月想歌
夏祭りの帰り路、浴衣を着た小さな君は紅の髪飾りをつける。母の手を握りつつ、はしゃぐ。そんな穢れを知らぬ君を宙のウサギが見守る。
欠けゆくそれは白く輝く弓となったかと思うと、暗赤色の円となる。いつも利発そうな君も、この時ばかりは呆けていた。そんな君の肩に父が手を置く。
月は慈しみ、月は憧れ。
人類最初の一歩。その白黒画像をくい入るように見つめる君の手は汗で湿る。あたしも行くと昂然と言い放った君に親友がほほ笑む。
隠れていた金星が暗縁から顔を出す。その煌めきは黄玉。指を絡めて見つめあう君たち。その瞳の輝きは金星にも劣らない。
月は勇気、月は希望。
疲れを知らぬ君。仕事が楽しくて仕方ないと言う。きっと君の心の中には熱いマグマの海があるのだと思う。
想い人は、いつも別の娘を見ていたことに君は気づく。真夜中の林を彷徨う君を十六夜の光が導く。
月は源、月はしるべ。
一人旅。飛び立つ孤独なそれを、首が痛くなるまで見上げ続けた君。サトウキビの柔らかな甘みと、耳に残る轟音を決して忘れない。
高層住宅の狭い部屋を駆け回るやんちゃに嘆息する君。終の住まいは静かに地球を愛でられる表側がいいと言う。
月は過去、月は未来。
いつも、君の胸には月がある。
僕にも夢と憧れがあったことを忘れていた。僕には誇りと翼があったことを忘れていた。だけど、今の僕の翼はとてもひ弱で雲母のように薄い。
だから、待っていてほしい。いつか、大きな翼を力強く広げて迎えに行く。君を背に乗せ、月へ行こう。アペニン山脈を飛び越え、雨の海を泳ぎ、しるしを辿ってコペルニクスの縁に立とう。
月はしるし、月は約束。
この詩は、拙作「月香姫を探して」第13話「月想姫(番外)」で用いたものです。




