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第二十九話『竜姫エトワスタ』




『待っていたわよ!』


『帰れ。』



夜空を溶かした色の長い髪を靡かせながら。

あまりにも美しい“姫君”は、

ディルギーヴ達を仁王立ちで出迎えた。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



王都から数時間、すっかり暗くなった空を

ディルギーヴとシャーリーは飛んでいた。

旅に出ている間に祝誕祭が終わった

シュラージュ領は落ち着きを取り戻し、

いつもの故郷に戻っている。


そして、シャーリーが

生まれ育った城が見えてきた。

この数週間で見聞きした事の中に、

祖母や祖父、伯父達や元侍女へ

伝えたい事がたくさんある。

ワクワクしながらいつも通り丘に降り立ち、

人型に戻った父の手を引いて走り出した。



「ふふ、久しぶりのシュラージュ!

やっぱり故郷が一番です!」


『シャーリー待て、転ぶぞ。』


「おっ、シャーリー様じゃないか。」

「お久しぶりです姫様!」

「姫様ー!旅に出ていらしたそうで!」

「シャーリー様ー!」

「親子旅行はいかがでしたか!」



街の人々は、シャーリーだけではなく

ディルギーヴにも声をかける。

それに適度に答えながらも、

親子は急ぎ足で城へ向かった。


あと少しで城に辿り着く!

そんな時、ふとディルギーヴが足を止めた。

シャーリーは訝しげに父の方に

振り向いた。



「お父様?

どうされました?」


『……戻るぞ。』


「えっ。」



ディルギーヴは口から溢れるくらいの

苦虫を噛み潰したような顔をして

城の入り口を見ている。


……よくよく見れば、城の門のところに

一人の女性が立っていた。

地面に着きそうなほど長い髪は、

夜空を溶かして注いだような深い藍色。

その髪はキラキラと輝き、星空のようである。


ピンと伸びた背筋に、堂々と胸を張る

その姿からは自信が溢れ出ている。

スタイルもよく、魅力的な女性と

言えるだろう。


そんな女性がこちらに目を向ける。

髪と同じ宙色の目がはっきりと

シャーリーとディルギーヴを捉えると、

女性は口角を上げてこう叫んだ。



『待っていたわよ!』


『帰れ。』



ディルギーヴは死んだ目で言い返す。

明らかに面倒臭いと思っている顔である。

仁王立ちで腕を組み、驚異の肺活量で

大声を飛ばした女性は、驚きに目を丸くする。



『なっ……ディルギーヴ!

お前の主君エトワスタが、

自ら会いに来てあげたと言うのに!』


『帰れ。』


『何ですってぇ!

千年振りの生エトワスタよ!?』


『帰れ。』



“エトワスタ”と名乗った女性は、

ズカズカと足音荒くこちらに近付いてきた。

かなり長身で、靴のヒールも含めれば

ディルギーヴと同じ大きさだ。

迫力がすごい。



『近所迷惑だ馬鹿姫。


しかも門の前に居座りおって……

城の門番も困惑しただろうに。』


『誰が馬鹿姫よ!

門番さんや城主の方には

ちゃんと事情を話して、あそこで

待機する許可は取ってたわ!』


「すごい真面目。」



迫力があり、高貴そうな見た目に反して

ちゃんと許可取りはしていたようだ。

門の前で警備している門番達の方を見ると

「姫様おかえりなさい~」と手を振られた。

緊張感は何処に行った。



『わたくしは昨日の夜から待っていたの。

ご飯もご馳走になったのよ!

