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第四十六話『薔薇が散った理由』




「……!

エドガーさん!?」


「おじさんもいま~す。」

『ニゥ、も、いるよ!』



入口に立っていたのはエドガーとジョージ、

そして人型に変化したニゥニーマだった。

エドガーはメリイの死体の山に

一切怯む事無く、シャーリー達の

所まで歩みを進めた。



「ひどい顔だな義父殿。

泣き虫どころか義姉殿すら見たら泣くぞ。」


『生きていたようで結構。

ネェログシムもようやく泣き止みますね。』


「エドガーさんに、ジョージさん!

それにニゥニーマさんも!


怪我はありませんか!?」


「大丈夫大丈夫、捕まってる間に

水しか貰えなくてお腹減ってるくらい。

ニゥちゃんが床をぶち抜いて

助けてくれたしね。」


『ニゥ、頑張った!』



トカゲ人間に誘拐されていたジョージは、

エドガーがチノに連れていかれるまで

同じ部屋に押し込められていた。

その後、ニゥニーマが彼の声を便りに

地面から助けに現れ、共にエドガーを

救いに行動していたのだ。



『あら?

研究の私はどうしたの?」


「“研究の私”が誰かは分かんないけどぉ、

お姉さんとおんなじ顔した人なら

おじさんが倒しちゃったよ。」



小型ナイフをくるくると回しながら、

人を殺したとは思えない飄飄さで

ジョージは軽く言い放つ。


ちなみに、部屋を監視していた

トカゲ人間達もジョージが仕留めた。

エドガーから渡されていた

“死竜の鱗を砕いた粉”を、持っていた

ナイフに塗り付け、擬似的な“ラドの刃”を

作り出したのだ。


チノ相手でも背後から音もなく近寄り、

手慣れた様子で首をかっ捌いて

殺してしまった。



『おい、死竜の息子の番。

先程貴様が言っていた内容だが……。』


「言った通りだが?

本来、母子共に死ぬ筈だったが

母親だけ死んだのがエラーなのではないか。」


『すごいわねぇ、大正解!」


「私も、死ぬはずだった……?」



エドガーの言葉にシャーリーはよろける。

メリイは思わぬ人間が出した正解に

大喜びしているが、本人としては

喜べるわけがない。



『説明しろ。』


「先程、実験台にされそうになってな。

チノと名乗ったその女は、そこにいる女と

同じ顔をしていたが。


そのチノが言っていた。

番の身体を使用し、〖“現象”の竜を

滅ぼす方法を検証する〗のだと。」



チノがエドガーに語った説明はこうだ。

“現象”の竜は、存在する個体が全て死んでも

世界からまた生まれ出る。


殺しても消えない存在は、ミャウメインに

とって世界を滅ぼす最大の障害として

立ちはだかったのだ。



『最初、人間達に正体を隠して近付き、

ミャウメインは“ラドの刃”を作り出させた。

ひ弱な人間達でも“現象”の竜を

殺せるように、です。」


『アルサフの反政府の連中が

劣化品の“ラドの刃”を持っていたのは、

貴様が糸を引いていたのか。』


『ええ、私が潜り込ませた個体を通して

定期的に各地の人間へ“ラドの刃”を

流していましたの。

あの竜罰の御伽噺だって、私達が

起こさせたようなもの。


本命ではないとはいえ、彼らが

改良を続ければもしかしたらもあるでしょう?

