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第二話『“現象”の竜』



この世界には、“現象の竜”と

呼ばれる生物が存在する。

いや、彼等は正確には生物ではない。


生物としての竜種は“現象”の竜に似た姿を

取っている為、同じように竜と呼ばれているが、

“現象”の竜と同じ枠では語れないのだ。


“現象”の竜は自然“現象”の化身、

その実態は正しく“現象”。

北の国、ユユルフでは『世界から染み出た雫』、

世界最高峰ヅォーガン山の先住民族、

コヤコ族では『自然の力が形を取った化身』と

語られている。


彼等には滅びという概念は無い。

例え、その“現象”を司る個体が一度に全て

死んだとしても間を置かず、代わりが生まれる。

即ち、決して絶える事が無い“自然現象”。


普通の竜よりも遥かに寿命が長く、

各々が司る属性の力を自在に振るう。

存在するだけで周囲を書き換え、境界を融かし、

己に最適化させてしまえる。


“現象”の前では種族も性別も、地位も名前も。

それらは何の意味も、成さない。










         ーエドガー・ラストラリー著

         『“現象”の竜』から一部抜粋ー






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「うーん……私は、何を……

……っ!?ムギュッ!?」


「シャーリー!起きたのね!」



気絶状態から目が覚めたシャルラハロートは、

突然強い力で抱き締められる。

相手の胸に顔が埋める形となったが、

どんどん強くなる締め付けのせいで

呼吸もままならない。

でもとても懐かしくていい匂いがする……。


いやでも苦しい。死んでしまう。

焦って礼儀も忘れ、相手の腕を

バシバシと叩くシャーリーだったが、

腕の力は全く弱まらない。


(このままだと私、死んでしまいます……!)

シャーリーが死を覚悟したあたりで、

誰かの呆れたような声が制止をかけた。



「スノウ様、そのままではお嬢様が

窒息してしまいます。」


「あらっ!やだわ私ったら……!

ごめんねシャーリー」



ずっと側に付いていてくれたのだろう、

エマの助け船によりシャーリーは

何とか生き永らえた。

呼吸を何とか整え、己を抱き締めていた

相手を見る。その相手は……。



「ス、スノウお姉様!?」


「久しぶりね、シャーリー。

帰ってきて早々、お祖父様が貴女と竜を

連れて帰ってきたんだもの。

びっくりしたわ。」



王太子妃となるべく王都で教育を

受けている筈の従姉、スノウ・アーヴェンだった。

辺境に咲く雪薔薇のように美しい女性は、

その大輪の薔薇の如し、華やかな笑顔で

シャルラハロートに笑いかける。



「お嬢様、どうぞお水です。

他に何か必要なものはございますか?」


「あ、ありがとうエマ、他は大丈夫です……。」


「承知いたしました。

では私は、お嬢様がお目覚めになられた事を

領主様にお伝えしてきます。」


「えぇ、お願いエマ。

騒ぎを聞きつけてお父様も見回りから

帰ってきたみたいだわ。


シャーリーも目覚めたのだから、

更に騒がしくなるわね。」



エマが退出し、部屋の中にはスノウと

シャルラハロートだけが残された。

落ち着いて見てみれば、見慣れた寝具や

調度品は自分の部屋のものだ。

で、あるならばここは天国でも地獄でもなく、

毎日を過ごす居城の中。


何故王都にいるはずのスノウが

ここにいるのだろうか。

それに、あの時の竜はどこに行ったのか?



「どうしてスノウお姉様がここに?

王太子殿下との結婚式があと半年と

迫っていて、お忙しいのでは…?」


「うふふ、立て込んでいた予定が

かなり落ち着いたのもあるけれど……。


モーサス様が予定を調整して下さったの!

驚かせようと思って、お祖母様以外には

内緒で帰ってきたのよ。」



明日には王都に戻るのだけどね、と

少し寂しげに微笑むスノウ。

スノウの婚約者、モーサスは

リュゼーヌ王国を治める女王ステラの

長男で王太子。

文武共に優秀、誰に対しても物腰が柔らかい。

手厳しい辺境伯一族からも評価が高く、

婚約者のスノウとの仲も良好な好青年なのだ。


結婚を半年後に控え、落ち着いたといっても

本当は色々と忙しいのだろう。

だが、王家に嫁げばその多忙さから

実家にほとんど帰れなくなる、スノウに

配慮してくれたらしい。



「そっ、そうですスノウお姉様!

私、さっきまでエマと外にいて、

それで竜に……エマは大丈夫でしたか!?」


「落ち着いてシャーリー……

さっき貴女、エマと喋ったじゃない。」


「そっ、そうでした……。


あれ?部屋が暗い……?

も、もしかして、私、夜まで

寝てしまったのでしょうか……!?」


「大丈夫、まだお昼よ。

……シャーリー、あの窓を見てみて。」


「窓?窓って……」














『……。』


「ヒョッ」



気絶する前に対峙していたあの竜が、

部屋(※高さ三階)の外から内部を

覗き込んでいたのだった。

つまり、竜の影になって部屋に

光が入っていなかった訳で。



「ヒョァァアアアアアア!!!!!!!!!!」



シャルラハロート・アーヴェン。

思わず城が揺れる程の絶叫を

上げてしまったが、無理はないだろう。

寝起きに竜(顔がめっちゃ怖い)は、

まだ十四歳の令嬢にちょっと刺激が強すぎた。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「シャァアアリィイイイイ!!!

お前に怪我が無くて本当に良かったぞ!!!」


「ご、ご心配をおかけしました

ウィンズ伯父シャッ」ムギュッ



エマに呼ばれ、スノウと共に家族が待つ

談話室に向かったシャルラハロート。

開けられた扉を潜った途端、

逞しい胸板に歓迎される。



「もうお父様!お父様の腕力では

シャーリーが潰れてしまいますわ!

