第四十八話『決戦前』
『待たせたわね、
今どうなってるかしら!』
『おぉ姫様、お怪我の無いようで何より。』
『見ての通り爪も牙も出ませぬ。』
『やっぱ毒ぶち込むべきだったんだって。』
『土地が死ぬわアホンダラ!』
エトワスタと死竜親子、今回は着いてきた
ミシケロトクラロ(ハチワレ)、
そしてディルギーヴは竜域に聳え立つ
“名無しの大樹”の根元に来ていた。
(ニゥニーマは念の為シュラージュで待機)
ただし、現在は障壁が貼られているので
正確には根元に近い場所に降り立つしか
ないのだが。
エトワスタ達を出迎えた竜達は、
何とか樹の障壁をどうにかしようと
様々な攻撃を繰り出しているが、
どれも揺らがせるだけで穴は空かない。
『いやはや、まさか命竜がこんな事を
仕込んでおったとは。』
『全力でビーム撃ってもよい?』
『だから死ぬっつうの土地がよ!』
『なんか、最初に比べて障壁が
分厚くなっとるような気がするんじゃが。』
『悪いんだけど、方針がまとまるまで
全力ビームはやめてちょうだい。
……シャルドーム!
シャルドームはどこなの!?』
『……。』
エトワスタはこちら側を任せていた
腹心と情報を共有すべく、声を張り上げる。
だが、シャルドームは出てこない。
周囲の竜が一斉に竜王サヴァンの方を見て、
竜妃ルェロナはサヴァンの足元を
呆れたように見つめている。
どうやら育ての親である竜王の影に
隠れているらしい。
『……今回は昔通りに接してあげる!
早く出てきなさいシャル!
出てこないとお前の姪っ子、
わたくしの側仕えにするわよ!!!!』
「きゃっ!?」
『シャーリーを離さんか馬鹿姫、
そこら辺に下半身を埋め直してやろうか!
良かったな、貴様は再び今日から
“名無しの大樹”だ。』
エトワスタは、ディルギーヴの背に
乗っていたシャーリーを身体から生えた
ヴェールのような、触手のようなモノで
絡めとると竜達の前に突き出した。
突然、人間の少女を見せられた
竜達の反応は様々だ。
顔をしかめたり目を輝かせる者もいる。
だがシャルドームの“姪”として
エトワスタは突き出した。
シャルドームの兄弟はディルギーヴ、
即ちあの人間はディルギーヴの娘で
“揺籃の雛”……!?
滅多に見られない竜の子が目の前に
現れたという事実に、ざわつき始めた
竜達を他所に、ネゥロデクスはエトワスタと
ディルギーヴの間に入る。
そしてにこやかに笑いながら
嗜める振りをして自分の意見を捩じ込んだ。
『いけませんよエトワスタ姫。
ディルギーヴのお嬢さんは、
私の番のお気に入り。
我が子達も大変気に入ったようですので、
将来的には息子の番が行っている
診療所に勤めていただきたいのですが。』
『……!?』
『おっ、ウチの子になっちゃうか?
ネネちゃんとネグが、シャリ子の
お姉ちゃんお兄ちゃんになってやって
やらない事も無くってよだぜ!』
『……!!』
『こんの腐れガラス……ッ!
貴様等親子揃って何をふざけた事を!
おい早く出てこんか愚弟!』
『はーい分かりました分かりました!』
やけくそな声を上げながら、
サヴァンの足元からずるりと姿を見せた
シャルドーム。
何ともいえないしょぼしょぼ顔で
こちらに歩いてきた。
『まずは状況の報告!
お願いねシャルドーム。』
『はい……現在“名無しの大樹”は
障壁を発生させて、我々の接近を
拒んでいる状況です。
樹皮には命竜の物と思われる黄金の鱗が
浮かび上がっており、土竜によると
周辺地域からこの“名無しの大樹”へ
出ていったり、逆に吸収されたりといった
不可思議な力の流れが探知出来たそうです。
障壁が発生する前の調査で、
命竜達の亡骸は“名無しの大樹”の根に
絡み付かれて取り出せない状態に
なっているのが確認出来ました。』
『そう、ありがとう。
……やっぱり、このまま“名無しの大樹”を
残しておく訳にはいかないわよね。
障壁を何とかして壊すか、
無効化する方法を……』
『めんこいのぉ~。』
『懐かしいね、ディルギーヴも
こんくらい可愛い時あったよ。』
『髪色が父親の鱗色だわね。
父親譲りなのね。』
「え、あ、ありがとうございます!」
『礼を言えて偉いのぉ~!』
『竜ばっかりで退屈じゃろ。
わらわが書いた本でも読むか?