続ければいつかは届くかもしれなかった。」



そうして“ラドの刃”は形や姿を変えた。

劣化するとはいえ通常種の竜からも

作成する事が可能になり、鋼竜の外殻を

大量に得た事で巨体の海竜に

ダメージを与えられる武器の量産が

可能になった。



『ミャウメイン自身も餌食に

なったふりをして、私達に後を託したのです。

ですが、“現象”の竜が死んでも

滅びないのは変えられない。


……研究の私は気付いたの。

世界から生まれる“現象”の竜と、

番から生まれる“現象”の竜。

母体の規模が違うだけで、その形は同じだと。


巡る世界をどうにかする為に、

番の身体で検証をする事にしたのですよ。」



そう言って、メリイは金色に輝く

ナイフを取り出した。

彼女の髪と同じ色の刃は、暗い室内でも

神々しく輝いている。



『ミャウメインの鱗を用いて

作った“ラドの刃”。

これに、私は少し細工をしました。


私は他の個体と違って魂が濃い。

故に、“呪い”も浸蝕も使えます。」



メリイは首都の人間達をトカゲ人間に

変える為の浸蝕も行った。

分割された魂でしかないので

“現象”の竜程ではないが、二十年かけて

首都全域を浸蝕した。


そんな彼女が“ラドの刃”に施した呪いとは。



『命竜の呪い、それは生命の暴走。

強すぎる生命力は身体を蝕み弱らせる。

だから“現象”の竜の、番への浸蝕を

無理やり、そして余分に促進するよう

促して身体を傷付けさせる。


そして番の身体への過剰な浸蝕は

いずれ身籠るであろう“揺籃の雛”、

胎内の子にも大きなダメージを与えます。


つまり、母体と子の双方が

耐えきれず自滅するように仕組んだ訳。


……この刃で切り付けられた時、

まだ“ただの”人間だったのならば

身体の浸蝕は一気に進んだでしょうね。」


『……ならば、ローズが死んだのは。

番って四年で我が子を産んだのは……!』


「その刃で切り付けられて百年分、

いや数百年分以上、一気に浸蝕が進んだ。


それだけでもどうして耐えられたのか

分からないが、浸蝕が進んだ結果

シャーリー嬢を妊娠したんだろう。」


『私達は直接手を下したのではなく、

あくまで浸蝕を異常に促進させただけ。

だからシャルラハロート・アーヴェンは

間違いなく貴方の子ですよ、ディルギーヴ。」



メリイの手に握られた“ラドの刃”にて

切り付けられたローズの身体は、

その“呪い”により浸蝕の異常な促進を

受ける事になった。


命竜の浸蝕ではなく、番である

ディルギーヴからの浸蝕が

過剰に進んだのだ。

そしてあっという間に番として

十分な身体へと浸蝕がし終わっても、

まだ残る効果でシャーリーを身籠った。



『そう、そしてこの刃の呪いは

先程言ったように“揺籃の雛”にも作用する。

それを知れたのはネゥロデクス、

貴方の娘が脆く生まれたのを知った時。


番は呪いが作用する前に死んでしまったし、

貴方が生き返らせた時に中和されたから

期待はしていなかったけど……

身体に残った幽かな呪いが胎児に

作用した結果、貴方の娘は孵化するまで

死に纏わりつかれていた!


だからもう一度、この刃で切りつけたら

何か起きるかもと狙ったけれど……

元々身体にあった呪いは孵化した時に

消えちゃったみたいだし、新しい呪いも

屍竜の力と拮抗して傷の治りが遅い程度。

ピンピンしてるものね。」


『……あの人のみならず、我が子まで。

まだ死に足りないようですね……?』



ネェロネペが産まれてから

孵化するまで死にかけていたのも、

ガルガランが襲撃されたのも、

コァドが殺されたのも、

エトワスタが樹になったのも、

そしてローズが死んだのも。


全ての元凶にミャウメインがいた。

全ての命を慈しんだ結果、

全ての命を軽んじるようになった竜が。



『ネゥロデクスの番と娘の事例を

参考に改良した呪いで、本来なら貴女も、

貴女の母も死ぬはずだった。


でもローズ・アーヴェンだけが

この世を去りましたわね?

おそらく、我が子の分まで呪いを

一手に引き受けたのでしょう。

シャルラハロート・アーヴェン、

貴女の母親が死んだのはそれが理由。


ただの、母の愛ですよ。」


「……おかあ、さまッ。」


『シャーリー!』



本来なら、浸蝕が一気に進んだ時点で

並みの人間は死ぬ。

だがローズはそれを耐えた。


しかし、我が子に振りかかった呪いまで

その身で引き受けるのは流石のローズでも

耐えきれなかったのだ。

呪いを“呪い”と認識していたのか、

否、彼女はきっとこう思っていただけ。


「自分の命に代えても我が子を産む」と。


シャーリーはもう立っていられなかった。

ひどい母親からの、何とも

ひどい愛を知ってしまったから。

こんな不器用な、どうしようも出来ない愛を

今更突き付けられてしまうのか。


父に抱き着いてわんわんと泣き出した

娘を無言で抱き留め、ディルギーヴは

メリイを睨む。

ローズの覚悟を、シャーリーの悲しみを、

決して無駄なものには出来ない。



『随分長々と話をしてくれたものだ。

それで? その“ラドの刃”は貴様にとっての

逆転の一手か何かか?』


『うふふ、まさか!

