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第四十七話『“名無しの大樹”』




『おい馬鹿姫、現状は。』


『見て分かるでしょう、最悪よ。』



川から離れられないガルガランに

別れを告げ、急ぎシュラージュの指揮所に

戻ったディルギーヴ達。

この場所からも見える“名無しの大樹”を、

腕を組みながら見上げていたエトワスタに

現在の状況を聞く。


道中で見たが、シュラージュへ向かっていた

トカゲ人間達は“現象”の竜部隊により

ほとんどが倒されていた。

“現象”の竜達が討ち洩らした個体は、

少し離れた場所で待機している

雪薔薇騎士団の面子により仕留められ、

シュラージュまで辿り着いた個体は

まだ出ていない。



『……!!!!』

「離せ、やめろ泣き虫。」



どうやら連絡係として、ネェログシムも

指揮所に来ていたらしい。

彼の足元にはお留守番していた

ミシケロトクラロがゴロゴロしている。

母からは「こっちは大丈夫だから

仕事をしてこい」と送り出され、

竜域外に棲む竜達へ事態の説明や

召集を行っていたネェログシム。


人型になり、指揮所の隅で居心地悪そうに

大きな白い包みを抱えて立ち竦んでいた

彼は、現れた父ネゥロデクスの背に

己の番を見つける。

そして大慌てで荷物を床に置くと、

父の背から降りたエドガーに駆け寄って

抱き着いた。



『相変わらず泣き顔汚ぇな、

世界一だわ。』


「もうちょい優しい言葉かけてあげなよ。」



美しい顔面をぐちゃぐちゃにしながら

抱き着き、大号泣をする弟に

容赦の無い言葉を向けるネェロネペ。

同じくネゥロデクスの背に乗っていた

ジョージは苦笑いで嗜めた。



「シャーリー……まぁなんて事、

目をこんなに腫らしてしまって。」


「お祖母様、私……。」


「今は無理に話さなくても良いのです。

心の整理が着いてからで良いのよ。」


「……。」



ディルギーヴの背から降りたシャーリーの

顔を包み込み、ヴィレネッテは

孫に優しく語りかける。

妻と孫の姿を後ろで静かに見つめる

ジョンは、移動する前にシャーリーから

ローズに起きた内容を聞いていた。



『しかしなんとまぁ……

“名無しの大樹”が、暫く見たくないと

思っていた色合いになってしまいました。』


『どう見ても命竜の仕業であろうな。

……シャルに伝えはしたが、

間に合わなかったか。』


『そうね、彼方には

対処を指示していたのだけど。』



“名無しの大樹”は、ミャウメインの鱗、

そしてメリイ達の髪色と同じ

眩い金色に輝いていた。

表面の樹皮には鱗のような模様が

浮かび上がり、明らかに異質なモノへ

変化した事が分かる。


ディルギーヴがトカゲ人間の出現を聞き

シュラージュへ向かう前……の、さらに前。

竜域での会議が始まる前、ネゥロデクスの

巣にいた双子の弟へ念を飛ばして

確認した事がある。



《馬鹿姫が樹になる時、樹竜や“命竜”に

力を借りたとお前は言っていたな。》


《え、うん。》


《だがその時、既に命竜ミャウメインは

殺されておったらしい。

シャル、貴様が力を借りたのは誰だ?

