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第八話『父の弟、“シャル”』





「影竜シャルドーム?

もしかして、昨日会いに行っていた

身内の方ですか?お父様。」


『我の弟だ……双子のな。』



ディルギーヴの双子の弟の名は

シャルドーム。

“現象”の竜同士の番では、

“現象”の竜が卵で生まれる。


基本的に一つの卵で一頭生まれるが、

ディルギーヴとシャルドームは

一つの卵から二頭生まれた特殊な個体だった。


何故ならシャルドームは、影竜。

本来の“姿”というモノが無く、

常に何かを真似なければこの世に

存在出来ない竜だった。

卵の中でディルギーウの姿を真似、

孵化出来る大きさまで成長する事が出来たのだ。


他の誰かの姿を写さなければ生きていけない

シャルドームは、力の制御を覚えるまで

しょっちゅうディルギーヴにくっついて

生活していた。

そして成長しても双子はとても仲の良い

きょうだいで、同じ主君に仕えた。



『弟は我と違い、非常に“社交的”。

性別の無い彼奴を弟と称するのも、

よく人間の男に化けて我が主君と

市井に潜り込んでおったからよ。


千年前も……主君と共に、

最後まで人間に肩入れしておった。


あの御方と彼奴のお陰で

この国の人間は滅ぼされずに

済んだのだからな。』



過去の大戦、人の側に立ち続けたシャルドーム。

常に一緒だった双子の竜は、

己が主君から授かった役目により

千年間、離ればなれになってしまった。



『我がローズと出会って目覚めた後、

偶然再会出来た時があってな。


その時に聞いた棲みかに行ってみたが、

もぬけの殻よ。』



眠りについた兄を時々確認しに来ていたらしい。

目覚めていたタイミングで再会し、

ディルギーヴは弟にとあるモノを頼んだ。


そしてまた眠り、再びローズに

叩き起こされた時、頼んだ品物と

現在の棲みかを記した手紙だけが

置いてあったのだと言う。



『お前の着けている髪飾りは元々、

ローズに渡す為、シャルドームに

職人を探して作ってもらえぬかと頼んだ物。


あれ以来、彼奴とは会っておらん。』


「……成る程、ディルギーヴ殿は

“あの”シャルドーム殿の兄上だった訳ですか。」



フレシオスは納得の行ったように、頷く。

どうやら、彼はシャーリーの新たな叔父を

知っているらしい。



『貴様は彼奴の居場所を知っておろう。

積極的に人間と関わり合いを持つ彼奴ならば、

この王国の王族と未だに繋がりはあるはず。


“現象”の竜の抑止力としても、な。』



未だに、リュゼーヌ王国の王家に

良い感情を持っていない“現象”の竜は多い。

特にこの国の半分、竜域に棲む竜達の中には

チャンスがあれば次こそ滅ぼしてしまおうか、と

思っている個体もいる。

だからこそそうなる前に、主君から

裏で動き続ける役割を命じられたのが

シャルドームだった。


永く生きる“現象”の竜にとって、

千年などあっという間。

恨みや怒りを時間で薄れさせるにしては

全くもって短過ぎる。

“現象”の竜達が牙を剥かぬよう、

王家に力を貸しながら調整役も兼ねて

この国を見守ってきた。



『弟は……シャルは。

“現象”の竜にも、人間にも通じておる。

ローズの死について調べるなら

まずは彼奴に話を聞いておきたい。』


「あ、シャルってまさか!」


『弟の事だ。

ローズに一度だけ、弟の愛称が

シャルだという話をした事があった。』



ディルギーヴは思い出す。

ローズは自分の話を聞く素振りなど

見せなかったし、自身の話も

ほとんどしなかった。


一方的な会話……いや、

会話ですら無かったのだが。

この世の全てに興味が無さそうだった

あの傲慢な薔薇は、こちらの話を聞いて、

しかも覚えていたのか。



「シャルドーム殿の場所なら知っています。

ご推察の通り、王族と一部の家臣にのみ

知らされている機密情報。


だが、彼の竜の兄に聞かれたのなら

伝えても問題は無いでしょう。」


「機密情報……私も聞いて良いのか、

不安になってきました。」


『どのみち向かうのだから構わぬだろう。

して、それは何処だ。』


「……このシュラージュに接する隣国、

アルサフのとある村です。」


「あらまぁ、アルサフ。」



「アルサフ」と聞き、ヴィレネッテは

孫とお揃いの赤い目を細めた。

アルサフはシュラージュと面した

