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第四十二話『堕ちた』




『許す訳なかろう、絶対にならぬ。』


「そんな……。」


『やーい、シャリ子叱られてやんの。』



会議を一時中断し、シュラージュへと

急ぎ戻ってきたディルギーヴ。

屈強な騎士や兵達が慌ただしく動き回る

臨時の指揮所にて、父は愛娘を叱っていた。


その様を見るのはネェロネペや

ニゥニーマ、ミシケロトクラロといった

“現象”の竜達である。

(エトワスタとネゥロデクスは人型を取り、

少し離れた所で話をしている)



『だから言ったじゃねえかシャリ子ォ、

オメェの父親は“現象”の竜だぞ?


子どもに危険しかない囮作戦なんて

認めるワケねーだろうがよ。』


「でも、エドガーさんや

ジョージさんの居場所を見つけるなら、

それが一番かと思ったんです……。」


『その妙な豪胆さ、ネネちゃん的には

大好きなんだけどオメェの父親が

心労で倒れちまうから止めとけ。』


『うむ、心配のあまり闇が漏れ、

この場所がとんでもない事になるぞ。』



シャーリーは、自らを囮として

トカゲ人間にわざと拐われ、エドガー達の

居場所を探ろうと考えていた。

さすがローズの娘、肝が座りすぎている。


だがディルギーヴとしては、

娘をそんな危険な目に合わせる訳にいかない。

そもそも、生きて目的地まで運ばれるとは

限らないのだ。

トカゲ人間達はターゲットを誘拐し、

殺してから移動させているかもしれない。



『しかも、理由は分からぬが

アルサフの首都が堕ちたという。

こちらにトカゲ人間が送られているとも

ネゥロデクスは言っていた。


今はどこもかしこも混乱している。

あまり変な行動は取らぬ方が良い。』


『……分かりました、すみません。』


『シャーリー、だいじょ、ぶ?』


『大丈夫です。

ニゥニーマさん、ありがとうございます。』



ネゥロデクスが見た内容を、

ディルギーヴはまだ教えてもらっていない。

話の中身によってはディルギーヴも

動かなければならないので、

更なる混乱の種はなるべく無い方が良い。


すっかりネェロネペに懐き、

彼女の後ろに引っ付いてディルギーヴから

隠れているつもりのニゥニーマから

心配そうな顔を向けられ、シャーリーは

しょんぼりしながらも笑顔を返す。

何も出来ない自分がもどかしかった。



『ディルギーヴ! ……と、その他大勢!

今から人間達と作戦会議をするわよ!』


『この場にいる“現象”の竜は

全員こちらに来なさい。』


『ほいよ父様。


とりあえずシャリ子も来いよ。

囮作戦は置いといて、まだ連中に

狙われてるかもしれねぇからな。』


「は、はい!」


『シャーリーちゃん、大丈夫。

わたくし達がシュラージュも貴女も

全力で守って見せるから安心してね。』















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お集まりいただきありがとうございます。

私はアーヴェン辺境伯家の当主、

ヴィレネッテ・アーヴェン。

シャルラハロートの祖母でございます。」


『ご丁寧にどうも!

わたくしは竜姫エトワスタ。

今回の件について、わたくしが

“現象”の竜側の全権を委ねられているの。』



まずお互いのトップであるヴィレネッテと

エトワスタが挨拶を交わす。

指揮所には、雪薔薇騎士団団長のダムズや

ジョンは勿論の事、王家の使者として

フレシオスまでいた。

どうやらリュゼーヌ王国の王城で

今回の事態の確認をしようとしたら、

竜域に向かう途中のシャルドームに

連れてこられたらしい。

(次期辺境伯のウィンズやジェイズ親子は

最悪の事態を考え、城にて待機している)



『お、ジョンじゃーん!

