第13話:第3の加護
[ステータス]
name:エルレンシア ♀(17歳)
種族:獣人
level:62
HP:25000
MP:60
攻撃A:223
守備A+:285
魔力F:22
魔防A:240
速さS:330
運 B:132
体術Lv4
魅了Lv4
武器使用Lv3
気配感知Lv3
耐寒さLv2
状態異常耐性Lv2
獣王の加護:《ユグドラジル》
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「……エル、強いな」
彼女が渡してきたステータスボードを見て、そうカズオが呟くのも無理はないだろう。
まず、レベルの高さは、年齢から考えるとまさに異常である。魔法に関する能力値はあまり高いとは言えないが、その他の能力値の高さ、それに加え武器使用や体術や気配察知などのスキルレベルの高さ。それに加護の能力も合わせ持っているとなれば、相当な強者であることがわかる。防御力の強さからも、凄く強い装備をしているようだ。
「えへへ、ありがとねー。でも、魔法の適性は風しかないからねー。魔法以外なら期待してくれてもいいよ」
エルレンシアは自身の嬉しい感情をウサミミで表現するかのようにピョンピョンと動かしていた。
「へぇーそうか。ならエル、ちょっと簡単な作戦が思い浮かんだんだけど、聞いてくれないか?」
「作戦?」
カズオの言うそれは、作戦と言えるようなものではなく、単に敵を逃がさないようにするための戦法であった。
村を囲っている塀の外から中にいるブリザードウルフが、逃げ出さないように入口と出口で挟み打ちのようにして、進撃するというただそれだけものであった。
ーーただし1つ問題があった。
「うーん、挟み撃ちにしたら塀の中にいるモンスターなら逃げないように倒せると思うけど、塀の外にいるスノーウルフはどうするの? それに挟み撃ちしてるときも横から逃げ出さないとは限らないんじゃない?」
塀の外、つまり広く辺りを探索しているスノーウルフ達である。確かに奴らが四方に散らばり逃げおおせたり、あるいは逆に戻ってきてこちらが、はさみ撃ちをされるということも考えられるのだ。それに村の四方にある門から横へ逃げられるという可能性もある。
だが、それとは関係なく彼女は挟み撃ちをすればカズオの戦闘シーンが見れなくなるのではないか、とも考えていた。
「あぁ、それなら大丈夫だ、心配ない」
「大丈夫って、周りのスノーウルフをカズっちが倒すってこと?」
「まぁ、とにかく大丈夫だから。俺が雷魔法で合図するまでは、ひとまずエルは村から距離をとって頂上側に居てくれないか? それで、俺の雷の合図が見えたら攻撃を始めてほしい。俺は反対の麓側から村に攻め込むから」
エルレンシアは“大丈夫”という言葉だけで教えてもらえないことが不満であったようだが、カズオのそのからかうような表情から、彼女は騙したことについてのお返しをされているのだと気がついた。
そして、その話し合いの後、エルレンシアはカズオと別々な方向へ別れると、はさみ打ちということ以外に細かい作戦は特には決めず、作戦は開始された。
彼女はカズオに言われたとおり、距離をとって頂上側の方向へと向かう。その位置にたどり着く前には、何度か徘徊しているスノーウルフの気配を察知して倒そうかと思うが、彼の言うことを優先しようと思い、気配を避けながら移動する。すると頂上へ行くにつれて現れる、という強いモンスターにも遭遇することもなかった。
「それにしてもカズっちは何をする気なのかな」
エルレンシアは、村からかなり距離の離れた位置に着くと、雪山から村を見下ろすようにしてそう呟くのであった。
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テントを張った場所から谷を下り、雪山の麓まで移動すると、見上げるようにして目の前の山の中腹に村が目視できた。そして、そこでカズオは、エルの気配が途絶え十分に距離が離れたことを確認すると“精霊王の加護”を発動させる。
「ーーーー《アルカディア》」
カズオが唱えるとすぐに薄い光のオーラは現れ、数秒後にはいつものように薄くなり見えなくなった。
精霊王の加護は、単独では不可能な合成魔法を可能にする能力である。
精霊王の加護を発動した後、彼は目を瞑ると、その強大な魔力を体の中心部へと集める。そして、魔力が中心の一点に集中させる。
