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第十五話『魔獣狩り』




「それでは現時刻から日沈まで、

祝誕祭の準備として魔獣狩りを行う!


ダムズ団長から本日の獲物について

説明をしていただく為、

しっかりと聞くように!」


「ダムズだ。

今年度の獲物は、竜域から降りてきて

果樹園や畑を荒らし回っている

巨大な猪型の魔獣、“ボアッグ”。


繁殖期に入ったが、縄張り争いに負けて

本来の生息域からこちらに移ってきたらしい。

気性が荒く、パワーも強いが

他の魔獣より多くの肉が取れる!

絶対に逃がすなよ!


では、解散!」



祝誕祭とはシュラージュで行われる

祭りの名称だ。

毎年この時期になると何らかの大型魔獣が

辺境の地に入ってくる為、騎士団が

狩ったものを丸焼きにする。

祭りの目玉の一つとして、

広場で民達に無料で振る舞われるのだ。 


まだ祭りには少し早いのに

狩りを行うのには理由がある。

雪薔薇騎士団秘伝の方法で大型魔獣を

更に美味しくする為の、重要な仕込みが

あるのだそう。


秘密のタレで漬け込むだとか、

特別な氷室でカチカチに凍らせて

熟成させるだとか、いくつも噂はあるが

真実は雪薔薇騎士団の一部しか知らない。



「今年はボアッグですか……

お肉がすっごい美味しいんですよね!」


『その魔獣、竜域なら大量におるぞ。

好きなだけ狩ってきてやろう。』


「お祭りで!お祭りで

一緒に食べましょうお父様!」



ディルギーヴなら絶滅させる勢いで

狩ってくるに違いない。

子が絡んだ“現象”の竜に、

加減と言う言葉は無いのだ。


ダムズを腕相撲で下し、騎士団に認められた

ディルギーヴはシャーリーと共に、

騎士団が即席で作った指揮所に招かれていた。

毎年怪我人が出る大型魔獣の狩猟だが、

騎士団の団員達はウキウキとした様子で

準備に取り掛かっている。



「確か、去年の魔獣は……。」


「ギャーギャー鳥です、姫様。」


『貴様……

十キロ眼鏡のグレックではないか。』


「辣腕のグレックです。」



ギャーギャー鳥は人間も

丸呑みにするような大型の鳥で、

声がとんでもなく大きい。

だからか喉辺りについた肉が

とても締まっていて美味しい鳥である。


グレックは自慢の眼鏡を光らせながら、

親子に簡単な説明をしてくれた。



「大型の魔獣はとても手強く、

倒すのに苦労しますが肉は大変美味。

他の捕食者や“現象”の竜に追われて

こちらに来る個体も多いのです。


……おっと、呼ばれましたので失礼。」



去っていった辣腕のグレックの説明通り、

他の動物よりも強大な力と体躯を

持つのが魔獣。

魔獣の中でも更に大型なのが大型魔獣。

(通常種の竜はここに分類される事が多い)


しかし魔獣の肉はどの種も大変美味しく

人間社会では最高級として扱われている。

大型になればなるほど美味と言われているし、

毛皮や骨も加工すれば武器や

装飾品になり、余す事なく使える。


魔獣類は十分に強い生き物であるが、

竜域に生息する以上、自分達よりも更に

上位の捕食者、即ち“現象”の竜から狙われる。

捕食者へ対抗する為にあそこまで

体躯を大きくし、力をつけたのでは?と

言われているのだ。



「やっぱり、お父様も魔獣はお好きで?」


『我も確かに食すが、そこまで好みではない。

だが、“現象”の竜で魔獣しか食わん奴は

知り合いに何頭かいる。』



なんなら通常種の竜しか食べない

“現象”の竜もいるくらいだが、

そもそも“現象”の竜の食性は様々。

昆虫食もいれば肉食もいるし、鉱物食もいる。



『エトワスタ様は肉より鉱物食で、

特に宝石がお好きでな。

食べたい宝石が手元に無い時は

我等双子に我が儘を言って……

あぁ、思い出しただけで疲れてきた……。』


「苦労……なさってたんですねぇ。」



遠い目をする父の肩に手をやるシャーリー。

慰めるようにポンポンと軽く叩いていると、

指揮所が少し騒がしくなった。


何か問題が発生したらしい。



「おい殺すな!生かして連れてこい!」

「ん~ッ新入りちゃんッ!

