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猫の集会所  作者: 眞乃鋳
9/10

8・冬支度

 真夜中に集会所の側を通りかかった老人は、腰を抜かすほど驚いた。

なんと集会所の真ん中に、猫が山積みになっていたのだ。老人は動揺しつつも、おそるおそるその猫の山に近づいていった。

離れたところから見るよりも、その山は遥かに高くそびえたっている。約二メートルといったところだろうか。

「死んでいるのだろうか」

 他に誰が聞いているわけでもないのに、老人は声を潜めて呟いた。

そして試しに一匹の猫を抱き上げてみた。

すると。

「ちょっとじいさん! 寒いじゃないの、何すんのよ」

物凄い剣幕でその猫に怒られ、思わず手を放してしまった。

 猫は上手く着地すると、なにやらぶつぶつ文句を言いながら、猫の山へよじ登り始めた。

そして元いた位置まで戻ると、隙間に顔を突っ込んでまた眠り始めた。

「ここで何してるんですか」

思わず丁寧な口調になってしまう。

何度か呼びかけた末、さっきの猫が仕方無さそうに顔を老人の方へ向けた。

「うるさいわねぇ、あんた誰なの」

「いや、通りかかったものですが」

「じゃ、口出ししないでちょうだい。あたしたちは今、冬支度してんのよ。これからが戦争なんだから」

「ふ、ふゆじたく?」

「これから寒くなるでしょ。今からちゃんと用意しておかなくちゃ」

 そうですか、と妙に納得した老人はそのまま立ち去った。


 次の日。

商店街で買い物をしていた老人は、福引大会で賑わう一角を通りかかった。

「ねえねえ」

声をかけられて振り向くと、小さな女の子が立っていた。迷子にでもなったのだろうか、周りには保護者らしき者の姿はない。

「どうしたんだい」

「これあげる」

 少女はニコニコしながら、ピンクの紙を五枚差し出してきた。

福引抽選券。五枚で一回。と書かれていた。

それを読んでいるうちに、少女の姿は消えていた。

 特に何があたるわけでもないと思い、気軽な気持ちで福引をすることにした。


ガラガラと木箱が回る。

出てきたのは、白い玉だった。

「はーい、あなたは二匹ですね!!」


そして手渡された紙には『おめでとう 猫二匹 引換券 ※交換場所は猫の集会所です』の文字が。



 その晩、ためしに老人が猫の集会所に赴くと、そこには長蛇の列ができていた。

よく見ると、広場から帰っていく人の腕の中にはそれぞれ猫がおさまっている。列の先を見てみると、あの猫山があった。

「はい、さっさと並んでくださいね!」

後ろから誰かに背中を押され、気が付くと列の最後尾に並んでいた。

 待つこと五分。

目の前まで迫った猫山の高さは、先日見たものと比べておよそ半分になっていた。

猫山の傍に立っていた猫に、引換券を見せるように言われる。

「二匹ですね。じゃ、どうぞお好きな猫を。春になったら逃がすもよし、そのまま買うもよし。ただし、選んだ猫の命の保障はしてくださいね。殺したりしたら、ただじゃおきませんよ」

 何を理不尽な、と思いつつ猫山を見ると、昨日自分を怒った猫がいるのに気づいた。

「じゃあ、この子とこの子にします」

迷うことなくその白猫と、隣にいた三毛猫を選んで帰った。



ね、よかったでしょ。

この冬はお互いあったかく過ごせるというわけよ。

あたしは上手くえさにありつけるし、あんたはあたしを膝の上に乗せておけば良いのよ。

まさに一石二鳥というわけね。


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