お久じゃねえのよ!』


『……ああ。』


『父様、こいつネネちゃんのダチね。

あとシャリ子のじいちゃんなんだとさ。』


『ええ、知っています。

その節は娘が大変お世話になりました。』


『本当に父上、“現象”の竜と

友人だったんだなぁ……。』



ネェロネペがジョンに絡みに行き、

ネゥロデクスも目を細めてそれを見る。

“現象”の竜に囲まれ、全く動じないジョンを

見て三男のダムズは遠い目をした。


ネェロネペが離れてしまったので、

ニゥニーマはシャーリーの後ろに

隠れてしまい挨拶どころでは無いし、

ミシケロトクラロは机の上に広げられた

地図の上でゴロゴロ、騎士達を

とてもとても困らせている。



『まず、アルサフの首都の現状ね。

ネゥロデクス。』


『はい。

先程確認しましたが、アルサフの

首都にいたほぼ全ての人間が

トカゲ人間となりました。


現在大群で、人間とは思えぬスピードを

保ちながらこのシュラージュへ

向かっています。』


「人間が……トカゲ人間になった、とは?」


『“現象”の竜への襲撃、及び番や

“揺籃の雛”の誘拐を行っている

新種の生物だ。


竜と人間の特徴を併せ持っているからか、

身体能力が高い。』



ネゥロデクスは見た。

都の人間が突然苦しみ、竜の変化のように

トカゲ人間に変わってしまったのを。

今までフードの下に隠れていたその姿は、

金の髪にぎょろりとした赤い目、

身体には黄金色の鱗が生えている。


トカゲ人間達は先程まで苦しんでいたのが

嘘のように、シュラージュの方向へ

一斉に走り出した。

中には“ラドの刃”と思われる武器を持った

個体もちらほら確認出来る。


この異変が起きたのは首都だけらしいが、

こちらに向かう途中にある集落や村を

破壊し、蹂躙し、殺戮を行っていた。



「トカゲ人間とやらを元に戻す方法は?」


『ありません。

私も浸蝕されたカラスを元に戻せず、

処分するしかありませんでした。

カラスのように中身だけ変わったとしても

手遅れなのです。

外も中もあれだけ変われば、

もう戻すのは不可能でしょう。


……そう言えば、アルサフの首都で

ほとんどの人間がアレになる中、

あの国の主である女性だけは

人間のままでしたね。

浸蝕に何か関係しているのでしょうか。』



“現象”の竜に深く浸蝕された物は

元に戻らない。

浸蝕途中に同等の力でかき消せたなら

元に戻せる場合もあるが、

最後まで進んではもう戻せない。

明らかに、中身も丸々変わってしまっている

トカゲ人間を元には戻せないのだ。


そして旧王城内にて、ネゥロデクスの

目であるカラスに笑顔で手を振っていた

金髪の女の姿。

彼女はそのまま、人間の姿を保っていた。

おそらくこの異変の黒幕なのだろう。



「アルサフのトップはメリイ・アルサフ。

旧アルサフ王族の親戚筋に当たる女性だね。

二十年前の戦争後、トップに立った。


国の長とは思えない幼さが残る言動や

振る舞いだが、うちの妹ですら

手こずらせる優れた手腕の持ち主だよ。」



金色の髪を靡かせた美しい長は、

ガタガタのアルサフをあっという間に

最低ラインまで建て直した功績を持つ。

他国を、リュゼーヌ王国をいなし、

未だに独立した国として保たせていた。


それ故民や家臣からの信頼も厚かったと

言うのに、メリイは目の前で

トカゲ人間になった家臣を見て、

楽しそうに笑っていたのだ。



『シャーリーを狙い、雪薔薇騎士団を

襲った賊もそのトカゲ人間なのだろう。

通常の武器は効かぬが、“ラドの刃”の

粗悪品でも傷を食らったと言う事は、

“現象”の竜よりは劣り、されど

人間よりは上の存在なのだろうよ。』


『そのメリイという人間が

どうやったのかは分からないけれど、

トカゲ人間をシュラージュに

辿り着かせてはいけない事だけは確かね。』


『見た限りではざっと万単位です。』


「ま、万……!」


「“ラドの刃”が無い以上、人間では

抵抗で精一杯ですわね。」



倒し方が分からなかったとはいえ、

一体だけでもかなり苦戦した。

辺境の猛者、雪薔薇騎士団の精鋭達による

攻撃だったのに、である。

しかも、今回のトカゲ人間達は桁が違う。

エトワスタは、脳内でシュラージュが

生き残る為の計算をし続ける

ヴィレネッテに声をかけた。



『この戦い、わたくし達が引き受けるわ。

人間側はわたくし達が討ち漏らした

トカゲ人間がシュラージュに

入り込まないよう、守りを固めていて

欲しいの。』


「おや、我々リュゼーヌ王国は

兵を出さなくてもよろしいのですか?」


『ええ、気持ちは嬉しいのだけど……

巻き込んで、殺しちゃうかもしれないし。』



フレシオスの言葉に、エトワスタは

ため息を吐きながら言葉を返した。

何しろ、戦いへの協力に嬉々として

応じてくれる“現象”の竜は戦闘狂ばかり。

しかも千年前に戦争派として人間と

戦った連中ばかりなのだ。


人間への配慮等せず、遠慮無しに

周囲を巻き込んで攻撃しまくるだろう。

余裕で想像出来る。



『それより、“現象”の竜は暴れた後が

面倒なのよねぇ……。

前回はディルが闇を制御してくれたから

問題はなかったけど、今回は

どれだけの綻びが出るのかしら。』


『言っておくがな、我は休暇中だぞ。』


『分かってますー!

任せっきりにして悪かったとも

思ってますー!


