表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/60

第三十四話『白波』




『なるほど~、あたくし海にいたせいで

陸地でそんな事起きてるだなんて、

全く知りませんでしたわ。』


『我等も最近動き始めたばかりだ。

知らずとも仕方あるまい。』



宴も終わり団員達や猫が眠る中、

シャーリーやナンシー、そして

ガルガランとディルギーヴは薪を囲んで

情報の共有をしていた。


メェルが“現象”の竜であるガルガランに

手を出したのは、おそらくあの“ラドの刃”を

手に入れた事と関係があるのだろう。

ガルガランは平然としているが、

彼女(?)の身体にはたくさんの傷が

付いたままだ。


“ラドの刃”の技術と材料を用いて

作られたであろう大量の銛を、

メェルはどこから入手したのか。


そして“現象”の竜や番、“揺籃の雛”の

周囲に渦巻く怪しいナニカ。

それらは、きっと関係がある。



「あのローブ姿の人も、ガルガランさんへの

襲撃に関係してるんでしょうか?」


『調べようがありませんわね~。

襲ってきた船は全部沈めてしまった

気がしますし、ここら辺は肉食の魔獣も

多いので死体はぺろりですわ~。


現に、浮かんでいませんでしょう?』


「ヒャワ」


『あの賊が一人ではなく、

組織で動いている可能性もある。

少なくとも、今回海竜に使われた

“ラドの刃”は個人で用意出来る数ではない。


……それに、この刃。』


『海に沈んだ銛は、なるべく

あたくしが回収しておきますわ。

誰かの手に渡ってもう一度あんな目に

遭うのはごめんですもの!』


「では、集めた銛はエトワスタ様か

ネゥロデクスさんに処分を

お願いしましょう。」



ディルギーヴは銛の刃の部分を見て

黙ってしまい、ガルガランは突き刺される

痛みを思い出したのか不機嫌そうに

身体を揺らす。


シャーリーは、ひとまず回収を

ガルガランに任せ、リュゼーヌに戻ったら

竜の姫君と死竜に連絡を入れようと

算段を付けた。



「……〖悪しき娘は、赤い目をしている〗。」


「え?」


『突然何だ貴様、

我の娘が悪女だとでも言いたいのか?』



火を見ていたナンシーがポツリと呟いた

言葉に、ディルギーヴは顔をしかめる。

この中で赤い目を持っているのは、

娘であるシャーリーだけだからだ。

我が子への悪口は許せない。



「違うよ、昔からメェルに伝わってた

言葉なのさ。


赤い目をした娘は、魔性だから

嫁や恋人にするなってねぇ。」


「メェルの古い言葉ですか?

良くご存じですね。」


『そういえば、ナンシーとはじめて

出会ったのもこの辺りかしら。

海にプカプカ浮かんでたところを、

あたくしが拾ったのですわ!』


「……アタシはこのメェルの生まれでね。

でも親に、海へ捨てられたのさ。


そこをそいつに拾われたんだよ。」


「えぇっ!?」



ナンシーは元々、メェルの民だったらしい。

しかし親に、海へ捨てられた……

魔獣の多い海に子どもを捨てるという事は、

つまり、ナンシーの親は娘を

殺そうとしたのだろう。

「ちょいと重い話になるんだが」と

前置きしたナンシーは、静かに口を開いた。



「父親の再婚で、義理の妹が出来たんだ。

義理の母親に似てない、金髪で

赤い目をした可愛い娘だったよ。」



だが、その義妹は幼いながらも“魔性”だった。

あっという間に父や召使い達を篭絡し、

嘘を平然と使い、隙がなく……

当時、十歳そこらだったナンシーは

なす術もなく孤立させられた。

そして一つどころではない数の

冤罪を着せられ、激怒した父により

海へ捨てられたのだ。

実の父親に海へ突き落とされる時、

確かに見た義妹の心底楽しそうな赤い目が

忘れられない。


シャーリーの緋色の目より

もっと赤く、もっと黒い。

血のようなどろりとした赤い目が、

ずっと脳裏にこびりついている。



「ガルガランに助けられて以来、

必死こいてがむしゃらに船を漕いだよ。

もう故郷の土は二度と踏むまいと、

他の海で生きてきた。


だけどメェルの……故郷の黒い噂は

日に日に増していくばかり。

いっその事、自分で首を獲ってやろうと

負け犬風情は帰ってきたのさ。」



義妹の“悪”を味わったナンシーは、

メェルの闇に義妹が関わっていると確信した。

探せば探すほど出てくる悪事……

人身売買、横領、違法風俗、殺人等。

その多くを、あの女が手引きしているのだと。


だが、覚悟を決めてこの海に戻ってきた

ナンシーを出迎えたのは、ガルガランに

身体を噛み砕かれる義妹の姿だった。

メェルの国主、ナンシーの父親の船に

義妹は乗っていて。

復讐する前に、父親と共に死んでいった。



『それはごめんなさいね~。

貴女が復讐したかった相手だけは

生かしておくべきでしたわ。』


「いや、良いさ。

あれだけ怖かった相手が

見るも無惨に食われちまって、

むしろスッキリしちまったから。」


「じゃあ、その義妹さんが

大量の“ラドの刃”に関係してたんですかね?」


「多分そうだねぇ。

狙いは……“現象”の竜を捕まえて

そのまま売ろうとしたのか。


それとも殺して肉や鱗を……

海竜の肉を食えば不老不死、なんて話も

聞いた事がある。」


『止めてくださらない!?

