表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/60

第四十三話『いのちのおもさ』




『あ~、退屈、退屈だわぁ……。

時間ってこんなに過ぎるの遅かった?

楽しみな事って始まるまでが長いのよ、

だからって座るだけなのも飽きるのよ。


ねぇ、見てるんでしょうネゥロデクス?

どうせならディルギーヴに、

シャルラハロート・アーヴェンも

一緒に連れておいでって言っといて下さいよ。


来てくれたら出血多量の大瀕死ボーナスで

教えちゃおっかな?って思ってるの、

彼女の生まれのひ・み・つ♡

知りたくない? 知りたいわよね? ね?


そんじゃ伝言よろしくおねがいしま~す!」
















『……だそうです。』


『殺す。』



ネゥロデクスを通して伝えられた、

メリイ・アルサフからの挑発としか

思えない伝言。

娘を危険な場所に連れてこいと言われた

ディルギーヴからは、どす黒い闇が

漏れ出している。



「……お父様。」


『やめとけよシャリ子、

どっからどう見ても激罠だぜ。


オメェは待ってろや。

ネネちゃんとジョンがそいつ引き摺って

連れてきてやっからよ。』


「ですが、私の生まれの謎は……

お母様の死にも関係しているという事です。


わざわざ私を誘き寄せる為に

口に出したという事は、その方は全て

知っているはず。」



ローズの早すぎる妊娠、

そして謎の衰弱死。


ディルギーヴとシャーリーが

追っている不可解な謎の答えを、

メリイ・アルサフは全て知っている。

多少の危険は背負ってもこのチャンスは

絶対に逃がせないと、シャーリーは

己の父をじっと見た。


ローズと同じ緋色の目で訴えられ

観念したように、ディルギーヴは目を逸らす。



「……無駄だ、竜殿。

こうなっては止めても止まらんぞ。」


「意思の強さはローズそっくりだね!」


『喜ぶな間男未満。

……全く、その緋色の目で

見つめられては断れぬ。』


『おやおや、何を弱気に?


あれだけ自信満々に

『我が娘は必ず守ってみせる』と

言っていたのはどこの誰でしょうね。』


『言われずとも守ってみせるわ

この粘着ガラス!』


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



まず、シュラージュへと迫る

トカゲ人間への攻撃が始まった。

先陣に立つのはきょうだいを殺され、

怒り狂う炎竜ヴォルチナ。


全身を燃え上がらせながら

トカゲ人間の群れの前に降り立つと、

火柱と化したヴォルチナは、あっという間に

周囲ごと敵を燃やし尽くす。


だが数が多いトカゲ人間達は突然

目の前に現れた“現象”の竜に恐れるどころか、

そのまま突っ込んでくる。

仲間が、己が燃やされようが

決して止まる事はない。

中には、手にした“ラドの刃”でヴォルチナに

傷を付ける個体も出てきた。



『!!!!!!!!!!!!!!!!』


『ああー!』

『だからなんで樹竜は

炎竜の射程圏内にいるのだ!』

『アホだからじゃぞ。』

『ヴォルチナ、傷つけられたからか

更に怒っとるのぉ……。』



炎竜以外に、トカゲ人間との戦闘を

行っている“現象”の竜達は

ヴォルチナの怒りっぷりに若干引いている。

そんな中に混じった番の氷竜ヂーシィは、

普段と変わらない顔で言葉を紡ぐ。



『最愛、過激、激怒、理由、武器。』


『なんて?』

『ヴォルチナ、武器にキレとるらしい。』

『というか炎竜に攻撃する前に

武器なんて溶け……そういうことかえ。』

『ヴァナチカの亡骸から作った

“ラドの刃”かぁ~!』


『強火。』



トカゲ人間を氷漬けにしながら、

ヂーシィは燃え盛るヴォルチナを見る。

元々“現象”の竜一番の苛烈な性格の

ヴォルチナが、きょうだいを殺されただけに

飽き足らず、その亡骸を使った武器で

攻撃されたのだ。


怒髪ではなく火柱が天を衝きそうな勢いで

燃え上がる番を見ながら、冷静な氷竜は

自ら作った氷の彫刻を砕いていたのだった。



『やばい、アイツの炎青くなってる!』

『樹竜待避! 待避ー!』

『ヂーシィどうにかせい!』


『無理。』










「すごい……戦いですね。」


『ヴォルチナが暴れておるな。

彼奴は……まあ見ての通りだ。』



“現象”の竜による一方的に近い戦闘を、

ディルギーヴとシャーリーは空の上から

見ていた。


ネェロネペやジョン、ニゥニーマ達は

先に首都へ向かい、ある程度敵を

殲滅しておいてくれるらしい。

(ミシケロトクラロは地図の上で

昼寝を始めてしまったのでお留守番。)