ーーーそして、ついにカズオは第3の加護“天空神の加護”の能力の1つを同時に発動させる。
「《アブソリュート・ディメンション》」
カズオがそう唱えた次の瞬間、先ほど体の中心に集まってきていた魔力が光り出し、青白い光に変わり、その光りは彼を中心に加速度的に球状に膨らんでいく。
そして、数瞬にしてその青白い光の球体はこの目の前にそびえ立つ標高3000メートルはあろう雪山の全てを覆い尽くす程巨大化し、その形状を維持する。
アブソリュート・ディメンション、その効果はいたって単純である。それは圧倒的な気配察知。いや気配といえば語弊があるであろう。気配ではなく魔力や生命反応の正確な位置を知ることができるのである。勿論、そのドーム状の光の中だけであるが、その超広範囲索敵能力がカズオの最強の索敵能力であることは確かである。
ーーーそのまま彼は閉じていた瞼をひらいた。
アブソリュート・ディメンションのドームとアルカディアの合成魔法可能状態の両方を発動したまま、彼は魔力を集め、右手に炎を表す赤い光を、左手には土を表す茶色の光を出現させる。
そして、左手を上に翳すと(かざすと)直後、両方の光は左手に集まっていき禍々しい(まがまがしい)光へと変わり、直後遥か上空に巨大な魔法陣が現れた。
「ーーーー『メテオストライク』」
あらかじめ掛けておいた《アルカディア》の能力により、土と炎の合成魔法を発動させたのである。
詠唱する前から、遙か上空に現れていた魔法陣から赤い何かがいくつも上空から、真下にいる敵へ向けてに放出された。そして、遠くからでは無数の赤い何かにしか見えなかったそれは、数秒後にはその姿は鮮明に見えるようになる。
それは岩の塊、否。火属性により、真っ赤に燃える溶岩であった。そしてそれは、重力に逆らわず対象に真っ直ぐと落下していく。
「「「ーーードドドドドドド!!! 」」」
凶悪な灼熱の岩石が地面に到達すると、轟音と共に地面が揺れ爆発が生じた。そして雪が蒸発したのであろうか、大量の湯気が立ち込め、辺りは違う意味での白一色となった。
「ふぅ……さすがにいろいろとMPの消費がやばいな」
カズオは、自身のMPの減少と溶岩の直撃によるスノーウルフの排除を確認すると、アブソリュート・ディメンションによる光のドームを解除した。すると、魔力の供給が途絶えたことにより、ドームの光は薄くなり、巨大な半球は消滅した。
そこでカズオは思い出したかのように雷属性の黄色い光を右手に集め、魔法陣を展開し、その手を空に翳した。
「ーーーー『ボルト』」
雷属性初級魔法ボルトを発動すると、その稲妻はエルレンシアのいる方の上空へ打ち上げられ、十分な高度に到達すると彼の魔力操作によりその稲妻は強く発光し、そのまま空に滞在する。
これは、勿論、エルレンシアへの周囲のスノーウルフを排除したという合図である。
彼女はこの合図を見る前に、メテオストライクによる赤い光を見たかは定かではないが、今の合図は見えていると思うので、事前の作戦通り、行動してくれていると信じ、カズオは予定通り村へ向かうのであった。
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エルレンシアが合図を待っていた頃、突如として、何か青い光りに包まれ、視界が薄青くなった。
「何この光!?」
エルレンシアが驚いた次の瞬間には、上空に巨大な魔法陣があらわれた。彼女は次々と理解できないことが起きており、少し混乱していた。かなり離れてはいたが、その様子を彼女はしっかりと見ていたのである。
(何この青い光り? ……それに、あの魔法陣は何なの!?)
エルレンシアがそんなことを考えていた時、その上空にある巨大な魔法陣から赤い何かが降り注がれた。
(カズっちの……魔法!?)
すると数秒後には轟音と共にその赤い何かは地面のあちらこちらに到達すると、湯気を発し、下の様子がわからなくなった。
(何が起きてるの? ……もしかして、カズっちって……)
「2つ持ち?」
彼女がそう呟いた時であった。彼女の視界には、上空へ上がる一筋の光がはっきりと見えた。
(これが合図ねっ! )
エルレンシアは、その光の意味に気がつくとすぐに、自身の驚異的な移動速度で村へと向かうのであった。
(今度はあたしの番なんだからっ!)
そう意気込む彼女は流石は速さSランクであろうか、その凄まじい移動能力で、すぐに村へと近づいていく。
ーーーー!!!!
