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虫愛づる姫君

君は昔から虫が好きだった。


一緒に、神社の縁の下に潜っては、砂だらけになりながら、アリジゴクに餌をやったし、

どちらが、たくさんセミの抜け殻を見つけられるか競ったこともあったし、

クヌギに止まったカブトムシを、先に見つけたのは自分だと言い争っているうちに逃げられたこともあった。


カマキリの孵化を非常事態だと言って駈け込んで来た君の手は、食パンのように柔らかで白かったし、

スカートの中が見えるのも気にせずに、ショウリョウバッタを追いかけ回す君は、眩しくて正視できなかった。

でも、赤トンボを睨みながら、人差し指を何度も何度も回す君の忍耐力にはつき合いきれなかった。


君が、ミヤマクワガタに指を挟まれて、涙をぽろぽろ落としながらもじっと黙っていたことも知っているし、

カマキリとにらめっこしながら首を傾けた君が意外に可愛いのは、僕だけの秘密だった。


アリの巣穴に水を入れた僕に、ひどいじゃないと怒った君は本当に怖かったけれど、

毒を吸い出すのだと言って、ミツバチに刺された僕の指を口に入れた君は優しかった。


君のお気に入りは蝶だったね。

アオスジアゲハの輝くようなブルーにため息を漏らしたし、

やっとの思いで見つけたオオムラサキに、思わず敬礼していた。


でも、君の一番のお気に入りは芋虫だと僕は知っている。

豪快に葉を食い破る芋虫に目を細めていたね。

何かに追われるように食べ続ける芋虫を哀れんでいたね。

そう、僕は知っている。その芋虫に醜い自分を重ねていることを知っている。

劣等感に苛まれ、自信を失った君は、黙って蛹を見守っていた。

蛹を抜け出し、羽を広げる蝶に、君は息を詰めていた。

虚空に消えていく蝶に目を潤ませていた。


僕だけが知っている。

君が内に宝石を秘めていることを。

もうすぐ君が蝶になることを。


さあ、羽ばたけ!



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