表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

第四話 嫉妬 ①

 ラムダとオメガが生まれる遥か昔から、世界の滅亡に関する予言は語り継がれていた。『名を持たぬ厄災』、『南の島より這い出た者達』、そして来たる『皆既日食』……その様な滅亡の予言を二人とも小さな頃から耳が腐り落ちる程に聞かされていた為、彼らにとってそれは論を俟たない事象であった。むしろ二人は、人類滅亡の日にリフォストから来た魔獣をどれだけ倒せるかを競おうと言い合っていたのであった。


 巨大都市・バーレーン。そのとある一角にある地下には訪問者を迎え入れる部屋が備えられている。塗装された四方の壁に、綺麗にフローリングされた木目の床。天井からはLEDが部屋全体を照らし、地中にある部屋とは思えない程の開放感が広がっている。

 そこで語られるのは、今後の世界について。サイエンの口から一月後の厄災についての言葉が出てきた瞬間、オメガは思わずフンと笑ってしまった。

「災害……?何だ、お前もそんな物が本当にあると思ってるのか?」

「思っているもなにも、私達はその災害の原因を特定したからな」

 オメガは思わず身を固めてしまった。黙って彼の言葉の続きを待つ。

「地震、竜巻、津波、火災……それらを一纏めにした自然災害がここ数年で急増している事は知っているな。それ以外にもバーレーン、もといリフォスト全土における魔法中毒者の割合の異常な伸び、活発化しているネストの魔獣達。これら複数の事象は互いに無関係に見え、とある一点で交わっている事が最近分かった」わざとらしく間を空けると、「それは、大気中の魔法濃度の上昇だ。それがとある場所ではひとりでに火の魔法になり、とある場所では風の魔法となって自然災害を引き起こしている。魔法中毒者にしても、彼らの内の一定数は薬を使用していなかったにも関わらず症状を発症していた。これも異常に濃くなった大気の魔法を過度に吸い込んだ事に起因している。魔獣に関しても同じ事が言える」

 オメガは言葉一つ出さずに考え込み、サイエンの言った事を頭の中で反芻した。

「……つまりそれらの魔法が一月後の皆既日食時に氾濫を始め、至る所で自然災害が勃発、魔獣も今までに無い程に凶暴になり人里で暴れ狂い、肝心の俺達は魔法中毒になりまともな思考が不可能になる……成程な。これがお前達の思い描く災害の姿か」顎に手を当て、「……どうしてそれと皆既日食の日が重なる?ただの偶然か?」

「それには我々の頭上に浮かび、潮の満ち欠けにも影響を及ぼす赫色の星・ノームが関係している。最近分かった事なんだがな、あの星はどうやら途轍も無い質量の魔法で構成されているらしい。皆既日食はそんなノームがこの星に最も近付く瞬間でもある。だから私達も、魔獣も、この星その物もその魔法に『当てられる』と言う訳だ」

「……それで、俺達に何をして欲しいんだよ。わざわざ全部説明したって事は、俺達には何か出来ると言う事なんだろ?」

「まあ、そうなるな」声を明るくして、「だがどうだ、急に色々と説明をされて混乱してるのではないか?今日の所はこの辺りにして休憩したいだろう?」

「私はずっと休憩してたけど……」

 小さくそう言ったラムダの言葉を聞き流し、オメガは頷いた。

「……そうだな」

 三日三晩森の中を歩き回った疲弊と、ラムダと再開した事で訪れた安心感。その二つが彼の身にのしかかっているのだ。依然として警戒はしたいが、この状態ではまともに戦闘も出来ない。そう判断したオメガに向かってサイエン微笑むと、

「この部屋は好きに使ってもらって構わない。しばらくの間ゆっくりしていろ」

 そう言い残すと、彼はその部屋を去ってしまった。

 そしてその場に残されたラムダとオメガ。オメガは彼女のいない奥側のベッドに腰掛けると、そのまま上半身を後ろに倒した。すると地面からは感じられない柔らかい感触に後ろから包まれ、急激に眠気が彼の瞳を支配した。

 柔らかな寝具の沈み込みは、ここ数日味わっていない種類の『安心』だった。しかしそれと同時に、警戒を鈍らせる毒でもある。オメガはそれを知りながらも、疲労と言う重石に押し切られる様に瞼を重くした。