宝石とはまた違った味で美味しかったわ。』


『許可を取っていても居て良い

長さでは無いだろうが。』


『今日中に来てくれなかったら

どうしようって思ってたわ!』



ニッコリと笑うエトワスタ。

ひとまず本物のエトワスタであるならば、

父の主であり、“現象”の竜の姫なのだ。

ここに置いてはおけない。



「まずは、お城の中で

お話をお聞きしましょうか……。」


『すまんなシャーリー、

我等が馬鹿姫のせいで。』


『誰が馬鹿よ!』



ギャンギャンと叫びながら

ディルギーヴに噛み付くエトワスタ。

ネゥロデクスはまだディルギーヴを

からかって遊んでいただけだが、

エトワスタは本気で言い合っている。


ネェロネペといい、エトワスタといい、

女性的な“現象”の竜は感情を

出しやすいのだろうか。



『ええい喧しいわ!』

『キャンッ!』


「わっ!?」



とうとう堪忍袋の切れたディルギーヴが

主君の頭を叩くと、悲鳴を上げた

エトワスタの輪郭がユラユラと溶け始める。

そして、輪郭のブレが収まった時、

そこにいたのは。



『うぅ……痛いじゃないの!』


『やはり無理をして変化していたな。』


「ノワエ……ちゃん!」



シャルドームの“娘”、ノワエがそこに居た。

しかし彼女と目の色は同じだが、

エトワスタの髪は亜麻色ではなく宙色だ。

涙目で頭を押さえていた幼い姿の

エトワスタは、「ノワエ」と聞いて

シャーリーに笑いかけた。



『ウフフ、お久しぶりね!

シャーリー“お姉ちゃん”。』



帰って来て早々、城前で

仁王立ちをしていた美女(現在は幼女)を

連れて城に入ってきた孫を見ても

一切動じず、祖母ヴィレネッテは

貴賓室を開けてくれた。


そんな訳で、シャーリーとディルギーヴは

エトワスタと名乗る幼女と貴賓室で

対面していた。



『へぇ、素敵な部屋じゃない。

同じ国なのに、千年前とは

内装も全然違うわ。』


『何をしに来た馬鹿姫。

サヴァン様やルェロナ様、他の連中が

貴様をあれだけ待ち望んでおったのだ。


竜域で大人しくしておれ。』


『あら、わたくしもそう思っていたわ。

でもちょっと問題が起きたのよ!

だからお前を探していたの、

ディルギーヴ。』


『今度は何を仕出かした……!


また炎竜に油を投げ込んだか?

氷竜の身体を削って氷菓でも作ったか?

砂竜の砂で泥団子でも作ったか!』


「想像の百倍は色々やっていらっしゃる。」



エトワスタ、結構なヤンチャを

仕出かしていた。

エトワスタのイタズラにぶちギレた

炎竜と氷竜に、巻き込まれで

一緒に追い掛けられたのは

ディルギーヴ達双子の苦い思い出だ。



『ち、違うわ!

今回は違うわよ!』


「今回“は”……?」



エトワスタはコホンと咳をすると、

今日一番の笑顔でディルギーヴに

言い放つ。















『ねぇディルギーヴ、

シャルドームをお嫁に頂戴!』


『は?』


『あら、お婿だったかしら?

人間の言い回しは難しいのよね。』



まさかの言いたい事が、『弟を嫁にくれ』。

主君のとんでも発言にディルギーヴは

固まってしまった。



「あの、つまりシャルドームおじ様と

番になりたいという事でしょうか?」


『そうよ?

竜域で、他の“現象”の竜達と

開いた宴会の席でね!

番になって頂戴とお願いしたのだけど……。』



エトワスタの大告白に、直前まで火を吹き

風を起こし花を咲かせながら騒いでいた

“現象”の竜達は一気に静まり返る。


父サヴァンは目を見開いて驚き、

母ルェロナは逆に目を細めた。


周囲の竜達がシャルドームを見つめ、

返事を待つ中、なんと影竜は

『ごめんなさい!』と叫び、

己の影に溶けて何処かに去ってしまった。

(影や闇、死といった“現象”の竜の一部は、

単体でなら何処にでも移動が可能である。

何故なら、影や闇は“何処”にでもあるから。)



『振られておるではないか。』


『振られてないわ!

ごめんなさいと言われただけよ!』


『それを振られたと言うのだド阿呆!』



だからエトワスタは逃げ去った

シャルドームを探しているらしい。

両親、特に母であるルェロナが

『絶対に狩っていらっしゃい』と

送り出してくれたのだとか。



『お母様が仰っていたの。

『外堀は埋めて山になさいな』と。

あの時周りにいた“現象”の竜達は

応援してくれてるわ!


だから次は身内のお前よ!

わたくしを義妹として認めなさい!』


『……輝く綺羅星、竜姫エトワスタ。

その輝きを再び見れた事、大変嬉しく。』


『やだわ突然そんな他竜行儀!

