2・見張り番
少年達はその日、夕日ヶ丘二丁目の空き地で遊んでいた。いつもの空き地は、別の子ども達が使っていたため、普段はあまり来たことの無いここへ来たというわけだ。
しばらくサッカーをしていると、十歳くらいの少女が一人やってきた。そして、空き地の隅の方へ座ると、じっとサッカーをする少年達を眺め始めた。
最初のうちは、仲間に入れてほしいのだろうかと思い、ちらちらと少女の様子をうかがっていた。しかし、サッカーを見るのが楽しいらしく、彼女はその大きな瞳をうれしそうに細めているだけだった。少年達は、誰もが声をかけようか悩んだが、結局近づくことさえ出来なかった。そして数分目をはなしているうちに、いつの間にか少女は消えていた。
次の日曜日。誰が提案したわけでもないのに、少年達は自然に、夕日ヶ丘二丁目の空き地へ遊びに出かけた。しばらく鬼ごっこをして遊んでいると、またあの少女が現れた。そして隅の方へ行き腰をおろすと、少年達の遊ぶ姿をじっと眺めだした。そこで今度こそはと思い、少年達は思い切って少女に声をかけてみた。
「誘ってくれてありがとう。でも、私はみているだけで良いの」
少女はにこりと微笑んでそういった。
それから毎週のように、少年達は空き地に通うようになった。少女も毎回姿を現した。依然として、何も言わずじっと少年達を眺めているだけだったが、とても楽しそうだった。一月程空き地に通うようになってから、一人の少年が母親にこんなことを言われた。
「あんた達が最近通ってる空き地だけどね、あれは猫の集会所っていうんだよ。何でも化け猫がでるっていうから、あんまり遅くまでいるんじゃないよ」
しかしこの言葉は、かえって少年の好奇心を刺激してしまった。彼は、いつもの仲間達にそのことを打ち明け、化け猫を捕まえようと言い出したのだった。もちろんそれに反対するものはおらず、次の日曜日には皆、意気揚々と空き地に出かけていった。
そこで、一人の少年がある事に気が付いた。もしかして、毎回やってくるあの少女が、実は化け猫なのではないかと。
少年達はきっとそうに違いないと言い、あの少女が現れるのを待った。ところが、五分待っても十分待ってもその日少女は現れなかった。そのうち日も落ち、そろそろ帰ろうかという事になった。
しかし、その時。少女がいつも座っていた空き地の隅の方で、黒く大きな影が浮かび上がった。影は見る見るうちに巨大な猫の形になると、なんと少年達の方へ迫って来る。彼らは驚いて逃げ出そうとしたが、影猫は空き地の入り口に先回りして、逃げ道を塞いだ。そしていつの間にか、影猫の数はどんどん増え、少年達は四方を取り囲まれてしまった。
影猫が大きな口をあけて威嚇する。真っ黒な口の中には、真っ白く尖った歯がびっしりと並んでいる。このまま食べられてしまう、誰もがそう思った時だった。
突然影猫達が苦しみだし、締め付けられた様な声をあげながら、地面へ倒れていった。
しばらくすると、その姿はだんだんと消え、仕舞いにはなくなってしまった。
少年達が呆然としていると、いつの間にかあの少女が、空き地の隅に立っていた。そしてこちらにやってきた。
「危ないところだったね。あの影猫達は、いつも空き地の隅からあなた達を狙っていたのよ。今まではいつも私が座っていたから、手が出せなかったのだけどね。今日はごめんなさい。今晩の集会で、皆に配るマタタビを用意していたら、ここへ来るのが遅れてしまって」
少年達は、少女が言う言葉の意味が、しばらく理解できなかった。
「でももう、私が退治したから大丈夫よ」
少女はそう言うと、くるりと踵を返した。すると途端に、その姿が少女から一匹の虎猫へと変わった。
虎猫は一声鳴くと、どこへともなく消え去ったのであった。
今回は、人間に友好的な猫の姿を書いてみました(^^)