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第三話『ローズという女』




竜から告げられた事実に、

シャルラハロートは思わず固まった。

我等の娘???私は、私のお母様は

ローズ・アーヴェンで。

そして『我等』と言っているなら

お父様はこの竜……竜!?



「わ、私は人間です!?」


『分かっておる、説明するから

少し落ち着け。』


「番……そして子、成る程。」


「お祖母様!どうしましょう!!

私、竜なのかもしれません!!!」


『安心しろ、まだ違う。』


「まだ!?」


「シャーリー、深呼吸なさい。

もう少し話を聞いてみましょうよ。」



スノウに背中を撫でられ、

声をかけられる事でシャルラハロートは

ようやく息を落ち着かせられた。

自身の父親について、母は何も言わなかったのに。

まさか今日、こんな形で発覚するなんて。



「しかし……人間と竜の間に子どもって

出来るモンなのか?」



顎に手をやり、ウィンズは疑問を口にした。

確かに種類が近い植物や動物の間で

交雑が起きる事は珍しくない。

だが人間と“現象”の竜はあまりにも

スケールが違いすぎる。

その疑問、貴様等人間には最もだろうな、と

前置きしディルギーヴは続けた。



『我等“現象”の竜は存在するだけで

周囲を書き換える。

 

交わりなんぞ無くとも、側にいるだけで

種族も性別も関係無く番の身体を書き換え、

子を成せる様に出来る訳だ。』


「そもそも番って、何ですか……?」


『ふむ……人間で言うなら伴侶という言葉が

1番近しいと思うのだが。

妻、夫……いや、夫婦と言うべきか?

我等には性別という概念が無い故、

合っているかは分からん。


貴様達から見れば我はオスの個体に

見えるのだろうが、ただの個性だからな。』


「……あのローズを、伴侶に選んだのかぁ。」



ウィンズは遠い目をしている。

特にローズの事を気にかけていた彼は

口煩く彼女の行動を諌め、兄妹喧嘩で

しょっちゅうボコボコにされた過去を持つ。

妹の苛烈さを身に沁みて理解している

ウィンズからすれば、あのローズを選ぶなんて

凄すぎる、という感想しかない。



『確かに人間にしては些か苛烈な

個体であったが……それほどか?』


「いや、本当に凄かったんですよアイツ。


二十年前に起きた隣国との戦争なんて、

一人で相手の王宮に乗り込んだ挙げ句、

王族の首を根こそぎ持って帰ってきたからな。


それに当時十四歳だぞ?」


「私と、同じ、年齢……?」


「シャーリー!しっかり!」


『勇ましくて良いではないか。』



竜、まさかの好感触である。

武勇伝を聞いた娘の顔は真っ青だが。



「傷害沙汰起こして、王都の学校も

初日で退学になるし。」


「「シュラージュを馬鹿にされた」って

言っていましたわねぇ。


だからって貴族子息の顔を、

公衆の面前であそこまで……

もっとやりようがあったでしょうに。」


『力量差も分からぬまま侮辱した

マヌケが悪かろうよ。』


「あ、似た者夫婦だったんだなこりゃ。」



ある程度 (ぼやかして)伝えられているとはいえ、

細かな母の武勇伝、もとい伝説を

知っている訳ではなかったシャルラハロート。


一部だけでもこれだけの蛮行、

己の母はどれだけ暴れまわったのか……

一体どれ程の事を仕出かして、目の前の

竜の心を射止めたのか。

いや結構似た者っぽいから

意気投合しただけなのかもしれないが。


娘としては想像しただけで少し、

身震いした。



「お母様、一体、何を……

何をしたら竜と結婚を……?」


「そうねぇ、私もローズ叔母様をあまり

覚えていないけれど……

とっても破天荒な方だったのは

覚えているわ。


馴れ初めがどんな物でもローズ叔母様なら

有り得てしまうわよね。」


『何、大した事ではないわ。

眠っていた我を突然蹴り飛ばして

ちょっと喧嘩を売ってきただけだぞ。』


「ちょっとじゃないですよそれ!?」


「あぁ、ローズ……。」



竜のさらっとした暴露に、思わず

シャルラハロートは椅子から立ち上がる。

伯父は天を仰ぎ、祖母は思わず頭を抱え、

頼りになる従姉妹も笑顔のまま固まっている。

祖父だけが変わらぬ顔で竜を見ていた。



『結論だけ言うなら、

3日3晩の戦いの末我は負けた。


まあ、負けたといってもお互い、

どちらが負けてもおかしくはない

戦いだったがな。』



どこか嬉しそうな様子で

それはもうとんでもない事を語る竜。


ほとんどの武器を通さぬ堅牢な鱗、

大地を容易く抉るであろう爪、岩も砕く胆力。

それらを持ち合わせる竜に勝った挙げ句、

惚れられて、伴侶になった…?



「お、お母様……。」


『そもそもだ。

ただの生物共とは違い、我等“現象”の竜には

伴侶なぞおらぬともよい。

子孫を残さずとも滅ぶ事は無いからな。』



“自然現象”だからこそ、

“現象”の竜達は滅ぶ事がない。

春が過ぎても来年、また新しい春が来るように、

死ねば新しい代わりが生まれる。


最低限の個体数は常に確保される為、

わざわざ誰かと番う必要はそこまで無い。

それが“現象”の竜の共通認識。



『されど、伴侶にしたいと思う程、

惹かれる存在に出会ってしまったのなら。


心の強さか、はたまた腕の強さか……

己よりも強い何かを持つ相手。

求める強さが何なのか、それは個により

変わるだろうがな。』



この竜は、自分以外の数多の中から

ローズを唯一として選んだ。



『あの剣の鋭さに、あの強さに惚れた。


だからこそ我は彼奴を求めたし、

彼奴も何やら我に思う事があったらしく

それを認めた。

番は片方が望んだだけでは成り立たん。』


「そう、だったんですか……。」


「……貴方が娘と同意の元、結ばれたのは

分かりました。


それなら一つ、疑問がございますわ。」


『何だ。』



頭を抱えていた祖母ヴィレネッテは

何とか持ち直したらしい。

いつもの領主としての振る舞いと違い、

今回は“母親”としての厳しさを含めた視線で

ディルギーヴを見据える。



「何故、ローズ……あの子は一人で帰ってきて、

一人でシャルラハロートを産んだのですか?」


「……!」



ローズと番になったのなら、ディルギーヴは

シャルラハロートの事を知っていて当然だろう。

先程も娘と断言したのだ。

いや、落ち着いて見てみれば自分の髪色と

ディルギーヴの鱗の色は同じだが。


十四年も、何故放置していたのだろう。

伴侶でありながら、そもそもローズの妊娠さえ

知らなかったのではないか?


思うところがあるのは祖母だけではないようで、

祖父なんて剣の柄を握り潰しそうな程

指の力を込めている。

下手な事を言われたなら、

即座に斬りかかるつもりだろう。



『……大変、情けない話になるのだが。』



申し訳なさそうに目を逸らす竜に、

ますます祖父母からの視線は厳しくなる。

どんどん下がる部屋の温度にそろそろ

シャルラハロートは耐え切れそうにない。

今すぐエマを呼んであの明け透けのない物言いで

助けてほしい……そんな現実逃避をしている中、

また新たな爆弾は容赦無く投げ込まれた。


















『寝て、おった……。』










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