番外編四話『サウリアの本』
誰だよお前と思いましたでしょう。
私の名前はサウリア・リューン。
……そう、あのフレシオス・リューンの
妻でございますわ。
おいおい、あのローズ馬鹿
結婚してたのかよとお思いでしょう。
私も「結婚するんですか!?」と
思いましたわ、ええ、そして結婚しました。
でも私達が結婚したのはローズ様が
亡くなってからですから、今年で
十四年目ですわね。
私は、金と銀の公爵家に隠れた三つ目の
公爵家、通称銅のブロドア公爵家の生まれです。
正直、ブロドアは他の二公爵家と比べると
領地も容姿もとにかく地味なのです。
ですからフレシオス様がお生まれになった時、
家から王妃を出すべく躍起になりました。
……まぁ、あの方はローズ馬鹿を拗らせて
婚約者候補達を突っぱね、王座すらも
蹴り飛ばしましたけど。
ですが結果は、ご存じの通りですわ。
ローズ・アーヴェンは“現象”の竜と
結ばれ、子まで儲けられた。
フレシオス様は完膚なきまでに
失恋したのです。
しかし、フレシオス様が失恋しようが
ローズ馬鹿だろうが周囲は放っておきません。
ここぞとばかりに、各方面から
縁談が舞い込みました。
もうお分かりですね?
そう、私とフレシオス様は契約結婚。
お互いの“愛する方”を侮辱し、軽んじない事を
条件に結ばれた打算しかない夫婦ですわ。
……私、子どもが出来ない体質なのです。
ですから早々とフレシオス様の
婚約者候補からは脱落しましたが、
まさか妻になるなど思いもよりませんでした。
フレシオス様は、ご自身の部屋をローズ様の
肖像画で埋め尽くしていらっしゃいます。
分かります、推しには囲まれていたいですよね。
あらゆる角度を堪能したいですよね……!
夫であるフレシオス様があそこまで
ローズ様を堪能していらっしゃるので、
私も遠慮なく愛でられると言うものです……
刊行されているだけで四百巻越え、
もう連載が開始されて百年経つのに
現在でも新作が発行されている
謎の多い歴史小説!
『輝きのエンシャント』に出てくる
主人公エンシャント女王……の兄、
エレクトロ様を!!!!
兄が読んでいた小説をふと目にした幼い頃より
エレクトロ様を推して推して早数十年。
私はエレクトロ様が好きで仕方ありません。
薄幸、されどめげずに前を進み続ける
エンシャント女王を陰ながらお助けする
凛々しきエレクトロ様!
自身がどれだけ痛め付けられようとも、
エンシャント女王の為に生き続ける
美しきエレクトロ様!
私はエレクトロ様と共に生きてきました。
彼の活躍、そして生死に心臓を握られて
過ごしてきました。
だからこそ、私はフレシオス様の
気持ちが少しだけ分かります。
エレクトロ様にどれだけ愛を注いだところで
彼からの愛は戻っては来ませんもの。
ですから私はフレシオス様からの
求婚も即座に受け入れましたわ。
いえ、別にエレクトロ様を好きなだけ
推して良いとか言われた訳ではありませんし、
興味出てきたから全巻読むよって
言われたからでもありません。
なかなか若い人が読んでくれなくて、
ご新規さんの感想に飢えていたとか
そんな理由でもありません!
一応は公爵家の娘でしたから、
社交の場も特に問題はありません。
アーヴェン辺境伯家や、ローズ様のご息女
シャルラハロート様との関係も良好です。
まだ幼いシャルラハロート様に
手を出すようならステラ女王に報告しよう……と
思っておりましたが、そこは流石ローズ馬鹿。
「ローズじゃないから……」という理由で
そういう目では見ていないようです。
よし!
今ではシャーリーさんと
呼ばせてもらっていますが、
あの方はとても良い子なのですよ!
『輝きのエンシャント』をそれとなく
薦めたら三十巻も読んでくださって……
感想まで私にくれたのです!!!!
嬉しかったので、王都の学園に
体験入学にいらしたシャーリーさんへ、
布教用の『かがエン』を数冊貸し出しましたわ。
まあ、どこぞの小娘がイタズラをして
『かがエン』を汚してくれたようですが。
シャーリーさんは悪くありませんのに、
申し訳なさそうに私に謝ってらして……
子猫はありのままで良いですが、
小娘には躾をしませんとね。
結局、シャーリーさんは王都の学園への
進学を諦めてしまったようですけれど……
残念です。
そんなシャーリーさんももう十四歳。
フレシオス様から聞いたところ、父君と
ローズ様の死について探っていらっしゃるだとか。
……私は遠くからチラっと拝見しただけですが、
確かに過激で苛烈なあの方が
亡くなったというのは未だに信じられません。
例の小娘の父親も「血薔薇に
復讐されたらどうする!」と錯乱した
挙げ句、娘に手を上げたのだとか。
恐るべし、血薔薇のローズ。
……リューン公爵家に子はおりませんが、
娘がいたらこのような感じなのだろうなとは
思っていました。
ですから、シャーリーさんの事は
殊更大切に思ってしまいます。
彼女が父君と共にローズ様の真実を見つけ、
そして旅が一段落したのなら。
また、リューン公爵家に来ていただいて
『かがエン』の話をゆっくりと
したいものです。
父君も是非お連れになって欲しいですわ。
……フレシオス様のお部屋、
その日はトコトン厳重に閉じますから。