そこそこ大きな国である。

王による圧政で民達は困窮していたが、

情報統一や処刑等の厳しい管理により

ある程度の士気を保っていた。


自国の改善ではなく、他国からの略奪を

選んだアルサフは、昔からリュゼーヌ王国に

何度も侵攻してきた。

六十年前と二十年前の大規模侵攻では、

魔獣や通常種の竜に興奮剤を使用。

多少の味方兵を巻き込みながら戦うという

卑劣な戦法を取った国である。


そして、シュラージュはその度に

最前線の戦場になっていたのだ。

現在、アルサフ王族は一人残さず死に絶え、

国民主導の国を作る為に

リュゼーヌ王国や周辺国の支援を受けて、

試行錯誤の真っ最中である。

二十年経っても未だに国の一部は

混沌としているし、元貴族による

反政府組織の活動が未だに確認されたり。


それだけ不安定な内情でも、

辛うじて属国に落ちていないのは

死に絶えた王族の代わりにトップに

立ったとある貴族の手腕によるものだ。

リュゼーヌの女王も舌を巻く

その女性の腕により、アルサフは

ギリギリで成り立っている。


しかし、シュラージュにアルサフの国民が

保護を求めて押し寄せた事もあった。

正直、昔から今までシュラージュにとって

厄介な事この上無い。



「詳しい内容は教えてもらえませんでしたが、

むしろ混乱の中にあるアルサフだからこそ

丁度良いのだと仰っていましたよ。」


『アルサフの何処だ。』


「アルサフにはヅォーガン山の端があります。

その麓の村にいる、と。」


『分かった、行くぞシャーリー。』


「今からですか!?」



早くシャルドームに会って色々聞きたいのは

分かるのだが、父の行動力があり過ぎる。

“現象”の竜なら飛んで行っても

問題無い距離なのだろうが、人間が赴くなら

時間も準備も手順も必要だ。



「ディルギーヴ様、淑女は準備に

時間がかかるものでしてよ?」


「それにシャーリーちゃんを

どうやって連れていくんです?


アルサフは治安も良くないし、

馬車で行くのも危険では?」


『我の背に乗せる。

半日もあれば着くだろう。』



ちなみに、“現象”の竜は

背中に誰かを乗せる事を嫌う。

ごく稀に乗せるのが好きな物好きもいるが、

大体の“現象”の竜は知らん奴から

「背に乗っても良いか」と聞かれるだけで

ブチ切れるし、番や我が子でも

結構キツいと思う竜も多い。

……実際、子にせがまれて背中に乗せた

子育て中の竜は、大体死んだ顔をしている。


なので、自ら背に乗せようとする行為は

人間が自らの首を差し出すくらいの

強い決意と覚悟の表れなのだ。



「早くても明日が良いでしょうね。」


『そうか……では、出発は明日の朝にしよう。』


「それなら今日は泊まっていって下さいね!

 お父様!」


『あ、あぁ……。』



どうせなら泊まっていってもらって、

色々な話が聞きたいとねだる娘。

そして困惑しながらも了承する父。



「……誰かさんみたいに随分せっかちだ。

ねえ、アーヴェン女辺境伯殿?」


「あらそう?でもあの子と違って、

シャーリーに配慮してくれましたわよ。

リューン公爵閣下。」



ぎこちないが確かな親子の姿を見ながら、

この国の二大裏ボス達は、優しげに

微笑んだのだった。























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





『へぇ、それで僕に

人間サイズの髪飾りを作れる奴を

探してほしいって?』


『あぁ、番に渡してやりたいのだ。


出来れば硬い金属で頼む……

彼奴は、兎に角物を壊すからな。』


『よりによってあの血薔薇が相手かぁ。

義姉にしたくなさ過ぎるよ、それに……』


『なんだ?』


『……ううん、何でもない。

でもお兄ちゃんに番が出来たのは

弟として嬉しい事だね。



……お兄ちゃんさぁ、片割れとして

言わせてもらうけど。

番が出来たんだからそろそろ

我が儘なとこ、直した方がいいと思うよ。』


『なっ……!?我のどこが

我が儘だと言うのだ!

あの御方よりよっぽど我慢強いわ!』


『お兄ちゃんって身内には甘いけど、

自分も無意識に甘えてるじゃない。


僕は構わないよ?

でも子が出来たら格好つかなくない?』


『あ、甘えてなどおらぬ!』














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