大丈夫?シャーリー」


「だ……大丈夫、です……!」


「いやぁすまんすまん!

可愛い姪の目が覚めて嬉しくてな!!」



ガハハ、と豪快に笑うこの男が

スノウの父で次期辺境伯のウィンズ・アーヴェン。

とんでもなく美しい母譲りの顔と、

豪快な振る舞い&筋肉で初対面の人全てを

混乱させる男である。


そんな暑苦しき麗人、ウィンズの

後ろのソファーに優雅に座るのはウィンズの母、

つまり女辺境伯ヴィレネッテ。

彼女の後ろには夫、御歳八十歳を越えるとは

到底思えない真っ直ぐな背をしたジョンが

剣を携え、控えていた。

六十年以上前からこの地、この国を守ってきた

大英雄は、決して衰えぬ眼光を滾らせて

無言のまま妻の背後に立つ。



「あら、お母様がいらっしゃらないわね?

それにジェイズお兄様も。」


「ん?母さんならお前に付いてきた

王家の使者殿と、今回の騒動について

相談中だ!


ジェイズはダムズと一緒に

民への説明に回ってもらっている!」



祖母と並ぶ辺境領の才女、ウィンズの妻は

元々他国の貴族令嬢だったのだが、

こちらの国に留学していた際、夫のウィンズと

出会い結婚したのだそう。


“現象”の竜が現れたという一大事。

一族の長たるヴィレネッテが

直接手を回せない今、その代わりとして

使者達と色々な“調整”をしている

最中なのだろう。


そしてスノウの兄、ジェイズは

祖父母夫婦の末子である三男、辺境を守る

雪薔薇騎士団団長のダムズと共に説明、もとい

火消しに回っているらしい。



「どうやって城に竜を……?

というか、パニックになりませんでしたか?」


「問題無くってよシャーリー。

民達には“ジョン様の古い友人の一頭で、

久々に会いに来たらしい”と説明したら

納得してくれましたわ。


それでも多少は騒ぎになりますから、

ダムズ達が直接火消しに回っておりますの。」


「……。」


「さ、さすがお祖父様……?」



ヴィレネッテの夫、ジョン・アーヴェンは

およそ六十年前に起きた隣国からの

大規模な侵攻をほぼ一人ではね除け、

その後も辺境の地を守り続けている大英雄。


一人で敵の軍隊を殲滅させたとか、

“現象”の竜と斬り結び友情を交わしたとか、

なんならその竜の背に乗って

隣国の軍隊を殲滅させたとか。


そういった真偽の分からない逸話が

たくさんあるのだが、本人は無口、

そして不必要な事は一切語らない性質。

それらが本当かどうかは分からない。

(あのローズに唯一土を付けた人間なのは

間違いないので、噂は全て本当なのではないかと

言われている)


そんな祖父なので、竜を城に連れてきても

おかしくないと民達は納得したのだろう。



『……』


「それで、その、こちらの方は

これでいいのですか?

ホールの方が全身を入れられるのでは……?」


「私もそう言いました。

でもね、本竜様がここで良いと仰ったの。」



貴賓室に接する中庭にいる竜は、

窓から室内に首だけを入れるという

何とも言えない体勢を取っている。


先程は怖くて仕方なかった顔は、

心なしか……いや、かなり落ち込んだ様子だ。

ローズが亡くなっていた事実が

相当辛いのだろう。



「……それでは当事者も関係者も揃った事だし、

色々と聞かせていただきますわ。

まずはお名前から伺っても?」


『……我は闇竜ディルギーヴ、

闇を司る“現象”の竜だ。』



落ち着いた様子で名を語ったディルギーヴ。

そして名の後に語られた言葉は、

常に冷静な百戦錬磨の祖母や祖父ですら

驚きを隠せない、驚愕の真実。



『ローズ・アーヴェン。


彼奴は……我の、番であった。』



「!?」


「……!」


「なんだって!?」


「まさか……叔母様が……!」



家族が“番”という言葉にざわつく中、

一人、シャルラハロートだけは

言葉の意味が分からず、戸惑っていた。



「お母様が、番……?」



悲しげに目を伏せていた竜は

首を持ち上げ、ゆっくりと

シャルラハロートの目を見据える。

その目には初めて会った時の威圧感など

一切無く、まるで……そう、まるで。



『そしてお前は、我等の娘だ。』


「えっ……?」





我が子を見るような、家族を見るような。

そんな優しい目をしていた。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



《“現象”の竜の説明~属性編~》

 解説:ディルギーヴ


『“現象”の竜は世界の化身。

“現象”の竜、と一纏めにされているが……。

各個体ごとに生息地や形状が

全く違う、別種と考えた方がいい。


様々な竜とそれぞれの司る属性があるが、

能力が似通った連中も存在する。

例えば土竜や砂竜と地竜、

そして海竜と水竜だな。



まずは土竜系統と地竜の違いだが……

土竜は土、地竜は大地の化身。


地竜も土や砂を操る事は可能ではある……

しかし、“土”そのものを操っているのではなく

大地“そのもの”へ干渉した結果なのだ。


簡単に言えば、大地のエネルギーに

力を作用させて、土砂崩れや地割れを

起こす事で土や砂を動かせる。

だが土竜の様に、土のみに干渉して

動かす事は不可能という訳だな。


水竜と海竜が別種なのも同じ事よ。

水竜は水に干渉して操るが、

海竜は“海”を操っているだけに

過ぎぬのだから。』










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