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番外編第八話『ネェロネペの絵の具』




〖リュゼーヌ国立美術館に

展示されている数多き作品の中でも

最も有名なのはこちらの絵画、『暁の都』です。

手紙の便箋をキャンバス代わりに用いた

小さな作品ではありますが、

緻密かつ繊細なタッチで描かれた

当時の王都の描写が見事な作品となっています。


また、絵の一部は木の実の汁や

花の蜜などを用いて描かれており、

保存状態を保つのが非常に

難しいとされています。


初代館長にして、その生涯を芸術の探求に

費やしたビシュー・ジューン侯爵が、

王都郊外にて偶然出会った美しい少女が

描いていたこの絵に一目惚れし、

手持ちの宝石等を差し出して

譲ってもらえないかと頼み込んだところ、

無償で渡された物だそうです。


侯爵はこの作品を描いた少女が

カラスを思わせる黒髪の持ち主だった事から

“鴉姫”と呼んで、作品を熱心に集めていました。

“鴉姫”が描いたと思われる絵は

世界各地で見つかっており、その全てが

ノートの切れ端やハンカチ、便箋など、

身近にある物に描かれているのが特徴です。


また侯爵が“鴉姫”と出会ったのは今から

六百年前とされていますが、

“鴉姫”の作品は近年でも発見されており……〗






『な~に言ってんでい。

鼻息荒いオッサンが「その絵を売ってくれ!」

ってあんまりにもしつこかったから、

タダでくれてやっただけだぜ。』


『ご本人!?』



シャーリーに誘われて王都の美術館に

やって来たネェロネペは、何故か飾られている

己の作品の説明に突っ込みを入れた。











屍竜ネェロネペの幼少期、

つまり彼女がまだ“揺籃の雛”だった時。


生まれつき病弱だった彼女は、

とにかく大切に育てられた。

端から見たら過保護としか思えなくても、

軽い風邪ですらネェロネペがかかれば

あっという間に悪化してしまい、

頻繁に生死の境を彷徨っていたのだから

必要な対応だったのだろう。


だが、親の心子知らず。

ネェロネペ本人はじっとしているのが

嫌いなタイプだったので、しょっちゅう

脱走を目論んでは父やカラスに見つかって

部屋に戻される日々を過ごしていた。


まあ、体調が良かった日ごねにごねて

ようやく庭で遊ぶ許可をもらい遊んだら、

少し走っただけで吐いたし、その日の晩なんて

見事に熱を出して倒れた事もあったのだが。


温度や湿度が調整された部屋の中で

一日を過ごすしかないネェロネペ。

両親も手が空いた時間はなるべく彼女の

側に居てくれるが、彼らにもやるべき事が

ある為、四六時中ずっと一緒に

居られる訳ではない。


娘が退屈しないように、と

父によって厳選されネェロネペの

部屋に持ち込まれた絵本やおもちゃの中に

それはあった。


ネゥロデクスが知り合いから

譲ってもらった、当時貴重だった紙。

子どもでも扱えるような

小さく軽い筆と、身体に安全な素材で

作られた絵の具のセット。

筆と絵の具は、“仕事”で訪れた先で見かけた

人間の絵師が使っていた道具を、

幼い娘でも問題なく使えるように

改良や調整をしたものである。


その結果、両親を絶句させるほどの

絵の才能が判明したのだが。

(ネェロネペ的には『自分の目で

見た通りに色を置いているだけ』らしい)

幼い頃、両親から褒められた事が嬉しくて、

ネェロネペは孵化してからも定期的に

絵を描いている。


幼かった弟に似顔絵を渡された時、

『お前下手クソだな、貸してみ。』と

念写レベルの弟の似顔絵をさっと描いて

目をキラキラされたのが懐かしい。

(実はネェログシムが描いた似顔絵は、

両親の巣で大切に保存してある。

弟には内緒。)




『なんやここ、めっちゃネネちゃんの

絵があんだけど。』


『これは……ナグラ山ですか?』


『そうなんじゃね? 覚えとらんわい。


ネネちゃんの絵、どれも色落ちしてんだろ?