これは結局間に合わなかったから。


他にも、世界を浸蝕し子たる

新たな“現象”の竜を生まれないようにする。

その為の練習として私達は番を

狙っていましたけれど、研究の私には

時間が足りなかったようだし。


さて、時間稼ぎはこれでおしまい。


トカゲ人間達も、“ラドの刃”も、

目的を果たす為の候補の一つに過ぎません。

本命の時が来たのなら、使う必要は

もう無いでしょう?」



メリイは静かに己の喉元へ

ナイフを、“ラドの刃”突き立てた。

赤い唇は弧を描き、愛おしそうに

虚空を見つめる。



『愛しています、ミャウメイン。」



そう言って彼女の白い喉元に

“ラドの刃”が沈んでいく。

ディルギーヴもネゥロデクスも、

その場にいた誰も彼女のそれを止めない。


真っ赤な血が吹き出して白を汚し、

力を失った腕から“ラドの刃”が

音を立てて転がり落ちる。

そうしてメリイ達の死体の山に

突き刺さったが、代わりのメリイは

現れなかった。



「あ~らまぁ。」


『……ネゥロデクス。』


『分かっています。』



ネゥロデクスは死体の山に近付き、

玉座に凭れかかる形で息絶えた

メリイの遺体を下から確認する。


確かに死んでいる。

何故今回は新しいメリイが

現れなかったかが謎だが、彼女は

間違いなく自らの命を手放した。



『このメリイという存在は、

魂が他の個体より濃いと言っていましたね。

おそらくですが、ミャウメインと

同じように魂を分割させて

分身を生み出していたのではないかと。』


『好きなだけ荒らして、

好きなように喋って死におったな。


……この場所で行える事は

もう無かろう。』



冷静さを取り戻し、いや怒りは腹の中で

渦巻いているのだろうが上手く仕舞い込んだ

ネゥロデクスが、殺しても殺しても現れた

メリイのカラクリを分析する。


ディルギーヴとしてはローズの死の

復讐こそ出来なかったが、理由は知れた。

そして今は泣き止まない娘を

抱き締めて、頭を撫でる事に忙しい。



「あ~あ、さっさとナグラ山に帰りたいねぇ

ニゥちゃん。」


『うん、ジョーと、いっしょ、に、かえる!』


『あの女が“時間稼ぎ”と言っていた事が

気になるが……まずはシュラージュへ

戻るとしよう。


それで良いか、シャーリー。』


「……は、はい、おどうざま……。」











『大変ですわぁ~!!!!!!!!』



ドゴォ!と大きな音を立て、

現れたのは巨大な顔。

川から離れた場所に建てられた

城だというのに、ガルガランが壁を

ぶち破って突っ込んできたのだ。


これにはこの場にいた面子も

ビックリである。



『シャリ子! 父様!

ちょっとやべえぞ!』


『ネェロネペ、私達の愛しい娘。

あぁ、可愛らしい顔がこんなにも傷付いて……

少し抱き締めさせて下さい。』


『えっ、やだよてか父様と同じ顔じゃん

気持ち悪ぃ……ってにじり寄ってくんな

キモいキモいキモい!』


「義姉殿、後で説明するから諦めろ。」

『そうだな、抱き締めさせてやれ。』


『なんなの!? 義弟までなんなの!?

いやそれどころじゃねえんだってば!!』



飛び込んできたのはガルガランだけではなく、

ジョンを背に乗せたネェロネペもだ。

娘の傷だらけの姿を見たネゥロデクスは、

人型に戻って抱き締めにかかる。


父の拘束から抜け出そうと

傷だらけのネェロネペはバタバタ暴れ、

その背から降りたジョンは

シャーリーとディルギーヴに近付く。



「おじいざま……おがあざま、

おがあざまはッ……!」


「……何があったのかは後で聞く。

ネェロネペが言う通り、

それどころではないとしか言えん状況に

なっている。」



先程、リュゼーヌ王国の方角で

眩しい金色の光が弾けた。


ガルガランは遠くを見るために背を伸ばし、

敵を殲滅し終わって遊んでいたネェロネペは

確認する為、ジョンを乗せたまま

空へ舞い上がる。

そしてその景色を見た後、大慌てで

他の面子が集まる王城に飛び込んだのだ。

(ガルガランも文字通り“飛び込んだ”)



「“名無しの大樹”に異変があったようだ。

今すぐ戻った方がいいだろう。」















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