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第14話:人ならざる存在

 

遠方には巨大な白い山々がそびえ立つ白銀の世界。だが、その場所だけは火山が噴火したかの如く立ちこめる白い蒸気により、視界は悪く、濃い霧の中にいるようになっていた。

 

MPの消費は激しいが広範囲攻撃が可能な土と炎の合成魔法『メテオストライク』により周囲のスノーウルフを殲滅したカズオは、エルレンシアに雷魔法で合図を出した後、急いで村の方向へと進んでいた。


村への移動途中にはスノーウルフの亡骸が転がっていたので素材回収の為、全てギミックワールドに入れた。入れるといっても、モンスターの亡骸の真下に影の入り口を作れば、勝手に落ちていくので、回収は楽に出来る。MPの消費も比較的少ない。


そうやって進みながら回収する最中、彼は、もうすこし魔法の力が強かったらこんなグロテスクな光景にせずに済んだのになどと思ったりもする。とはいえ、もしそうなって必要な牙などの素材が消えてしまっては困るのであるが。


そんなことを考えながら進んでいると、カズオはすぐに村のエルレンシアとは反対の下側の入口に到着する。


(でかい門だな)


目の前にそびえ立つ門の向こうからは、予想以上の数のモンスターの気配とボスのモンスターらしき気配を感じた。更に奥からは、もう知っている強者の気配を感じる。


とはいえ、中に入ろうともこのままでは門が閉まっているので中へは進めない。カズオであれば、よじ登れない訳ではないし、飛び越えれないというわけでもないが。


「ーーーー《アルカディア》」


カズオは精霊王の加護を発動し、光のオーラを纏うと、すぐさま合成魔法に必要な闇属性と炎属性の魔力を手慣れた魔力操作で右手に集中させ、門の所に送り出した。すると、その木製の大きな門の真下に魔法陣が半分だけ現れる。こちらには見えてはいないが、門の向こう側にも勿論、魔法陣のもう半分が出現しているだろう。


「ーーーー『インフェルノ』」


カズオの詠唱直後、魔法陣の端から数本の高い火柱が立ち上がる。そして、次の瞬間には、その火柱が門の存在など関係ないと言わんばかりに強引に渦を巻く様にして魔法陣の中央へ集まっていく。すると、数舜の後に1本の黒炎の大きな火柱へとその姿を変える。


その門が巨大な炎に包まれたかと思うと、数秒間の炎の蹂躙を経て、その黒炎は姿を消した。だが、消えたのはその黒炎だけでなく、そこに存在していた筈の分厚い木の門も消滅していたのである。


圧倒的な熱量。それを物語るかのように一瞬にしてそこには、炎の刃により門をくり抜かれたかの如く、切断面から黒い煙と通常の赤い炎をあげる外壁だけが残った。

 

カズオは何事もなかったの様にその門があった場所を通り、村の中へと進む。


ーーーーガルルルゥッ!!


入るとすぐに所々から聞こえるうなり声。

外壁の中には50体くらいのスノーウルフが、待ちかまえていた。


だが、彼らはカズオとの圧倒的な力量の差を感じ取ったのであろうか攻めてくる様子はなく精一杯の威嚇を続けていおり、中には彼と目があった途端、横方向へと逃げ出し始めているものいる。


「悪いが逃がすつもりは無いなーーー『ジアス』」


その様子を確認するとカズオは両手から土属性特有の茶色い光りを発し、即座に土属性中級魔法を唱えた。すると、真横に逃げようとしている左右のスノーウルフの目の前の地面に魔法陣が現れ、そこのから垂直に10メートルはあろうか高い土の壁が出現する。その壁により、モンスターの左右への逃亡は不可能になる。


「ーーー『ジアス』」


すぐさま彼が2回目を唱えると、今度は、スノーウルフの集団の前と後ろを挟むようにして、土の壁が出現する。そして、その横壁は最初のジアスにより作られた縦壁と繋がり、天井の開いた直方体の土の牢獄と化した。


「ーーー『ジアス』」


そして3回目を唱えると、辺りの土が牢獄の真上に集まっていき、この牢獄と同じような長方形の塊に変形する。そして、そのまま重力に従い、型にぴったりとはまるようにして、その重量感あふれる土の塊は、逃げ場のない50体のスノーウルフ達のいる地面に落とし蓋のようにして落下する。


直後、ドーンという音と地響きと共に、その長方形の土盤は、そのまま地面になんら抵抗なく到達した。それと同時にスノーウルフの気配の消失を確認すると、カズオは、その異様な直方体の土の牢獄を残したまま、何事もなかったかのように奥へと進んでいく。