ゾッとしますわ!』



「お前の肉食うと不老不死になるらしい」と

言われて嬉しい存在はいないだろう。

ガルガランも普通に嫌である。



「ネェロネペさんも、ネゥロデクスさんから

血をもらっていたと仰ってましたね。

通常の竜種の鱗が薬になるのは

知っていましたが、“現象”の竜の血や肉も

そうなんでしょうか?」


『我等“現象”の竜の血肉に

薬効があるのではない。


関係の無い輩が口に含んだ所で

身体に悪影響でしかあるまいよ。』



“現象”の竜は基本的に我が子へ

血を与えたりして、わざと浸蝕を

早めたりはしない。

無理やり浸蝕を進めると、“揺籃の雛”が

孵化不全を引き起こす可能性があるからだ。

上手く孵化が出来ず、最悪死ぬ事もある。


ネェロネペの場合は少量の血を与え、

少しだけ浸蝕させる事で一時的に

身体を強くし、病に耐えられるようにした。

回数が多かったので孵化はその分

早まったが、父ネゥロデクスの細かな

調整により孵化不全は起きなかった。


そして、“現象”の竜の体液や

身体の一部を摂取する際、浸蝕に

適合しない存在だと身体が崩壊したり、

爆発したりして死ぬ。

(番や子なら問題はないが、他者は

一気に浸蝕されると身体が耐えられない)



「……これから、メェルは

どうすりゃいいんだろうねぇ。」


『ナンシーの国にしてはいかが?

そしたらいつでも会えますわよ!』


「アンタに会えるのは嬉しいけど……

嫌だよ、アタシの生きる場所は

ここじゃない。」



瓦礫の中で、この国の正統な血を

受け継ぐ女性は言葉を洩らす。

建物も植物もろくに残っていないし、

多くの人々が死んでしまった。

そしてなにより、ナンシーにとっては

自分を捨てた国なのだ。


拾う側の人間になったナンシーは、

もうこれ以上この国に拘る気はない。



「周りの国もメェルに乗っかって

やらかしてたからねぇ。

連中に取られるのは癪に障る。


いっその事、リュゼーヌ王国で

引き取ってくれないかい。」


「わ、私の一存ではとても……!」


「アハハ、冗談だよ!


アタシらは海賊、表立って支援はしない。

でも、メェルの町並みが戻るまで

陰ながら復興の手伝いをするさ。」


『じゃあ、あたくしも手伝いますわ!

滅ぼしたのはあたくしですから!』


『……元気良く言う事ではなかろう。』



ディルギーヴの冷静なツッコミに、

ナンシーとガルガランは大笑いする。

その声で起きた団員達が集まり、

静かな跡地は宴会場に逆戻りしてしまった。


そうして賑やかなまま朝を迎え、

これから暫く行動を共にし

メェルの復興手伝いを行うという、

海竜&海賊団と別れる事になった

シャーリーとディルギーヴ、

ミシケロトクラロ。


手と尻尾を振られて見送られた

ディルギーヴの背中には娘と猫、

荷物以外に、ガルガランの口に

刺さっていた銛の刃が、ぐるぐると

布で巻かれた状態で積まれている。


そしてディルギーヴは、ネゥロデクスや

エトワスタに今回の話を報告する前に、

寄りたい所があると言った。

シャーリーとミシケロトクラロも

特に問題は無いとして了解の意を伝える。


許可を得た闇竜は大きな翼をはためかせ、

リュゼーヌ王国とは少しズレた方向へ

飛んでいく。

そして、この先でとある“人”物に

出会う事をシャーリーはまだ、知らない。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『毒杯、断頭台、そして今回は

海竜のエサですか。


ターゲットの確保もまた失敗。

そう、でも良いの。』


『申し訳ございません、“黄金の君”。

次こそは、必ず。」


『いえ、次はまた今度にして

別に行きなさい。


植えて増えた種は、いくらでも

あるのだものね。』


『はっ。」


『十四年前の詳しい“結果”を

知りたかったのだけど……

まあ今はよろしい、この世界には

いくらでもいるのよ。


代わりも、“代わりがいないもの”も。』















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