そこ切っちゃったらそいつ死んじゃうわッ!

腱を切る時はッこうッやるッのッ!」

「すみませんナターシャ先輩!

学ばせてもらいます!」

「ギャァァァア!!!!」

「誰か~、影の連中に連絡つけといて。」

「拷問にかけて吐かすのかい?」

「おう、ゲボさすわ。」


『……物騒過ぎんか?』


「何があったんでしょう……あ、お祖父様!」



木々の奥から聞こえてくる物騒な会話を

聞かせないよう、ディルギーヴに耳を塞がれた

シャーリーの前に、現れたのはジョンだった。

手には小型のナイフを持ち、

いつもと変わらぬ険しい顔のまま

こちらに向かってくる。



『ジョンとやら、何があった?』


「……。」


「お祖父様はとても無口なんです。」



ヴィレネッテは「目を見れば分かりますわ」と

頬を赤くして言うが、シャーリーから見た

祖父は何を考えているか分からない人だ。

家族曰く一番ローズに似ているのが

ジョンらしいが、それってやっぱり

よく分からない人間と言う事なのでは…?



『おい、手に持っているそれは……

一度近くで見たい、我に寄越せ。』


「……アルサフの連中が持っていた。」


「アルサフ!?」



ついこの間聞いたばかりの単語である。

まさか、魔獣がいるこの場所に

アルサフの人間がいたなんて。


魔獣は確かに金になる。

しかし、金を求めて竜域に踏み込めば

人間が生きられる場所ではないので

あっという間に死ぬだろう。

だから騎士団のように、降りてきた魔獣を

狙ったのだろうか。

だが、ここも竜域もリュゼーヌ王国の

領地なので、普通に不法侵入なのだが…。



『……これは、“ラドの刃”か。』



包丁よりも少し刃の短いナイフは、

全く飾り気の無いシンプルな作りだった。

ただ、刃の部分は金属ではなく、

別の何かで作られているらしい。

少し白みがかった……まるで生き物の歯のような

色合いをしていた。



『千年前に人間達が作り出した、

“現象”の竜を傷付け、殺す事が出来る武器。


特に、ラドという腕の立つ人間が使い、

多くの竜が傷付いた。

その為“ラドの刃”と呼ぶ様になったのだ。』


「そんな物騒なものなんですか……。」



ディルギーヴは刃の部分を指で軽く叩く。

コツコツと軽い音がし、ナイフとしては

明らかに異常な音がする。



『我が知っているものより

明らかに質は低いが……本物だ。


しかし何故?炎竜あたりが

製造場所ごと消し飛ばしたし、

死竜が世界の片っ端から探しだして、

全て破壊したと聞いたのに。』


「そんな無造作に触って、大丈夫なのか。」


『このラドの刃に、

我等を殺せるだけの力は無い。

今の時代では素材が無いだろうからな。』



忌々しい、とディルギーヴは呟く。

主君と弟は人間達を愛したが、ディルギーヴは

どうしても好きになれなかったのだ。


どこが良いのだろうか。

強者はいても極一部、大多数は貧弱で愚かで、

なのにプライドは竜並みという救えなさ。

このラドの刃という武器は、すぐに調子に乗り、

不相応な場所にすら居座ろうとする

人間の醜さの象徴とも思える。



『古のラドの刃には、“現象”の竜……

その身体の一部が使われていたのだ。


これには魔獣の方の竜が使われている。』



千年前に作られたラドの刃は、

大きな剣や槍等、多くの種類が作られた。

それだけ犠牲になった“現象”の竜の数も多い。

そして、その犠牲の“犠牲”に

なった人間の数も。



『シャルに連絡しておこう。

此度捕まったのが例のアルサフの残党共なら、

彼奴にも関係の無い話ではないからな。』


「何処でそんな刃物を

手に入れたんでしょうね?」


「……ヴィレネッテにも伝えておく。

そうすれば王家の方で調べるだろう。」



リュゼーヌの王族からすれば、

竜が殺せる武器が国内にあっただけでも

冷や汗ものだろう。

何故なら、この国に二度目はない。

もしも次に千年前と同じ事が起きれば、

この国は確実に滅ぼされるのが

決まっているのだから。



「おっ、父上に姪っ子親子!

