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第二十四話『このままだと死因が“退屈”になるわ!!』




一悶着あったナグラ山での騒動を終え、

ニゥニーマとジョージに見送られながら

イルシャ国へと向かったシャーリー親子。


そしてとうとうイルシャ国に辿り着き、

通りすがりのカラスを捕まえて

案内を頼むところだった。



「あら……そっぽを向かれてしまいました。」


『今晩はカラスの丸焼きだな。』


「……お父様がそうやって

圧をかけているからなのでは?」



シュラージュでは簡単()に捕まった

カラスだが、イルシャのカラスは

近寄る前に逃げてしまったり、

羽根を見せてもそっぽを向いて

飛んでいってしまう個体ばかりだった。


これでは“竜の診療所”まで

辿り着く事が出来ない。



「国が違えば性格も変わるのは

カラスも同じなんでしょうか?」


『ネゥロデクスの嫌がらせ……ではないな。

今の我等に嫌がらせをすれば

番に告げ口されると分かっている筈だ。』



ネゥロデクスにとって、

番であるトーマスは何よりも最優先。

ディルギーヴへはともかく、

トーマスに気に入られたシャーリーに

嫌がらせはしないだろう。


幸い、この後に見つけたカラスは

羽根に反応してくれたので、“竜の診療所”へ

行ける算段がついたのだった。














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ここが……竜の診療所!」



カラスに案内されて辿り着いたのは、

人里から離れた深い森の中だった。


赤い屋根と白い外壁のこじんまりとした

建物の看板には、イルシャ語で

“診療所”とだけシンプルに書かれている。



「ここにエドガーさんと、

ネゥロデクスさん達のお子さんが

いらっしゃるんですね。」


『……確かに“現象”の竜らしき気配はするな。

まずは呼び鈴を鳴らすか。』



実はディルギーヴ、“現象”の竜なので

呼び鈴を鳴らすという習慣が無かった。

シャーリーに教えられて鳴らすように

なったのだが、鳴らす機会があると

嬉々として鳴らしている。


そんな父の姿を、シャーリーは

ちょっと可愛いと思っているのは内緒だ。


そんな訳でディルギーヴは、診療所の

玄関に取り付けられた呼び鈴を鳴らす為に

手を伸ばした。



のだが。














『暇なんだよぉ!!!!!!』


盛大な音を立てて、玄関ドアの

横の壁がものの見事に吹き飛んだ。

板張りの壁は粉々になり、パラパラと

破片が飛び散って悲惨な有り様である。



『……! ……!!』


『止めんなネグゥ!!

ネネちゃんハイパーお元気だっつーのに、

入院なんざ意味がお分かりにならねぇわ!

このままじゃあんまりにも退屈で

あの世へ脱走直行すっぞオラぁ!!』


『……!』



立ち込める煙の中から、

よく分からない言葉遣いをした少女の声が

ギャンギャンと響く。

声は一人分だが二人いるらしい。


ディルギーヴは、声の主達から

シャーリーを守る為に娘の肩を抱き寄せた。

突然の破壊劇に驚いているシャーリーは、

頼りになる父に身を任せる。



『なーにが「念の為の入院」じゃ義弟ィ!

知らねーよ痛くもねーよ!!!!


オイゴラァ!お姉ちゃんがこのまま

お亡くなりあそばせてもよろしくて!?

