上院議員は激怒した
ハーレー・ハリウッド上院議員は有名大学に在学中アメフトプレイヤーとして活躍し、首席で卒業。卒業後は軍に所属、いくつもの勲章を受賞した。退役後は政治家へと転身。戦友であったエイブラハムと共に実績を積み重ね、上院議員となった。
彼は地球時代、人々の自由を脅かす存在を心より憎んでいた。それはこのファンダージアの世界に来ても変わらない。
「ば、ばけもの……」
奴隷市場に倒れ伏す奴隷商人がつぶやく。彼と彼の私兵たちは上院議員のアメフト仕込みのタックルによって再起不能となった。
なまじ魔法があるために冶金技術の低いこの世界の槍と鎧など、怒りに燃える上院議員のタックルの前には紙細工も同然であった。
この世にはびこる奴隷商人の一部を排除した上院議員は市場に囚われた奴隷たちの鎖を踏み砕き、引きちぎった。
その姿がエミリーにはどう見えただろうか。この時よりエミリーが上院議員の後に続く姿がよく見かけられるようになった。
「諸君らは今自由となった」
奴隷市場の檀上に立ち、上院議員は演説を始めた。
「しかし、その自由は儚い。なぜか?この世の自由を憎む悪しき輩が
鎖を持ちもう一度君たちを縛り付けようとしているからだ」
解放された奴隷たち、亜人、敗戦国の国民、異端者etcが上院議員を見上げる。
「諸君らはただ縛り上げられ、もう一度奴隷の地位に甘んじるか?自らの心臓を他人の掌の上に載せるのか?」
奴隷たちが拳を振り上げ否定する。
「ならば戦うのだ!! 自由を勝ち取れ!!」
市場が奴隷の歓声で埋め尽くされる。
「君たちは本日をもって、そして永遠に自由の身となる!!今日ここに自由国家ユナイテッド・ステイツ・オブ・ファンダージアの建国を宣言する」
「「「USF!USF!」」」
広場が自由を得た歓喜の声で埋め尽くされる。
建国即日、USFはエンパイアに宣戦布告した。当初エンパイアは小規模な奴隷反乱だと判断し、鎮圧隊を送ればすぐに片付くだろうと予想した。
しかし海兵隊式訓練により戦闘能力を著しく高めたUSF軍に鎮圧隊は壊滅した。上院議員も肩が膨らんだアメフトアーマーに身を包みタックルで鎮圧隊の前線に穴を開けるなど、英雄的な活躍を果たした。
周辺都市が制圧され、砦の上に星条旗が翻る様を斥候からの報告で知ったエンパイア首脳部は大きな衝撃を受けた。
「皇帝陛下!! これはゆゆしき事態ですぞ!!」
長い白髭を伸ばし、眼下の落ち込んだ見るからに不健康そうな帝国枢密院議員が肺の中の空気を振り絞って皇帝に奏上する。
皇帝はつまらなさそうにあくびを返した。まるで些細なことであるかのように。
「陛下、反乱の動きは他の州にも及んでいます。」
「このままでは帝国中の奴隷が反乱を起こすやもしれませぬ」
「早急に大軍を送り込み、反逆者共を血祭りにあげねば」
「そもそもこんな反乱を指揮できるのはいったい何者なのだ」
ほかの枢密院議員たちも口々にざわめく。
「どうでもいい」
皇帝がこの会議が始まって以来初めて言葉を発した。
「それより“終わりの火山”の制圧はどうなっている?」
皇帝は議場のテーブルの上に広げられた地図の一点を指し示す。
「はっ、すでに帝国カイヘイ隊が防衛陣地を制圧。残党のシャーマンどもを駆逐すれば占領は完了となります。しかし……こんな何もない火山を制圧されてどうなさるおつもりです?」
議員の言葉に皇帝は返事を返さない。
そこに、枢密院職員がドアを開けて入ってきた。
「おそれながら申し上げます。此度の反乱、首謀者の名前が斥候より報告されました。首謀者の名はハーレー・ハリウッド。ジョーイン議員を名乗っているそうです」
「ハーレー……ハリウッドだと?」
その名前に皇帝が反応した。
「くくく……そうか……お前も来ていたのか」
「こ、皇帝陛下……?」
皇帝はあまり笑うタイプではない。そのため突然笑い出したのを議員たちは訝しんだ。
「いいだろう。私自ら出る」
皇帝は立ち上がり、議場を後にした。
一週間後、ハーレー・ハリウッド上院議員は道なき道を走り続けていた。
突然USFホワイトハウスに現れたエンパイア皇帝を名乗る男。その男は皮とゴムでできたボールを巧みに操り、ドリブルで攻撃を回避しながらスリーポイントシュートで警備にあたっていた兵士をなぎ倒しエミリーを誘拐した。
皇帝が去った後には一通の手紙が残されていた。
『“終わりの火山”で待つ』
諸国との同盟のための遊説から帰ってきた上院議員はその手紙を見るや否や、大学時代ランニングバックを務めることで鍛えた脚力を頼みに駆けた。