(エルの方に敵が集まってるな……ブリザードウルフもそっちか…… )


エルレンシアの方へ集まる敵の気配を察知すると、カズオは改めてこの群れの予想以上のモンスターの数に驚かされた。とはいえ彼は別に問題は無いと考える。


(取りあえず、合流するか)


心の中でそう呟くと、カズオはエルレンシアのいる方向へ進むことにした。


移動の最中、目の前に度々出現してくる少数のスノーウルフは、火属性魔法を駆使して倒していき、ある程度の集団でやってくると、土魔法を駆使し、効率良く駆逐していった。そのまま近づきながら何度か戦闘をしていると、もうすぐそこにいるエルレンシアとさっきまで戦っていたモンスター達の気配が1つにまで減っていることに気がつく。


他の数百匹はいたすべてのスノーウルフは、彼女が始末したのだろうとカズオは思った。カズオがそんなことを考えていると、エルレンシアと合流するために最後の建物の角に差し掛かる。


そこには、瞬時には数え切れない程のスノーウルフの亡骸の山が積んであり、なにか魔法によるものであろうか所々地面が凍結していた。そして戦闘真っ最中のウサミミの少女もそこにいた。


そして、エルレンシアから約20メートル前方には、スノーウルフの3倍はあろうかという大きな体に、長い銀のたてがみそして鋭く尖った大きな牙のカズオが予想していたモンスターがいた。


B+ランクモンスター

ーーー“ブリザードウルフ”ーーー


そして、並みの上級者ではまったく太刀打ちできない凶悪なモンスターと可愛らしい獣人の少女が対峙しているという、その光景を目にしている時、カズオは改めて、彼女の無茶苦茶さに驚かされる。


ブリザードウルフはB+ランクモンスターということもあり、かなりのスタミナを持っている。がしかし、どういうわけかエルレンシアの前にいる狼はかなり疲労していたのだ。


ここでカズオは予想する。エルレンシアは、どういう意図があってかは知らないが、ずっとこのモンスターの攻撃を回避し続けていたのだろうと。


そんな事を考えている時であった。カズオから30メートルくらいの距離にいる、ブリザードウルフから、強い魔力の流れを感じたのである。


すると直後、ブリザードウルフは上を向き、口を開け、息を吸い、溜めるようなモーションをとると、魔力が口の上に集まり魔法陣が現れる。ブレスを放つ直前なのであろう、そこから冷気を漏らしていた。


流石は伊達にB+ランクではないということか、このような疲労状態でさえも、魔法を使い冷却ブレスを放つことも出来るようである。とはいえ、疲労していなくとも、ただのスノーウルフではブレスを放つことは出来ないが。


そんなことは関係なく、たとえ目の前にいる仲間が大丈夫と確信出来るほど強くても、カズオは自分仲間にみすみす攻撃をさせるようなことを敵にさせるつもりはない。


ブリザードウルフの口の上に展開中の魔法陣が水属性であることを確認すると、すぐに彼は高速で雷属性のオーラのような魔力をあの魔法陣目掛けて送り込んだ。すると、その黄色いオーラ(魔力感知が無ければ魔力は目視できない)が到達すると、直後、そのブリザードウルフの魔法陣は、ガラスが割れたかのように崩壊した。人外の如き魔力操作の成せる技である。


魔法の発動には不可欠な魔法陣を破壊する現象“アンピュテーション”である。


「わぁ! いつからカズっちそこにいたの? 驚いたよー!」


ブリザードウルフと対峙していたエルレンシアは、カズオの魔力操作で消していた気配に気がつく。


「さっきの凄いねカズっちー! たしかー……あんぴゅてー…なんとかって言う奴だよね? ……まぁいいや。とりあえず、そのまま見ててよ?」


そう言うと、エルレンシアは地面を強く蹴り、目の前にいたB+ランクモンスターへ向けて直線的な跳躍する。普通の人が見ればそれは姿が消えたと錯覚するほどの速度である。


その高速移動の最中、彼女は自身の体を何かの力により回転させ、ブリザードウルフの首、前足、腹、、背中、後ろ足の順に回転を利用した斬撃を繰り出し、その速すぎる剣舞は一瞬にしてそのモンスターの身体を走り抜ける。


そして、エルレンシアが着地すると同時にその大きな狼も倒れ込み、深い傷を負い、そのまま動かなくなった。彼女は上級者パーティーと渡り合うようなB+ランクモンスターを一瞬にして倒したのである。カズオがブリザードウルフにサーチを使う暇すらなかった。