弟ォ!!』


『……!!!!!!』



煙の中から現れたのは、

大声を出し腕をブンブン振り回す

可愛らしい少女の姿だった。


ニゥニーマやシャーリーと同じくらいの

年齢に見える少女の長い黒髪は

手入れがされておらず、伸ばしたままで

ボサボサとしている。

そして薔薇の飾りがあしらわれた眼帯を

右目に着け、左目には金色が浮かんでいる。


フリルがふんだんに使われた、

可愛らしい黒いドレスを纏う少女は

お世辞にも綺麗とは言えない言葉遣いで

大暴れの真っ最中だ。


そんな自称“姉”を、弟と呼ばれた

長身の男性が泣きながら抱きついて

押さえ込もうとしていた。

肩まで伸ばされた艶のある黒髪と、

澄みきった空色の目が特徴的な美青年だが、

顔面は涙でべしゃべしゃである。

気弱そうな雰囲気も相まって

すごい可哀想。



「お父様、あれ……。」


『目を合わせるなシャーリー、

馬鹿が移る。』



目の前で繰り広げられる、こちらを

一切気にしないお一人様()での大乱闘。

見るな、はちょっと無理がある。


“姉”は圧倒的に体格で勝っている“弟”の

拘束などお構いなしに、

ズカズカと外へ歩みを進める。


シャーリーは、今年何回遭遇したか

分からない衝撃的な場面に目が釘付けだ。

……当然、大暴れをしている

金の目の少女と目が合った。

まずい。



『あ?誰だよテメェら。』


『……!!』


『貴様こそ誰だ小娘。』



“弟”に背後から抱き着かれたまま、

“姉”は親子に問いかける。

異様な光景ではあるが、ディルギーヴは

困惑する事なく問いを返した。



『誰がお淑やかな美少女じゃ!

こちとら九百越えとんのだぞ!』


『ハッ、本当に小娘ではないか。』


『ギィイイイイイイ!!』



正確な年齢は分からないが、数千年は

軽く生きているディルギーヴからすれば

九百歳とちょっとは小娘に分類される。

少女を鼻で笑い、明らかに

小馬鹿にしている態度を取った。


当然、どこからどう見ても短気な少女は

地団駄を踏みながら更に怒った。

細い足から繰り出される地団駄の衝撃で

地面にひび割れが入っている。怖い。



『おい、その小娘より

話が通じそうな小僧。』


『……?』


『我等はエドガーとかいう人間に

用があって来た。


どうせ陰湿ガラ…ネゥロデクスから

事前に聞いておるだろう。』


『……!』



じたばた小娘を必死に抑えていた青年は、

“ネゥロデクス”という言葉に反応した。

こくりと頷くと、“姉”に何か話しかける。


パクパクと口は動いているが、

声は出ていないようだ。

しかし少女には通じたのか、

さっきまでの荒ぶりがピタリと止まった。

それを確認して弟は腕を離し、拘束を解く。



『そういや、父様から言伝が来たって

オメェ言ってたな。


ここへの来客の話だったっけ?』


『……!』


『はーん、テメェらがそれか。

こんなエクストリームド僻地まで

ご苦労様なこったぜ。』



少女は何故か、偉そうに

ふんぞり返りながらディルギーヴ達を見る。

この少女はネゥロデクスの言伝を

『父様からの言伝』と言った。

そしてこの黒髪のきょうだいは姉と弟。


つまり、ネゥロデクスの子である

“現象”の竜達らしい。



「ご紹介が遅れました。

私はシャルラハロート・アーヴェンと

申します。

今回はエドガーさんにお聞きしたい事が

ありまして、リュゼーヌ王国から

伺わせていただきました。」


「……」(ペコリ)


「それと、こちらはトーマスさんから

渡してくれと頼まれた茶葉です!

どうぞ。」


『……!!』

『母様から!?』



弟の方は礼儀正しいらしく、

シャーリーの挨拶に会釈を返した。

顔立ちはネゥロデクスに似ているが、

笑顔はトーマスを思わせる。

一方、姉はトーマスに似た顔立ちだが、

表情はネゥロデクスに似ていた。


しかしシャーリーから差し出された、

トーマスが作った茶葉を見て

喜びの表情を浮かべた顔はそっくりだ。



『やったぜやったぜ!