他にも動ける“現象”の竜達の何頭かに、

首都での戦闘に参加するよう

エトワスタが指示を出していた。


今まで被害を受けた竜達は、基本的に一頭で

いる時に襲われて死んでいる。

今回はそれを念頭に置き、複数頭での

行動と攻撃が出来るように組まれていた。



「本当に、何が目的で街の人達を……。」



メリイによりトカゲ人間に変えられた

人間達は、恐れも痛みも悲しみも無いらしい。

彼らが来た道を見れば、無惨に破壊された

村や建物が点在している。



『メリイという女の余裕ぶりからして、

更に何を仕出かそうとしているのだろう。


先行したネゥロデクス達が

捕まえておいてくれれば良いのだが。』


「はい。

これ以上、犠牲者を増やすわけにも

いきません。」



メリイには聞きたい事が山ほどある。

今回の事件を起こした理由、目的、

過去に亡くなったローズの事。

速度を上げた父の背中に掴まりながら、

シャーリーはアルサフの首都がある方角を

見つめる。


アルサフの首都、そこは

大きな川の側で繁栄した街だった。

遥か昔に建てられた王城は、過去の

凄惨な栄華を誇るままメリイの居住地に

なっているらしい。

しかも二十年前にローズが侵入し、

王族達を血祭りに上げた場所でもある。


そしてディルギーヴの背に乗って

数刻後、首都の上空に辿り着いた

シャーリー達が見たものは。









川から身体を出し、首都へ頭から

突っ込んで建物という建物を

壊しまくっている海竜、ガルガランの

姿だった。



『あら~、ディルギーヴさんと

シャーリーさんじゃございませんこと?』


「ガ、ガルガランさん!?」



こちらを認識したガルガランは

ニコニコしながら血まみれの顔を向けた。

身体中には真新しい切り傷も見える。



「ど、どうしてここに!?」


『黒くてふわふわした御方に

お誘いを受けましたので、海から

ピチピチ遡ってきましたの。

ドデカい川があって助かりましたわ!


サケさんの気持ちが身に染みましてよ~。』


「黒くてふわふわ?」


『……随分と血塗れだが。』


『だいたいは返り血ですわ!』



川のすぐ近くにあるアルサフの首都なら

ガルガランも攻撃が可能だ。

海ではないので力はそこまで出ないが、

巨体によるダイブや頭突きにより

街並みはすでにズタズタになっている。



『ふわふわさんに感謝です~!

変な人間にチクチク刺されるのは

ムカつきますけども、正気の状態で

人間の街を壊すのってすっごく楽しいので!』


「そ、そのふわふわさんとは一体……?」



ガルガランを戦力として呼んだのは

一体誰なのだろうか。

エトワスタはふわふわした見た目では

ないので違うだろう。

ディルギーヴやシャルドームも

毛は生えていない。


とりあえずガルガランが作り出した

瓦礫の山の中から着陸出来そうな場所を

見つけたディルギーヴは、背に乗る

シャーリーを降ろす。


ガルガランの身体は至近距離で見ると、

前回よりも傷が増えていた。

本竜はピンピンしているが、“ラドの刃”で

やられたのだろう。



「お怪我は大丈夫ですか?」


『大丈夫ですわ!

ふわふわさんに似たごわごわさんが、

グサグサ刺してくる変な人達を

ぎったぎたにしてくれましたし~。』


『ふわふわとごわごわがどいつか知らぬが……

確かにトカゲ人間は見当たらぬな。


……其奴等の死骸すらもだが。』


『あんまり美味しくなかったですわ~。

大味で雑味もエグいし、人間と爬虫類の

中間みたいな中途半端テイストでしたし。』


「た、食べ……。」


『美味しかったら、ナンシーや

子分さん達にお土産で持って帰ろうと

思ってましたのに。


別の何かを探しますわよ~!』



元人間の死骸を持ってこられても

海賊団の面子も普通に困ってしまうだろう。


だがガルガランはトカゲ人間を

食料としてしか見ていないようで、

身体を揺らし、わりと辛口のレビューを

残した。



『そういえばごわごわさん、

どこ行かれたのかしら?』


「ごわごわさんとは?」


『ふわふわさんと違って

毛並みがごわごわしてるから、

ごわごわさんですわ!

さっきまでここら辺でヒャッハーして……


あっ、あそこにいますわよ!』



ガルガランが頭で指した方向から

左目には金、右目には空洞を湛えた

竜が駆けてくる。

獣の四つ足に猛禽の頭、

四枚の大きな翼を持ち漆黒の毛並みは

返り血にまみれ赤くなっていた。


そして、その背中には。



「お、お祖父様!