他の命竜か?》


《うっそでしょ……。》



エトワスタが“名無しの大樹”になる時、

シャルドームは様々な“現象”の竜から

力を借りたと聞いている。

アルサフにてエトワスタの魂を持つ

人間の少女、ノワエを育てていた

シャルドームから聞いた名の中には

あの命竜もいた。

ミャウメイン以外にも命竜はいるらしいが、

誰なのかは知られていない。

なので、シャルドームにとって

命竜=ミャウメインであるはずなのだ。


《シャルドームが会ったのは

確かに命竜そのものだった》と言っていた。

その時には肉体を捨てていた

ミャウメインが力を貸したのはおそらく、

メリイ達による工作だろう。


つまり力を貸しつつ、“名無しの大樹”に

何かしらの工作を行った可能性もある。

ミャウメインの肉体も大樹の根元に

埋められている事を鑑みて、

エトワスタは竜域に残ったシャルドームを

はじめとする“現象”の竜達に一度、

調査を指示していた。

ディルギーヴは再び、弟へ念話を飛ばす。



《此方の内容は粗方伝えたが、

其方は今どうなっている?》


《やばいよ……僕がまんまと騙されて

力借りてなきゃって後悔しまくってるよ……。》


《馬鹿か、亡骸が埋められておる時点で

遅かれ早かれこうなっておったわ。》


《とりあえず、近付いて根っこの方を

調べてたけど急にこうなって……

弾き飛ばされちゃった。

障壁みたいなのが出て近付けないや。》



“名無しの大樹”は非常に大きい。

もう意味をなさない抜け殻のそれは

無くなっても問題はないが、大きさ故に

斬り倒すと周囲への影響が大きいのだ。


まずは地面を掘り、命竜達の亡骸が

埋められた根元を確認していたのだが

突然樹が黄金に輝き始め、

樹から弾き飛ばされてしまった。

見えない障壁が貼られているらしく、

攻撃をすれば揺らぐが、破るまではいかない。



《こっちは攻撃力高い面子が

ほとんどいないってのもあるけど。

最悪、サヴァン様達にお願いして

攻撃してもらうしかないのかも。》


《それは最後の手段にしておけ。

我々もそちらに行く。》


《……って事は、エトワスタ様も……。》


《今回ばかりは我慢しろ。

逃げるなよ。》


《は、はぁ~い……。》






『現在、“名無しの大樹”に障壁が発生し

接近が不可能になっている。

明らかに命竜がなにかやらかしたのだろう。』


『うげぇ……なんで急に

ご機嫌ハチャメチャゴールデンカラーに

なっちまったんだ?』


『もしかしたら、メリイ・アルサフが

死ぬ事もトリガーになっていたのかも

しれませんね。』



メリイは『時間稼ぎ」と言っていた。

彼女達、命竜の魂が分割された個体は

この千年で様々な作戦を立てて

世界を滅ぼそうとしていた。


その内の一つが“名無しの大樹”への

浸蝕だとしたら。

その浸蝕により何が起きるのかは

分からないが、早急な対処が必要だろう。



『まずは竜域に向かうべきね。

直接見なきゃ何とも言えないわ。』


『我々死竜ならば、命竜の影響を

打ち消せるかもしれません。

我が子達、父様と共においでなさい。』


『はーい。

おらネグ、義弟置いてけ。』

『……。』

「さっさと行ってこい泣き虫。」



まだぐすぐす泣き続ける弟を、

姉と番は無遠慮に引き剥がしにかかった。

ささやかな抵抗も虚しくベリベリと

剥がされたネェログシムが

更に泣いているのを横目に見ながら、

ジョージはニゥニーマに声をかける。



「あの一家、仲良しだねぇ。

……あら、ニゥちゃんどうしたの?」


『やっぱ、へん。』


「変?」



地面を潜って移動してきたニゥニーマは、

“名無しの大樹”の方面……の、地面を

見ながらそう呟いた。



『あの樹から……へんなの、出てる。

にょきにょき、してる。

土のなか……とっても、きもちわるい。』


「にょきにょきしてる……ねぇ。」


『あの樹が、大地を

浸蝕してるって事かしら?』


「そう言えば、竜域に近い領で

作物の不作等が問題になっていて。


甥やその婚約者が赴いて、

対策を探っているんですが……

関係あるんでしょうか。」



ニゥニーマのたどたどしい言葉を、

顎髭を撫でながらジョージは復唱する。

地竜たるニゥニーマの言う事は確かだろう。


フレシオスは頼もしい甥である

次期国王の王太子モーサスと、

その婚約者スノウ・アーヴェンを思い出す。

“最終試験”として、その領地で

原因の解明と対策を練っていた筈だ。



『わかんない……でも、ここのつち、も、

