表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

生きるもカネ、死ぬもカネ

男は人生のドン底にいた。

事業に失敗し、家族にも捨てられた。

男に残っているのは多額の借金だけだった。

「そうだ。死のう。」

男は死を決意した。

この世への未練はなかった。

男はタンスの引出しから、睡眠薬を取り出した。

「死ぬときは、眠るように死にたいもんだ」

男は睡眠薬を飲むと、ベッドに横になった。

最期に色々と感慨にふけりたかったが、瞬く間に眠りに落ちた。

しかし数時間後、男は普通に目が覚めた。

「なぜ目覚めてしまったんだろう?」

男は台所へ行って、水を飲んだ。

すると残飯入れのなかに睡眠薬が大量に捨てられていた。

それを見て、男は首をひねった。

「全部飲んだつもりだったが…」

捨てられた量からして、男が飲んだ睡眠薬は少量もしくは、飲んでいないに等しかった。

男は次に、ガスで死ぬことにした。

ガスコンロからガスを出し、男は床に寝転んだ。

今度こそ、死のう。

だんだんガス臭くなってきた。

しかし時間がたっても男の意識ははっきりしたままだった。

不思議に思った男は起き上がった。

見回してみると、閉めたつもりの窓が開いていた。

「始めに全部の窓を閉めたはずなのに…」

男はまた首をひねった。


次に男は首を吊ることにした。

あまりこういう死に方はしたくなかったが、仕方ない。

ロープを首にかけ、乗っていた椅子を蹴った。全体重が首にかかり、ロープが食い込んだ。

その途端、ブチリとロープが切れ、どすんと男は落ちた。

「いったいどうなっているんだ?」

男がちぎれたロープを見ると、ロープはあらかじめ切り込みを入れたようなあとがあった。

男は府に落ちなかった。

まるで誰かが俺の死ぬのを邪魔しているようだ。


男はビルの屋上にいた。

睡眠薬もガスも首吊りも失敗して、次に考えついたのは飛び降りて死ぬことだった。

「今度こそ、失敗はないだろう。」

男はフェンスの下に靴を揃え、屋上から飛び降りた。

落ちる途中、男の意識はとんだ。

しかし、気がつくと男は地面の上にいて、生きているのだった。

男の周りにはざわざわと人だかりができていた。

驚いたことに、男はいつの間にかパラシュートを装着していた。

パラシュートを装着した記憶はないが、自分と一緒に開いたパラシュートがあることから、パラシュートを装着して飛び降りたのは、明白だった。

「一体、どうなっているんだ!」

男は飛び降りた恐怖からまだ震えている手で、パラシュートを手繰り寄せた。

パラシュートに、どこかの会社のロゴマークと電話番号らしき数字があった。

見覚えなかったが、何か分かるかもしれないと、男はすぐさま電話をかけた。

「お電話、ありがとうございます。生命維持保険会社should not die (死なせない)略してSND株式会社でございます。」

「ほ、保険?」

男は関係ない会社につながってしまったと思ったが、とりあえずパラシュートの件を話してみた。すると、

「伺ったところによりますと、お客様は当社の保険に入っていると思われます。お客様のお名前、生年月日をお聞きしてもよろしいですか?」

と向こうは言った。

男が名前と生年月日を述べると、電話の向こうでカタタタとキーボードを叩く音がして、

「お客様は5年前に、自殺防止保険の10年間の商品に加入されてます。」

と返ってきた。

「何だって?俺はそんな保険に入った覚えはないぞ」

男は言った。

「はい。当保険はその名の通り、自殺を防止する保険でございます。お客様が自殺をする前に保険を解約しないように、保険に加入した記憶は消されております。したがってお客様が保険に入った覚えはないと言われるのも当然の事でしょう。」

「なんてことだ。その、保険てのは、自殺できないという事なのか?解約はできるんだろう?」

「はい。解約は可能です。しかし、お客様には自殺させないための高度な催眠術を10年間分施してありますので、残りの5年分の催眠を解くための施術代がかかります。」

「い、いくらなんだ?」

「はい。50万円でございます。」

男は耳を疑った。

もう笑うしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