Scene 2
「おかえりー!」
屋敷にてウェーブがかった朱いショートヘアを揺らしながら三人を出迎えたのはエプロン姿の朱華である。既に半分眠りこけている紫依乃の身体を両脇から支えながら、蒼乃と翠斗が「ただいま」と返す。
「今日は返り血の量が多いね」
「緑斗の情報通り、ね。疲れたからさっさと風呂入って寝るよ」
「紫依乃ちゃん起きてー、家に着いたよー」
「ぅうん…」
「おかえり、紫依乃。あたしとお風呂入ってさっさと寝よう?」
朱華の言葉に目を瞑ったまま頷き、翠斗と蒼乃がよろよろと歩き出した紫依乃を見送ってすぐ、翠斗よりも濃い新緑の髪をした少年が欠伸をしながら二人に声をかけた。
「お疲れ蒼乃兄。翠斗もお迎え御苦労さん」
「ああ、緑斗もお疲れ。聞いてた通りいつもより悪魔多かったよ」
「だろ?ちょっといつもより動向がおかしかったからな」
「ていうか、緑斗がこの時間に起きてるの珍しいじゃん。もう0時まわってるのに」
翠斗が腕時計を確認しながら双子の兄に向かってそう問いかければ、緑斗は深いため息を吐いた。
「今日はお気に入りのテレビがあったから橙乃と黄華が興奮してなかなか寝てくれなくて…」
「ああ、子守りもごくろーさま。なんかもう主夫みたいだよね」
「まあ俺は翠斗みたいに戦えないしな。裏方が性に合ってる」
そう言って緑斗は人懐っこい笑みを浮かべた。
緑斗の言う通り、音門家のなかでも朱華や緑斗は戦闘があまり得意ではない。実力は十分なのだが、あまり進んで戦闘を好む性格ではないからだ。まさに、「性に合わない」という言い方が丁度良い。逆に、蒼乃や翠斗は戦闘を好む。好きな分、朱華や緑斗よりも洗練された動きが出来るし、経験も豊富になっていく。そうしているうちに兄弟のなかでも自然と役割分担が決まった、というわけである。両親もおらず、長兄と長姉は多忙で毎日に居ないので、残る兄弟で年長者だった朱華の母親代わりな役回りは必然であったとも言えるだろう。情報集めで家に居ることが多く、特に末っ子の黄華に好かれている緑斗の子守りも然り。そうして今日も、一家の一日は巡る。