ちょうど良い緑がなかったから、

そこら辺の草擂り潰して絵の具代わりに

使ったりすっからな。』



ネェロネペにとって絵は、旅の合間や

強敵が見つからなかった時の暇潰しである。

ろくに絵の具や筆が無い時も多いので、

そこら辺にある物をあり合わせて

描く事もそこそこあるのだ。



『描き終わったら気に入ったの以外は

適当にポイしてんだけど、これ全部

捨ててたのを拾ったって事かよ。

きっしょ……。』


『ポイ捨てはダメなのでは……?

あ、これメェルの海ですね。』


『だって母様達に送るの以外は

要らねぇんだもん。


そういやあのつるぺたオーシャンドラゴン、

来たがってたけど結局無理だったな。』


『ガルガランさん、元々が大きすぎて

変化が苦手ですからねぇ。

……ガルガランさんが人間に

変化する練習にお付き合いしましたけど、

やっと十mサイズにまでなれてましたよ。』


『デカすぎんだろ……。』
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「とうしゃま。」


『おや、どうしました? 私達の可愛い娘。

今日も変わらず愛らしい。』


「とうしゃまきもちわるい。」


『……これは手厳しい、理由を聞いても?』


「かあしゃまのこと、

だいすきすぎてきもちわるい。」


『それは仕方ありませんよ。


お前のお母様は私の運命、

誰よりも愛しているのですから。』


「ねぇ、とうしゃまはネネちゃんのこと

べつにすきじゃないでしょ。」


『ネェロネペ……おかしな事を聞くものですね。

父様はお前も愛していますよ?』


「かあしゃまとの“こ”だもんね。」


『……ほう。』


「とうしゃまがネネちゃんすきっていうのは、

かあしゃまがすきだからだもん。


ネネちゃんだからじゃないもん。」


『ええ、勿論そうですとも。

ネェロネペ、お前は私の愛しい番が産んだ

私の愛しい娘。


だから、私はお前を愛しています。』


「ほらね、かあしゃま!

とうしゃまきもちわるいでしょ!」


「おーよしよし、母さんは

ネネの事大好きだぞ。」


「ネネちゃんもかあしゃま、だいすきよ!

とうしゃまはきもちわるいけど。

ねぇ、りこんしよ、りこん!

ネネちゃんのしんけん、かあしゃまね!」


『しません。ネェロネペ、一体どこで覚えたのですか親権という難しい言葉を。ついこの間まで母様のお腹の中にいたとは思えぬ幼い娘の急激な成長が嬉しくありつつも父様はとても驚いてしまいましたよ。それとトーマス、この世の何よりも愛する番である貴方と別れるなど絶対に有り得ませんからね、愛しい番と我が子を手放せと?離婚だなんてこの死竜ネゥロデクスがする訳無いでしょう。私と貴方の、人間でいう結婚生活はまだ百年程度なのですよ?死ですら私と貴方を引き離せない。さぁトーマス、貴方からも我が子ネェロネペに「父様と母様は一生どころか未来永劫愛し合う存在」だと説明して、離婚の可能性について今すぐ否定をしてください。』


「どんだけ必死なんだよ。


まあ、ネロが気持ち悪いのは

今に始まった事じゃないんだがな……。

こんな奴でも頼りになるし、

お前の父親に違いないからよ。


ネネ、我慢出来るか?」


「はぁい。」


『フフ、番と愛娘に冷たくされるのも

中々そそ……クるモノがありますね。』


「自重しろ、娘の前だろうが。」




















『って事があってから、ネネちゃんは

父様の事をすんげぇキモい野郎だなって

思い続けてんだよな。』


『ネェロネペさんがネゥロデクスさんに

やたらと塩対応だなと思ったら

そんな理由が……。』


『シャリ子んとこの父親は“娘”だから

オメェを愛してくれてるけどよ。

ウチは、母様が好きだからネネちゃん達“も”

溺愛してんの。 キモくね?


……母様が他の“現象”の竜から、

“傾鴉の君”って呼ばれてる理由が

何となく分かったぜ。

あの(がい)をなんて事ないみたいに、

あしらっちまえるからだわ。』






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