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第二十二話『揺るがし』




「なんでこんな事に

なってしまっているんでしょうか。」


「ごめんねぇ、お嬢ちゃん。

あの子も悪い子じゃあないのよ。」


『やだ! やだぁ! 怖いよぉ!

ジョー、助けてぇ!』


『先ずは、謝罪から、だろうが!

この無礼者めが!』



夕刻、美しい夕日が見えるとある山。

そして、その山で困惑しながら

事態を眺めるしかないシャーリーと、

落ち着いた様子の見知らぬ男性。


二人の前で巨大な体躯の竜が、

竜の姿に戻ったディルギーヴにより

頭を抑え込まれ、泣きながら手足を

バタバタと暴れさせていた。

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



シャーリーとディルギーヴは

ネゥロデクスの巣に一晩泊まった後、

イルシャに向けて旅を再開する。

(向かう方向は分かるので、イルシャ内に

入ってからカラス達に道案内を頼む予定)


トーマスに持たされたパンを親子で

食べていたら野盗に襲われたり、

寝場所を探していたら魔獣に遭遇したり、

空を飛んでいたら通常の竜種に喧嘩を

売られたりしたが、娘に被害が

行く前にディルギーヴが全てぶちのめした。


色々アクシデントは起きたものの、

イルシャまであと半分の所まで

無事に来ていたのだった。



「やっぱり、リュゼーヌ王国は

治安が良かったんですね。」


『あの国には“現象”の竜も多いからな。

今回襲ってきた連中は、我等に

遭遇した事が無かった様だ。』



“現象”の竜について知っていたのなら、

襲うなんて馬鹿はしないだろう。

シャーリーに手綱をしっかり握られた

ディルギーヴだから敵対しても

死ななかったものの、普通の“現象”の竜に

喧嘩を売ったら殺されても文句は言えない。



「でも、先程立ち寄った町の方から

イルシャ国までの大体の距離を聞けて

良かったです!

あと、半分くらいですもの。」 


『……我はそれより、「この先にいる」という

“現象”の竜が気になる。』



実は少し前、用品を買い足す為に

寄った町で気になる事を聞いたのだ。

雑貨屋を切り盛りする夫人は、少しだけ

声を抑えシャーリー達に教えてくれた。



「実はね……この先のナグラ山って場所で、

“現象”の竜が暴れてんだよ。」


『“現象”の竜だと?』


「そうさ。

ずっと暴れてる訳じゃないみたいだけど、

一度暴れたらここまで地震が来るんだよ。」



夫人が「迷惑にも程がある」と呟いた瞬間、

地面や店の中の棚がカタカタと揺れた。

件の竜が、また暴れているらしい。



「今、ナグラ山は通れないから

商人や旅人は遠回りするしかない。

商売あがったりさ。


お嬢さん達はイルシャへ旅してるんだろ?

別の道を選んだ方がいいねぇ。」



大きな“現象”の竜が暴れ、

人間達が山を通れなくなっている。

荷車や馬車も通れないので荷物が

届くのが遅く、旅人も遠回りをするせいで

別の町に泊まってしまう。


夫人は親切に、ナグラ山を通らない

イルシャへのルートを教えてくれた。

正直、ディルギーヴに乗って

空路で向かうのであまり影響は無いのだが。



「どうして暴れてるんでしょうか?」


『それは分からぬ。

だが、“現象”の竜同士の縄張り争いや

喧嘩ではないな。


もし衝突が起きていれば、

あの町は無事ではないだろう。』



“現象”の竜同士が戦い合えば、

天は荒れ、大地は裂け、闇が溢れて

世界が揺れる。

本竜達もその危険を分かっているので、

基本的に本気で戦う事はない。


だが、“現象”たる竜がいくら

手加減をしたとしても、他の生物への

被害が甚大なのは変わらない。


町一つ、山一つ、川一つで

済めば良い方だ。

怒らせれば国すら消える存在の喧嘩に

巻き込まれるのは、不幸としか

言いようがないのだが。



『あれが例のナグラ山だな。』


「上から見ると、地面があちこち裂けてます!

木も倒れて……。」



この周辺で一番高い山がナグラ山なのだと

町の夫人は言っていた。

普段は多くの人で賑わいがあるのだとも

言っていたが、街道と思われる道には

亀裂が入り、木が倒れ、人が通れる

有り様ではない。



「……あ、お父様!

あそこに人がいませんか?」


『人?

……ああ、確かに人らしき姿はあるが。』


「巻き込まれて、怪我を

なさってるのかもしれません!

降りて助けましょう!」


『いやシャーリー、あれは』


「早く!」



ナグラ山の惨状、その真ん中に

蹲っている人の姿を見つけたシャーリー。

ディルギーヴの言葉を遮り、地面に降りると

足場の悪い場所を転びそうになりながらも

駆け寄る。



『うぅ……ぐすっ……。』


「大丈夫ですか?どこか怪我でも?」



蹲っていた“人間”は、シャーリーと

同じくらいか、少し幼い子どもだった。


ふわふわとした焦げ茶色の長い髪を

三つ編みにして背中に流している。

中性的な顔で性別が分かりにくい子どもだ。


土や泥まみれの子どもは、

声をかけられてもずっと泣いている。

迷子と接するように、シャーリーは

努めて優しく再び声をかけた。



「もう大丈夫ですよ。

どこか痛いところはありませんか?」


『……ニン、ゲン?』


「?