「オメガ、何だか久しぶりな感じだね。ここ最近何してたの?」

 思わず意識を失ってしまうその直前、ラムダはベッドに寝転がったままそう言った。オメガは首を振りながら上半身を起こすと、

「お前を探してネストの中を彷徨っていたんだよ……それよりラムダ、お前はどうしてこの異常な状況を呑み込んでいるんだ?」

「異常な状況って?」

 きょとんとした表情のラムダにオメガは半ば腹を立てながら、

「少しは考えてみろよ。リフォストには高度に発達した文明があった、一月後に災害が近付いている、十二年前にあの胡散臭い奴が俺達を連れ去り……両親を殺した。これらの内一つにでもお前は何にも思わないのか?」

「そりゃ、私は先に話を聞かされていたからね」読んでいた本に視線を移し、「……それに、この島に文明があった事はずっと知っていたし」

 オメガは面食らった表情を浮かべ、

「知っていた?どうやって?」

「……十二年前、サイエンに連れ去られてここに来た時、私は途中で意識が目覚めたんだ。私は白い天井を眺めながら、サイエンが従者と会話をしているのを聞いていた。『マホウ』、『クリスタル』、『アスフォーダル』……具体的な内容は覚えてないけど、それは確かに意味を持つ言葉だった」

「何でそれを俺や村長に言わなかったんだよ」

「確証が無かったから。もしかしら私が混濁した意識の中で見た夢だったかもしれなかったし。それに言ったとしても誰も信じないだろうしね」

「……そうかよ」

 オメガは小さくそう言うと、再びラムダの服装に目を向けた――白のワンピースとソックス。耳元には白く輝く数珠のイヤリング。唇はいつもより自然な赤みが増しており、肌は対照的に白くなっている。彼女がページを捲ると三つ編みが彼女の首筋を滑り、そっとうなじが露わになった。

「……お前、なんか……変な格好をしているな」

 オメガはラムダから目を逸らしながらそう言うと、ラムダは不満気に口を尖らせた。

「これが可愛いって事なんだよ、オメガ」ベッドから身を起こして、「オメガが来るまで割と暇だったから、サイエンに服とか化粧品を見繕ってもらったんだ。どう?私、可愛いでしょ?」

 ラムダがそう言いながらオメガの前でくるりと一回転すると、ワンピースのスカートが花の様にふわりと円を描いた。きゅっと止まると前髪が額を滑り、耳飾りが小さく揺れる。しかしオメガはラムダの姿を頑なに視界に入れようとしなかった。彼は不自然な角度で首を折り、斜め下を見つめている。ラムダは彼の視界に無理矢理入り込むと何度も同じ事をしたが、オメガはその度に更に急な角度で首を折ったのみであった。


 その日の晩、オメガは数時間おきに交代しながら起きて見張りをしようとラムダに提案したが、彼女は嫌々と駄々を捏ね、一人で寝てしまった。オメガは一晩通して一人で見張りをしようとしたが、三日三晩の疲労が彼の瞳を気付かずの内に閉じさせた。

 そして次の日の朝、サイエンに起こされたオメガは一瞬の間パニックに陥ったが、すぐに全ての状況を思い出して寝てしまった自らを恥じた。その後夢に微睡むラムダを叩き起こしたオメガは、机の上に何かが置かれている事に気が付いた。

 白い丸皿の上に置かれている色鮮やかな食材達。狐色に焼けたトーストは中央が浅く膨らみ、縁に向かって焼き目が濃くなっている。その隣では黄色のスクランブルが小さな山を作り、柔らかいシワをいくつも重ねている。左側にはレタスの葉が大きく一枚。若々しい緑を全身で表し、外側に向かって波打ちながら広がっている。中央には薄いハムが数枚、折り畳まれて扇状に。その横にはベーコンが二枚、脂身の白と赤身の筋で縞模様を作っている。皿の外、すぐ側には水入りのコップが艶を持っている。液面が弛んだ線を揺らめかせ、木目のテーブルを歪めさせる。

「……何だこれは」とオメガ。

「朝ごはんと言う奴だ。冷めない内に早く食べろ」

 こんな何が入っているか分からない物を食う訳が無いだろう、と言う言葉を喉の奥に閉じ込めたオメガはサイエンの方に目を移し、

「おい、昨日の話の続きをするぞ。どうしてお前は――」

「悪いが、今日は休日なんだ」

 オメガは顔をしかめて、

「……は?」

「そう言った話は明日しよう、と言う事だ。それよりもこの街に興味でもあるんじゃないか?朝食の後に散歩にでも行ってみるか」

 オメガは朝食を食す事を拒んだが、ラムダとサイエンが試しに毒味をしたのを確認すると、渋々自分もそれを口に運んだ。最初の方こそまるでゲテモノを食べているかの様な顔付きであったオメガであるが、一つまた一つと口に放り込むに連れ、徐々に眉間に寄っていた皺は減っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