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第二十三話『“地平線を背負うモノ”《地竜ニゥニーマ》』





「ニゥちゃんや、まずはお嬢さんと

ドラゴンさんにごめんなさいしようね。」


『……攻撃、して、ごめんなさい……。』


「何か事情があるようですし、

大丈夫ですよ。」


『上下関係は叩き込んでおくべきだ。

念の為にあと五発程……。』


『ヒュエ』


「もう!お父様が守ってくれたお陰で

私は無傷なんだから良いじゃないですか!」



ディルギーヴが幼い“現象”の竜に

教育的指導を行った数時間後。

すっかり空は暗くなり、シャーリー達は

普段ジョージが住んでいるという

小さな小屋の前で、焚き火を囲んでいた。


落ち着きを取り戻した

“ニゥちゃん”と呼ばれる幼い“現象”の竜は、

たどたどしい言葉遣いで『ニゥニーマ』と

本名を教えてくれた。


再び人型になったのは良いが、

地面にどかりと座ったジョージと名乗る男性の

後ろに隠れ、涙目でこちらを見ている。

相当ディルギーヴが恐ろしいらしく、

目が合う度にびくりと肩が揺れていた。



「私を……人間を見て

暴れてしまったみたいですが、

何かあったんですか?」


『……ジョ、ジョーを……。』


「ジョージさんを?」


『さっさと吐け。

今度は手加減なぞせずに、

頭をかち割ってやろうか?』


「お父様、ちょっと黙ってて下さい。」



娘を攻撃されたからと言って

イラつき過ぎである。

そのシャーリーからピシャリと怒られ、

ディルギーヴは少し凹んだ。



『……ジョー、取ろうとする、から……。』


「取りませんよ!?」



初対面の成人男性を他者から取る理由も

無いし、趣味も無い。

しかしニゥニーマはどうやら“人間が

ジョージを取ろうとしている”と

思い込んでいるようで、ジョージの服を

ギュッと握りしめ、離そうとしない。



「私、ジョージさんとは

ついさっきお会いしたばかりで

人となりも知らないのですが……?」


『ジョ、ジョーは……ニゥの、だもん……!』


『おい男、貴様“唾付き”だろう。

無関係ではあるまい、説明しろ。』


「唾付きとやらが何かは知らないけど、

ま、説明はしますよ。」



ジョージはやれやれと言いながら

帽子を深く被り直し、今回の騒動の

原因を話し始めた。



「ドラゴンさん達が知ってるかは

分かんないんだけどね。

今、人間の色んな国で竜と人の恋愛物語が

流行ってるんだとさ。」


『は?』


「おじさんを睨まないでちょうだいな。

町に降りた時、ちょいと噂話を

小耳に挟んだだけ。」



どの国でも基本的な話はこうだ。

〖婚約者に裏切られ、家族からも

冷遇されている貴族の娘が竜に見初められ、

周囲を断罪、二人でその国を出て

幸せに暮らす〗。


そんな恋物語が、リュゼーヌ王国を

中心に流行っているのだそう。



「なるほど、リュゼーヌ王国から流行して……

リュゼーヌ王国から?」


『如何にも年頃というか、

夢見がちな人間共が好みそうな話だな。』



“リュゼーヌ王国”で発生した恋物語。

“現象”の竜、そして“番”。

もしかして……噂が発生した原因は

私と、私の両親なのでは……?

シャーリーは、少しいたたまれなくなった。


……いや、別にお母様は冷遇も裏切りも

されていなかったけれど。



「詳しくは知られてなくてもさ。

“現象”の竜が他種族を番にする事、

大切にする事、けっして裏切らない事は

うっすら知られてるじゃない?」


『つまり人間の小娘共は、

特別な存在に選ばれる特別な存在、に

憧れを抱いている訳か。』


「あらバッサリ。


ま、そんな小説が流行ってるせいで?