わたくしとお前の仲じゃない!』


『千年間の思いもございます。

普段より律せねば些か口調が乱れます故。』


『だから構わないって言ってるでしょう、

ディル!』


『では失礼して…エトワスタ。』


『まぁ!ディルに呼び捨てされるなんて

小さい頃を思い出すわね……!


何かしら、ディル。』 



エトワスタは昔を思い出しているのか、

ニコニコだ。

ディルギーヴは目を閉じ、息を

目一杯吸い、そして。



『貴様なんぞに弟を渡すか

こんのお馬鹿姫ェエエエッ!!』


『痛ッ!!何するのよ!!』



思いっきり、エトワスタに

拳骨と雷を落とした。



『再会して真っ先に!

我の弟を嫁やら婿に欲しがるとは

どう言う了見だド阿呆姫!!

千年間、樹だった弊害で脳味噌に

木屑でも詰まったか大ボケ姫!!


貴様の様なあんぽんたんに

大切な片割れをやれるかこのとんとんちき!』


「お父様の語彙力がすごい事に。」


『ぅ、うう……

そこまで言わなくても良いじゃない……。』



幼馴染み兼側近であるディルギーヴに、

容赦無く切り捨てられたエトワスタ。

ディルギーヴからすれば、目の前の姫君は

小さい頃から己達を散々振り回し、

千年前なんて突然自身を犠牲にして

去っていったとんでもない主君だ。


それなのに、今度は弟を寄越せと言う。

正直、もう二、三発は殴らせてもらっても

良いのではなかろうか。



『だってずっと好きだったんだものぉ!

シャルは昔から優しくてカッコよくて

可愛くて、素敵なんだもの!』


『知らぬわ、身から出た錆であろう。』


『わたくし鋼竜じゃないもん。』



頬を膨らませて不貞腐れるエトワスタ。

転生したとはいえ、何年も生きた竜とは

思えない子どもっぷりである。


……子どもでシャーリーは思い出した。

もしかしたらシャルドームの態度に

関係があるのかもしれないと、口を開く。



「思ったのですが……。」


『あら、何かしら。』


「シャルドームおじ様は、

赤ん坊の頃からノワエちゃんを

育てていらしたじゃないですか。」


『ええ。

あの時は“エトワスタ”としての意識は

無かったけれど、今思えば

最高の七年だったわね……!』


「もう、“子ども”としてしか

エトワスタ様を見れなくなったのでは?」


『……えっ。』


「お父様、私を恋愛対象として

見れますか?」


『絶対に無理だ。』



即答するディルギーヴ。

勿論我が子は愛しているが、

それは父としての愛情だ。


娘に恋愛感情なんて抱く訳がない。

そんなもん抱いたら自死する。



「と、いう感じにシャルドームおじ様も

なっている可能性があります。」


『なっ……何ですって……?』



竜王サヴァンと竜妃ルェロナの子、

竜姫エトワスタ。

彼女は衝撃の事実を突き付けられ、

あまりの絶望に泣き崩れたという。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『もう無理よどうしろってのよ

わたくしここから挽回なんて出来ないわよ。』


『まずは落ち着け馬鹿姫。


最近我が衝撃を受けた話でも

してやろうか。』


『とりあえず聞くだけ聞くわ……。』


『陰湿ガラスの話なのだが。』


『ネゥロデクスの話は良いわよ、

千年前のアイツにはちょっと思う所あるし。』


『ネゥロデクス、番が出来たぞ。』


『えっ。』


『子も二頭居る。

上が九百で下が五百だ。』


『えぇっ。』


『番に羽抜きにされた彼奴は

それはもう面白くてな。


『減るものはあります、

貴方との時間です……。』とか

番にほざいておったのだ。


シャルに念で映像送ったら

大爆笑しておった。』


『ゴフッフェッアーーーーッハッハッハッ!!

なにそっ、なにそれ!

あの、あの澄まし顔のネゥロデクスが

そんなになっちゃったの!?


そう言えば孵化する少し前、

シャルドームが急に笑い出して……

足の指ぶつけて壊してたわ、机を。』


「机を。」













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