通称『かがエン』って呼ばれとるんじゃけど。』
『お前さん作家なの?』
『ほほほ、嬢ちゃん歳は幾つじゃ?』
「私ですか?
今年で十四歳ですが……。」
『十四!?』
『あかちゃんじゃん。』
『すまんのぉ歳取りすぎて耳が遠くてな、
年齢聞き間違えたかもしれん。』
『安心せいおじいちゃん、十四歳じゃ。』
『オメーもジジイじゃろがい!』
『散れ散れ! 娘に近寄るではないわ!』
『うるせぇぞい若造。』
『だって竜の子かわいいんだもん。』
『……わたくしの話も聞かず、
何してるのお前達。』
エトワスタの話はそっちのけで、
“現象”の竜達は降ろされたシャーリーに
群がっていた。
話を聞いてから会いたくて仕方の無かった
竜の子が目の前に現れたのである。
ジジババ&その他は嬉しくてテンションが
上がりまくっているのだ。
ディルギーヴの制止もなんのその、
シャーリーと話す為に我も我もと
ごちゃごちゃしている。
『遠いところから失礼、
ご機嫌よう、シャルラハロートさん。
ワタクシは竜妃ルェロナ、御存知かしら?
話で聞いた通り、とても美しい緋色の瞳を
なさっているのね。』
『……。』
目下で行われるジジババ達による
“揺籃の雛”へのわちゃわちゃに
とうとう、ルェロナまで我慢出来ず
声を投げた。
「は、初めまして!
ありがとう、ございます。」
『貴女の父ディルギーヴは、
実質ワタクシ達の子供の様なもの。
ワタクシ達は父方の祖父母だと
思って下さって構いませんわ。
ねぇ、サヴァン。』
『……。』
「は、はい!」
シャーリーはまだ人間だが“揺籃の雛”であるし、
何より小さい頃から我が子のように
育てたディルギーヴの娘。
つまり孫と言っても過言ではない。
サヴァンですらルェロナの隣で
ソワソワしていた。
(番と子達くらいしか分からないが)
『しかしディルギーヴ。
何故、危険もある此処へ連れてきたのです。』
『仕方ありません。
諸事情あって我が娘は、
あと数刻で孵化を致します。
不測の事態に備え、我等と共に
いさせた方が良いと判断致しました。』
『今日!?』
『はやない?』
『じゃあ今のうちに目に焼き付けとこ。』
『どれ、お小遣いとして
エルダライダクリスタルをやろう。』
『ならわらわも凝海閉結晶を。』
『ボクがおやつに取っといた、世界に
三十匹しかいない激レア昆虫 (デカい)いる?』
『ほ~ら、“世界泉の滴”だよ~。』
『巨大馬魔獣ゴリコーンの角あげようねぇ。』
「はわ」
『オイゴラァジジババァ!
人間の世界で国一つ買えちゃうモンを
ポンポンやろうとすんな!
シャリ子が はわわっちゃっただろ!』
『よしよし、お主達には
ゴリコーンの干し肉を分けてやるでな。』
『お前達も大きくなったのぉ~、
姉弟で仲良くお食べ。』
『わーい!』
『……!?』
シャーリーは命竜による浸蝕の影響で
もう孵化が近い為、ディルギーヴと
行動を共にさせる事にしたのだ。
現在の“名無しの大樹”に近付けば
更に浸蝕の影響を受けるかもしれないが、
ネゥロデクス達死竜の側にいさせて
強制的に相殺させている。
……ちなみに、ゴリコーンの肉は
ネェロネペが九割かっさらったので、
ネェログシムがまた泣いていた。
『もう!
