本と森
「やっぱり、起こるんだな……」
そう言うと、自分の世界に入りぶつぶつとつぶやきながら、書斎に入っていってしまった。
書斎には、緑が家から持ってきたらしい本がたくさん並んでいる。もうそろそろいっぱいになっていて、だが緑は次々と本を持ってくるため、あふれそうになっている。どこに置くのだろう?と考えたりもするが、私も暇で本を読んでいるので、家が本でいっぱいになるのもいいかな…と思うようになっていた。
しばらく出てきそうになかったので、紅茶をいれ、テーブルに置きっぱなしになってしまっていた本を手に取った。初めて見るその本に興味をそそられる。だがこの家で初めて見る本だということが珍しく思えた。今日、緑は家に戻っていない。だから新しい本はないはずだ。とすると……緑がいつも持っていたあの本なのだろうか?
読んではいけないものなのだろうが、どうしても見たくなってしまう。
好奇心に負け、恐る恐る最初のページをめくる。一ページ目は白紙だった。
私は一ページ目をめくり終え、一息つく。やっぱりやめよう。そう思い直し、本を閉じる。そして、緑が来るまでその本をじっと見つめていた。
「どうしたんだ?そんなに見つめて……」
目線を外し緑のほうを向くと、緑は私が見ていたものに気づき、駆け寄ってきた。そして本―――手帳のほうが正しいのかもしれないが、本のように分厚い―――を抱え込むように持ち、焦りを浮かべた表情で「見た?」と聞いてくる。その問いかけに私は首を横に振る。
「緑、いつもそれ大事そうに持ってるけど、それって何?」
尋ねられたことにまた焦りを見せ、しばらく黙ってしまった。
沈黙が続く。緑との沈黙は嫌じゃないと思っていたけど、今日は嫌な沈黙だった。気にはなるが、緑が言いたくないことならと思い「ごめんね」と一言行って、外に出た。
森は青々としていて、いつもと同じ穏やかさを保っているはずだった。でも、何かが違う。さっきのせい?いやもっと何か変な違和感だ。この森にあるはずのないもの。それがこの森にあるような気がする。
辺りを見回すが何もない。だが、よくよく耳をすましてみると、森の奥の方から物音が聞こえる。それに話し声も。不審に思い、足音を立てないよう息を潜め慎重に近づく。
物音や話し声が鮮明に聞こえてきた。木の間から視線を覗かせる。2、3人、迷彩柄の服をきた男が少し大きな建物の入り口に立っている。明らかにその空間がおかしいと思えた。
死のにおいがしたのだ。だがそれとは逆に人を生かすにおいもする。どういうことなのか不思議に思う。
考えを巡らす。冷え切った頭の中は物凄いスピードで回転する。過去の記憶、文献の資料そして最近のニュース。全てに共通してあのにおいを感じるのは、人を殺すもの。人を生かすものはなんだかわからない。共通してこれというものがないのだ。
耳をすませば男達の会話が聞こえる。
「本当にやる気なのか?政府は……。核戦争なんてものを」
「さぁな。でもここまで秘密裏にやってるってことはやる気なんだろうよ。核をここで作ってるってことを民間人に知らせてないのは、反対されるってわかってるからだろうし。それに、もう動いてるよ、大国は」
息が詰まった。体は怒りのあまり言うことを聞かず、動いてくれない。
こんな平和なところで、あんなものを作っているということが許せなかった。そして、それをしっっている人が目の前にいるのに怖くて逃げ出したいと思う自分も許せなかった。
『戦争なんて起こしてはいけない。核なんて使ってはいけない』
そう伝えなければいけない。
政府の人間に。
この国の人たちに。
世界中に。
死ぬかもしれない。だが、私が生きていたのはいつ死んでもおかしくない。怖くないといえば嘘になるが、死ぬ覚悟はとっくにできている。
何十億人もの人が敵になったとしても、何十億人もの人の命を守ることができるのなら…。
何かをすることに犠牲が必要なら、私がその犠牲になる。
遅くなりました。
今回は忙しくて、なかなか書けていませんでした。
すみません。