はい、人間です。」



子供の深緑色の目と、緋色の目が合う。

すると、何故か子どもが更に

うるうるとし始めた。


シャーリーが落ち着かせようと手を伸ばすと、

子どもはその手を叩き落とした。



『ニンゲン、やだぁ!!!!

ニゥの、ニゥの、だもん!!!!!』



子どもは大きな声で泣き叫ぶと

みるみるうちに身体の輪郭がぼやけ、

大きな塊になっていく。


呆然としていたシャーリーの襟首を、

竜状態のままだったディルギーヴが咥えて

咄嗟にその場から引き離す。

その瞬間、シャーリーが直前までいた場所に、

巨大な手が振り下ろされていた。



『アレが噂の“現象”の竜のようだな。

随分と幼い個体だが。』


「幼い!?

お父様より大きいですよ!?」



娘を少し離れた場所に下ろした

ディルギーヴは、冷静に相手を観察している。


泣きながら大暴れを始めたあの竜は、

ディルギーヴより一回り大きい。

平べったく、翼が無い。

ごつごつとした体表は、まるで

剥き出しの岩肌のようだった。


がむしゃらに暴れているだけだが、

その巨体のせいで場所への被害が

大きくなっているようだ。



『我が娘の可愛らしい手を叩きおって……!

加減は知っているようだが、

上下は知らんらしいな。


少しばかり教育が必要か?』


「……お父様、ほどほどでお願いします。」



ひとまず“現象”の竜を落ち着かせ、

話を聞く必要が出てきた。

多少手荒な真似にはなるが、実力行使で

冷静さを取り戻させるしかないだろう。


それはそれとして、ディルギーヴ的には

シャーリーの手を叩いた事が許せない。

今回は加減が出来ていたから

良かったものの、もし怪我していたら

どう責任を取ってくれるのだろう。



『シャーリー、この岩の陰に隠れておれ。

我は彼奴に現実を教えてくる。』



ディルギーヴは目を細め、相手を見据えた。

そして瞬時に間合いを詰めて、

暴れる“現象”の竜の顎に下から翼で

突き上げを食らわせる。


体勢が崩れた相手に、すかさずもう一撃。

今度は長い尾を鞭のようにしならせ、

相手の身体に叩き付けて吹き飛ばす。


ディルギーヴと“現象”の竜の戦い……

あまりにも一方的すぎて、

もはや戦いではない。

手慣れた様子で相手にダメージを

与えているディルギーヴは、

かなり手加減をしているらしい。


しかし、相手はなす術もなく攻撃を

受け続けるしかないようだ。



「お父様、すごいです……!」


「ホントだねぇ、威力どうなってんのあれ。」


「ヒャッ」



シャーリーの後ろから突然誰かの声がした。

反射的に振り返ると、そこには

帽子を目深に被った人間の男が立っている。


旅人がよく着ている動きやすい軽装の上に、

ボロボロのマントを羽織った男。

彼は、無精髭の生えた顎を撫でながら

竜の戦いにヘーゼルの瞳を向けていた。



「あーらら……ニゥちゃん、

ボコボコにやられちゃってまぁ。」


「ニゥちゃん……?」


「あの子のな、ま、え。


あ、おじさんの名前はジョージ。

この山の……管理人みたいな事してる。」



そして、場面は冒頭に戻る。


山の管理人と名乗りはしたが、

ジョージが削れた地面や倒された木の

心配をしている様子は見られない。

“ニゥちゃん”の頭をなんなく押さえつける

ディルギーヴをひょいと指差して、

シャーリーに問いかけた。



「あのつよつよドラゴンさん、

お嬢ちゃんのお知り合い?」


「つよつよ……あ、はい!」


「なら、止めてくれると助かるねぇ。

ニゥちゃんはおじさんが宥めるからさ。」


「えっ!?

わ、分かりました!」



そう言って、ジョージは

二頭の竜がいる場所に向かっていく。

“現象”の竜が恐ろしくないようで、

平然と向かっていくジョージの姿を

呆けて見ていたシャーリー。


だがすぐに正気に戻り、

ヒートアップした父を大人しくさせるべく、

急いで彼の後ろ姿を追った。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『……ジョ、ジョー……。

ニゥ、来たよ。』


「あらまぁ、こんばんはニゥちゃん。

今日もおじさんのお隣座っちゃう?」


『えっと……うん、座る……!』


「椅子持ってきてあげるから

ちょ~っと待っててねぇ。


確か小屋の奥の方に予備が……あいたっ。」


『……ジョー、変なとこぶつかった。

もしかして、おめめ、良くない?』


「ん~? あぁ、そうね。

おじさんね、生まれつきこうなのよ。

全部見えてない訳じゃなくて、

輪郭はぼんやり見えてるんだけど。」


『ニゥも、明るいとこだと、

あんまり見えないの。


でも、暗いとこなら、いっぱい、見えるから……

ニゥのイス、いっしょに、探す。』


「え~、ホントに助かるわぁ。

良い子だね、ありがとう。」






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