Scene 1
およそ戦闘服とは思えないような、レースとフリルを多用した服を赤く染め上げながら紫の少女は鎌を振り回す。元は紫だった服が今では血がこびりつき、黒に見紛うようになってはいるが、その麗しい紫の巻き髪だけは今も少女を飾り立てていた。少女が振り回しているその薔薇を思わせるような美しい鎌は、血に月の光を反射させてキラキラと刃を煌かせる。
その少女と背中合わせにして闘っている少年の服は、少女の服とは対のようにシンプルなもの。今でこそ血で赤く染まっているにしろ、元は清楚な白のワイシャツに鮮やかな蒼のネクタイで、下は黒いズボンを履いている。少年は狂ったような笑みを浮かべ、装飾的な蒼の斧で次々と相手を薙ぎ倒していった。
―――…二人が相手にしているのは、"ヒト"ではない。"悪魔"とよばれる者達である。人間と見紛うような見目をしているが、その背から生えた黒い羽は紛れもない本物で、なにより…彼らの主食は"ヒト"である。そして代々血族が悪魔狩りを生業としているのが、音門家だ。
「…っと、終了、かな」
と、一通り周りに居た敵を掃討し、少女が息を吐いて持っていた鎌を降ろす。少年もそれに気付き、最後のとどめと言わんばかりに相手を叩き伏せて斧から手を離した。そしてそのまま少女に抱きつく。
「ねぇ紫依乃、もう終わり?」
「うん。…あ、ほら、丁度良く迎えも来たみたい」
紫依乃の言葉に蒼乃が首尾を巡らせば、向かいの道路に止まる黒塗りの高級外車が見えた。その運転手側のドアが開き、スーツを着込んだ男が出てきたかと思うと、その男はそそくさと向かいの後部席に回り込んでドアを開けた。中から降りてきたのは黄緑色の髪をした少年。付け足すならば、先ほど紫唯乃と呼ばれた紫の少女とその少女に抱きつく蒼の少年に似た顔の、である。
少年は紫依乃に抱き着いている蒼い少年を一瞥して眉をしかめた後、紫依乃を視界に収めて破顔した。
「お疲れ様、紫依乃ちゃん」
「うん、翠斗もお迎えご苦労さま」
「紫依乃ー頑張ったご褒美にちゅーして、ちゅー」
「あーっもう蒼乃兄ばっかりずるい!」
「黙ってろ、ガキ」
「ひとつしか歳変わんないだろ!」
「眠いよー、早く帰ろうよ二人とも」
取っ組み合いを始めようとしていた蒼乃と翠斗は、けだるそうな紫依乃の言葉でぴたりと動きを止めた。そしてほぼ同時に振り返り、ほぼ同時に頷く。所詮は似たもの同士な二人なのであった。