「どーだった? カズっちー。あたしなかなか強いでしょー?」


目の前のウサミミ少女は、耳をピョンピョンと跳ねさせ、嬉しそうに、誇らしそうにカズオに駆け寄る。どうやら、彼が来るまでわざと倒さずに待っていたようである。そこでカズオは、彼女は本当に学生なのかと思ったのだが。


「あぁ、エル、すごいな」


カズオの言葉に彼女は満足げにドヤ顔をかましていた。そんなことはスルーして話を続ける。


「というか一瞬見えたけど、今の回転って風属性魔法を利用したんだよな?」


「そうだよ? でも、そんなことよりーーーー」


するとエルレンシアはしかめっ面でカズオを見つめる。カズオは何かやらかしたのだろうかと思い。「まぁ待ってくれよ」と声を掛けたが、彼女はそんなことはどこ吹く風で話を続ける。


「カズっち? さっきの青い光りもそうだけど、空から降ってたあの赤いのは何なの? 魔法なの? ていうか、何でカズっちずっとMP無くならないのよっ。ていうかさっきのアンピュ……なんたらってどうやって使ってるの? ねぇ、どうして?」


エルレンシアは、今までの可愛らしい接近という感じではなく、尋問をするかのようにしてカズオに詰め寄った。


「ちょっと急にどうしたんだよ。そんなに一度に訊かれても答えられないからっ」


少し慌てるようにしてカズオがそう言うとエルレンシアはしゃべるのを止め、ジト目を向ける。


「じゃあ、説明してよー……」


カズオとしては、逆にエルレンシアにどうやってそこまでの能力を身に付けたのか教えてほしいくらいであったが、彼も少々調子に乗って魔法を使いまくっていたわけでもあるから、話すべきなのだろうと考える。


「あぁ……わかったから、とりあえずここを出てから、テントの中で話そうな。ここはあまり話しやすい場所じゃないだろ?」


するとエルレンシアは「まぁ、確かにね」といい、戦闘に夢中で気がつかなかったであろう自身の作り出した地獄絵図に気付くのであった。


そしてその後、カズオ達はその血生ぐさい村から全てのスノーウルフとブリザードウルフをギミックワールドに入れて、素材を回収してから外に出た。そのまま麓まで降りるとテントを張り、その中で休憩をかねて、エルレンシアと話をすることにした。


テントを張り終え、中に入ると、彼女はカズオと向かい合うように座って面接のような雰囲気になる。


「まず、何であんな魔法が出来るの?」


この緊急クエストをエルに騙されてうけた時から、カズオは本気を出して移動やなんやらとやっているので、いろいろと怪しまれても仕方ないということは解っていた。しかも直接加護の数について訊かれているわけではないから、今更堅く口を閉ざそうとも彼は思っていない。


「はぃはぃ……わかったから。エルなら教えても大丈夫だとは思うけど……。その前にエル、覚えてるか? ここに来る前に俺がお願いしたこと」


「あっ、それねー。カズっちの能力や他のいろんなことを人に言うなってことでしょ? そりゃ勿論わかってるよ」


その言葉にカズオは少しは安心したが、念には念をである。


「そうか……じゃあ、エル、その前にちょっといいか」


カズオはそう言うと、エルレンシアの手を握った。彼女はビックリし、少し戸惑っていたが問題はない。


(ーーーー『リンク』)


彼女に約束を覚えているか質問をしたこのタイミングで、カズオは彼女の真意をもう一度確かめるべく、リンクにより、思考を共有した。


その時、彼女の思考の中から伝わる嘘に対する憤り、そして、同時に感じるカズオに対する信頼。ありとあらゆる感情の流れの中から答えを導き出すと、どうやら彼女は約束をきちんと守るつもりであった。それどころか加護に対するかなりの好感、かなり強い思い入れがあるようであったのだ。それにリンクに対して隠している感じもなかったことから、彼女は嘘をついていないのだとカズオは確信する。


リンクを通して今までの考えが変わり、カズオは彼女なら加護の事を話しても大丈夫だと確信した。


「悪いなこんな事して……エル、実はなーーーー」



ーーーそこでカズオは加護が2つあるということを話した。


「やっぱりー! カズっちは加護持ちでしかも2つ持ちだったんだね!あたし2つ持ちの人に初めて会ったよ?」


それはカズオの予想していた反応はなく、それにエルレンシアは、もう既に彼が2つ持ちであることを予想していたようであった。彼も最初からエルの村の人の命を救う為に知られても仕方ない、という気持ちでやってきたが、そこまで予想されていたとは思っていなかった。