山を下り、中腹にある村の付近にきたエルレンシアは、その白い蒸気が充満する場所で、肉が焼けるようないやな生臭い臭気を感じるとともに、ものすごい光景を目の当たりにした。
そこには何かわからないような無惨な肉塊、たぶんスノーウルフの亡骸であろうものが転がっていた。どれも四肢満足なものは無く、一瞬で絶命したことは明らかであった。
彼女が驚いたのはその無惨な死体の数もそうだが、それらの死体が全て攻撃の直撃を受けていたということである。爆風でも熱でもなく隕石の様な何かが腹に命中し、命を失ったようであったのだ。
エルレンシアは目の前の光景にただただ立ち尽くした。
通常、広範囲な魔法は精密な制御が不可能であり、モンスターの周辺をまとめて攻撃するものである。つまり、数打ちゃ当たる、当たれば儲けもん、という考え方だ。
だが、彼女は思っていた。これはそんな生ぬるい攻撃ではないと。
かなり広範囲を、とてつもない威力で、有り得ない魔力操作により直撃させているとしか考えられなかったのだ。空を覆うほどの数があった訳ではない攻撃の全てが、モンスターに当たるなど考えられないからである。
(こんな魔法…見たことない……)
彼女は目の前の光景を信じられないでいた。
ーーー新しい魔法。
この魔法が王都や他の国で行使されれば、そう言われることは間違いないだろう。彼女が聞いてきた魔法の中でおそらく最高範囲の魔法。それにこの雪山にいたモンスターを一掃するほどの威力を持った魔法である。つまり、この世界の魔法において、それは戦略的破壊兵器にも相当するであろう。
そんな事を考えていたが、そこで彼女は自身の役目を思いだし、また村へ向けて進み始めることにした。
(考えるのは後。今は急いでカズっちにいいところ見せないとねっ)
エルレンシアが村へ更に近づいていく途中、スノーウルフの亡骸の数が近づくにつれて増えていくことに気づくが、そんなのは彼女にとってはもう想定内の事であった。その亡骸が塀の側まで続いているということも。
ある程度進むと村の塀の門に差し掛かった。それにやはり門はしっかりと閉まっていた。だが、彼女にはなんら問題はない。
「よいしょーっ」
エルレンシアは自身の女の子らしい細い腕を門の下に刺し入れると、その腕力のみで門をこじあけようと力を込める。
すると、門が壊れているのではないかと思う低い音を立てながら、ゆっくりとその大きな木製の門は開けられ、開けられた門の奥には10匹以上のスノーウルフが臨戦態勢で彼女を睨みつけている。
ちなみに、エルレンシアはこれらの気配を事前に察知していたが、彼女にとっては別に驚異でも何でもないので、構わず入ったのである。
「ありゃーー、家がもう結構壊れちゃってるんだねー。住人さんには同情するよー」
そんな呑気なことをいいながら、エルレンシアはそこでようやく自身の盾と長剣を取り出した。
その時、タイミングを合わせたかのように、3匹のスノーウルフはエルレンシアを目掛けて跳んできた。それはBランクモンスターの名に恥じぬ速度であり、並の冒険者では対処するのが困難であるだろう。
すると、エルレンシアとスノーウルフが接触するかという刹那、彼女は目にも止まらぬ早さで長剣を抜き、華麗な剣舞を炸裂した。とはいえ、その速すぎる剣の動きは通常な人間には見えはしないが。
そして、瞬間移動をしたかと錯覚する速度で彼女は数メートル先に膝を曲げジャンプの着地をしたような体勢とる。
直後、こちらに向かいに跳んで来ていたはずの3体のスノーウルフの胴体と頭を切り離され、ボトボトボトという生々しい音とともに、そのまま重力に従い地面に激突していった。
さすがはB+ランクモンスターがまとめるBランクモンスターの群れといった所か。すぐさまエルレンシアの実力を理解すると、一匹が後ろに撤退し残り全てがそれを殺させないように守りの陣形をとった。後退した一匹が、ボスであるブリザードウルフに知らせるのであろう。
エルレンシアは、ボスであるブリザードウルフを呼ばせて戦ってみたいと思ってはいたが、彼女はモンスターの作戦通りに事を進ませるのが気にくわなかった。
「ーーー『ウィンドスラッシュ』ッ!!」
彼女の声が響くと同時に、風の刃が放たれた。そして、直後、先ほど後退していたスノーウルフと、それを守るように直線上に重なっていた数匹のスノーウルフも同時に切断された。
ちなみにウィンドスラッシュなどという魔法は本来存在せず、ただの風属性初級魔法『ウィンド』を使用したものである。
それは風の斬撃を空中に放つことが出来るというもので、元々の斬撃と比べると威力はかなり落ちるが、彼女にとってザコの殲滅にはもってこいであるのだ。しかし、Bランクは“普通”の冒険者からしてみればザコではないが。
「ーーーとぉーっ」
地面を思いっきり蹴り、一瞬にしてスノーウルフとの距離をゼロにすると、可愛らしい掛け声と共に長剣の斬撃でさらに3匹のスノーウルフを両断する。
そして、何度かその閃光の如き高速な攻撃を続けると、文字通りそこにいる10数体全てを20の大小の肉塊と化した。
もちろんまだ、この村にいる全てのスノーウルフを討伐した訳ではないが、眼下にいたものを全て倒したことにより、一時停止するウサミミ少女。彼女の足下にはスノーウルフの亡骸が無惨にも転がっていた。
やはり彼女の前では中級、いや準上級者レベルともいわれるBランクモンスターも難なく倒せてしまうのである。
一学生の段階でほぼ有名パーティークラスの実力を持つことは、まさに圧巻の一言である。
(カズっちは今こっちに向かってるのかな? )
そんなことを考えると、エルレンシアは気配を探りながら、また剣と盾を握りしめ、村の中心へ向け走っていくのであった。
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