シャーリーちゃんが可愛いのは分かるけれど
わたくしの話を聞きなさいよ!』
『ミャウメインの目的は世界の滅亡。
だから、今回のコレもそれに関係していると
思うんだけど……。』
『なぁう。』
『おや、今何と?』
エトワスタとシャルドーム、
そしてネゥロデクスが“名無しの大樹”が
こうなった理由を話し合っていた時、
今までゴロゴロしていたミシケロトクラロが
鳴き声を上げる。
『にゃーん。』
『……それって本当なの?』
『ニャァンニャン。』
エトワスタがミシケロトクラロの発言を
聞き、驚きの表情のまま問いかけた。
ミシケロトクラロは肯定するように頷く。
どうやら、あの大樹の状態について
知っている事があるらしい。
『ミシケロトクラロの発言を
真実だとするなら、ミャウメインの
目的は……。』
『“現象”の竜が世界から
生まれないようにする事、だったとはね。』
ミャウメインは自身の身体が埋められた
“名無しの大樹”を、千年かけて浸蝕。
それを一つの、大きな“ラドの刃”に
仕立て上げた。
そして大地に突き刺したように見立て、
世界そのものへ浸蝕を始めたのだ。
こうやって命竜としての力が表に出る前に、
こっそりと浸蝕は進められていたのだろう。
その結果、残りの一頭が亡くなった
風竜は生まれなくなってしまったのだ。
『クソがよ、しっかり研究が
生きてやがるぜ。』
『あのトカゲ人間の群れや、
メリイなる女の下らぬ駄弁り……
我等がそれに辿り着いたが故に焦って
時間を稼いだか。』
『でしょうね、私達はまんまと
引っ掛かった訳ですが。』
こちらに移動する際、母や自身の身に
起きていた出来事を初めて聞かされた
ネェロネペは、忌々しそうに樹を睨んだ。
娘が死にそうになる度に、突きつけられる
我が子を失うかもしれない恐怖。
陰で泣いていた母の姿が脳裏に蘇る。
おそらく、大樹が“ラドの刃”として
完成したのはつい先程。
大樹を壊される前にメリイは
少し時間を稼ぐ必要があったらしい。
トカゲ人間達を発現させ、
本人は竜域から少し離れた首都で
“エサ”をちらつかせ。
有力な“現象”の竜を竜域から、
“名無しの大樹”から引き離した。
『最初、サヴァン様が軽めの光線を
撃ち込んで穴が空いたけど……
本体の樹までは届かなかったし、
すぐに障壁が復活しちゃったんだ。』
『お父様でも!?』
『周囲への影響や、あの樹の障壁が
徐々に厚くなっている事を考えるならば。
次の攻撃で決めた方が良いでしょう。』
竜王サヴァン、正式には光竜サヴァン。
本気ではなかったとはいえ
かの竜が放った光線ですら“名無しの大樹”を
傷付けられなかった。
障壁に大きな穴は空けられたが、
すぐに閉じてしまった。
勿論、本気を出せば結果は違うだろうが
光竜サヴァンの本気は世界への
影響が多大なのだ。
千年前の戦では、光線の一撃で
貴族の領地が丸々一つ消し飛んだ上、
リュゼーヌ王国には一ヶ月も夜が来なかった。
『わたくし達で一点集中で攻撃して、
障壁を破壊したところをもう一度攻撃!
樹に届かせるのはどうかしら。』
『どうせなら飛び込んだ方が良くね?
ネネちゃん行ったるわ。』
『許しません、父親ストップです。』
『……!!!!』
『ギィイイイイイイイ!!!!』
『死竜のちっこい方の子ども、
やたら元気じゃな。』
『ストップには素直に従うんだね。』
『あれ素直か?』
『目が水色の奴泣きすぎとらんか。』
『親子三頭で同じ顔してて怖いのう。』
『何歳?』
『九百じゃぞ、下は五百。』
『九百と五百!?』
『生まれたてじゃん。』
干し肉を口に咥えたまま、
今にも飛び出しそうなネェロネペは
父と弟からストップが出て、途轍もなく
悔しそうに顔を歪ませて跳び跳ねる。
ただ、彼女の身体は傷だらけ。
本竜はよくても、家族が
許可を出さないのは当然の事だった。
『トカゲ人間とやらを調理しとる
炎竜達はまだ帰ってこんし、ワシらで
何とかするっきゃないのう。』
『飛び込むのは賛成だが、
俺らの誰ならあの樹を壊せる?』
『あと五千年若けりゃ斬り倒したんだが。』
『死竜……は命竜相手に力を出しすぎると
組み合わせ的に最悪か。』
『そうですね、軽くならば
相殺出来るのですがあそこまで
力が漏れ出ているのならば……
ディルギーヴと戦うより、
悲惨な結果になるでしょうね。』
『なぅ。』
『……!』
ミシケロトクラロは話し合う竜達を横目に、
ネェログシムがここに持ってきていた
布の包みをちょいちょいと触る。
触られて思い出したのだろう、
彼は慌てながら背からそれを降ろすと
口で器用に包みを開いた。
「どうしたんですか、ネェログシムさん?」
『…!!!!』
『これは……。』
『あら、最高に“お似合い”の品
じゃなくって?』
シャーリーがネェログシムの動きに気付き、
声をかけると他の竜達も
なんだなんだと寄って来る。
そしてその中身を見たディルギーヴ達は
あっという間に作戦を組み立てて、
かの“ラドの刃”、否、“ラドの大樹”へ
攻勢に転じる事になった。