目の前のウサミミ少女は、なにかモヤモヤが解消されたかと言うかのように嬉しそうな表情をして話している。カズオは彼女を信じてはいたが、実際その表情を目の当たりにすると、何故そんな反応が出来るのか理解することができなかった。先ほどリンクでわかっていたつもりであったが、彼は、心のどこかでそれすらも信じないようになっていたのかもしれない。


「エル……俺のこと怖くないのか?」


「怖い? どうして?」


「いや……だって………人ならざる存在だぞ?」


「カズっち。そんなのただのおとぎ話だよ。だって、あたしだって加護持ちだし、それに1つあるなら2つある人が居ても不思議じゃないでしょ?」


カズオは、加護について話してしまったことに少し後悔していた。だが彼はこの時、素直に驚いた。この世界の人間であればだれでも聞かされたであろう、あの言葉を信じない者がいるのかと。


「エルはあの言葉を信じてないのか?

加護を1つ持つものは天賦の才の持ち主。

2つ持つものは人ならざる存在。

3つ持つものはーーーーーーー」


「ーーー1つも2つも、両方とも天賦の才の持ち主でいいじゃないっ。あたしは、加護があるからって人じゃなくなる、なんてこと信じてないからねー」


エルレンシアは、カズオの言葉を遮るように言葉を返してきた。彼女は本当に、なにも気にしていないのだとカズオは思った。


「そうか、ありがとう、エル……こんな反応されるの産まれて初めてだよ」


「カズっち………?」


その時、エルレンシアは思った。彼は、幼い頃からその加護のせいでつらい想いをしてきたのだと。


ーーー人ならざる存在

彼は自身の正体がバレるとそう呼ばれ、避けられてきたのだろう。あるいは命を……。そして、彼はずっと人を信じることが出来ないまま今まで過ごしてきたのだろうと。


「カズっち、大丈夫だよ。他の人は避けたりしても、あたしはそんな事しないし他の人に絶対に言わないよ。それにもうルナちん達との勝負のことだってどうだっていいしね。約束するよ」


そこで彼女は視線を少し下にそらして話を続けた。


「……でもね、カズっち。あたしがこんな事言うのもおかしいかもしれないけど、このことはルナっち達にも言うべきだと思うんだ」


「……どうしてだ?」


カズオにとって加護の事は、人に知られるわけにはいかない。絶対に他人に言わない且つ、信頼に足る人物であればその人自身に知られるのは構わないが、もし万が一があってはならない。故に彼は、まだ絶対に秘密を守るとはわからないルナやマリアにも言うつもりは無かったのである。


エルレンシアは、カズオを真っ直ぐと見つめ、答える。


「カズっち、1人で孤独に隠し続ける必要なんて無いんだよ。辛いことは人と共有して悩みを打ち明けて、その中で自分らしく生きたらいいじゃないっ」


「…………」


(孤独……か)


「確かに、秘密を共有した方が俺の心も余裕が出来るかもな……だが、もし、その共有しようとした人物に裏切られたらどうする? ……小さい頃の事は何も覚えていないけど、俺はもう何度もそんな目に遭ってきた、みんながエルみたいにあの言葉を信じていない訳じゃないんだ」


「そう、だからみんなに打ち明けるべきとは言わないよ……だからあたしも“本当に信頼できる人”だけに打ち明けたらいいと思うよ。カズっちの気持ちも楽になるし、あたし達もこれから何か協力できると思うんだよ」


カズオには彼女の言いたいはわかった。確かにカズオは孤独であり、彼は孤独は好きではない。今まで1人で困ることも沢山あったのである。だがしかし、カズオは自分の命が掛かっているのだ。それとはかりにかけたら、自分の加護について秘密したいと思うのは当たり前のことなのである。


「悪いなエル、俺はマリアやルナと隠し事無くリンクで繋がったことが無いから、彼女達を信頼出来ると判断することは出来ないな」


そうはいいつつもカズオはルナ達をある程度信用していた。魔法なんか使わなくとも、ここ数日間学校で関わっていくうちに、彼女達の善意、友好的な感情がひしひしと伝わってきていたのである。それに秘密も守ってくれるとも思っていた。


だがそれでも、万が一実際にリンクで繋がってみると、彼女達は自分の期待するような考え方の人ではないかもしれない。そう思うと、カズオはもう一歩、彼女達に近づくのが怖いのであった。

 