ここにいたのか。」


「……ダムズ。」


「例の連中、アルサフの反政府組織の人間だ。

狙いはボアッグじゃなく、

竜域に生息する通常種の竜だったらしい。

シュラージュからこっそり入って、

捕まえるって算段だったみたいだな。

どう考えても使い捨ての兵だよなぁ。


武器の方は上から配られたもんなんだとよ。」



シャルドームがボコボコにしていた

反政府組織の人間と同じ所に所属する

兵だったらしい。

生きて帰れない竜域で死ぬより、

雪薔薇騎士団に捕まったのは良かっただろう。

……生きて国に帰れるかは、分からないが。



「変な連中のせいで中断してしまったが、

ボアッグの方は、指定位置までの追い立ては

もう済んでる。


後は俺達で狩るだけだ。」


「……油断するなよ。」


「分かってるって!

じゃ、シャーリーとディルギーヴ殿!

またな!」


「叔父様、お気をつけて!」



ダムズは背を翻し、ボアッグを

追い込んだであろう方向に走っていった。

これから騎士団の精鋭達が、小山のような

巨大猪と戦うのだ。

団長は指揮所に居ればいいものを、

ダムズは前線で指揮を取る…どころか、

己が戦うつもりらしい。



『何というか…此処には

戦闘狂しかおらんのか?』


「……ローズもそうだったろう。」



何ならローズが一番の戦闘狂だったと思う。

腕相撲だろうが喧嘩だろうが、

常に争いを求めて、起こしてばかりだった。

毎年の魔獣狩りでも、魔獣に独断で突撃。

指示を聞かなかった結果、ジョンと喧嘩し、

魔獣からは一切攻撃を受けていないのに

ボロボロになるのが恒例行事と

なっていたぐらいだ。


しかも果てには“現象”の竜にまで

喧嘩を売ったのだから、

最早、なんたらに付ける薬は無い。



「まさかお母様、魔獣よりお祖父様と

戦う為にわざと指示を聞かなかったのでは?」


「だろうな。」


『彼奴め、ほんに過激な人間であったわ。』


「……だが、そこが良かったのだろう?」


『まぁな。』



そこからポツポツと続けられる、

口数が少ない義父と義息子の会話。

ゆっくり、ゆったりと続いたそれは、

祖父の口から初めて聞いた

母の蛮勇の数々に、シャーリーが

気絶するまで続いた。

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





『やだ!わたくし“スターライト”しか

たべたくない!』


『ワガママいうな!われとシャルが

がんばってとってきたのに!』


『それはありがとう!

でもこのすいしょう、たべたくない!』


『どういたしまして!がまんしろ!』


『ディル~、エトワスタさま~、

ケンカしちゃだめだよ?』







『エトワスタ、ディルギーヴ。』


『『!!』』

『あ、ルェロナさま!』


『ディルギーヴ、エトワスタの我が儘に

付き合わなくとも結構。


貴方達はエトワスタに贈る為、

内緒で宝石を探しに行きましたでしょう?

我が子は、置いてきぼりにされた事を

拗ねているだけ。』


『は、はい……。』

『おかあさま!わたくし、すねてなんか』



『エトワスタ。』


『ひゃいっ!』


『それだけ吠えるならば己で取りにお行き。

これ以上ディルギーヴ達にも、

サヴァンにも甘える事は許しませぬ。』


『……はい、おかあさま。』


『シャルドーム、貴方にも

苦労を掛けますが、ディルギーヴと共に

これからも我が子を頼みます。』


『は~い!』







『……なぁ、シャル。』


『わかってるよ。

エトワスタさま、おいかけるんでしょ?』


『……うん。』


『さんとうで“スターライト”、

とれるといいね!』












『ホホホ、幼子達のなんと愛らしい事か。』


『……。』


『それにしても我が子には困ったものです。

友からの贈り物が嬉しく、勿体無くて

食べられぬと素直に伝えれば良いものを。』


『……。』


『……貴方がエトワスタを甘やかすから、

ワタクシが叱らねばならぬのですよ?

ワタクシのサヴァン。』











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