研究所より・2
−ほしのはなし−
いっぴきの おばあさんねこが いました
かのじょは じぶんの しを さとり
ひとり しゅうかいじょ へ いきました
ちいさく すみに まるまっていると
ひとりの おとこのこが あらわれました
「どうしたの」
おばあさんねこは しゃべるのも おっくうでしたが
おとこのこに やさしく いいました
「もうすぐ わたしの そんざいが きえるけれど
そうだね ほしに なれたら すてきかもね」
それから なんねんもの つきひが ながれました
しゅうかいじょがあった ばしょには やがて ちいさな ビルが たちました
「あの……去年までたしかにここは空き地でしたよね」
机越しに向かい合う男は、かなり戸惑ったような顔をしていた。その手に小さな花束を持っていた。彼女にはその理由がようやくわかった気がした。
「ええ、もちろんその通りです。私はここにビルを建てる代わりに、空き地の呼び名であった猫の集会所の研究をすることにしたんですよ」
「ああ、そういうことだったんですか」
「表向きは建築士としてやってますけどね。まあ、こっちの猫の研究は裏家業とでも言いますか。そうだ、遅れましたがこれ名刺です」
そうして彼女が手渡そうとすると、男も慌てて自分の名刺を取り出した。
「それで、あの、話の続きですが」
男は今だに心配そうな顔をしている。
しきりに辺りをうかがい、そして花束と彼女の顔を交互に見ていた。
「わかりましたよ。つまり毎年あなたは、その猫のためにお墓参りをしているんですね」
「……変ですかね、もう27にもなる男が。なんだか忘れられなくて。猫が喋ったなんて、未だに信じられないんですけど。まだ命日には早いんですが、ほら、前にこの事務所のチラシ出したでしょう。それを見てびっくりしまして、なんとか仕事を休んできたんです」
「わかりました。大丈夫ですよ、ここを建てるときに墓石らしいものがあったんで、資料としてとっておきたいと思って、その場所周辺を庭にしたんです」
その途端、いきなり笑顔になった男が彼女の手を取った。
「本当ですか平田さん! よかったー、ありがとうございます」
「あはは、それほどでも。ではご案内しますよ。そうだ、後ほどもっと詳しく猫の話聞かせてくださいね。そろそろ研究材料がたまってきてるんで、学会で発表しようかと考えてるところなんです」
二人は席を立ち、歩き出した。
研究所の中には、沢山の猫の写真やぬいぐるみが飾ってある。
「ふーん、面白そうですね」
男はそれらを興味深そうにみている。そこで彼女は試しに聞いてみた。
「よかったら、あなたも研究員になってみませんか」
というわけで、何例かの猫の集会所にまつわる話を研究してきた我々は、今日こうしていくつかの猫にまつわる話を発表するに至る。
少しでもこのような事に皆さんが興味を持っていただければ、それだけで我々研究員の苦労は報われるのだ。
民間説話だと言って馬鹿にする人もいるだろう。しかし被害にあった人などの話を聴いてみると、どうもそれが嘘には見えないのだ。
不可思議で、どこか楽しくもおそろしくもある猫の集会所。
我々の研究はまだまだ続くだろう。
もしあなたがこの研究に興味をもたれたら、どうぞ遠慮なく猫の集会所へ。
以上
猫の集会所研究委員会事務所
委員長 平田 優
雑用及び研究員 佐藤 健二
長らくお付き合いくださって、本当にありがとうございました。
思いつきで書き出したこの物語が、約一年間も続いたのにびっくりです。
それでは、また別の物語でお会いしましょう☆