「じゃあ、あたしの親友達の事をカズっちに本当の意味で信頼してもらえば、いいんだね?」


そう言うと彼女は自身ありげな表情を浮かべカズオの目の前、数センチ所まで近づいてくる。


「エル? 何をするつもりなんだ?」


「今からあたしの加護の力を使ってルナ達が本当に信頼出来る人だって事を証明するんだよ。ちょっとキツいけど頑張ってみる」


「え? ……ちょ…… 」


すると、彼女はカズオの言葉を待たずに、そのまま抱きついた。


「ーーー《ユグドラジル》」


抱きつくエルレンシアがそう唱えた直後、カズオの頭に流れてくる何かの感情。


(これはリンク? …いや、似ているが違う)


カズオがそう思ったとき、同時に感じる優しさ。彼が久しく忘れていた人の温もり、信頼、友情、慈愛、ありとあらゆる思いやりの心が伝わってきた。こんな美しい心は今まで感じた事もなかった。そして、彼はその感情がなんとなく知っている人のもののような気がした。


(マリア? …それに、ルナ?)


すると、その不思議な感覚はすぐに途切れ、普段の感覚に戻った。


「これは一体なんなんだ? エルの加護の力?」


今まで体験したことのないような感覚から、カズオは加護によるなんらかの現象と結論付け

質問を投げかける。それにエルレンシアは答える。


「まー、そうかな。“根”を付けた人同士、またはあたしと触れている者との思考や深層心理を共有したりすることができる力。それがあたしの獣王の加護の能力の1つ《ユグドラジル》だよ」


エルレンシアはカズオからゆっくりと離れるとそう言った。


「…ってことは、今のはルナ達の心ってことなのか?」


「うん、大体そうだよっ。ビックリした?」


そう言うと、彼女は自身の能力が誇らしいのか少し胸を張る。


「まぁ、少しな」


「そっかー。まぁ、もう一回見せてあげても良いんだけど、もうMP切れちゃったから出来ないかなー。残念っ」


そう言うと彼女は、てへっと言い頭を叩くポーズをとり、上目遣いをしてきた。エルレンシアは、もしかしたらわざと明るく振る舞って、元気付けようとしてくれているのかもしれない、とカズオは思う。


「……つまり、離れててリンクが使えるってことか?」


「うーん……まぁ、簡単に言ったらそうかなー」


その後、少し説明をしてもらったが、簡単に言えばこうである


“根”という魔力によるマーキングが付いていれば、エルレンシアを介して、遠距離での意志疎通が可能であるらしい。任意でどちらか一方だけの意志の共有も出来るようである。つまり、リンクと同様、秘密にしたければ本人の意思で内容を変えることは出来ないが、隠す事は出来るということだ。

 ちなみに、使用するとMPを消費し、遠距離になればなるほど消費するMPは多くなるため、元々MPの少ないエルは遠すぎるとすぐに使えなくなってしまうとか。


とはいえ、このエルレンシアの能力により繋がった時、カズオは、彼女達3人は心から信頼できると確信したのである。


エルレンシアからは、今回騙すようなことはしたものの、今は、かなり後悔している気持ちが伝わってきて、ルナとマリアは絶対にカズオを本当の意味で悪いようにしない事がわかったからのである。むしろ、もう既に仲間として思ってくれているようであった。


「ねぇカズっち、改めてお願いがあるんだけどいいかな?」


「あぁ、いいけど。…改めて?」


今さっきのことにより、カズオは、もう彼女が何をお願いしてくるのか解っていたので、そう言う意味を込めての“改めて”ということであろう。


「そうだよ。カズっち、いろいろあたしが余計なことしたけどね、ーーーどうかあたし達3人の大会のパーティーに入ってくれないかな?」


「はぁ、まったく…パーティーに入れたいなら入れたいと、俺の力を試したいなら試したいって最初から言えよな? こんなややこしい事にならなくて済んだはずだぞ?」


カズオはエルレンシアの困った表情を見るためにわざと少し攻めるような発言をした。案の状その言葉を聞くと、彼女の耳は感情を表現しているかの如く下に方向を変える。カズオは続ける。


「とはいえ、大体思ってることがわかってよかったよ。いいよ、宜しくな」


カズオが少しあきれた様子で承諾した直後、エルレンシアはとても嬉しそうな表情をうかべ、彼に勢い良く抱きつく。


「ありがとっ! カズっち!!」


「おいおい、離れろよっ」


その後、カズオは何とかしてエルレンシアを引きはがすと、話を続ける。


「まぁ、とはいえ、やっぱ一回4人でちゃんと話した方がいいんじゃないか? 俺も闘技大会の事は詳しくは知らないしな」


「うーん…そうだねー。なら、さっさと王都に帰ろ? カズっちー」


「あぁ、そうだな」


その後荷物を纏め、テントを仕舞い、カズオとエルレンシアは、すぐさま王都への帰路に着くのであった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字のご指摘もありがとうございます。

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