という事は……ごわごわさんって

ネェロネペさんの事ですか!?」


『……瓜二つだな、父親と。』


『シャリ子ーーーー!!!!』



ネゥロデクスより少し小さく、

目と翼の数以外、ほぼ父親と見た目が

同じネェロネペがジョンを背に乗せて

駆け寄ってきたのだ。


ジョンはシャーリーの声を聞くと、

瞑っていた目を静かに開ける。

そして、親子の前で止まった戦友の

背中から剣を携えて降りてきた。



「お祖父様……お怪我は?」


「……ほとんど無い。

コイツは傷だらけだが。」


『楽しかった~!』



ジョンに指を差されたネェロネペは

戦いがとても楽しかったのか、

傷など気にせずニッコニコである。

身体も小刻みに、左右に揺れていた。


正直、違和感がすごいので

ネゥロデクスと同じ顔で満面の笑みを

浮かべないで欲しいとディルギーヴは思った。



『ごわごわさんが更にごわごわですわ。』


『うるっせえなつるっぺた!

誰と比較してネネちゃんの毛並みを

ごわごわだって言ってんだよ!』


『ごわごわさんそっくりで~、

両方のおめめがお空みたいな色した

ふわふわドラゴンさんですの!』


『……弟じゃねえか!』



どうやらトーマスに泣き付いていた

ネェログシムも、他の竜の召集等で

動いているらしい。

ガルガランは彼から話を聞いて、

この場所まで泳いできたのだ。



『向こうに湧いてたトカゲ野郎共は

ネネちゃんとジョンがぶっ潰したぜ!』


「……。」


「さすがです、お祖父様にネェロネペさん!

……あれ、お祖父様がお持ちの剣は

普通の物ですよね?」


「そうだが。」


「それで……トカゲ人間さん達を?」


「斬ったが。」


『ジョンは変わらずすげぇんだぜ!

普通の剣なのに上下真っ二つに

しててよぉ、今から持ってきてやろっか?』


「け、結構です……。」



ジョン、何ならネェロネペとの初対面は

ボロボロの斧で応戦している。

研鑽を積んだ今なら、“ラドの刃”ではない

通常の剣でトカゲ人間を倒す事も

大英雄には簡単な事だった。



『シャーリーよ、ローズも

通常の剣で我を負かしたぞ。』


「はわ」



「斬れないなら斬ればいい。」

……ローズ・アーヴェンの名(迷)言である。

寝ていたディルギーヴを蹴り起こし、

腰に差していた安物の剣で三日三晩

“現象”の竜と斬り合ったローズの

名(迷)言である。


やはりジョンとローズは親子過ぎる。

あまりにも規格外。



『ネゥロデクスと地竜はどうした。』


『父様なんて知らね。

ガキンチョちゃんの方は

ドデケェ穴開けてた後、見てねえが。


……っておっと、向こうは

まだ残ってんのか?』


『ちょっとお待ちを~。


うーん、他の“現象”の竜さん達が

戦ってるみたいですわね~!

あたくしはここから動けませんから

大人しく街を破壊して遊んでますわ。』


『よっしゃ、ジョン行こうぜ!』


「……シャーリー。」


「は、はい!」



ネゥロデクスとニゥニーマは

別行動になってしまったらしい。

ネゥロデクスは心配ないが、

まだ幼いニゥニーマの方は心配である。


その時、突然響いた大きな音を

確認する為にガルガランが身体を伸ばし、

音のした方面を見る。

そちらには竜域から来たであろう

見知らぬ“現象”の竜達が、

大暴れしている姿が確認出来た。


それを聞き、ネェロネペは

もっと戦闘する為にその方面へ向かおうと

ジョンを誘う。

誘われたジョンは普段通り無言のまま

ネェロネペの背中に乗った。


そして、これから王城にて騒動の首魁と

対面する孫へ声をかける。



「王城はまだ形が残っている。

空から見れば場所もすぐ分かるだろう。


……気を付けろ。」


「はい、お祖父様。

お母様の事……メリイさんに聞いてきます。」



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『戦い、戦い! たっのしっいな~!』


「思ったのだが。」


『ん~? 何だよ。』


「怪我をした時に、母親から

こってり絞られたと言っていなかったか。」


『そうだぞ。

母様は怒るとめちゃくちゃ怖えんだ。』


「切り傷一つでそれならば、

今回はどうなるのだろうな。」


『……あ。』


「……わしも親になって分かった心配だ。

覚悟して叱られてこい。」














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