真偽は知らないけど、番がいる

“現象”の竜にさえ押し掛けたり、

色仕掛けしたり……


なんなら普通の竜種に求婚した

娘さんもいたとか聞いたよぉ。」


「番がいる“現象”の竜に!?」



例えるなら、既に死別しているが

ディルギーヴに「番にして!」と

押し掛けたり、あのネゥロデクスに

色仕掛けを仕掛ける訳だ。


うん、絶対にその娘は死ぬ。

ディルギーヴなら『殺すぞ???』と

ワンクッションいれてくれるが、

ネゥロデクスは真顔になって即殺しにかかる。

カラスの餌になるルートしかない。



『“現象”の竜どころか、

普通の竜種にまで求婚した

馬鹿がおるのか?』


「その娘さんは顔に大怪我をしたんだって。

貴族らしいからこれから先、

良縁は見込めないねぇ。」



ディルギーヴ、ドン引きである。

言語も扱えない魔獣の竜と“現象”の竜を混同し、

しかも迫るとは。理解が出来ない。

ドン引きである。(二回目)



「でもここからが最悪よ?

一部の貴族が、“現象”の竜との婚姻に

結構乗り気になってるらしいの。


娘が“現象”の竜の番になれば、

貯め込んでる財宝とか土地とかが

自分の懐に入ると思ってるんじゃない?」


『滅ぼすか、其奴ら……。』



愚かにも程がある。

確かに財宝を集める“現象”の竜もいるが、

ディルギーヴのように集めない

個体も多いというのに。


現在は各貴族、送り出しているのは

娘だけらしいが、その内甥や姪、息子や孫を

差し出し始めるんじゃなかろうか。



「それでね、ここにも来ちゃったのよ。

玉の輿狙いのお姉さんが。」


「だから、ニゥニーマさんは

人間が苦手に……。」


「もっと詳しく言うと、おじさんを

“現象”の竜が人間に化けた姿だと

思ったらしくて。


断っても、粘ってきて怖かったよね。」



ある日、ジョージがいつも通り

のんびりと過ごしていたら、突然

すごい化粧の女性がにじり寄ってきた。

普通に怖い。


山奥だと言うのに胸を強調する

派手なドレスを着て、しかも鼻息が荒かった。

釣りをしていた ただのおじさんを

“現象”の竜と勘違いしたその貴族女性は、

ジョージの話を聞かずに襲いかかってきた。

いや、本当に襲ってきたとしか

言いようがなかったらしい。


違うと言っても通じず、

嫌だと言っても通じない。


そしてジョージを探してウロウロしていた

ニゥニーマが、話の通じない女性に

押し倒されて困り果てていたジョージを

発見する。



「だ、大丈夫でしたか?」


「うん、おじさんは押し倒された時に

腰を軽ーく痛めたくらい。


でも、押し倒されたおじさんを見て

ニゥちゃんが“取られる”! って

思ったらしくてねぇ……。


それからずっとこんな感じで、

人間を見る度に暴れちゃってるのよ。」


『だからあそこまで、人間に反応した訳か。

“唾付き”を奪われると思ったのだな。』


『……。』



ニゥニーマは何も語らず、

ジョージの背中にくっついている。

どうやらこの幼竜は、随分と

この草臥れた男に懐いているようだ。

取られまいと、見境なく

泣きわめきながら暴れる程度には。



「ねぇニゥちゃん、この人達は

別におじさん目当てじゃないみたいだよ?


……ニゥちゃん?」


『……。』


「ふふ、寝ちゃってますね。」



ニゥニーマは、ジョージの背中に

もたれ掛かってすぅすぅ寝息を経てていた。

竜状態ではあれだけ強大な存在でも、

寝顔は幼い子ども、そのものである。


ジョージは苦笑いすると、

眠ったニゥニーマの身体を移動させ、

膝枕する形を取った。


そして己のマントを脱いで、

毛布代わりに被せる。



「こうやって見ると

ただの子どもなんだけどねぇ。」


「仲良しなんですね。」


『地竜や土竜は、基本的に地中で生活する。

特に地竜は深層で生活しておる故、

地表に出てくる事自体が稀だ。


貴様、何をして此処まで篭絡した。』


「そんな特別な事してないよ?