なんか、きもちわるい……の。』


『あの樹、こんな広範囲に

影響を及ぼしてるのね。

元々はわたくしの身体だけど……


ってそうよ! わたくしとあの子の身体に

何してくれてるの!?』



エトワスタと人間の姫の身体が変化して

あの“名無しの大樹”になった。

現在は既に別の肉体があるとはいえ、

自身と親友の身体を好き勝手使われるのは

非常にムカつく。



『今すぐあの樹を斬り倒して

キャンプファイアーしてやるわ!』


『姫、貴女とご友人のお身体なのでは?』


『あらネゥロデクス、わたくしの身体を

わたくしが好きに使って何が悪いの?』


『……失礼いたしました。』


『父様が黙らされてておもしれぇ~。

じゃあジョン、ネネちゃん達竜域行くから

ここでお別れだな。』


「……あぁ。」



竜域には多くの“現象”の竜がおり、

しかも“名無しの大樹”による謎の浸蝕も

確認されている。

身体への影響を考えて、人間であるジョンや

番のエドガー、唾付きのジョージは

連れていく事が出来ない。



「おい泣き虫、行く前に頼み事がある。

シャルラハロート嬢、此方に来てくれ。」


『……?』


「は、はい。」


「泣き虫、シャルラハロート嬢の核を見ろ。」



姉に首根っこを掴まれ、引き摺られていく

ネェログシムをエドガーは引き留めた。

ヴィレネッテに抱き締められていた

シャーリーも呼び寄せられ、祖母から離れて

彼らに近付く。


エドガーからの指示の通りに、

シャーリーを見たネェログシムは

母譲りの空色の目を、溢れんばかりに

見開いた。

明らかにワタワタとし始め、エドガーと

目を合わせた後、己の父と話している

ディルギーヴに駆け寄った。

そのディルギーヴはネェログシムの

話(無言)を聞き鈍色の目を鋭く光らせると、

エドガーとシャーリーの方に歩いてくる。



「えっ、一体なにが……?」


『どういう事だ、医者。』


「シャルラハロート嬢は、

命竜の呪いにより誕生したと言っても

過言ではない。


呪いの影響が僅かに残っていたのだろう、

だから親が側にいなくても孵化が

早まっていたんだ。」



浸蝕を無理やり進めさせる呪いにより、

シャーリーは生まれた。

その呪いは母ローズが全て引き受けたが、

娘の身体にも少し影響が残っていたと

エドガーは診断した。


そしてシャーリーは先程、

その呪いの原因……の一部と

出会ってしまっている。



「魂の一部とはいえ、その命竜に会った。

彼女の浸蝕は更に進んでいる……

数時間の内に孵化が始まるぞ。」


「え。」



ネェログシムに確認させた核の大きさは、

もう孵化が始まってもおかしくない

サイズにまでなっていた。

ディルギーヴもネゥロデクスも、

エトワスタもシャーリーを凝視して

目を丸くしている。

(ニゥニーマは分かっていない)


竜と人間、双方から視線を一気に集めた

人間残り時間数時間のシャーリーは、

驚きのあまり悲鳴を上げたのだった。

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







『まさか、中立派のネゥロデクスが

強硬派に回るとは……!』


「      」


『中立派の連中内で最も強いのは奴だ。

それが戦争支持に回ったとなると……』


「   」


『……目を“惹”かせる、必要がある。』


「        」


『エトワスタ様と、貴様の主君が

事を成すまで時間を稼がねばならん。

なるべく竜と人……双方の犠牲を

最低限に抑えながら、だ。』


「   」


『竜という生き物はな、

良く言えば強者、悪く言えば愚者よ。

永く生きるが故に、強大故に、

娯楽や刺激に飢えている。

其処を突くのだ。


……我と貴様とで殺し合う。

戦場の中央で、お互い本気でな。』


「         」


『今回、人間共の勝ち目はない。

竜側はそれを分かっている、

やる気の無い者も多い。


我々の戦いに余所見して攻撃が疎かになる

馬鹿も出る筈だ。』


「     」


『死んでも悔いは無いのか、だと?

阿呆め、死ぬのは貴様だ。


フン、竜殺しの刃を使う輩相手とて、

このディルギーヴが人間の女風情に

負ける訳がなかろうよ!』


「              」


『その余裕が何時まで持つか楽しみだ。


今の内に主君へ、別れの挨拶を

しておいた方が良いぞ……ローザ・ラド。』








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