナと話がしたいんだけど、その遠距離リンクでどこか待ち合わせてして、会えないか話してもらえないか?」
「遠距離リンクじゃなくて、《ユグドラジル》ね………えっとね、今聞いてみたんだけど、授業中だから、終わってから女子寮に来てだってさー」
「じょ、女子寮!? 行けるわけ無いだろっ!」
勿論、男子が女子寮に行くことなど、王立魔法学校では禁止である。
「カズっちなら、余裕にバレずに来れると思うけど?」
「そういう問題じゃないと思うんですけど……」
その後もそんな話をしていると、カズオは何やかんやで終わったら女子寮に行くことになってしまった。無論彼は大反対したが、リンクの途中でエルのMPが無くなり、ユグドラジルの繋がりが切れてしまったので、カズオはルナ達と話をすることができなくなってしまったからである。
とはいえ、カズオが女子寮に行って、もし誰かに見つかったら“魔法学校の恥”改め“魔法学校の変態”となってしまうことだろう。
カズオ達はそうこうしている内に集会所にたどりつく。その建物は見た感じどこにでもあるようなちょっと大きめの酒場の様であった。そんな事は気にせず、カズオは迷わずに扉を開ける。
王立魔法学校から約300メートルの距離に位置する集会所は、中も酒場の様であった。入口のすぐ側に長いカウンターがあり、それぞれの席には、冒険者ランクに応じたクエストを薦めてくれる受付嬢が数人待機していた。
そこの反対側には、朝にもかかわらず酒を飲んでいる冒険者らしい男達が、椅子に座り騒いでいるスペースがあり、また奥の壁には掲示板がある。それは依頼主と直接接触しクエストを受注できるという。すこし危険だが報酬の取り分が比較的割高な依頼を受けることができるようだ。
カズオは集会所に入ると、他の冒険者からの視線がやけに突き刺さることに気がついたが、面倒なのでそのままにしておいた。そんなことは気にせず、カズオは初めてでよくわからないので、あたりの様子を見ていた。
すると、突然エルはカズオを促すように手を引っ張り、そのままカウンターの隣の椅子に並ぶようにして座らせた。カズオは何をされたのかわからず呆気にとられていると、目の前の受付嬢がすぐさま話しかけてきた。
「はい、いかがなさいましたか?」
少しウェーブのかかった大人な茶髪ロングヘアーの美人受付嬢は、その完璧なスマイルで優しさを全面に醸し出している。
「えっと、受注していた緊急クエストのクリア報酬を受け取りに来ました」
「緊急クエストですか? ……それって確か3日前に発行されたような……あっ、いえ、お気になさらず。たぶんこちらの手違いですので。それでは、討伐証拠部位を既定数以上提示をお願いします」
カズオを見ながら、受付嬢は少し疑り深い表情を浮かべていたが、彼はそんなことは気にしなかった。そして、美人受付嬢にそう言われたので、カズオはあらかじめギミックワールドから取り出しておいた討伐証拠部位の入った大きな袋を取り出し、ズドンと音をたててカウンターの上に置いた。
「ーーー!!!! な、なんですかこの量!?」
すると、受付嬢は取り乱してしまったことに気がつくと、赤面しながら「失礼しました……」と小さく呟いた。さすがは慣れているのだろうか、切り替えが早かった。
「はい、今回のAランク緊急クエストの討伐対象、Bランクモンスターのスノーウルフの牙で間違い無いです…えっと…合計数は、253!!? ……コホンっ! し、失礼しました。クエストの達成を認めますね」
またしても現実離れした数値に驚愕の表情を浮かべる。
まだ動揺を隠せない受付嬢は少し不自然な様子ではあったが、無事クリア報酬をカズオに渡す。クエストの難度も相まって、かなりの金額であった。
「あ、あのー大変申し訳ありませんが、スノーウルフの討伐をなさったのはどちら様でしょうか?」
「あ、俺ですけど」
「え!? あ、あなたでしたか……」
受付嬢は(そんな装備してるからわからないでしょ!)と心の中で叫んでいたが、その叫びは勿論カズオには届いていなかった。とはいえカズオは彼女がとても驚いている事には気が付いていたが。
「あーっ、カズっちー忘れてるよー。あれ出すと、報酬あがるんだからね」
隣に座るエルレンシアは思い出したかのようにカズオに話しかけた。
「あぁ、そうだな」
そこで、カズオはギミックワールドから出し忘れていた“ブリザードウルフの大牙”の事を思い出した。そして、彼はこっそりとギミックワールドから取り出し、カウンターの上にその強靭な鋭利な牙を置く。
「へ? こ、これは……?」
「ブリザードウルフの大牙ですよ?」
「うそっ!? ……あっ、失礼しましたっ! え、えっと、ブリザードウルフの大牙と確認しましたので、既定の追加報酬をお支払しますっ!」
動揺丸出しの受付嬢はそう言うと、きちんと追加報酬を払った。これまた大金で、一般的な人間であれば、数ヶ月は何もせずともダラダラと暮らしていけるほどである。
「あの、もう一つ、あるんですけど。
ーーー俺の冒険者カードを発行してくれませんか?」
「……ふぇ?」
数秒の間を空けた後に、受付の彼女はつい間抜けな声をあげてしまった。
ブリザードウルフを倒すような、高難度の緊急クエストをクリアする黒髪黒目の少年が、初心者がまず始めに行うはずの、冒険者カードの発行をしてほしいというその言葉に、美人受付嬢さんは更に混乱した表情を浮かべるのであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。