おじさんが暇潰しに夜、楽器弾いてたら

気になったみたいでニゥちゃんが

寄ってきたのよね。


そんで、この子が時々ここに

来るようになって、お話ししてたら

こうなってた。」


『それだけで“唾付き”になったのか。

随分と純粋な竜に捕まったな。』



ジョージがこの場所で焚き火を見ながら

楽器を演奏していたら、どこか怯えた様子の

ニゥニーマが現れた。


初めは遠くから見ているだけだったが、

徐々に距離が近付いてきたのだそう。

そうしていつしか隣に座り、

たわいのない話をする間柄に

なったのだとか。



「お父様、“唾付き”というのは?」


『“現象”の竜の番は、双方の同意が

無ければ成り立たぬのは教えたな?

しかし、今回の場合は竜のみが

相手を番にしたいと思っている。


竜に想いを寄せられながら

答えていない存在、それが“唾付き”だ。』


「……。」



ジョージは表情を変えず、己の膝を

枕にして眠るニゥニーマの頭を

優しく撫でている。



『“唾付き”は、まだ番では無い。

しかしこの時点で身体の老化は遅くなる。


“唾付き”として“現象”の竜に

選ばれた時点で、逃げる方法は

死しか無いぞ。』



“現象”の竜は恐ろしい。

周囲を浸蝕し、自身の“最適”に書き換える。

番に選んだ相手と相思相愛ならば

何も問題が無いのだが……

もし一方的に望まれたのだとしたら、

相手は決して逃げられないのだ。


勿論、“現象”の竜としても

番に選ぶ存在から嫌われるのは避けたいし、

失うなんてもっての他。

故に、そう簡単に番は選ばない。

番を作らず一生を終える“現象”の竜も

少なくは無い。


しかし、ニゥニーマは

ジョージを番として選んだらしい。



『そのニゥニーマとやらが

不安定なのは、相手を見つけたのに

番として結ばれておらぬのもあるだろう。』


「……おじさんだって、

ニゥちゃんが嫌いな訳じゃないよ。」



ジョージがニゥニーマに向ける目は

とても優しい。



「昔、おじさんは色々やってたからねぇ。

褒められたもんじゃなかったし、

ニゥちゃんからここまで好かれていい

人間じゃないのよ。


それに……」


「それに?」


「ニゥちゃんが幼過ぎて、番になる

踏ん切りがつかないって言うか。」



人間の姿に変化したニゥニーマは

シャーリーと同じ年齢くらいの

見た目をしている。

しかし、男か女か分からない中性的な

容姿も相まって、雰囲気的には

シャーリーより幼い。


そう、とっくの昔に成人を迎えた

ジョージからすれば、恋愛対象にならない。

現状、あくまで庇護対象でしかないのだ。



「お相手は“現象”の竜とはいえ、

子どもと伴侶になっちゃうのはさ。


なんかダメじゃない?」


「全うなご意見……。」



ジョージ、倫理観がしっかりとした男だった。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うーん、さっきから思ってたんだけど。

お嬢ちゃんの目、すごい綺麗な

緋色だよねぇ。」


「ありがとうございます!」


「おじさん、あんまり目が良くないからさぁ。

ぼやけるから顔の形分かんなくて、

色で見ちゃうんだよね。


二ゥちゃん初めて見た時も、

なんか遠くに茶色いのがいるなー?

熊かなー?って感じだったもん。」


「確かに私の目、鮮やかだって

よく褒められます。」


『うむ、ローズ譲りの美しい目だ。』


「ローズ?緋色の目をした、ローズ……。


……もしかして、お嬢ちゃんの母親は

リュゼーヌ王国のローズ・アーヴェン?」


「ご存じなんですか?」


「あー……うん。

彼女、普通に有名人だったし。」


『何だ?貴様もローズの間男未満か?』


「いや間男未満ってなに?

昔、ローズさんを見た事あるだけだよ。」


「実は、今もお母様に恋をしていらっしゃる

知り合いの方がいまして。


その方のお部屋は、一面

お母様の肖像画でびっしりです!」


「怖……。」


『シュラージュに帰る時、

ついでに屋敷ごと消していくか……。』











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