代わりにわたくしや他の面子で

やっておくわよ。』



“現象”の竜が暴れれば世界にも傷が付く。

千年前はその綻びから闇が溢れ、

闇竜ディルギーヴが制御の任に就いた。

シャーリーは、せっかく会えた父と

また離ればなれになるのかと思ったが、

エトワスタの談ではそうはならないようだ。

ほっと胸を撫で下ろす。



『というか、竜域には大勢の

“現象”の竜が集まっているけれど……

こちら側には影響はなさそう?』


「竜域に面した領地を持つ貴族からの

報告によりますと、大きさを問わず

少なくない魔獣が降りてくるように

なったとか。」


『それ絶対にわたくし達に怯えて

逃げてるじゃない! ディル!』


『シャルに伝えておく。』



現在、竜域では戦闘への

呼び出し待機をしている竜と、

もしもの時の為に待機している竜とで

別れて待っている。


連絡係として竜域にいるシャルドームを

介して魔獣の事を伝え、動ける竜達に

人里への流れ込みを止めてもらう事になった。



『アルサフから来るトカゲ人間の対処、

そして黒幕と思われる女性の確保が

わたくし達の最優先事項よ。


勿論わたくしはアルサフに

突っ込んで……』


『馬鹿姫。』『エトワスタ姫。』


『うっ……分かったわよ、

ここで指揮を取りながら待ってる……。』



闇竜と死竜に宥められ、

渋々エトワスタは残る決断をした。

エトワスタは羽化したばかりで幼竜であるし、

竜の姫として、暴走する輩がいれば

止めなければならない。

千年前のようにいなくなるなんて

もっての他だ。



『とりあえず殲滅力のある面子は

トカゲ人間の対処に回すわ。

ヴォルチナとかヂーシィとか……

他にも、お目付け役であと十数頭は

呼んでおこうかしら。


ここのメンバーはアルサフに突撃して

メリイ・アルサフの確保、もしくは……。』


『殺害、ですね。


命の危機だというのに、

彼女は都から動く気配もありません。

豪胆な事です。』



ネゥロデクスが見るに、

メリイは王城から一歩も出ていない。

彼女が持ち、使う力は不明だが、

何の目的かも不明なのだ。


もしアルサフの首都以外の住民達も

トカゲ人間に変え始めてしまえば

キリが無くなってしまうし、

犠牲者の数も増え続けるばかりだ。



『よっしゃジョンも来るか?

久々に乗せてやるよ!』


「……。」


「行ってらっしゃいまし。

こちらの事はお気になさらないで、

ジョン様。」


「……すまんな。」



ワクワクしながら、ジョンを

戦場に誘うネェロネペ。

例え友人が年老いているとしても、

ネェロネペから見たジョンは

燃えたぎる闘志を宿したあの日のままなのだ。


聞かれたジョンは、無言で

ヴィレネッテを見やる。

女傑であり、妻である彼女は雪薔薇のような

美しい笑顔で送り出す言葉を述べた。



『ネェロネペ。』


『んだよ父様、ネネちゃんは行くぞ。

緊急時なんだから別に良かろ?』


『……怪我はなるべくしないように。

お前に何かあれば、あの人が悲しみます。

勿論、この父も。』


『へいへい分かりましたよーっと。

オイ、どうせならオメェも行くよな

ガキンチョちゃん。』


『え、う、うん……ジョー、いないし……

ニゥも、いく。』


『シャーリーはここで

エトワスタ姫と待っていてくれ。』


「はいお父様、お気をつけて。」



まだ襲撃された時の傷が残っているのにも

関わらず、戦おうとするネェロネペを

嗜めるようにネゥロデクスは名前を呼んだ。

しかし娘はどこ吹く風、父の方など

見向きもせずにニゥニーマの頭を

がしがしと乱暴に撫でている。


ディルギーヴもシャーリーに

待機するように伝えた。

少なくとも、戦場の最前線より

竜姫や雪薔薇騎士団の守るこの場所の方が

安全だからだ。



『エトワスタ姫、首都のトカゲ人間の

対処の為、もう少し竜員を……


……おや、まあ。』



首都にいるトカゲ人間への対処の為、

“現象”の竜をもう少し振り分けてもらおうと

エトワスタに話しかけたネゥロデクスの

金色の目が開かれる。

どうやら、カラスが何か情報を得たらしい。



『……ディルギーヴ。

そしてシャルラハロート嬢。』


『何だ。』



虚空を睨んでいたネゥロデクスは、

ディルギーヴとシャーリー親子を見て

こう言った。



『お前達をお呼びのようですよ。

『真相を知りたくば」、と。』



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『シャーリーちゃん以外には

初めて会うわね!

わたくしの名前はエトワスタ。

竜姫のエトワスタよ!』


「お久しぶりです、エトワスタ様!」


『……だあ、れ?』


『あ、ネネちゃん知ってんぞ。』


『あら、さすがネゥロデクスの娘ね。』


『見た目は星空みてぇに綺麗だけど、すっごい甘えん坊でめちゃくちゃ我が儘で底無しってくらい食い意地が張っててとにかくパワフル過ぎて周囲をしょっちゅう振り回して物理でもとんでもなく強いからほとんど誰も止められなくて側近や両親に全力で甘えまくってる竜のお姫様!』


『クッ…フフッ……。』


『ディルギーヴ!?』


『……って父様が言ってた!』


『ネゥロデクス!!!!!!!!』


『事実でしょう?』















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