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番外編第七話『ルゥドの抱っこ紐』




『なんだ、今日はコァドの息子は居らぬのか。』


「あ! ディルじいちゃん!」


『……我はまだジジイと呼ばれる

年齢ではないわ。』



人間に変化した闇竜ディルギーヴを

「じいちゃん」呼びした人間の少年ルゥドは、

鋼竜タィドの息子である。

今年八つになったばかりでまだまだ

幼い彼は、いつものように元気に集落を

走り回っていた時にディルギーヴと遭遇した。



「今日は、シャーリーお姉ちゃん

いないの?」


『居らぬ。

残念だったな。』


「そっかー……。」



ディルギーヴの娘、シャーリーは

よくこの集落に訪れている。

お土産を持ってきてくれたり、

色んな外国の話を聞かせてくれたりと

優しいお姉さんだ。

生まれてからずっと可愛がられている

ルゥドはとても懐いている。


そんなシャーリーの父であるディルギーヴは

時々しか来ないので、あまりルゥドとは

関わりはないが、シャーリーが

よく話を聞かせてくれるのと、持ち前の

人懐っこさもあって怖じ気づく事なく

“現象”の竜に近寄る。



「父さんはね、母さんの検診に

付き合ってるから家の中に居るよ。

ここにいるのはオレとレェダだけ、ほら!」


『ほう。』



タィドは、エドガーの診察を受けている

ルカに付き添っているらしい。

タィドの父鋼竜コァドに呪われたルカの

身体には、消えない“呪い”が染み付いている。

定期的にエドガーがここを訪れて、

彼を診察していた。


ルゥドは誇らしげに、背中に背負っている

まだ赤ん坊の妹、レェダをディルギーヴに見せた。

彼は、両親の手が空いていない時は

進んで妹の世話を買って出ている。



「まだ妹はふにゃふにゃの赤ちゃんだから、

お世話が大変なんだ。

父さんは忙しいし、母さんは大怪我してるし……

オレがいっぱいお手伝いしなきゃ。」


『ウグゥッ』


「あっ、あんまり大きい声出すなよ!

起きちゃうだろ?」



娘を十四年間放置して、赤ん坊時代を

見逃したし世話もしていないディルギーヴに、

ルゥドの何気ないお兄ちゃんパワーが

容赦なく突き刺さった。



『いや……すまんな。

己の恥の歴史を思い出した。』


「?」


『雛は気にせずとも良い。』


「ムッ、オレもう八歳だもん。」



この集落には、“ラドの大樹”事件以降

様々な“現象”の竜や番が訪れるようになった。

なので、“揺籃の雛”のルゥドはとても

可愛がられているのだが、誰も彼も

赤子を相手するような態度で愛でてくるので、

順調に育ってきた自尊心やらが

刺激されて複雑なのだ。



『諦めよ、お前は大人になろうが

孵化しようが永遠に孫よ。

それに今の“現象”の竜には、お前の祖父と

同い年くらいの竜も多いのでな。』


「……コァドじいちゃんと?」


『我も彼奴とは近い年齢だった。

愚直な彼奴とはわりと性格が合ってな……

共に爪をぶつけ合って、お互いを高めたものだ。』



ディルギーヴとコァドは古い友だったと聞いて、

ルゥドは目をキラキラとさせた。

祖父母について、父が幼い頃に

死んでしまったのだと教えられた以外の事は

知らないからだ。



「コァドじいちゃんって強かった!?」


『勿論。』


「どんな竜だったの?」


『お前の父は穏やかな気質だが、

コァドはその正反対であった。


兎に角 無口で頑固者、ぶっきらぼうな奴でな……

だが、曲がった事を好まず、何処までも

真っ直ぐだったのはお前達と同じよ。』


「……ねぇ、オレってコァドじいちゃんより

強い竜になれるかな?」


『何故、その様な事を聞く。』



ルゥドは父タィドとそっくりな顔で、

背の高いディルギーヴを見上げた。



「コァドじいちゃん、悪い人間達に

倒されちゃったんでしょ?

もしもまた、ここにそんな悪い奴らが来たら

オレが皆を守んないとだから……。」



ディルギーヴにも強いと言われた

コァドも過去に、倒されてしまった。

そのせいで集落は大変な事になったし、

両親にも小さくはない苦労が降りかかった。


父は争いを好まない性格で、母は

ほとんどの手足がない。

妹もまだ小さく、何かあった時にルゥドが

家族を守らなければならない。

幼くとも“現象”の竜の誇りを受け継いでいる

“揺籃の雛”に、ディルギーヴは目を細めた。



『フン、その志は気高いと誉めてやるが、

そう焦るものではないぞ。

お前の父も戦いを忌避しておるだけで

弱い訳ではないし、我等もちょくちょく

此処へ顔を出す様にしておるだろう。


雛は雛らしく可愛がられておれば良い。』


「でも!」


『それに、守る、助けるという行為は

純粋な力のみで行える事では無い。

お前の父も、力以外で此の場所を

守っておるだろうに。


コァドも力一辺倒では無かったぞ。』


「むー……。」


『人間一人の力はタカが知れておるわ。

もし力を求めるのならば、

先ずは無事に成長して孵化をせよ。』



ディルギーヴの言葉に、完全に

納得はしていないようだが

とりあえず落ち着いたらしいルゥド。


ディルギーヴは少しだけしょげてしまった

ルゥドを見て軽く鼻を鳴らし、

腕を組んで見下ろした。



『孵化をしたら、敢えて外に出てみるのも

良いのかもしれぬぞ。』


「外に?」


『我も娘と共に、様々な場所を巡った。

お前達親子との縁も其処から始まったのだ。


良い事も悪い事もひっくるめて

役に立つ経験になろうよ。』












『待たせたな、ルゥド。

レェダを見ていてくれてありがとう……


おや、ディルギーヴさん。』


「父さん!」



ディルギーヴとルゥドの後ろから、

タィドがやって来た。

どうやらルカの検診が終わったようで

息子と娘を迎えに来たらしい。

駆け寄ってきた息子の頭を優しく撫でる

タィドの顔は、何処からどう見ても父親のそれだ。



『少しばかり早く着いたのでな。

少しお前の息子と話しておったのだ。』


『あぁ、息子達を見ていただいて

ありがとうございます。

頼まれていた品はもう出来ているので、

工房まで来てもらえますか?


ルゥド、お前は先に

母さんの所に帰りなさい。』 


「うん、父さん。


またね、ディルじいちゃん!」


『だからジジイではないと……

あぁ、もう良いわ。』


『息子がすみません。』



駆け出したルゥドはあっという間に

見えなくなり、ディルギーヴは訂正を諦める。

タィドは申し訳なさそうに、

でもどこか嬉しそうに息子の駆け出した

方向を見て笑っていた。




















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「でね、ディルじいちゃんが

コァドじいちゃんを褒めてたんだよ!

すごい強かったって!」


「……そっか。」


「オレもじいちゃんみたいに強くなって、

父さんと母さんと、レェダも守るからね!」


「それは、うん。

……頼もしいなぁ。」


「そういや、なんでディルじいちゃんが

ここに来てたんだろ。」


「シャーリーさんへのプレゼントを

タィドに頼んでたらしいぞ。

……ディルギーヴさんは、子供想いだからな。」


「父さんと母さんだって、

ディルじいちゃんに負けてないよ?

オレの自慢の両親なんだもん!


……あれ? 母さん、泣いてるの?

怪我がどっか痛い? 大丈夫?」


「……ふぇ。」


「なんでもないよ、ルゥド。


あぁレェダ、起きたのか。

ほらおいで。」


「ぅう~……。」








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