母様のお茶!!』


『……!』(コクコク)


『これもネネちゃんが

お利口ガールだったお陰だな!』


『……!?』



絶対に違う。

壁を破壊して登場してくるなんて 

少なくともお利口でも良い子でもない。


驚愕の表情を浮かべる弟の事など

気にせず、姉はとてもご機嫌な様子。

それだけトーマスが作った

お茶を飲めるのが嬉しいのだろう。



『おい小娘、良い子と言うのは

世界一愛らしい我が娘の事を言うのだ。』


「お父様、今それを言うと

ややこしい事になりませんか!?」


『あぁ?

テメェの娘が世界一愛らしいだぁ?』


「ほらぁ!」



ディルギーヴの娘自慢に反応した姉。

茶葉を包んだ袋を弟に押し付けると、

ディルギーヴに歩み寄り、可愛らしい顔を

歪ませながらメンチを切った。



『世界で一番お可愛いらしいのは

このネネちゃんで確定してんだよ!』


『は?

我の愛娘に決まっておろうが

このみょうちきりん。』


『そんで二番目はうちの弟ォ!!』


『!?』


「弟さん、ビックリしてますけど。」



“現象”の竜は我が子をこれでもかと

大切にし、溺愛する。


その結果……子の自己肯定感は

とんでもなく高くなるのだ。

ネゥロデクスとトーマスの子である

この“現象”の竜も、例外ではないらしい。



『所詮、テメェの娘ちゃんは

世界可愛さランキング、堂々たる

三番目でしかねぇ!』


『その世界可愛さランキングごと

潰してくれようか?』


「三番目にはしてくれるんですね。」



もしかして結構優しい方なんでしょうか……

とシャーリーが呟いた言葉に、

弟である男性は必死にコクコク頷いた。


おそらく、弟は姉が悪い竜ではないと

言いたいのだろう。

……ちょっとどころか、かなり、とてつもなく。

自己中心的ではあるのだろうが。


ガルガルグルグルと唸りあう二頭の後ろで、

置いてきぼりの一人と一頭は

どう二頭を止めようかと困り果てる。



「……何故、壁に穴が空いている?」



突然、少女が穴を空けた部屋の

中から声がした。

部屋の内部にも壁の破片が落ちたのだろう。

パキパキと細かい何かを踏みしめる音と

共に、声の主は玄関前に姿を表す。



「またやらかしたな、義姉殿。」


『やらかしてねぇやい!』



壁の惨状をゆっくりと確認した男性は、

黒髪の少女に無表情で言い放った。


灰色の髪と目を持つ男の顔には

少し長い前髪と濃い隈が落ちており、

その目には光が無い。

背中は猫背なのか曲がっているし、

かなり痩せ型の体型で、着ている白衣や

服はダボついている。



『貴様がエドガーか。』


「そうだが?」



ディルギーヴの問いかけにも

感情の無い声で答えるエドガー。

見知らぬ存在がいても、

一切驚いた様子は見せない。


旅の目的地、“竜の診療所”の主であり

“現象”の竜の番。


そんな彼の目がシャーリーを捉えると、

少し、何かを考える素振りを見せた。

そして合点がいったように、

顔を上げて己の番に指示を出す。



『おい泣き虫、診察の準備をしておけ。』


「……!」



泣き虫、と呼ばれた黒髪の男性は、

エドガーに声をかけられて

嬉しそうに笑い、大きく頷く。


そのまま、母親から贈られた茶葉の袋を

抱きしめ診療所の中へ入っていく番の

背中を見送った後、エドガーは

その場に残された来客達に、

相変わらずの無表情を向けた。



「ようこそ“竜の診療所”へ。

貴重な患者だ、歓迎しよう。」

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「さて、義姉殿には壁を直してもらおうか。」


『ア?』


「直さないなら義姉殿のおやつは無い。」


『アァ!?』


「泣き虫が言っていたが、

今日の菓子は義母殿が送ってくれた

レシピで作った菓子らしい。


来客もいる事だ、

手早く終わらせないと無くなるぞ。」


『ギィイイイイイイ!!!』








『扱いに手慣れ過ぎておる。』

「すごいですね……。」












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