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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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胡蝶の彼女

作者: 読人福訪希
掲載日:2026/04/15

もし、自分の友人がある時から「幻覚を見るようになった」と言うようになったらどうだろうか。

多くの人はその友人に精神科の受診を勧めたり、あるいは良心がある者なら、悩みがないかを尋ね、親身に相談に乗るだろう。


今、私は幻覚を見ている。

それはあからさまに幻覚であった。ただ、私はそれを現実として受け入れていた。

なぜその幻覚を受け入れているのか理由を聞かれれば、時を二十年も遡って話しを始めるしかない。


私は不幸な生まれであった。先天的に障害があり、筋肉が脆弱な事で身体を長時間動かしたり、免疫が弱いので様々な病気にかかった。

そんな私を両親は愛情を持って最初は世話してくれていたらしいが、私が小学生の時に蒸発した。母の実家に私を置き去りにして。


そこから実家での生活が始まった。ただその生活は長続きせず、私が実家で暮らしてから半年で祖父が老衰で亡くなり、その後を追うように祖母も1年後に亡くなってしまった。


その後は施設での暮らしだった。非常に退屈だった事を覚えている。私は長時間の運動が禁じられていたので、日常は図書室での読書三昧だった。春の日も、夏の日も、秋の日も、冬の日も、ずーっと。

そんな日常の中、ある時から自分の置かれている状況を理解し、希死念慮が生まれた。すぐに死にたかったが、自分を良くしてくれた施設の人達に、自殺をする事で恩を仇で返すようなマネをしたくなかった。私の両親だった人間のように。


憂鬱な日々、しかし人生というのは分からない。そんな希死念慮を打ち消してくれた出来事があった。

彼女との出会いである。彼女との出会いはある本の中でだった。私と似たような境遇に置かれても、一つ一つ壁を打ち壊し、幸せを掴んでいく彼女に私は強く憧れた。


彼女に対する憧憬が強くなっていった時、施設を出て就職する時だっただろうか。

彼女が私の目の前に現れ始めた。最初はただその姿が自分の視界にぼんやりと映る程度であったが、徐々にその輪郭が定まり始め、部屋の中を動き回り始め、私と会話を試みるようになった。


それは幻覚だった。幻覚だと分かっていた。幻覚だと十分に理解していた。

自分の意に反する事は絶対しない、夢を具現化した存在。ただ私はそんな彼女と過ごす時間がとても心地良かった。初めてだった、人と話す事がこんなに楽しい事とは!


私は彼女と過ごす時間を優先する為に、私は内定を貰った企業への就職をやめた。

元々多少の無理をして一般枠で働こうとしていた。生活保護の手続きはあっさりと通った。


人生は暗闇そのものだったが、今目の前に広がる光景は素晴らしい。何事にも意味を見出す事ができ、全てに色が見える。

無気力だった昔の自分と打って変わって、彼女のために、彼女のために、彼女のために、何でもできる。


素晴らしい日々。だが、その日常を壊す男がいた____


「おい、✕✕✕✕、お前やべぇよ。一体どうしちまったんだよ……」


その男とは高校の時に知り合った奴だ。クラスのまとめ役のような男で、絵に描いたような爽やかなスポーツマンだった。私とは正反対のような男であったが、私に興味があったようで、そこそこの付き合いをしていた。

そんな男は、同窓会の幹事をしていたらしく、同窓会開催時に送った葉書の住所を見て、ここへとやってきた。どうやら最近連絡が取れなくて、心配してきたらしい。よくよく見ればスマホには彼のメッセージがたんまりとたまっており、彼女との時間を優先し過ぎて返信するのを忘れていた。


「どうした、とは?」

「いや、こんな部屋中どころか床にも天井にもトイレにも女の写真を貼っているし、キッチンテーブルには腐った食べ物が重なって置かれているし、お前さっきからぶつぶつ誰と喋ってるんだ……」

「ああ……私は彼女と過ごしているだけだよ」

「彼女って、誰だよ」

「ほら、写真に写ってるのが彼女だよ」

「…………なあ、これは写真だけどさ、イラストじゃん。このイラストがお前の彼女だっていうのか?」

「そうだ」

「……✕✕✕✕、一緒に病院へ行こうぜ。このままじゃお前は「断る」……は?」


「断る」

「どうしてだ」

「何が残る?」

「残る?」

「私に一体何が残ると思う?」

「残るって……」

「私には何も残らない、君と違って」

「そんなことは「取り繕わなくていい」…そんなことはないっ!」


「……君にはたくさんのモノを持っている。自分の事を大切にしてくれる親族、自分の事を愛してくれる妻、君の帰りを待ってくれている子供、情熱を注げる仕事、仕事で得た名声と富、明るい将来と未来を描く事ができる才能」

「私には何もない。自分の事を大切にしてくれる親族、自分の事を愛してくれる家族、情熱や富・名声、明るい将来も。彼女が居なくなれば、何も残らない」


「……たしかに今のお前には、お前が感じている彼女という存在を取ってしまえば、何も残らないかもしれない。だけど、未来は分からない。時間が経てば、✕✕✕✕にもきっと……」

「何もかも持っている君がする話に説得力はないし、時間が経てば何事も解決するというの嘘だ。環境を変える事はできない。行動を起こす力があれば、自分を取り巻く環境を少しは変える事ができるかもしれないが、根本的な解決には成らない。才能があれば環境を打ち破る事ができるかもしれないが、その才能が私には無かった」

「俺がいる。お前が前に進むのを手伝う」

「……前に進んでも、何も無い。ただの暗闇だ。私が世間一般の幸せを目指しても、その幸せを実現する事はできない。苦しんで苦しんで、地獄の業火に焼かれながらも希望を抱いて死んでいくよりも、目の前も虚構の幸福を受け入れて、身体が腐るのを私は待ちたい」

「……とにかくだ! このままじゃ駄目だ!!!! 一緒に病院へ行こう、✕✕✕✕!!!」


彼が私の腕を強く引っ張って、部屋の外へと連れて行こうとする。

私は部屋の中に踏ん張ろうとしたが、虚弱の筋肉とトレーニングで鍛えられた筋肉とでは、馬力があまりにも違いすぎた。


「行くぞ!!!」

「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ」


玄関が開き、眩しい光が眼を焼き尽くす。

私はあまりの眩しさに部屋と倒れ込んだ。


「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

「おい、✕✕✕✕!!!」

「ああ、ああ……!……だめだ、だめだ、だめだ、私は彼女と夕食を楽しんでいた…、今は違う、今は違う、今は朝じゃ無い、夕方だ、だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ、彼女は料理を食べた、食べた食べた食べた食べた、彼女はいる、いるんだ、いるんだ!!!!!!」

「おい!!止めろ!!馬鹿!!!」

「待ってくれ、いかないあくれ、いかないて、ああ、あっ……」

「✕✕✕✕!!!」


神が居ないことは理解していた。だがそれでもある事を私は願い続けていた。

どうやら誰かにはその願いが届いたらしい。


私は今_____幸せだ。





























20✕✕年、✕月✕日の昼過ぎに「友人が窓から転落した」という通報が✕✕警察署に入り、警察が現場に到着したところ、このマンションに住む✕✕ ✕✕✕✕さん(✕✕歳)が亡くなっているのを発見しました____✕✕さんの友人がマンションを訪れ_____精神が錯乱状態にあり_____警察は死因の調査を行っており、自殺と他殺の両方で見て_____







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