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番外編第十話『ローズの髪飾り』




リュゼーヌ王国の要、アーヴェン辺境伯家の

長女として生まれたローズ・アーヴェンには

前世の記憶がある。


餓えて育ち、主君に仕え、そして

……いけ好かない竜に後一歩及ばず負けた。

なかなか凄惨な過去なのに、夢のように

儚く、現実感の無い前世の記憶による

ダメージはほぼ無かった。

あるのは、最後の最後で相手の命に届かなかった

不甲斐ない己の剣への悔しさだ。

これは勘だが、あの竜は生きているだろう。

ローザ・ラドを殺した、闇色の鱗の竜。


少し調べてみたのだが、

あの竜の居場所は分からない。

だが、竜姫と主君の計画は成功したらしいので

その周辺にいるのではないか。

シュラージュの地からも見える巨大な大樹は、

青々と天に枝葉を伸ばしている。


辺境伯家に生まれたのは、あの憎き竜に

リベンジを望むローズにとって僥倖だった。

力はあればあるだけ良いと、過去の己を越える為に

ひたすら修練を重ねる。

竜以外にもローズの父ジョンという

高い壁にぶつかりはしたが、決して止まらない。


名前は忘れてしまったが、あの竜を

今度こそ倒さなければならない。

最期に覚えているのは、自分を見る

哀れみを含んだ鈍色の眼。


許せない、この自分をそんな眼で見た事を

後悔させなければならないのだ。


だからこそ、騎士団の仕事をサボりながら

様々な場所を訪れてあの竜を探した。

王都に行けば、あの竜の弟あたりが

いるかもしれないが、王都にはやたらと

自分に絡んでくる変な男がいる。

正直、ウザったらしいので近寄りたくない。


しばらく国中を探していると、

「常夜の峠」と呼ばれている場所がある事を知る。

人が寄り付かないその場所は、

昼が来ず、深夜のように常に夜なのだという。

光が一筋も射し込まず、ずっと暗闇のまま。


確かあの竜は“闇竜”だったはず。

何をしているのかは知らないが、

あの竜がいる事は確実だ。

今生では昔よりも恵まれた環境を与えられた

ローズは、過去よりも明らかに強くなった。


“ラドの刃”など無くとも、あの竜に勝てる。

そう確信をしていたローズは簡単な準備だけをして、

宿敵の元まで向かった。



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




どうしてこうなったのだろうか。


眠りこけている闇竜を蹴り起こし、

寝起きで機嫌が最悪なディルギーヴと

三日三晩の戦いを繰り広げ。

何故かディルギーヴに惚れられたローズは、

彼から求婚を受けてしまった。

彼女の前世を知ってか知らずか、

それは闇竜にしか分からない。


まあ、勝ったのは自分だし良いか、と

OKを出したのだが、過去の闇竜を

知っている身からすれば現在のディルギーヴは

違和感がスゴすぎる。

こちらを蔑んで、会話すらほとんどしようと

しなかったはずなのに、今ではやたらと

絡んでくる。


「うるさい」と言うと大人しく引き下がるが、

子犬のようにショボくれてこちらを

チラチラ見てくる。

こいつ、こんなキャラだったのか?

薔薇の髪飾りなんてモノまで

プレゼントしてきたし。

とりあえず貰い物は使う主義なので、

適当に髪に着けて生活をするようになった。

どことなく嬉しそうな番の顔は無視したが。




普段はシュラージュ等で生活し、

時々ディルギーヴの元へ向かう生活を

三年ほど続けていた時。

ローズは、身体の不調に悩まされ始めた。

少し前に不審な輩に襲撃され、一撃は貰ったが

毒などは塗られておらず、傷も治って

何事も無かったはずなのに。


吐き気、眠気やだるさ。

辺境伯家の医者に診てもらったところ、

まさかの妊娠が発覚する。


ディルギーヴから、番になると

交わりが無くとも子供が出来る事は

聞いていた。

だがそうなるまでに百年以上はかかる、とも。


明らかにおかしい。

それに、ローズの身体を襲っているのは

妊娠時の不調だけではない。

異常なまでの体重の減少や身体能力の衰え。

赤ん坊は諦めた方が良いと、医者からも

家族からも言われた。


しかし、ローズ・アーヴェンに

そんな選択肢はない。

自分は死んでもそれで良し、家族の意見など

全て無視をした。

どんどん育っていく我が子に比例し、

痩せ衰えていくローズ。


もう、ディルギーヴの元へ行く事も無くなった。

己の強さに惚れたあの竜に、弱った姿など

見せられない。

ローズは勝ったまま伴侶の元から、

この世界から去りたかったのだ。


そうして産まれたのはディルギーヴと

同じ闇色をした髪と、ローズと同じ

緋色の瞳を持つ女児だった。

既に死にかけの自分と違い、健康そうな

赤ん坊である。


娘の持つ緋色の瞳にローズは、

かつての主君を思い出した。

日陰に咲いた花のように、静かに、確かに

可愛らしく綻んだあの笑顔を。


自分もこの世界に帰ってきたのだ、

きっとローザの主君、スカーレット姫だって。


……これでもう、ローズに思い残す事はない。

今思い返せば、千年前のリベンジも

成功し、自分と同じように帰ってきた

主君にも会えたのだ。

自分勝手に生きた、未練はない。


……いや、本当は二つある。

身勝手な自分のせいで苦しむであろう娘の

行く末と、起きた時にはもう番が

この世からいなくなった自身の伴侶。

だから、伴侶から与えられた薔薇の髪飾りを

生まれたばかりの娘に譲った。

あの髪飾りを一目見れば、ローズの関係者だと

分かるだろう。


探しに来た自身の伴侶が、短絡的に

娘を詰め寄るような竜でない事を

祈るばかりである。





リュゼーヌ王国きっての暴君、

ローズ・アーヴェンは。

確かに、我が子と番を愛していた。











                    END.







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